122話 魔体の謎と魔物結界
『私達は、賢者ルードを別世界の魔物、つまりは魔族のような存在だと、そう判断を下した』
なるほど…俺も少しだけそう思っていたが…
『我らの部下達の中に、魔力を見る事のできる優秀な者がいてな、ルードが尋ねてくるたびに、魔力視でその魔力のデータを収集して解析していたのだが、異質なのだ…』
「異質?」
『魔力とは生き物…そうだな?フェン、ライト』
『間違いない』
『そうだよ〜、人間で言う所の細胞みたいな感じかなぁ』
大勢の村人の中で、テラーだけがうんうんと頷いている。
以前、テラーに細胞の説明をしたことあったからな、動物が多細胞生物なのと同じで、魔物も、言うなれば多魔力生物ってところか、魔力で人の性格が形成されるのだから、生き物なのは当然の事といえば当然か。
『そう、まさに細胞、私達は魔力にも核のようなものがあり、その中に遺伝子のようなものがあるのではと考えた、フェンとライトからの魔力は生き物だ、という情報を元に、まずは人の作り出す魔力の性質に違いがあるのかを調べた』
「どうなったんだ?」
『アシュリーとアッシュには頑張ってもらった、そして最低限だが分かった事は、この世界の人間の魔力が、全て同じ質の魔力だったという事、だが私達は違う、地球から来た異世界人、これは別の性質の魔力だった、しかし、この世界の人間が持つ魔力と酷似していた…性能も同じと見ていいだろう』
「なるほどなぁ、どうやって違いを見分けたんだ?」
『染色体、というほど複雑な構造では無さそうなのだが、アッシュがな、ある程度魔力を見ているうちに色がついていることに気付いたのだ、魔力の一粒一粒にな』
うげぇ、アッシュ…そんな地獄のような研究に付き合わされたのか、ご愁傷さまだな。
『その染色体こそがまさに魔体の正体だった』
「なんと…凄いなお前たちは、魔体はその魔力の染色体みたいな物をを作り出す能力だったと、そういうことか?」
『うむ、まだ研究段階だがな、アッシュの能力が覚醒したあと、話を聞いたアシュリーも、後に覚醒してな、人間が魔力を消費したあと、みぞおち辺りから魔力が湧くのを確認している、そして…色が付いていると言い出したのだ、そして一粒の魔力には同じ色の組み合わせがある、という事実を発見した』
「それが魔体…色の組み合わせで一粒の魔力になるのか…まさに細胞じゃないか」
『その色の組み合わせは、われわれ人間はほぼ同じだったが…問題はルードだ』
「何かが違うのか?」
『全然違う、人間とはだがな…ほぼ魔物と同じだった』
ざわざわ…
会場内がざわめきだす。
やっぱり魔物の類だったか…
「動物と魔物は違うのか?」
『違う、浅層第1区から中層第2区の様々な魔物の魔力を調べたが、人間のものとは色の組み合わせが全然違った』
「亜人はどうだ?」
『亜人は…調べた母体数は少ないが、全員人間や動物と同じだったよ、元々魔物が進化したもの、というのがこの世界の常識だ、だがそれこそが魔体の変化だと、私は考えた』
「進化とは魔体の変化…か」
『さらに興味深い結果もある、そこのフェンとライト、あとスイムもなんだが、3体…この際3人と呼ぼう、3人の魔体も人間とほぼ一緒なんだ』
『なんと!我々が…』
『やった〜!僕達も人間だね〜♪』
ぷるるるん♪
確かに…初めてティルがスイムをテイムしたとき、聖堂を通ってここに帰ってきたよな、何も考えてなかったよ…危なかったな。
『人の言う所の性格や感情、知能、この辺りが芽生えた魔物は、動物とほぼ一緒、という事になる…と思われる、まだまだ要検証だがな』
本当に凄い、地球と違って専用の機械とかがないのに、よくここまで調べたもんだよ。
箱庭の役割は、魔力を集めて浄化し、新たな生命に人格を与える事…フェン達の様に急に人格が芽生えるのは、箱庭で起こっている事が、小さな規模で起こっているって事だよな。
『あのね〜、ちょっといい?』
