10話 ステータス授与、そして…
胸糞展開となります、お嫌いな方は注意して下さい。
深い森の中、俺達はキョロキョロと周りを見渡した。
「草原の次は森の中か」
「ほっほっほっ、それじゃあ念願のステータス授与といこうかの」
なんか喋り方がじじい相応になりつつある、人モドキが言ってきた。
なんだかキャラ設定が中途半端だな、まぁじじいの事情は知らんし、こいつも苦労してるんだろう。
「ここだと心は読めんのじゃが、なんじゃその目は、人を憐れんだような目で見るんじゃない」
のじゃ口調でいくことにしたのか、そのほうが違和感がないからいいな、あと…人じゃないだろお前は。
「いや、憐れんでなんかいないぞ、勘違いだ」
「そうかの?まぁよいわ、さて最初は誰から授けようかの?」
―――
「…俺からいかせてもらう」
誰も声を上げないので、レンが一番に声を上げる。
みんな緊張してるのか?まぁこういうパターンは最後に授かるやつが、どうしょうもないステータスを授かるからな、例えそんなことになっても俺は見捨てないしな。
「みんなもいいか?」
「ああ、いいぞ」
シンが代表して言ってくれた。
余裕かよお前、やっぱりお前がリーダーでいいだろ。
なんかずっと俺ばかり喋ってるような気がするが、そんなんだからリーダー認定されるのか、別にみんな無口な性格じゃないはずなんだがなぁ、まぁいいシンよ、余裕ぶっていられるのも今のうちだ!よく見ておけ、俺の圧倒的な才能をなぁ!
「それじゃあ、ほいっ!」
ペチッ
「いたっ」
軽く額にデコピンされ、全然痛くはなかったが反射的に声が出る。
すると、目の前にふわっとモニターが出てきた。
「え?これだけ?」
「そうじゃが?ああ、先程のは演出じゃよ」
「ええっ?僕、めちゃくちゃ痛かったんだけど!?」
セイト…ごめんな、さてさて、それじゃ俺のステータスは?
「ねぇ!聞いてる!?」
名前 神園蓮30歳
職業 ギャンブラー Lv1
貯蓄 563258
体力 10000
筋力 120
俊敏 80
精神 155
魔力 0
魔体 0
知能 320
技術 556
才能
奉仕
技能
贈与1 リスクリワード1
「……ふむ」
いやちょっと待って、低ぅ!魔力と魔体は0だし、技術だけがギリギリ一般人レベルかよ、職業も才能も技能も、あんまり良い予感がしねぇ、何よりセイトより知能が…
だが唯一貯蓄だけ、やけに多いのが気になるレン。
これがそのうち分かると言っていた正体か?チートの予感がするぜぇ、だが基礎能力は弱々だから、本当に守ってもらわないとヤバいことになるな、マジで一人じゃなくてよかった。
俺がぷるぷるしていると。
「どうしたレン、そんなにヤバいステータスなのか?」
え?見えないのか?そうか…なら。
「ん?あぁいや、自分の才能に惚れぼれしていたところさ」
「嘘つけ、そんな感じじゃなかったろ」
そっこうバレました。
「この世界では、ステータスを公開可にせんと他人には見えんのじゃ」
「どうすればいい?」
「そう念じればいいだけじゃ」
ちなみに一回ステータスを開けば、念じるだけでいつでも自由に閲覧可能。
よし、覚悟を決めるか、そしてこいつらに守ってもらおう。
言われた通り念じていたら。
ガツン!
うっ!
体全体に衝撃がはしり思わずその場で膝をつく、意識も朦朧としてきて。
「すごいのぅ、ずいぶん貯まっておる、もっと少ないと思うとったが、おぬしらの演技がよほど上手だったのじゃな」
なんだ?どういうことだ?
「それで、その数値をこちらに移せるのか?」
シンの声が聞こえる
「ああ、儂の手にかかれば問題なしじゃ」
「お、おい、どういう、意味、だ?」
「ん?まだ意識があったのか?しぶといのぅ、それはの…」
「いや、現人神様、俺から説明するよ」
「おおそうか、任せたのじゃ」
やはり神だったか、嫌な予感しかしないが、歯向かうと命がどうなるかわからないからな、素直にしておくか。
「レン、やけに大人しいな、大体想像はつくだろう?声を荒げて抗議しないのか?」
「まぁ、想像はつくよ、俺はまたクソ上司のときのように、人を見る目がなかったってことだろう?」
「ひどいなぁレン、いやリーダー(笑)クソやろうと一緒にしないでくれよ、なぁみんな?」
「そうだよレン兄、ひどいじゃないかぁ」
「レンレ〜ン、わたし傷ついちゃったな〜」
「うむ、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「おいたが過ぎますよ?お兄ちゃん」
セイト、エリカ、カリン、カノンが次々に口を開く。
その顔は不愉快なニヤケ顔だ。
地球でばったり合ったときからおかしかった、みんなこうなる事を知っていたのか、やけに無口だったのはボロを出さない為か?俺だけが知らなかった、カノンの涙も、カリンの幸せそうな顔も、全部演技だったのか…
「なんとなく察したよ、すまん、クソ上司と一緒にしたわけではないんだ、許してくれ」
謝るのには慣れている、死ぬよりましだ。
「まぁいいぜ?どうせ今から、今度は俺達がお前に許してもらわなきゃならないことをするんだからな」
俺の貯蓄の数値、そして才能の奉仕とか贈与に関連する何かだろうな、ここは素直に従おう。
「いいぞ、好きなだけ持っていってくれ、それでおまえらがこの異世界で楽しく生きて行けるのなら、何も言うことはないさ」
悪感情が心を支配しそうになるが、それをぐっと抑え込み、レンは自分を偽る、顔に出さないようにするために。
ここでは読心できないみたいだが、嘘の可能性もあるしな。
「おお!殊勝じゃのう!これなら傀儡にする必要はなかろうて、あの魔法は骨が折れるでな、では早速言う通りにしてもらうぞい」
杞憂だったか?
