117話 セイトの独り歩き
セイトの事はすっかり忘れ、ぐっすりの3人…
ピピピピ♪ピピピピ♪…
「ん、んん〜!アラー厶か…ふわぁ〜、はぁ…なんか疲れが残ってるような気がするなぁ、気のせいかな…」
取り敢えず朝一の金剛を作って、レイカの部屋へ行くか、どうせあいつらは起きてるんだろ。
「おはようレン!」
「おはよ〜♪疲れは取れた?」
「2人とも元気だなぁ、なんだか疲れが取れてないような気がしないでもないんだよ、やっぱり精神に作用する何かをされたんだろうなぁ」
「無理はするな、別に急いでないんだ、ゆっくり休め」
「そうするよ、ありがとな、カリン」
「うむ、あたしは元気いっぱいだからな!今日も頑張ってくるぞ!」
「怪我しないように、ほどほどにな」
「了解だ」
「ご飯食べて、私も修行だぜ♪」
「はは、張り切っちゃってまぁ、はいこれ」
ポイッ
「ふ…ふぉ」
「我慢だレイカ」
「う、うん…」
そーっと倉庫に金剛をしまい込むレイカ。
「ふぅ、見てるとまだ疼くね、早く慣れなきゃ」
「考え方次第だな、後で幾らでも物作りはできるんだから、お楽しみは後にとっておくんだな」
「そう簡単に考えられればいいんだけどね〜」
「…ん?あれ?」
「どうした?」
「ああ、セイトがいないから変な感じなのか、まだ帰ってないのか?」
「うん、連絡もないしね」
「大丈夫だ、2、3日帰らないかもって言ってたからな、心配するな」
「いや、心配はこれっぽっちもしてなが、なんか気になるな、なんの用事なんだ?」
「あたしも知らん」
「そうか、まぁいいや、ご飯にしようか」
「は〜い、カリン、準備しよ〜」
「おう」
―――――
時は前日の夕方、北国のオーソロン城、その入口にセイトの姿があった。
「レイちゃんから個人的に話があるなんて、なんだろう、怒られるような事したかなぁ」
日頃の行いが悪いせいか、怒られることばかり考えるセイト。
「レイちゃ〜ん、着いたよ〜」
『あ、いらっしゃ〜い、今案内のメイドが向かってるから待ってて〜♪』
「は〜い…良かったぁ、怒ってはいないみたいだね、でも僕なんかになんの用事なんだろう、めんどくさい事だったら嫌だなぁ」
しばらく待っていると。
「ようこそセイト様、メイドのメイと申します、突然呼び出してしまい、申し訳ありません」
「うん、いいよ〜♪僕はなんで呼ばれたの?」
「申し訳ありませんが、わたくしは存じ上げておりません、北王様の執務室へご案内いたしますので、そちらでお聞きになられて下さい」
「分かったよ〜、よろしくね♪」
「は、はい!」
「だ、大丈夫?鼻息荒いよ?」
「大丈夫です!いつも通りです!」
ええ〜、最初はそんなに興奮してなかったじゃん…なんか怖いなぁこの人。
セイトも中々のイケメンのため、メイにとっては許容範囲だったらしく、面食いが発動してしまう。
―――
「こ、こちらで…ござい、ます」
「ねぇ、本当に大丈夫?フラフラじゃん」
「は!だ、だめです!私に触れてはなりません!」
「え、そ、そうなの?」
「はい、触れると、その…出てしまいますので…」
「何が!?」
怖ぁ、触らなくて良かったよ〜、なんか重い病気なのかなぁ、まだ若いのに可哀想に。
「取り敢えずありがとう、あとは自分で声を掛けるよ〜」
「は、はい!宜しくお願い致します」
サッサッサッサッ…
「全然足音が聞こえない、見事な忍び足だなぁ、まぁいっか、さて〜」
コンコンコンコンッ
「レイちゃ〜ん、来たよ〜」
…
ガチャ…
「いらっしゃいセイト兄ちゃん♪さぁ入って入って」
「は〜い、お邪魔しま〜す」
「適当に座ってね」
「は〜い…よっこいしょ、はぁ〜疲れた〜」
「ごめんね、いきなり呼んじゃって」
「あ、違う違う、ここまで来るのに疲れたんじゃなくて、その前に鍛錬してたからね、それが疲れたんだよ〜」
「レン兄ちゃん直伝?」
「まぁ半分はね、でももう今は、自分で考えて鍛えるフェーズに入ったかなぁ」
