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125話 最西端から順に…

おお…田舎だなぁ、初期のカインドよりも全然田舎だ、どこも最果てはこんなもんなのかね。



まずは最西端から攻めてみるかと、聖堂の左側、1番奥の扉に入ったレン、聖堂を出た先は…超田舎だった。


ポツポツと建っている家は一人暮らしでも窮屈と思えるほど小さい、各家の横には申し訳程度の畑、道はいちおう舗装されているが土道だ、しかし野菜たちはどれもこれも美味しそうに元気に育っていた。



野菜は美味しそうだが、木造りの掘っ立て小屋ばかりじゃないか、とても幸せそうには見えないぞ、魔王国は、やっぱりヤバいのか?



「おう兄ちゃん、こんな所に何用かな?ここには何も見るものなんぞありゃせんぞ?」

「あ、ああ、そのようだな、西に来るのは初めてなんでな、どうせなら最西端から見てみようかなって思ったんだよ」



痩せ細ったお爺さんが話しかけてきた。



「ここは…田舎なんだな」

「そうだなぁ、そういう者達が集まった村なんだよ、皆農業と自然が好きでな、余生をゆっくり暮らしたいと願った人にとっては天国のような村だ、まぁ人生の墓場だな」

「そうか…」



そういう形の幸せもあるのか、幸せそうじゃないなんて、俺の勝手な思い込みなんだな…



「魔物とかは?」

「大丈夫、今まで襲われた事なんぞ一回もありゃせん」

「分かった、いい村だな、俺もこんな所で余生を暮らせたらいいかもしれんな」

「歓迎するぞい、その頃には儂は生きとらんだろうけどの、ほっほっほ」

「ははは、せっかく知り合えたんだ、できるだけ長生きしてくれよ、じゃあ俺は違う村か町へ行ってみるよ、あ、肉とかは足りてるか?いっぱい持ってるからお裾分けするぞ?」

「ええのんか?」

「いいぞ、ほれ」



ズズズズズン…



バトルボアがどこからともなく10体程現れる。



「お、おぉぉ…」

「まだまだあるぞ、もう少しいるか?」

「い、いや十分だ」

「村人みんなで分けて食べてくれな、じゃあ俺は他の村か町に行くよ」

「おおそうかの、ありがとのぉ、名も知らぬ旅人よ、元気での」

「おう、じいさんも達者でな」



…なんか、異世界じゃないみたいだ、地球の一昔前の田舎って感じだな、一昔前の田舎なんて知らんけど。



カインドとは違って恐怖支配で疲弊している、という訳では無さそうだと結論づけると、レンは再び聖堂内へ戻り、最西より一つ手前の扉に入って行った。



―――



うむ、普通の町だな、やっぱり地球にいた頃の魔王国っていうイメージがあるから、こうも普通だと違和感があるよなぁ。



『てめぇコラァ、どこ見てほっつき歩ってんだこの野郎!』

『す、すみません…』

『てめぇみてぇな奴が道のど真ん中歩いてんじゃねぇよ!』

『は、はい…』



治安悪いなぁ、喧嘩か?



声が聞こえた路地の方を見ながら通過しようとしたレンはその光景が目に入り。



は?



あまりにも想定外な光景に目を丸くする。



「どんだけ幅取ってんだよ!邪魔くせぇ野郎だ!けっ…」

「う、うぅぅ…」



路地の端にうずくまって呻いているのは巨漢の男、地面にうずくまっているためその大きさは分からないが、身長2mはあるだろう、髭面でいかにも悪の親玉みたいな顔だ。


ガニ股で去って言ったのは、小学低学年程の女の子だ。



どうなってんだよこれは…おもしろいな!



レンは楽しそうにしている…



よしっ!



スタスタスタ…



早足で近づいていき、手を差し伸べながら。



「おいおっさん、大丈夫か?」

「あ、あなたは…?」

「いや、ただの通りすがりの旅人だよ、酷い目に遭ったな、立てるか?」

「は、はいぃ」

「おいおい、か細い声だな〜、もっと自分に自信を持てよ」

「へへへ、俺は体だけでかいだけですので」

「体が大きいってのはアドバンテージだぞ?それも才能だ」

「そ、そうですか…」



かぁ〜、なんでこんなに弱々しいんだよ、イジメられて育ったのか?



