121話 年越し③【実力の差】
ドンッドンッ
バキッ
ドドドドドッ
ガキンッ
闘技台の上で派手な魔法が飛び交い、時には三つ巴になり、体術の応戦、カリンが攻撃、セイトがその隙を突いて小刀で攻撃を仕掛ける、それを簡単に体で受け止めるレン。
こいつら…いつの間に武器をもらったんだよ、ちくしょう。
もう完全に正体を現し、いつもの装備に戻したセイトとカリン、対するレンは特に武器を持つこともなく、自然体で2人の相手をしていた。
「クソ、本気を出させる事も出来ないのか」
「黒王も出さないしね、悔しぃ〜」
「バカ言え、俺はお前たちを殺す気はないぞ」
「くそぉ〜」
「さて、出し尽くしたか?」
「糸はまだ慣れてないしね〜、もう何も無いかなぁ」
「そうか…なら、出てこい!」
アオーン!
『わぁぁぁぁぁ!』
体長20mのフェンが吠えながら現れ、会場内が一斉に沸いた。
『おぉ〜っとぉ、ここでレン選手の隠し玉!疾風の巨狼!フェン選手の登場だぁ!その美しい姿に会場も大盛り上がりです!』
ズドン!
『僕達とうじょ〜う!』
次に体長を20m程まで小さくしたライトの登場で…
『きゃぁ~!ライトく〜ん♡』
フェンの時とは打って変わって黄色い声が飛び交う。
『あと1体の隠し玉!ホワイトスライムのライト選手も登場だぁ!デカい!デカすぎぞぉ〜!2体で闘技台の半分を占領してしまったぁ!今宵もライト選手は、その可愛らしい容姿で、女性陣を魅了している〜!私も触りたい!』
「いや無理、絶対に勝てないぞ」
「ズルだよズル!」
「こいつらはれっきとした仲間だ、8人掛かりで攻撃してきたくせに何を言っている」
『そうだそうだ〜』
『うむ、して主様、我らはなにをすれば良いのじゃ?』
「あ、大丈夫、出てきてくれただけで用済みだから」
『用済み…強すぎるというのも退屈なものじゃな』
「あと1体も呼び出すぞ…出てこい!」
レンが、右手に付けている指輪を天にかざす、指輪から黒い一筋の線が空まで飛んでいき…
ゴロゴロゴロゴロ…
空が鳴き出した。
「おいレン…なんだ今のは?」
「怖い〜、僕達は何を見せられるの?」
『グォォォォォォ!』
「うわぁ、なんだよあれぇ、ムリムリ〜」
「レン!本当にあたし達を殺す気は無いんだよな!?」
黒い空から大質量の何かが降りてきて、叫びを上げた。
以前、大赤子に消された時よりも数倍大きくなった黒龍である、真夜中の薄暗い空の中でもその存在感は大きく目立つ、目を赤く光らせ、口から白い冷気を吐き、身体から紫電を迸らせて、黒い風と共に広場の上をゆっくり飛んで、カリンとセイトを睨めつけている。
観客は全員無言、皆空を見上げて絶句していたが、レイカは嬉しそうに見ている。
少しレイカにアドバイスをもらったからな、黒竜を作る時の事を参考にさせてもらったよ。
「す、すげぇすげぇ!レン様なんだよあれ!かっこいい!私も作りたい!」
試合の事も忘れ、リルがレンの下へ駆け寄って感動を口にした。
「おおリル、よ〜く見ておけ、あれが地球人が背中に飼ってた黒霧、その姿だ、この世界の竜とは格が違うだろ?」
「うん♪いいな〜、私も作れるかなぁ」
「レベルをたくさん上げて魔力量をもっと増やせば、リルならきっとできるはずだ、まずは小さなやつから挑戦してみろ」
「うん!私頑張る!」
しばらく呆然と空を眺める広場に集まった人達。
『終了〜!これにて試合は終了で〜す!』
「お?終わりか、他に挑戦者は?」
『レン、こんなの見せられているわけないでしょう』
「ははっ、そうだよな、まぁ安心しろみんな!これは味方だ!そう思えば心強いだろ!」
レンが出したことを思い出した観客達、徐々に騒ぎが大きくなる。
『す、すげぇ!』
『さすがはレン様!』
『僕も水で同じの作れるかなぁ』
『俺は石で作るぞ!』
『ティルもー!風で作るー』
『あらあら、凄い生き物ね、なんていうのかしら、私も魔道具で作ってみようかしら、ね、テラーさん?』
『そうねぇ、それも面白そうねぇ、それでこの村を守らせるのがいいかしら』
ヤバい…テラーとサンドラの何かに火を付けたみたいだな、次にこの村を訪れるのが少し怖いぞ…
『さぁ、最後に王様から挨拶をもらってお開きとします、それではレイ北王、どうぞ!』
「えっ!?」
目玉が飛び出しそうなほど目を見開きギョッとするレイ、どうやら聞かされていなかったらしい。
「聞いてないよ〜、やめてよレイカ〜」
「はは、レイカは昔と変わらんな、いつも私達はそんなレイカに振り回されたものだ」
「本当だよ〜、なんか昔よりも元気になってるし、歯止めが効かないよ〜」
「ほら、レイも王様なんだからしっかりね、はいマイク」
しぶしぶマイクを受け取り、ゆっくりと闘技台の真ん中へ移動する北王。
『え〜っと…』
言葉に詰まるレイ。
『北王様〜、俺達相手に緊張なんてするな〜』
『そうだ〜、所詮はただの村人だよー』
『がんばって〜、北王様〜』
…
『みんな…僕は今改めて、この国の王様で良かったと思ったよ、ありがとう皆さん!』
わぁぁぁぁぁ!
