113話 しっちゃかめっちゃか第3区
ゴゴゴゴゴゴ…
レンは怒っていた、全力の威圧により体から湯気のようにオーラが吹き上がり、地面を軋ませ、元凶の魔物を睨みながらそちらへゆっくりと歩いていく。
「貯蓄から4万ずつを筋力、俊敏、魔力、技術へ」
完全に我を忘れていた、精神10万とはいったい…?
ステータスが上がり、更に威圧が増した魔王レン、威圧感が増したレンを警戒して魔物が動く。
「ぬぼぁ〜」
ピチュン!
警戒はしていてもまだまだ余裕があるのか、間抜けな声を出しながら大きな口をあけ、先ほど黒龍を消したものと同じ光線を、ほとんど貯めもなく瞬時に放ってきた。
「おらぁ!」
バキッ!
俊敏が5万まで上がったレン、放たれた光線をしっかり目視で捉え、裏拳を使ってジャストタイミングで弾く、もともと魔体が高いレンに生半可な魔法など効くはずもなく、弾いた手もまったくの無傷だった。
まぁ、魔物が放ってきた光線は生半可なものではないのだが…
「ぬぼ?ぬぼぼぼぉ〜!」
ピチュンピチュンピチュン…
「ふんっ!ふんっ!ふんっ…」
「ぬ!?ぬぶおぉぉぉ!」
必殺の一撃を難なく弾く小さな生き物に大混乱の魔物、焦りながら次の攻撃を仕掛けてくる、魔物の目の前に赤い球体が現れ、徐々に大きくなっていく。
「ぼぉぉ!!」
バヒュッ!
超高速で打ち出される巨大な赤い球、普通なら絶望に明け暮れる所だが…
「デカけりゃいいってもんじゃねぇぞ!このクソ坊主がぁ!!!」
バァーン!
またも拳一発で魔法は霧散した、クソ坊主にとっては渾身の一撃だったはずなのに。
「ぬ、ぼぼ、ぬぼぁ!ぬぼぅ!?」
一撃で倒せない相手になど、今まで一度も相対したことがなかったクソ坊主は、どうしたらいいか分からずオロオロし出した。
ピチャ…ピチャピチャ…
…バサァーー!ズシーン!
突然池の水が空中に打ち上がり、クソ坊主が地上へ投げ出された、そしてその全身が顕になる、レンが水魔法で池の水全てを持ち上げたのだ。
身長は60m以上、そのうち頭の大きさは30mほどで、バランスの悪い2頭身の人型魔物であった、全身が赤くドロドロしていて、手のひらには水かきのようなものが付いている、泳ぎが得意な魔物なのであろうと分かる。
「ぬ!ぬぼ!ぬぼ!ぬぼぉぉ!!」
地上でも普通に行動できるらしく、素早く立ち上がり、さっき戦った蜘蛛のように逃げようとしているのか、背を向け始める。
「おいおいてめぇ、まさか逃げようって気じゃねぇだろうなぁ、敵に勝てないなら潔く諦めて、自身の死をもって、その魔力を世界に返還するのが役目なんだろ?人の魔力を霧散させといて逃げるなんざ、それはないんじゃないかなぁ?」
かなり遠くにいたはずのレンが、いつの間にかクソ坊主の目の前に移動していた。
ニコニコしているが、目が1ミリも笑っていない。
このときクソ坊主は、生まれて初めて感情というものを手に入れていた、喧嘩を売る相手を間違えた…どうしよう、という感情を。
ヒュッ、ズバッ!
ズンッ!
「びぇぇぇぇ!!」
レンが突然姿を消したと思ったら、魔物の両足が黒王により切断されていた、切られた足はその場で黒い穴に消え、そのまま下に落ちるクソ坊主。
「びぇっ!びぇっ!びぇっ」
「うるせぇよ!」
バキッ
「びぇぇぇ!」
バキッ
「び…」
バキッ
「…」
バキッ…
倒れた頭の側面を、殴りつけては吹っ飛ばし、瞬光で反対に回り込んでは吹っ飛ばす、気が狂ったように永遠と繰り返される攻撃、完全にイジメである、遠くから見たら、大きな赤い玉が光りながら高速で左右に揺れているように見えるだろう。
「終いだな」
ズバン!