「なんで絡まれたんだ?」

「い、いえ、さ、最近ではいつもの事ですのでお構いなく」

「そうか…まぁ、他人の人生にとやかく口出すつもりは無いが、もっと楽しく生きられるように努力しろよ?つまらんだろ、この町を出るのもいいしな」

「家族がいるので、それはちょっと…」

「そうかぁ、まぁ頑張れ」

「はい、お気遣いありがとうございました、では」

「おう」



う〜ん、頼ってくると思ったんだがなぁ、今の生活に慣れてしまっているのか、まぁいいや、俺は聖人でもなんでもないしな、頼ってくれれば助けるけど。



さっきの女児は、リスクリワード…


あっちだな、ちょっとふっかけてみるか…きひひ。



カリンやサリーのようなストッパー役がいないため、早くも悪戯心を暴走させ始めるレンであった。



―――



ドンッ



「おっと悪いな」

「なにぶつかってきてんだこの野郎!」



顔怖っ!



異世界特有の真っ青な、地面に届きそうなほど長いざんばら髪、身長は本当に小さくてレンの胸までもなく、レクステッドのシロよりも小さい、怒っていなければ普通に可愛いロリ少女だ。



身長は100cmくらいか?下手すりゃ幼稚園児だろこれ…



「ちょっとぶつかっただけじゃないか、そんなに目くじらを立てるなよ、お嬢ちゃん」

「んだとコラァ!」



なんでこの世界はこんな女ばっかりなんだよ、血の気多すぎだろ。



「ぶつかってきたって、それはお互い様だろ」

「てめぇが避けねぇからぶつかったんだろうが!」

「お前も避けなかったからだろ、過失は五分五分だ」

「なんで私が避けなきゃなんねぇんだよ!」

「じゃあなんで俺が避けなきゃならないんだ?」

「この町のルールだろうが!」

「知らねぇよそんな事は、誰が決めたんだよ」

「てめぇ…私が誰だか知らねぇな?」

「知らねぇよお前みたいなチンチクリンは、俺はこの国の人間じゃないからな、そんなルールがあるなら聖堂の前に看板でも立てておけよ」

「んだとコラァ!」

「うるせぇガキだな、誰なんだよお前は」

「この町、ゼンダルアの町長だ!」

「は?お前が?冗談だろ…」



なんだよこいつ、ドワーフか?



「お前は、人族なのか?」

「当たり前だろ!」

「町長ってことはそれなりの歳なんだろ?」

「私は20歳だ!」

「ちっちゃ!なんでそんなに小せぇんだよ」

「知らねぇよ!こっちが知りてぇくれぇなんだよ!」

「そうかよ、じゃあな、お前みたいなのが町長じゃ、ろくな町じゃないんだろ」

「んだとぉ?ちょっと待てコラァ!」

「なんだよしつけーなぁ、なんなんだよお嬢ちゃん」

「てめぇ!その呼び方やめろや!」

「へぇへぇ、すみませんね町長さん」

「この野郎…ぶっ殺す!」

「お?やるか?俺は強いぞ?泣いても知らんからな」

「ふんっ、私を小さいってだけで舐めやがって、てめぇこそ後悔すんなよ!」



ガヤガヤ…



少し周りが賑やかになってきたな…



『お、おい、あれ見ろよ、セフィール様に喧嘩売ってるやつがいるぞ』

『見たことないな、余所者か?』

『あいつ…死んだな』

『あの見た目に騙されるんだよなぁ』

『絶対逆らっちゃいけねぇのに』



セフィールっていう名前なのか。



「俺はレンだ、自分を負かす相手の名前くらいは知っておけ」

「私はセフィールだ、魔王様に認められし実力を思い知れ」

「ふん、自慢にもならんな、俺は多分その魔王とやらよりもだいぶ強いと思うぞ?」

「あ?今なんていった?」

「魔王なんて大層な呼ばれ方して喜んでる勘違い野郎には負けねぇって言ってるんだよ」

「てめぇ…許さねぇ」

「西国の実力の一端、確かめてやるよ、ほれ、掛かってこい」



ダンッ、ガツン!



