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124話 魔王国…の前に武器受け取り

中央ヒューニックの街並みを眺めながら歩くこと数時間、西国方向への聖堂前に到着したレン。



おいおい、なんだか厳重だな…



黒い鎧を着た、恐らく男と思われる人物が入り口の両脇に1人ずつ立っていたのだ。


レンはぼーっとその2人を交互に眺めながら、西国とはどんな物騒な所なのかと考え込んでいると。



「おいお前、西国に何用だ?」



鎧で顔が見えないため、どちらが喋ったかは分からないが、少し威嚇しながらそう言ってきた。



うわぁ、印象悪ぅ…



「いやぁ、特に用事は無いのだが、観光したいなと思ってな」

「用事が無いならオススメはしない、死にたくなかったらやめておくんだな」



こいつら、意外といいやつなのか?心配してくれてるじゃないか。



「そうか、魔王様への手土産か何かを持ってくればいいかな?」

「それはますますオススメせんな、魔王様はそういう姑息なやつを最も嫌うお方だ」



どうすりゃいいんだよ、用事がない限り行けないのでは、発展もなにもせんだろう、商人だけはあちこち行かせてるくせに…まぁあちこち行ってるかは知らんけど…



『おいレン、聞こえるか?』

「おうサリー、どうした…あ、忘れてた」



武器を受け取りに行くのすっかり忘れてたよ。



「なんだ?どこから声が?」

「ああ、これだよ、この魔導具は遠くの者と話ができるんだよ」



ちょうどいい…



「な、なんだと!?」

「こいつを手土産にと思ったのだがな…しょうがない、また用事ができたら…」

「ちょ、ちょっと待ってほしい!」

「なんだ?」

「少し時間をくれないか?」

「なんでだ?」

「いや、あまりにも珍しい魔導具なのでな、もしかしたら魔法好きな魔王様ならお喜びになるやも知れん」

「おういいぞ、少し違う用事を思い出したからな、そっちを済ませたらまた来てみるよ」

「よろしく頼む」



なかなかに正直者だな、初見は印象悪かったけど、話してみると少し好感が持てるな、まぁしっかり門番の仕事をしているって事なんだろう。



「じゃあサリー、そういう訳だから、今からそっち向かうよ」

『お前なぁ、忘れてただろ』

「いや?そんな事はないぞ、一度聖堂を見ておこうと思っただけだ」

『そんな訳あるか、聖堂なんか全部同じ造りなんだ、事前に見てもどうにもならんだろうが、とにかく早く来い』

「お、おう、分かったよ、じゃあまた来るよ、魔王様によろしくな」

「分かった、私が魔王様へ伝えてこよう」

「よろしく頼む」



右側に立っていた男が聖堂の中へ入っていく。



右側のやつが喋っていたのか、意識して全察知を使わないとこうも分からないものかね、少しは俺本来の能力も鍛えなきゃならんか?