「お?ライト、どうした?いいぞ、なんでも言ってくれ」
『人間が第1区とか第2区とか言ってるでしょ?』
「そうだな、いちおう魔物の強さが変わる目安として設定しているものだ」
『それは間違いないんだけどね〜、深層に近ければ近いほど地上に漂ってる魔力の量も多いからね〜』
「そうだったのか」
『うん、だから主様は第3区の魔力に当てられて感情が魔物寄りになって暴走したんじゃないかな〜、てね』
「そ、そうか!なるほどな〜、ライト、お前凄いぞ」
『うへへ〜、褒められた〜♪それでね、まだあるんだけど』
「なんだ?」
『人間が設定してる区の境にもね、聖堂と同じ効果が張り巡らされてるんだ〜』
「…」
確かに…なんだかんだ言って、区を越えて徘徊している魔物なんか見たことなかったよな、弱い魔物は強い魔物から逃げて人の住む方へ侵攻しているなんて、鼻くそが言っていたが…それも嘘か、なんにも信用できんな、人間が魔物の住む区域に侵攻してるんだろうが…ん?たしか…
「あれ?お前ら、たまに第2区へ、他の魔物を狩りに行くって言ってなかったか?」
『それは感情が芽生えてからだよ〜、その時には体質が変わってたんだね〜』
「なるほどな〜、点が繋がって線になったよ」
『ふむ、興味深いな、たまに危険区域を越えてくる魔物は、知能がある魔物の可能性があると言うことだな、ある意味危険かもしれん』
前にオカマのガルディンを襲っていたスライム、逃がしちゃったよ…まぁ大丈夫か、ただのスライムだし。
あとは世界振動だよなぁ、オーバーフローだったか?、つまりは スタンピード、溢れ、その時だけは結界の効果を無視して魔物が押し寄せるんだよな、世界の意志ってやつか?人間が強くなりすぎたからリセットする的な?まぁ今回ばかりはそうはいかんがな…
「案外聖堂ってのは、俺達人間が危険区域に行く為のものじゃなくて、進化した魔物がこちら側へ来るためのものなのかもしれないな」
『そう!それだ兄様!』
「うおっ!なんだよいきなり大きな声を出して」
『さすが兄様、そこに気付いたのだな』
「なにが?よく分からんぞ」
『聖堂とは魔物が人間の世界へ来るため、そう、我々は聖堂とは魔物避けではなく、進化した魔物を選別する装置なのではと考えたんだよ』
「それだと、知能を得た魔物が聖堂を探し出せないと意味ないだろ」
『そうなんだ、だが!ライトの説明を聞いただろ、区と区の境に同じ仕組みが施されているなら話は別だ』
「すべては憶測だが、かなり近しい所までは解明できていそうだな」
『はい!ここで私の出番だね〜♪マリー、説明ありがとう、説明っていうより、レンとの討議みたくなってたけど』
『ああ、有意義な時間だった』
「もうマリーが王様やりなよ…僕より向いてるよ」
『ヤダ!』
「もぅ〜たまにはいいじゃん!」
はははははっ♪
村人達も復活したな、みんな真剣な顔して俺達の話を聞いていたから、やっと気が緩んだか。
『皆さん!今の話、ちょっと難しかったと思うけれど、要はルードは魔物、魔物なら聖堂は通れない、なら北国を聖堂にしちゃえ♪って事で作ったのがこれだよっ♪』
すげぇざっくりまとめたな…まぁだいたい合ってるけど。
『この機械はねぇ、表面は魔鉱石で作ってあって、動力源はデビル・ディアーの魔核、そして燃料は金剛魔鉱石を使います!』
村人達は絶望した。
『金剛…そんな』
『動かす事ができるの?』
『レイカ様!儂らにそんな物を用意し続けるほどの金も伝もないのじゃ!』
村人達は叫んでいるが、レイカはドヤ顔でそれを聞き流している。
もう次の展開が読めるよ、はぁ〜、めんどくせぇ、なら…先に言っちゃうか?くふふふ♪それが仕置きって事て勘弁してやるか…
『だいじょ…』
「俺が魔力から簡単に作れるから心配するな!」
『…』
ぐりっと顔を回し、レンを凝視するレイカ。
見てる見てる♪すげぇ顔して見てるよ〜、たまらんな。