パチパチパチパチ!
『僕は…僕は異世界人です!そこにいるマリーも、さっきまで喋っていたレイカも、レン兄ちゃんも、そんな人たちが今も笑顔でいてくれる、それはこの世界の人達が、カインド村の人達が優しいから、そうじゃなかったら今頃僕達は今だに闇の中を歩いていたことでしょう!だからありがとう!去年は色々ありました、主にレン兄ちゃんのせいだけど…』
「おい…」
『違うとは言わせないよ?今こんなに幸せなのは、レン兄ちゃんのせいなんだからね?』
「あ、あぁ〜、分かった分かった」
『はははっ、これからが本番だ!北王の名のもとにカインド村の村人全員に命ずる!』
ざわざわ…
急に命令すると聞き、少しざわつき始める会場。
『幸せになれ!今以上に幸せになろうと努力する事!そのために僕がいる!困ったことがあれば、僕をどんどん使って下さい!ごめんね、僕はやっぱり頭が良くないから、こんなことしか言えないけど、誠意だけは伝えたかったんだ!』
『北王様ぁ、それだけで十分だよ!』
『そうだ〜!優王様〜!』
優王コールとともに、闘技台の端によけるレイ。
『レン?いっとく?』
「おい、バカやめろ!マイクで喋るな!」
『きゃ〜!レン様よ〜』
『声を聞かせてくれー!』
『レン様のお言葉じゃ!皆静かに聞くのじゃ』
「う、クソッ、レイカ…覚えとけよ、後でお仕置きだ」
「えぇ…そんなぁ〜」
「黙れ、余計なことしやがって、絶対に後悔させてやるからな」
「許してぇ〜、レン〜」
少しばかりはしゃぎ過ぎたと、すでに後悔しているレイカ、どんな罰を受けるのか恐怖で涙目になっている。
「俺は相手が誰だろうと容赦はしないと言ったよな?覚えとけよ」
捨て台詞を吐き、闘技台の中心へ進んでいくレン。
「みんな、今日はお疲れさん!」
わぁぁぁぁ!レン様ー!
「俺がこの村を出てから5ヶ月以上が経った、みんなよくやってるよ、ちゃんと鍛錬に励んでいる事は良く分かった、頑張ったな」
…
マイクも使わず、声も張り上げず、なのによく通る落ち着いた口調に静まり返る会場内。
「でもまだだ、まだ安心は出来ないんだ、大変かとは思うのだが、もっと頑張ってくれ、敵は…中央の賢者ルードだ」
『なんだって!?賢者様が?』
『本当なのか?』
『俺は聞いたことがあるぞ、裏で世界を支配しているとか…』
『皆、落ち着くのじゃ、レン様の話はまだ終わっとらんぞい』
さすが村長、気が利くな、ありがとう。
村長に目礼をして、話の続きをしていく。
「細かい説明は難しいんだが、賢者ルードは…自分の目的の為にこの世界を崩壊させようとしている、俺達とは違う世界から来た異世界人だ、この世界の人間を殺し、魔物を殺し、世界をも殺そうとしている、この世界の魔力を全て集めようと画策しているんだ」
『な、なんだって!』
『なんと…そんなことが』
「これもまた知っている人は少ないだろう、実はこの世界ツェファレンは、人間が作った魔力で維持されているんだよ、人間が大量に死ぬと魔力の塊である魔物も弱体化するんだ、そうして弱体化させて最深層の攻略を目論んでいる、異世界から勇者を攫ってきて洗脳してな…」
『そんな…儂らはどうしたら』
「とある自分勝手な理由の為に、世界の端に溜まった魔力を根こそぎ奪うという計画を企てたルード、そんな事をしたなら、この世界がどうなるのか誰にも分からない、だがろくな結果にならないことだけは明らかだ」
『レン殿!俺達は何をすればいいんだ!』
珍しくセイスが真剣な顔をして叫ぶ。
「強くなれ、それ以外はない!」
『ちょ〜っと待ったぁ!』
「レイカ…なんなんだよお前は」
『ふっふっふ〜、レン、実はねぇ、作ったんだよねぇ』
「なんだよ、何を作ったんだ?」
『結界をねっ!』
「まさか…レイが作ろうとしていたやつか!?」
『うん♪だから…』
「だから?」
『お仕置きは勘弁してください〜!』
「…はぁ、分かったよ、ここで言うことじゃないだろうがまったく、お前少し酔ってんのか?」
『だいぶ酔ってま〜す』
はははははっ♪
『いいぞ姉ちゃん!』
『結界ってなんですか〜?』
村人達もレイカの明るさに釣られて笑い出す。
「しまらねぇ…まぁいいや、じゃああとの説明は俺も聞くから、任せた」
『うん!まっかせてよ〜』
ドンッ!
突如、この世界には似つかわしくない見た目の、メカメカしい何かが現れる。
『じゃ〜ん!これが結界だぁ!北国をすっぽりと、聖堂と同じ効果のある結界で囲うよ〜、効果は〜ルード避けだね♪』
『レイカは喋り疲れただろう、私が説明しよう』
マイクを持ったマリーが出てきて、レイカの代わりに説明を始める。