石畳の地面に踏み跡を残し、高速で接近してきてストレートを打ってきた、が、難なく受け止めるレン。



「ふ〜ん、小さい割にはなかなかの力だな、全然弱いけど、はぁ〜、やっぱりこんなものかぁ、修行にもならないな」

「くっ…オラオラオラァ!!」



ガガガガガ!



ペシペシペシペシ…



セフィールが続けて連打を打ってくるが、レンは涼しい顔をしながら全て手の平で拳を叩き落す。



『お、おい、あいつヤバくないか?』

『セフィール様が全然攻めきれてないぞ…』

『いったい何者だ?』

『速すぎて手元が全然見えんぞ、何が起こってるんだ?』



ダッ



連打をやめて距離をおき、叫んだ。



「くそぉ!てめぇは何者なんだよ!」

「…」

「ぐぬぬぅ…てめぇ!無視すんな!」



次に手の平をレンに向ける、何やら魔法を使おうとしているらしい。



「お?魔王国の魔法か、お手並み拝見だな」

「けっ、言ってろよ…潰れろ!」



む?お、おお?おおおお!重力だ!すげぇ!体が重いぞ!少しだけだが…



「おぉぉぉっ、凄いなお前!重力魔法なんて初めて受けたぞ、凄い想像力だなっ!」



おほぉ〜、こりゃ肩こりに効きそうだ♪



「動けんだろ?ははははっ!そのまま潰れてしまえ!」

「え?いやいや、こんなもんじゃ潰れるわけねぇだろ、お前バカなの?」

「は?なん、で…」

「う〜ん…重力かぁ、要は引力の事だよな…」



相手の渾身の魔法を受けながら、思考の海に沈んでいくレン。


セフィールは黙り込んだレンを見て、口では偉そうに言っているが、実は効いていると勘違いして、さらに魔力を込めていく。



引力…この世界は星じゃないのに重力が存在している、やっぱり魔力的な何かなのかな?なら、普通に引力とはこういうもの、と想像して無理やり再現するしかないのか…でも普通じゃつまらんしなぁ、目指すはブラックホールか?いやいや…そんなものを作ってしまったらそれこそ崩壊一直線だ、多分作った途端にこの世界が終わるだろ。


多分こればっかりは想像力のみに頼るしか無さそうだな…物理的に重力を発生させるのは無理がある…この世界が魔力的な何かで物を引く力を発生させてると仮定して、それをサポートするイメージだな…よしっ!



「セフィールありがとう、修行にならないなんて言ったことを詫びよう」

「ふんっ、今更詫びたって遅いわ!」

「いやいや、そうじゃない、また俺は新たな魔法を習得出来そうだと思っただけだよ、だから感謝してるんだよ、魔法名はそうだな…」



ここはオーソドックスに…



「お前は何を言って…」

「グラビティ」



ブンッ



その瞬間、街全体の建物がギシギシと音を立て始め、野次馬もろともセフィールも地面に膝をつく、逆にレンに掛けられていた重力魔法は解除され、それどころかフワッと体が宙に浮き始める。



「おっと、おお?これはまた制御が難しいな、同じ浮くでも、同化とは違う難しさだ」

「なっ…これ、は…私と同じ、やつ、ぐぅぅ…」

『おい、どうなってるんだ!』

『う、動けない…』

『セフィール様が暴走したのか!?』



野次馬達も騒ぎ出した。



「こりゃだめだ、これで飛ぶのは現実的じゃないな、同化…ふぅ」



いつもの飛行に切り替え体を制御、グラビティを使いながら自身には風魔法を使用するレン。



「技術10万ってのは伊達じゃないな、このままでも他の魔法を使えそうだ」

「じゅ、10万!?」

「泣いても知らんと言っただろう、俺は基礎能力が知能以外は全てが10万なんだよ、今は限界を突破する方法を探している途中でなぁ」

「そんな…化け物じゃないか」

「今更だな、神様、神の使徒、化け物、よく言われるよ、別に殺したりはしないから心配するなよ、ちょっとこの国の力を知りたくて、わざとお前に絡んだだけだから、それにお前には感謝もしてると言っただろ」

「ぐ、うぅぅ…ま、参った…」

「よしっ、素直なやつは嫌いじゃないぞ」



素直に負けを認めるセフィール、その潔さ良しと、レンはグラビティを解除した。



「お疲れ、なかなか強かったぞセフィール、煽って悪かったな」

「ぐぬぬ…」



悔しそうだな、やはり体の大きさに精神年齢が引っ張られてるのか?