「凄いや、僕も修行したいんだけど、王様って忙しくてね〜、嫌んなるよ〜」
「レイカちゃんが転移扉作ったら、抜け出しちゃえば?」
「あ、それいいね〜♪」
「ダメに決まってるだろレイ!セイト兄様、滅多なことを言ってはダメだ」
「マリーちゃんこんばんは〜、そこにずっといたよね?」
「え…分かる、のか?」
「分かるよ〜、こう見えて僕は忍をやってるからね♪」
「いや、こう見えてって…忍にしか見えんが?」
「あ、そうだった、たはは」
「ふふ、セイト兄様はレン兄様と違ってマイペースだな」
「なに言ってるの〜、レンちゃんのほうがよっぽどマイペースだよ〜」
「確かに、まぁある意味どちらもマイペースだな」
ダンジョンの話や、レイカの話、軽く世間話をしたあと、話は本題へ移る。
「それで〜?なんで僕は呼ばれたの?」
「あ〜、それは〜」
「え?言いづらそう…嫌な予感がするな〜」
「私から話そう、どちらかと言えば私の身内の話だからな」
「え?そうなの?」
「セイト兄様は私の部隊のフキノを知っているか?」
「名前はレンちゃんから聞いたことはあるよ、凄腕の副隊長なんでしょ?」
「うむ、そうなのだが…」
「ねぇ、もしかして、そこにいるんじゃない?」
セイトはマリーの影を指差しそう言った。
「す、凄い…レン兄様の周りは化け物だらけだな…」
「僕は影に関してはちょっとうるさいよ〜?」
「ははは、さて、フキノ!観念して出てこい!」
「は、はい…」
ズズズ…
「は、初めまして…セイト、様…」
顔が真っ赤である。
「うん、可愛らしい子だね♪着物もグッド!」
「え!…や、やった…」
「それで?僕に何か用事でもあるの?」
「はぁ〜」
マリーが大きなため息をつく。
「セイト兄ちゃんは鈍感系なの?」
「えっ、鈍感!?まさか…フキノちゃん…」
「ええい!うじうじするな私!セイト様!」
「はい!」
「ひと目惚れです!私と結婚して下さい!」
「は、早い!早いよ〜、いきなり結婚はダメでしょ〜、え?この世界はこんな感じなの?」
「いや兄様、そんな事はない、フキノの早とちりだ」
「そうか〜、うん、分かったよ♪フキノちゃん」
「は、はい…」
「こんな僕を好きになってくれてありがとう、でも僕はフキノちゃんの事よく知らないから、まずは仲良くなる所から始めようか♪」
「た、対応が大人だ…意外にも程がある…」
「マリー!それは失礼でしょ!」
「ははは、いいよ、そう見られてもおかしくない性格だからね僕は、でもね、これでも地球で30歳だったんだよ?もういいおじさんなんだよ〜、そんな僕に告白してくれる子がいるなんて、嬉しいじゃないか〜」
「じゃ、じゃあ」
「うん、僕おじさんだけど大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です!やった〜♪」
うじうじ悩むくらいなら、付き合う…かどうかは分からないが、まずは友達になってしまえばいいと考えた、セイトもレンと同じく、来るものは拒まずの性格であった。
「さて、でもどうする?僕は修行中だし、フキノちゃんも付いてくる?」
「マ、マリー様、どうしましょう…」
「まぁ好きにしろ、お前の人生だ、こちらに気を使うことはないぞ、もう暗殺の仕事もやらないしな、ここのところずっと暇だったろ?」
「はい!ありがとうございます!では、私は旦那様に付いていきたいと思います!」
「旦那様って、気が早いな〜、まぁいいか」
「はい!決まりだね♪めでたしめでたし、セイト兄ちゃん、今日は泊まっていきなよ♪」
「いいの?」
「うん、部屋は余ってるからね〜」
「まぁ丁度いいかな、姉ちゃんには2、3日は帰らないかもって冗談で言っておいたから、拘束されるかなと思ってね」
「そんな事はしないよ〜、じゃあ明日もいられる?」
「なんかあるの?」
「鍛錬に付き合ってくれない?」