最後は黒王+自作の魔鉱石で延長された剣で、縦に真っ二つにされ、収納されるクソ坊主、初見では強敵みたいな雰囲気を出していたが、レンの逆鱗に触れてしまったが故に、全くと言っていいほど見せ場もなく討伐されてしまった。
…
「ふん、第3区って言ってもこんなもんかよ」
戦闘…否、虐殺前にステータスへポイントを振ったことは全力で棚上げするレンであった。
「はぁ〜、やっちまったなぁ~、あぁぁ〜、16万がぁ…」
そもそもなんで俺はこんなに腹立ててるんだよ、ここはそういう環境なのか?なんか空気も重いし、まぁ普通ではないんだろうなぁ。
『…ん…よ』
ん?
『に…げ…よ』
にげよ?逃げよ!?え?何から?
「え?誰だ?とうとう俺もおかしくなったか?」
『人間よ…おい、聞こえておるだろう、私だ、小さき人の子よ、目の前におるだろう』
うん、分かってた、でもさ〜、こいつがいきなり喋るとは思わないじゃん。
「…もう勘弁してくれ、処理しきれんぞ、順序ってもんがあるだろ、俺に喧嘩を売って、ぶちのめされてからじゃない?」
『ふはははは、それこそ勘弁してほしいの、あの時のお主に喧嘩なんかふっかけたら、我なんぞ一瞬で魔力還りじゃよ、あの大赤子を弄んで還らせおったのじゃからな、威圧感が無くなったから出てきたのじゃぞ』
「お前は、まさか…フェンリルって名前じゃないよな?」
『ふぇんりる?いいのぉその名前、もらった!』
そう、はじめに見た、丸くなって寝ていた巨大狼だ、大赤子とやらを倒したあと、音もなくレンの目の前に現れていた。
俺はスライムに好かれたかったぞ…
『先程の戦い、我は感動した!この辺りでは1番強い魔物を倒したのだ、我はお主に仕えることにしたぞ』
「いや、そういうのはやってないんで、クーリングオフで」
絶対テイマー生えてるだろこれ、だって魔物の声聞こえちゃってるもん。
『う〜む、意味は分からんが、拒絶されておるのはなんとなく分かるぞ、だが残念じゃったな、これは強制じゃ、まぁ災害みたいなもんじゃな』
「ええ〜、契約違反だよ〜、はぁ〜、俺はこれ系のテンプレも好きじゃないんだよなぁ、強い魔物をテイムするとか…ないわ〜、スライムがよかったな〜」
『む?お主、スライムが好きなのか?我が声掛けてくるか?』
「はぁ…は??え?いいの!?マジで言ってんのか?」
『ああ、いいぞ、その代わり我の服従も受け入れるのだ』
「服従の態度じゃないけどな、そのほうが俺も楽だからいいけど、よし!いいだろう!見事スライムを説得して連れて帰った暁には、その服従心、受け入れようではないか!」
『御意、主様の御心のままに』
シュッ!
そう言うや否やその場から消え去るフェンリル。
え?気配が消えた?もしかして転移か!?これは教えてもらうしかあるまい…げへ、げっへっへっへ…
拒絶したくせに現金な男レン、果たして転移を覚える事が出来るのであろうか。
さてどうするか、まぁフェンリルは3区の魔物だ、ここから移動しても俺の居場所くらい分かるだろ、次の土属性を探すか、っとその前にステータス。
貯蓄 36052
魔力 59532/60000
すげぇ!これなら16万くらいすぐに貯まるだろ、っていうか俺の潜在能力はどうなってんだよ、めっちゃステータス上がったのに全然違和感ねぇぞ、あと魔力…これ、どうやって使い切るん?魔体9万だから、回復もめちゃくちゃ早いし、ガソリン入れてる時のメーターくらい早いよ、これ、俺が魔力作ってるんだろ?どうなってんだよ…あ、全回復した。
考察好きなレンだが、考えても答えが出ない事については、すぐに考える事をやめる性格、なのですぐに次の獲物を探し始める事にした。
―――
「キシュ…」
よし、これで5体目だな…しっかしこの剣はよく切れるな、一応壊したくないから、魔力を流しながら使ってみたけど、それが影響してるのか?後でラルファに聞いてみるか。
確か土属性の魔核は全部で4個必要だったよな…5個あれば何とか間に合うだろ、ステータス。
貯蓄 48552
1体2500ポイントかぁ、嬉しいんだけど、能力上げちゃったからなぁ、もっと獲得できたはずだったのに、本当になんだったんだよさっきの感情の高ぶりは…なんか世界が干渉してきてる気がするなぁ、うん、なら無理だな、俺のせいではない!
む!?
シュ!