―――



ガチャ



「ようサリー、来てやったぞ」



ノックも無しにサリーの執務室へ入っていくレン。



「はぁ、なんで上からなんだよお前は、あとノックをしろ、仕事中だぞ」

「すまんな、俺は人じゃないらしいからその辺のマナーはわきまえてないんだよ、あと最近はサリーにマウントを取られてばかりだからな、少し調子に乗ってみようかと」

「あぁそうだった、お前は人じゃなかったな、それにしても通話してから早かったな」

「転移を覚えたしな、まぁ瞬光と変わらんだろ」

「羨ましい限りだ」

「貸与してやろうか?もしかしたら覚えられるかもしれないぞ?」

「いや、私は瞬光で十分だよ」

「そうか、ラルファは自室にいるのか?」

「いや、仕事中だ、宣伝塔が良かったのだろうな、引っ張りだこだよ、本人は苦い顔をしていたがな」

「で、ララに尻を引っぱたかれて泣く泣く働いていると、そういう事だな?」

「ははは♪よく分かってるじゃないか、ララは部屋にいるから受け取ってこい、そのあと金を受け取るのも忘れるんじゃないぞ?」

「おう、すまんな烈王様」

「キモい呼び方をするんじゃない、ほら、さっさと行け」

「はいはい」



―――



「あ、レンさんいらっしゃいませ!も〜、待ってましたよぅ」

「ははは、すまんな、あくまでも予備武器みたいなもんだから、必要性が無くて忘れてたんだよ」

「ちょっと待ってて下さい」

「はいよ」



タタタタ…ガサガサ



『あった、うん、これだね』



なんか雑に扱われてない?



タタタタ…



「す、すみません、母ちゃんったらその辺に置いておくから…」

「いいよ、ラルファらしいじゃないか」

「それじゃあ、はいどーぞ♪」

「おう、ありがとな、じゃあこれを…あ、しまった!」

「ど、どうしました?」

「やべぇ、金持ってねぇ、ちょっと待っててくれ」

「いやいや!お金なんて貰えませんよ!この前いくら貰ったと思ってるんですか!」

「いや駄目だ、あれはあれ、これはこれだ」

「え〜、怖いんですけど」

「今のララなら大丈夫…だと、思う、とにかくちょっと待っててくれ!」

「ちょ、ちょっと〜!思うってなんですか!?レンさ〜ん!」



収納の中に3億サリーしか入ってなかったよ、先に金を受け取ってこよう、まぁバレルだったら10億持ってるんだが、貰える金があるんだ、それで払ったほうがいいだろう。



―――



「ようあんちゃん!やっと来たか!」

「ようおっちゃん、久しぶりだ、なんだか大金なんだってな、大げさだよなぁ」

「本当だよな、あんな蜘蛛なんか誰が何に使うんだか」

「バカタレ共が、3区の魔物なんだ、当たり前の値段だろうが」

「キルミも久しぶりだ、相変わらずの切れ味だな」

「何だよ切れ味って、蜘蛛はほとんど西の奴らが買い占めて行ったらしいぞ、けっ、何を企んでるんだか」

「これから西に向かうんだよ、少し探ってみるか」

「まぁ魔物素材といえば大抵は武具に使われるんだがな、あの蜘蛛は死んでも尚、魔力が豊富に含まれていたからな、あの噂の魔王様だ、あっと驚く使い方をするんだろうよ」

「まぁなんでもいいさ、慢心しているわけじゃ無いが、それでも俺ならどうにか出来ると思うしな」

「レンさんなら大丈夫だろうな」

「おっし、じゃああんちゃん、これが例の金だ」



ガサッ



カウンターの上に小さな革袋が置かれた。



「これは、収納か…」

「ああ、容量中の付与がなされた袋だ、前回のゴブリンのときとは量が違うからな、また別物だよ、特注なんだぜ?ふぅ〜、やっと肩の荷が降りる、こんな大金は持ってるだけで冷や汗ものだからな」