「いいね、分かった、対人戦もやっておいて損はないでしょ、じゃあ明日はそれで」
「私も頼む」
「いいよ〜♪」
しばらく話していると、空いている部屋の準備が整ったとメイが言いに来たので、セイトはそこで泊まることにした、フキノが一緒に付いていこうとしたので、マリーが首根っこを掴み阻止、さすがに順序は守れと説教していた。
―――――
『レンちゃ〜ん、起きてる〜?』
「お?セイトから通話だな」
「まさか、トラブルじゃないだろうな、そうだったら後で説教だな」
「ははは、そうじゃない事を祈ろう」
「応答しないの?」
『お〜い…あれ?まだ寝てるのかな〜、結構いい時間なんだけどなぁ、しょうがないメッセージを…』
「ようセイト、おはようさん、北国にいるんだって?」
『あ、出た、レンちゃんおはよ〜、うん、ちょっとレイちゃんに呼び出されてねぇ』
「お前…何をした?」
『あ!ひどい!何もしてないよ〜』
「はははっ、そうかよ、じゃあ安心だな」
『も〜、僕だって大人なんだからね〜』
「分かった分かった、それで?」
『あ、え〜っとねぇ、マリーちゃんの部隊にフキノちゃんって子がいるじゃない?』
「ああ、いるな、お前みたいな女だ、覚えている」
『そうそう、僕みたいなんだよ〜、びっくりしたね、それでね〜、その子に告られたんだよ』
「おおっ♪春が来たか」
「セイト、返事はしたのか?」
『姉ちゃん、うん、したよ、でもまだ僕はフキノちゃんの事よく知らないからねぇ、取り敢えずはお友達からって感じだね〜』
「そうか、大切にしてやれ、子供じゃないんだ、ずっとそっちにいても大丈夫だぞ?」
『あ、それもいいね♪』
確かに、それも手だな…
「よしセイト、お前は今オーソロン城にいるのか?」
『うん♪』
「じゃあお前はそこにいて、フキノとの仲を深めろ、ついでにオーソロンの連中を鍛えてやれ、もちろんお前もだぞ?」
『え?レンちゃんいいの?』
「カリンも言っていただろ、別に子供じゃないんだ、選択は自由だ、それにもうお前はそれだけの力と知識を持ってる、自信を持て」
『レンちゃん…ありがとう、この世界で早めにレンちゃんに再開できて良かったよ』
「ああ、俺もだ、最初はどう殺そうか考えたが、殺さなくて良かったよ」
『や、やめてよ〜、怖いよ〜』
「冗談だ、とにかくお前の好きに生きろ、これは俺からの願いだが、できれば強くなれ、そして…死ぬな」
『うん!まぁどうせレイカちゃんが扉でそっちと繋げるんでしょ?同じお城にいるようなものだしね〜』
「そう言えばそうだな、お前は北国担当って所だな、期待してる」
『まっかせてよ〜、あ、朝ごはんみたいだから行くね〜、なんかあったら相談するから〜♪』
「おう、じゃあ元気でな」
「セイト!女を泣かせるんじゃないぞ!」
『…は、は〜い』
ついにセイトも独り立ちか、少し早いような気もするが、そこまで過保護にする必要もあるまい。
「ふふ、嬉しいものだな」
「そ〜だね〜、青春だねっ♪」
「あんなに青春が似合わない男も珍しいけどな」
「レン、お前もだろ、まぁお前にはあたしたちがいる、感謝しろよ?」
「そうだそうだ〜、感謝しろ〜♪」
「なんで立場が逆転してるんだよ、お前らが告ってきたようなもんだろうが、あと、俺は青春の似合う男だ」
「真顔で何を言ってるんだ、青春が似合う男は自分でそんな事は言わん、青春とは自然と訪れるものなんだよ」
「へぇへぇそーですかー」
俺は異世界やファンタジー物のラノベ小説で、嫌いなテンプレが…(以下略)
どんな小説でもそうだが、女ってのは強いんだよなぁ、どう考えても男が優勢なはずなのに弁解に時間が掛かったりするんだよ、男も男でハキハキ喋らないタジタジ君が多すぎてイライラするし、まぁ俺は女に対して萎縮したり、どもったりはしないがなっ!
ついに独り立ちをすることになったセイト、背中を押したレンだったが、実は少し肩の荷が下りたと思っていた。