『…レン?』
「どうせ同じことを言う気だったんだろ、これがさっきのお仕置きだと思え、残念だったな、はっはっはっ♪」
『くそぉ〜!私の見せ場なのに〜!』
会場は大ウケ、だがフローラからさっさと次の説明をしろと野次が飛び、気を取り直して説明を再開した。
―――
『それでは、これの起動は〜、村長とテラーさんにお願いしまぁす!』
「わ、儂らでよいのか?」
「あらぁ、責任重大だわぁ」
村長は顔が引きつってるけど、テラーは余裕そうだな、さすがはテラーだ。
「父ちゃん、母ちゃん、頑張ってきてくれ!」
『大丈夫だよフローラ〜、誰でも出来ることだから、ただやっぱり、こういう事は村の代表者がふさわしいからね』
「そうか、なら気負わずにな」
「ティルもやりたい!」
「こらティル!」
『いいよいいよ〜、なら村長家みんなでやりなよ〜』
「わ〜い♪やったー!」
「俺もいいのか?」
セイスが自分を指差して聞いていた。
「セイスよ、お主は儂の後釜じゃ、次期村長なのじゃからいいに決まっとる」
「俺が村長…」
「まだまだ先だがの」
「義父さん、ああその方が良い、まだまだ長生きしてくれ」
「言われんでもじゃ」
「あらあら、なら私もまだまだ死ねないわねぇ」
「母ちゃんは殺しても死ななそうだけどな」
「フローラ…どういう意味かしら?」
「い、いやぁ~、深い意味はないさぁ、いつまでも若いからな、年取ってないんじゃないかと思ってな」
「そんな事ないわよ、あなたもきっと分かる時が来るわ、まったくフローラの性格と喋りは誰に似たのかしらね、ねぇあなた?」
「い、いやぁ誰じゃろうなぁ…」
フローラも村長もテラーには強く出られないんだな、やっぱ裏ボスだわ、怖い怖い。
そういえば年齢の事忘れてたな、こっそり確認してみるか…ステータス。
名前 レン∶神園蓮
年齢 21歳
Oh…不老確定か?…元30歳の表記が消えたな、いつになったらティアに会えるんだよ、しょうがないか、できるだけ退屈しないように生きよう。
「どうしたレン」
「ん?顔に出てたか…ちょっと年がな」
「年?ああ、明けたけどそれがなんだ?」
「そっちじゃないよ、年齢のほうだよ」
「あぁ…ステータス」
「どうだ?」
「レイカ達と同じ、だな…」
「異世界人は魔力で体がどうにかなってるのかな、鼻くそも何百年と生きてるらしいしな」
「別世界からの[転生]、ではなく[転移]だとおかしくなるのかもな」
「この世界の人間と同じ、とは到底思えないステータスの上がり方だし、まぁ、一部サリーみたいな超人はいるけど…俺達は、もしかしたらこの世界に体を魔物と同じように作り変えられてるのかもな〜、魔物って寿命なさそうだし」
「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃないか、どんな状態だろうとレンはレンだし、あたしはあたしだ」
「確かにな、思考の海に落ちるとダメなんだよ俺は」
「ははっ、ならあたしが引き上げ役だな」
「それはいいな、頼りにしてるよ」
「ああ、お?そろそろ起動するみたいだぞ、取り敢えず今はそっちに集中しよう」
「おう」
村長家の家族全員が、機械から一部だけ出ている魔核に触れてほんの少しだけ魔力を流している。
キュイーーっとパソコンの電源を入れたときの様な音を鳴らし、機械全体がピンク色に光り出した。
「わぁ!きれ〜い♪」
ティルだけ大はしゃぎで、他の皆はポカーンと空を見上げている。
ピンクの光が空に向かって一直線に伸びていき、ある程度の高さで四方に拡散、薄い膜が村全体を包み込むと、その後一気に広がって見えなくなった。
『は〜い、無事起動で〜す♪ありがとうございました〜』
パチパチパチパチパチパチ!
大きな拍手と大歓声にて、今回の祭りはお開きとなる、皆は映画を観たあとのように、今宵の感想を楽しく言い合いながら、散り散りに帰路についた。