「気を使わせてすまなかったな」



そう言うとレンは、革袋ごと自分の収納にしまい込んだ。



収納内

123億サリー



「…なるほど120億か、またやけにピッタリの額な事だな」 

「それでも仲介で20%は貰ってるんだぜ?稼がせてもらったよ、本当にレン様々だな」

「20%か、もっと持っていってもいいんだぞ?個人でこんなに持っていても使い切れなくて経済が回らんだろう」

「それは王様にでも相談するんだな」

「くそっ…なんで金がありすぎて悩まなければならんのだ」

「はははっ、贅沢な悩みだぜ、羨ましいこったな」

「おっ、そうか?ならキルミ、いくらか…」

「オレを巻き込むんじゃねぇ!」

「ちっ、ケチくさいやつだ、少しくらい金持ってればいいのに、後悔しても遅いからな?」

「どんな文句のつけ方だよ、さっさと散財してこい」

「そうだな、落ち着いたら町でも作ろうかと思ってるから、たまには魔法じゃなくて、人に依頼してみるのも有りか」

「今度は逆に足らなくならなければいいがな」

「確かに、町を作るとなれば足りないかな?その時は魔法様の出番だな」

「レンさんは…なんだか住む世界が違うよな」

「まぁな、望んでいる訳では無いが、そうなるのも仕方がないと諦めてるよ」

「そうかよ、さてっ、仕事だ仕事!烈王様の為に働かなきゃな!」

「キルミ、おっちゃん、ありがとな、また何かあったらよろしく」

「おう!いつでも来い!」



シグは部屋の奥で何やら魔物を解体しながら返事をしてきて、キルミは背を向けながら手をひらひらさせて部屋の奥に行ってしまった。



みんな忙しそうだな、いい事だ、さてっ、ララに…そうだな、切りよく13億程払ってみるか。



―――



「ほげぇぇぇ!」

「ぶはははっ♪」

「…」

「おい、ララ、ララ!ララー!」

「部屋の入り口で何を大声で歌ってるんだよお前は、変質者みたいだぞ」

「サリーか、歌ってねぇよ、ララを起こそうとしてただけだ」

「どうした?」

「武器の料金に13億払ったら気絶した」

「既定路線だな、立ったまま気絶か?」

「そう」

「器用なやつだな、おい飯だぞ!起きろララ!」

「はっ!ご飯!」



うわぁ、飯に反応したよ、本当にこんなやついるんだな、漫画かよ。



「ご飯は?」

「ほれ」

「串焼き!わ〜い♪」



もぐもぐ…



「うまぁ…え!うまっ!なにこれ!?」

「ララは中央にいたのに知らんのか?オーク串だよ」

「オーク串?」

「知らないのか…」

「私、あまり外を出歩かなかったので…」

「そうか、これからはその金を使うためにどんどん外に出るんだな、使い切れないと思うけど、ふふっ…」

「金…お金!やっぱり夢じゃなかったよ!どうするんですかぁ、こんな大金〜」

「ラルファに任せればいいだろう」

「母ちゃんなんかに任せたら仕事やらなくなっちゃいますよ!」

「それもそうか、それならララが管理するんだな」

「そ〜んなぁ」

「ララは何か夢とか無いのか?」

「私は…洋服屋さんがやりたかったんですが…母ちゃんの面倒も見ないとなので」

「それは私が見るから大丈夫だ、今なら叶えられるんじゃないか?」

「そうだな、カインド村にいる村長の奥さんで、テラーっていう名前の人がいるんだが、弟子入りしたらいいよ、俺が今来ている服もその人が作ったんだよ」

「その服を、凄い…」

「凄いなんてもんじゃない、俺すら恐れている人物だ」

「お、おい、それは大丈夫なのか?」

「大丈夫、基本的には優しい人だよ、怖いけど」

「私、行ってみます!」

「おう、まだ若いんだ、どんどん挑戦していけ」

「はい!ありがとう御座います!」

「ただし!」

「?」

「カインド村で金は払うな、あの村は金を必要としていない、物で釣れ」

「物…な、なにか特別なものは、私では用意できませんね、ははは…」

「最初は手ぶらでも大丈夫だ、少しだけ食材でも持っていけば尚良し」

「そんなのでいいのですか?」

「丁度組合に住んでるんだ、珍しい魔物でも買って持っていってやれ」

「そうですね、分かりました、サリーさん、選定を手伝ってもらえませんか?」

「いいぞ、とびっきり美味しいやつを選ぼうな」

「はい♪」

「あとはよろしくな、俺はそろそろ行くよ」

「うむ、気を付けてな」

「おう」

「レンさん!今日はありがとうございました!」

「ああ、ラルファにもお礼言っておいてくれ」

「はい!」

「じゃあまた」



そろそろいい時間だろう、門番は帰ってきていればいいけど…時計のマップを埋めながら、またゆっくり行くか、これはこれで楽しいんだよな、なんか本当にゲームをやってるみたいで。



―――――



中央都市の東国側聖堂から南の聖堂前を通り、西の聖堂までやってきた。



ヒューニックもだいたいマップが埋まってきたな、変に裏路地とか歩き回ったから無駄に時間が掛かってしまった。


それにしても、ヒューニックの聖堂周辺の雰囲気は、その国の特徴が出てるよな、東は活気があったけど、西は…なんか暗いよなぁ、魔王国…大丈夫なのか?