「ああわかった、どうすればいいか教えてくれ」
「ちょいと待っとれ、その前におぬしらのステータスをひらけるようにするぞい」
「おお、やっとか!よろしくお願いします、現人神様」
「うむ、では」
残りの4人もそれぞれステータスを開いていく。
楽しそうに喋っている5人を、跪いたまま無気力に眺めるレン。
みんなだいたいセイトと同じかそれ以上か、俺なんかとは大違いだな。
「さて、誰からにするのじゃ?」
「あたしからだ!」
カリンが一歩前に出る。
「たぶんあたしが一番貢献してるからな、最初にもらう権利があるだろう、いいだろ?シン」
「ああいいぞ、一番でも二番でももらう数値は変わらんからな」
なるほど、俺に幸せな気持ちを抱かせると、数値が増えるのかもしれないな、しかしこんな短時間でこの数値?ん?何かがおかしい…
ジト目でカリンを見つめていると。
「なんだレン、幸せだっただろう?こんな美人に好意を寄せてもらったのだから、人生で一度きりかもしれんぞ、はははは」
イライラしすぎて考えがまとまらないレン、今にも泣きそうな顔だ、目を瞑り自分に言い聞かせる。
抑えろ、抑えるんだ俺、今抵抗しても絶対に敵わない。
「カリンに奉仕せよ、贈与でお主の貯蓄を、カリンの貯蓄に移すよう念じるのじゃ、そうじゃの、その量なら1人100000じゃな」
「…わかった」
言われた通り、素直に念じる。
体から何かが抜けるような感覚、頭が痛くなってくる、そして抜けるのに比例して、心がどんどん冷めていくような感覚に陥る。
「おお!本当に移ったぞ!」
嬉しそうだ…あの時と違って、物凄く醜く見えるなぁ。
「ほっほっほっ、嘘はつかぬよ、その貯蓄の数値は自由に各能力に割り振れるのじゃ、今は少ししか割り振れぬが、まぁいくらか鍛錬して潜在能力を上げれば、おぬしらならば全部割り振れるくらいの潜在能力はあるじゃろ、100000という貯蓄量はこの世界で貯めるのは相当困難なのじゃよ、そこでこやつをたまたま見つけた、というわけじゃ、今の段階でもこの世界ではそこそこの強者なのじゃ、これでこの世界ではかなり上位の存在になれるはずじゃ、みな才能が桁外れじゃからな、こやつと違っての」
神がチラッと横目でこちらを見ながら、吐き捨てるように言った。
確かに嘘はついてない、俺にだけ何も伝えなかっただけだからな、だが、先程ステータスをひらけるようにすると言ったのを思い出した。
そう、最初は授与すると言っていたのだ。
いろいろと考えたかったが、貯蓄の移動を急かされそんな暇は訪れなかった。
その後全員に同じことをしていく。
頭痛が酷く、なにも考えられない、目の前が暗くなり立っていられなくなる。
…心が氷のように冷たくなっていく。
「はぁ、はぁ」
その場にうずくまるレン、他のみんなは自分の能力を見て喜び合っている。
「な、なぁ、一つだけ教えてくれ、カノンとお前らは知り合いだったのか?」
無理やり声を絞り出し、疑問を口にする。
カノンだけは…
ギロっとこちらを見るカノン。
「カノンさんでしょ?お兄ちゃん、まぁ力をもらったし許してあげるよ、次はないけど」
そうか、カノンもなのか…まぁ分かってはいたが。
「僕もみんなと地元は同じで、高校も同じなんだよ?それで他のみんなとは普通に知り合いだった、知らなかったのはお兄ちゃんだけ、こんなかわいい弟ができて幸せだったでしょ?」
いったい俺が何をした?