『セフィール様が、負けたのか?』

『レンと言っていたか?』

『町長はこれからあの人か…』



ん?なんか不穏な言葉が聞こえたような…



「レン…様、これからは貴方様が町長だ、しっかり治めろ!クソぉ!」

「おい、おいおいおい!なんだよそのルールは!聞いてねぇよ!」

「私は負けた!もう町長じゃない!」

「俺は嫌だぞ!この国の人間じゃない者を巻き込むなよ!」

「だって!私負けたもん!」

「もん、じゃねぇ!」

「うぅぅぅ…」



こいつ、本当に泣きそうになってやがる、本当に実力主義が過ぎるだろうが…鼻くその計画か?なんでこんな馬鹿ばっかりなんだよ。



「分かった分かった、セフィール、ここは実力の世界、そうだな?」

「おう、そう、だ…だから私はもう町長はできない」

「それは理解した、俺の方が強い、それも理解しているな?」

「は、はい…」



不服そうじゃねぇか…悔しくてたまらないんだろうな。



「俺の言う事を聞けるか?そんな無理は言わない」

「はい、なんでしょう…」

「お前はここの、え〜とゼンダルア?の町長を続けろ、俺は相談役になってやる、いつでも悩みは聞いてやる、それでどうだ?」

「え…私は、町長をしていても?」

「無理なのか?お前はこの町1番の強者なんだろ?」

「はい、い、いえ…今はレン様が…」

「だから、俺はこの町に住むつもりはないの!住む前提で考えないで!」

「それであれば私が1番かと…」

「じゃあ引き続きお前町長な」

「え、でも…いつでも相談を聞くって、ここに住んでいなくては無理では?」

「そんな君にはこれをやろう」



通話時計をポイッと渡す。



「おっとと…これは?」

「俺も付けているこれだ、腕にこうやって付けろ」

「はい…」



自分の時計を見せながらセフィールにも付けさせて、少し説明をする。



「…という魔道具だ、便利だろ?」

「…」

「どうした?」

「凄すぎる…確かにこれならどこにいても相談できますね」

「そうだろ?そうだなぁ、あといくつか渡しておくから、本当に信頼できる相手に渡しておけ」

「え!いいので?」

「いっぱい持っているからな、それに、一つじゃ意味ないだろ、俺としか通話できないんじゃつまらないだろ?」

「い、いえ、私は別に…」



修行の4ヶ月の間に色々な店で時計を買い集めてはレイカに渡し、金剛魔鉱石を渡す報酬代わりにいっぱい作ってもらっていたのだ、後半はもう時計すらいらないといい出したレイカ、少しの魔物素材と魔鉱石と金剛魔鉱石を使い、一から全て作っていた。



「いくつ欲しい?」

「いくつでもいいのですか?」

「いいぞ、好きな数を言え」

「では、8個で…大丈夫ですか?」

「8個な、ほれ」

「!?やはり、収納持ち…駄目だ、色々と敵わない」

「よくこのポーチからじゃなく収納だと分かったな」

「私は魔力には敏感なので、なんとなく分かるのです」

「そうか、少し注意するか…」

「レン様は注意する必要があるのですか?」

「…ん?」



いや、確かに…何に注意するんだろうな、必要無いだろ、何を異世界ムーブかましてんだよ俺は!秘密主義とかやめだやめだ!



「また一つ教えられたな、ありがとうセフィール、確かに隠す意味なかったわ」

「いえ、ところでこちらなのですが…魔王様に渡しても?」

「お?いいぞ♪願ったりだよ、もともと渡すつもりだったしな、お前から渡して、俺の名も伝えておいてくれ」

「分かりました」

「さて、そろそろいい時間だからなぁ、この町に宿はあるか?転移で拠点に帰ってもいいんだが、宿に泊まるのは旅の醍醐味だからな」

「転移…ますます敵わない…」

「お〜い、宿は?」

「あ、はい、ありますが…うちの屋敷に泊まって下さい、客間もありますので」

「いいのか?じゃあ頼む」

「はい…あちらに見えるのが屋敷です」

「でか…」



遠くに見えるやけに大きな建物、レンは開拓者組合と予想していたが、まさかの町長の屋敷であった。

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