「お?戻ってきているな、さてどうなったのか」



先ほどと同じく、門番のような人物が2人立っていたので、レンは右の人に話しかけた。



「よう、どうだった?」

「来たか、早かったな」

「そうか?」

「用事と言っていたではないか、普通なら今日は来ないと思うぞ」

「ああそうか、ちょっとした用事なだけだよ、それで?」

「ああ、えっと、お前の名前は?」

「レンだ」

「レンだな、よし、レンよ、通ってよろしい、あと、これを…」



ん?販売許可証?



「これは?俺は商人じゃないぞ?」

「実は…魔王様は城にいなくてな、不在で会えなかったのだ、だからこれは私達独自の判断だな、これがあれば疑われなくて済むんだ」

「おお、あんたらはいい人だ、初の西国知り合い第一号として、記念にこれをやろう」

「え、こ…これを!?」

「いいの…ですか!?」



左のやつも初めて口を開いてきた。



「兄ちゃん、やったな♪」

「おう、こんなに嬉しいのは久々だ」

「お前たちは兄弟なんだな、2人とも2個ずつやるから、それぞれ親しい人に渡すといい」

「恩に着る、この仕事をやってても全然楽しくなかったが、初めてやってて良かったと感じることができたよ」



その後2人に時計の説明を丁寧にしてあげた、因みに右側の男の名前はライフドで兄、左側がレイフドで弟だ。



ライト、レフトで覚えやすっ!



「じゃあ、魔王様にはいずれ渡すとして、まだまだあるからな、俺が西国を気に入ったなら、これを売り歩いてやろう、そうすればそのうち魔王様の耳にも噂が入るかな?」

「間違いなく耳に入るよ、だが気を付けてくれ、実力者が多く、また、荒くれ者の多い国だ、奪われないようにな」

「その辺りは大丈夫だ、お前ら…深層第3区の蜘蛛を狩ったのは誰だか知っているか?」

「そんな事は知っている、烈王様だな」

「それは偽の情報だ、実は俺なんだよ」

「ははは、また面白い冗談だな」



ズドンッ



「「!?」」



2人の目の前に7〜8mはあろうかと思われる、赤黒い蜘蛛の足が1本現れた。



「これは、オークションの時の…」

「兄ちゃん、俺も覚えてるよ、まったく同じものだ、間違いない」

「ま、そういうことだ…」

「レン、あんたは何者だ?」

「ただの旅人だよ、大丈夫だ、別に西国を荒らそうってわけじゃない、本当にただの観光だよ」

「これは参った…普通にこの事実だけで魔王様に会えただろうに」

「そうなのか?まぁでもそれじゃあつまらんからな」

「いい性格してるんだなあんたは」

「よく言われるよ」

「別に荒らしても構わないから、楽しんでくれ、その実力なら死ぬこともないだろう」

「分かった、よしじゃあ行ってみるかぁ、世話になったなライフド、レイフドもありがとう、2人とも仕事頑張ってくれ」

「おう!」

「はい!」



けっこう…いやかなりいい奴らだったな、第一印象で人の性格は分からないものだな、さて、どこから行ってみるかなぁ。



とうとうツェファレン最後の国、西国、魔王の治める土地へと足を踏み入れる、どんなトラブルが待ってるのか、今から少しワクワクの、頭がおかしいレンであった…

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