だんだん目が虚ろになっていくレン
「学生の時からお前に気を使うのは大変だったぞ」
「ホントだよね〜、なんでこんな底辺に気を使わなくちゃならないのかな〜って思ってたけど、わたし頑張ったよね、ね〜シン♡」
「あぁ、エリカは頑張ってたよ」
「ありがと〜、ちゅ♡」
「だが、やはり一番の功労者はカリン、お前だな、まさかあの手を使うとは」
「うむ、そうだな!やはりあたしの働きが一番だなっ!はははは」
「姉ちゃんすごいよね〜、気持ち悪くなかったの?」
「あぁ大丈夫だ、あたしは虫とかも全然平気で触れるタイプだからな!」
「姉ちゃん、さすがに虫扱いはひどくな〜い?」
「そうか?変わらんだろう?」
「僕も会社で頑張ってましたよぅ」
「そうだな、カノンくんもがんばってたぞ、あたしの次に、だがな!」
「「「「「はははははは」」」」」
みんなが好き勝手喋りだす。
…
「現人神様がな、お前を楽しませろ、調子に乗らせて、幸せになってもらえって言ってたんだよ、意味が分からなかったが、今日合点がいったよ、お前の貯蓄量と技能を見てすぐ分かったぜ、ありがとな俺たちのためにこんなに貯めてくれて♪でもレンはさすがだよ、追放されるってのはあながち間違いじゃなかったなぁ」
「集合のさせかたは〜、ちょっと強引だったけどね〜♪」
だから聞いてないよ〜、とか言っていたのか…
はぁ、つくづく自分が嫌になる、違和感の正体はこれか、高校時代から10年以上、ずっと騙されていたのだな、会社ではカノンが俺に気に入られる演技をしていたと、どうりで誰も仲良くしてくれなかったはずだよ、神の力が介入していたなんてな、たしかにカリンが俺を好きなんてこと考えられないんだ、バイトは頑張ってた、でも異性に対しての対応はかなり厳しいものだったのを覚えている、じゃあなんで俺はまんまと乗せられたんだ?やはり思考誘導か?
「で、これから、どうする…んだ?」
「おっと、まだ仲間気取りか?さすがにそれはないって事は分かるだろう?そうだなぁ、どうしますか現人神様?」
「ふむ、レンよ、おぬしはここで、こやつらとは別れてもらう」
「…分かった」
分かってた、一緒にいられる訳がない、まだこいつらを信用したい気持ちが、無意識に残っていたようだ、もう…諦めよう。
「では中心にある人間族の街に転移するぞぃ」
「ああ、楽しみだ!」
「楽しみだねぇ〜、シン〜♪」
「うむ、ワクワクするな!」
「姉ちゃん、あんまりはしゃぎ過ぎないでよ?」
「僕は開拓者になってみたいです!」
みんな楽しそうだ、世界が崩壊するとかも全部嘘なのだろう、すでに俺がここにいることも気にしてないみたいだな。
…俺達がカノンを転移に巻込んだかもしれない?巻き込まれたのは俺のほうだった…
一緒に幸せになろう?俺だけが頭の中お花畑だった…
思えばカノンも、家にいないはずの俺達の居場所を分かっていたしな、みんなと繋がっていたのは明白だ。
地面に正座し、背中を丸め、下を見て動かなくなるレン、まるで裁きを待つ罪人のようである。
神がそんなレンの頭に手を乗せ、何かをつぶやいた、瞬間俺の中から何かが抜かれたような感覚になり、意識を失いそうになる。
そして、シン達5人は光りも地揺れもなくスッと全員消えていった。
朦朧とする意識の中で、半ば無意識にステータスを確認する。
貯蓄 0
―――――
バンッ!
「俺が!」
バンッ!
「何を!」
バンッ!
「したんだよ!」
叫びながら手が血まみれになるほど思い切り地面を叩く。
胸の奥が焼け付くようにヒリヒリして、涙がとめどなく溢れ、噛んだ唇から血が流れだす。
「俺は!俺はっ!なんて!馬鹿なんだっ!」
頭を抱え、地面にうずくまり、やりきれない気持ちを叫びつづける。
「許さない!絶対に許さない!俺を捨てたこと!怒らせたことを後悔させてやる!全員敵だ!悪魔に魂を売っても構わない!絶対復讐してやる!絶対にだ!」
心の底から抑えていた黒い感情が溢れ出し、悲しみが怒りに塗り替わる。
涙が次第に血に替わり、目の前が真っ赤に染まりだす。
わずかに体が膨張し、ありえないほどの力が漲り始めた。
僅かに空気が振動し始め、森の木々がミシミシと軋みだす。
レン達を捕食しようと集まった魔物達が、危険を察知して我先にと逃げていく。
「うがぁぁぁぁぁっ!」
『ああ、やっと見つけた、可哀想に、私のかわいいレン』
四つん這いになり、獣のような叫び声をあげていると、頭の中に声が聞こえ、そこでレンは意識を失った。