『主様、今戻ったぞ』
音もなく急に背後に現れるフェンリル。
「なんだよお前か、驚いたぞ」
『流石は主様じゃな、我の気配に瞬時に気付きおった』
「あたりまえだろフェンリル、お前はそれなりに強いんだ、気付くに決まってるだろ」
『ふふふ、我は先程、極限まで気配を消しておったのじゃ、試すような真似をしてすまぬ』
「まぁいいよ、お前は俺に…仕える?なぁフェンリル」
『なんじゃ?』
「お前って俺のなんなの?」
実はステータスにテイマーが生えていなかったのである。
『なに、とは?』
「う〜んと…召使い?とかペット?あと従僕とかさ、立場っていうかな、立ち位置だよ」
『そうじゃの、下僕かの』
「やめろよ、俺はそういう扱いは嫌いなんだ」
『では主様が決めてくれ、我は何でも構わん』
「う〜ん、相棒…かな」
『相棒…なんという器の大きさじゃ、我なんぞ主様の足元にも及ばんのに』
「まだ分からないぞ?この俺の相棒になるんだ、当然強くなってもらうに決まってんだろ」
『…我を泣かせたいのか?』
「ほう、魔物にもそんな感情があるんだな、いいぞ、好きに泣けばいいさ」
『ねぇ、そろそろいい〜?』
「やっぱり下にいたのか」
『それもお見通しなのか、つくづく恐れ入る』
にゅるるる〜、ポンッ
地面から、触手が伸びてきて、ポンッとスライムが登場した。
『こんにちは〜、強い人間に仕えないかって誘われてきたよ〜、よろしくね〜』
「…」
レンは言葉を失っている。
深層第1区で会ったカオススライムよりもそのフォルムは丸く、色は真っ白、ぷよぷよとしていてとても触り心地が良さそう、声も高くて可愛い、Theスライムって感じの喋り口調、どこからどう見ても完璧で、レンのどストライク…その大きさが先程の大赤子ほども無ければだが。
「でっかぁ…」
『主様はちっちゃいね〜、うんうん、凄く強いや、僕でも敵わないね〜』
「分かるのか?」
『うん♪分かるよ〜』
『スライムのお主が敵わないのなら、やはり我なんぞ足元にも及ばんな』
「え!?この子のほうがフェンリル、お前よりも強いと?」
『そうじゃ、我よりもだいぶ強いのじゃ、ある程度知能を持った魔子はそういう事が分かるのじゃ、知能があればの』
「まご?」
「魔の子供、魔子じゃ、我らは世界が魔力で生み出した子供だからの、魔物も魔子も意味は変わらんよ、魔物のほうが分かりやすいなら今後はそう呼ぼう」
「そうか〜、なんかもう、しっちゃかめっちゃか過ぎて、いろいろどうでも良くなってきたな」
『ねぇ〜、僕にも名前ちょうだい?』
「いいぞ〜♪う〜んと、スライム…ホワイト…スライト…普通にライトでいいか、どうだ?」
もう巨大スライムを気に入り始めているレン、にっこにこで名前を付けてあげた。
『いいね〜♪僕ライト〜、よろしくね主様〜♪』
「か、かわい過ぎる」
『良かったな、ライトよ』
『うん♪』
「フェンリルも名前が長いから、フェンにしようか」
『うむ、サッパリしていて良い名じゃ、覚えやすいしの、感謝する』
「いいよ、さて、そろそろ帰りたいんだが…どうすればいいんだ?」
『うむ、その指輪じゃな』
「指輪?」
『その中なら快適そうじゃ』
『うん、安全に寝られそうだね〜』
「えぇ、どういう事?」
『どうやらその指輪は、魔力の住処らしいの、魔物は魔力の塊じゃからな』
「住処…凄い表現だな、まるで魔力は生き物みたいな言い方だ」
『生き物じゃぞ?』
『うんうん♪』
「新情報っ!もう脳みそ疲れたよ!ああ〜やめだやめだ!じゃあとにかく入れ、俺からの合図以外では出るなよ?」
『大丈夫じゃ、我は寝ておるはずじゃ』
『僕も〜♪でも声かければすぐ起きるよ〜、用事があったら読んでね〜』
「分かった、これからよろしくな」
『うむ、こちらこそじゃ』
『うん、よろしく〜』
「…」
音もなく指輪に入っていった巨大な魔物2体。
「…はぁ」
余りにも想定外の事が連続で起こり過ぎて、肩を落とし、ため息をつくレンであった。
もう何も考えたくない、疲れたよ…




