107話 レイカとサリー
「よう兄ちゃん、いい体してんな!俺のジムで追い筋してかねぇか?」
東国ラングロドル、その聖堂前にて、以前レンをジムに誘ってきた兄さんが話しかけてきた、レイカがゆっくり歩いて景色を楽しみたいと言い、聖堂を出た瞬間にこれである。
「おい、追い筋ってなんだよ、初めて聞いたぞ、この前は俺のことほっそいなぁ、って言ってただろうが」
「え?俺が?言ってないぞ、兄ちゃんは初めて見たし、そんないい体つきのやつをほそいとは言わんぞ」
あ…また忘れてた、偽装の事。
「ん?ああそうだった、初めてだったか、別の人と勘違いしてたよ、この街はいい体の奴が多くてな、あまり顔に目がいかないんだ」
「おお!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!顔よりも体だよなっ!」
「そうだな、顔よりも体ってのには俺も同意するよ」
セイトを見ながら言うレン。
「ぼ、僕はこのままでもいいかなぁ〜、忍者だし?」
「そっちの兄ちゃんはほっそいなぁ、そんなんじゃ雨に当たって骨折れちまうぞ?」
「どんな雨なんだよそれ!怖いよ!」
「兄さん、俺はレン、こいつはセイト、あとカリンにレイカだ、俺はトレーニング推奨派の人間だからな、暇があったら追い筋?しにくるよ、そんときはよろしく」
「そうか!俺の名前はオリバー、そこにあるオリバージムのオーナーだ、そこの、え〜っと、カリンだったか?嬢ちゃんも素質ありそうだ、是非来てくれよな!」
「う、うむ、分かった、暇があって気が向いたら是非とも寄らせてもらおう」
「おう!待ってるぜ!」
オリバーって…ボディビルダーみたいな名前してんなこいつ。
「じゃあ用事があるからまたな、オリバー」
「おうレン、いつでも来いよ!」
やっぱりこの世界、いい人が結構多いよな、絶対に守らなきゃ、まさか本当に世界の崩壊を止める事になるとは思わなかったよ、まだ止められるか分からんが。
オリバーと別れたあと、何度か声をかけられ(ジム)、大声でプロテインを売っている筋肉共を眺めつつ、組合に向かって歩いていく。
「ふふっ、明るくて楽しい街だねっ♪」
「そうだな、サリーがあんな性格だから、似たもの同士が集まるんだろうよ」
「久しぶりだなぁ、サリー元気にしてるかなぁ」
「そういえば一回会ったことあるんだったな」
「その時はまだ洗脳されてたけどね、でもはっきり覚えてるよ、悪い事しちゃったから謝らなくちゃ」
「何かしたのか?」
「いやぁ、冷たい対応しちゃってたからね」
「ああそういう…」
「剣、出来てるかなぁ」
「出来てる訳ないだろ、まだ鍛冶場も出来てないし、武器の種類は言ったが詳細も話してない、素材も今から渡すんだぞ」
「あ、そっか〜」
「素材は何を渡すんだ?」
「この前も言った、デビル・コールドリザードの頭とアイスゴーレムを核ごと、あと魔鉱石だな」
魔力2万まではただの魔鉱石が出来る事が分かった、レイカから魔水をもらって飲んで、魔鉱石作りをしながら移動している。
「そうか、凄い武器が出来そうだな」
「カリンはどうするんだ?やっぱり刀か?」
「そうだな、レイカの黒竜でこの刀も刃がボロボロだしな、あとガントレットも新調したい、金は持ってるし頼んでみるか」
「ごめんねうちの黒竜が」
「いいさ、武器は消耗品だからな」
「僕は小刀と糸が欲しい!」
「糸、ね…」
強者が使うイメージだよな、黒霧でも作れそうだけど、実際に武器としてあったほうが補強もできるし、なによりロマン武器だしな、まぁ忍者…に合ってるかどうかは分からんが。
「糸を使うなら技術の潜在能力を上げておいたほうが良さそうだな」
「そうだね〜、またよろしくねレンちゃん」
「あたしは筋力と技術が優先かな、レン、また世話になる」
「おう、任せとけ、どんどん強くなってもらうぞ、レイカは決まったのか?」
「う〜ん、スタッフ…だとただの杖だし、メイスとか?」
「お前…なんかホラーな感じになりそうだな」
「この服を真っ赤に染めて敵を追いかけるの、楽しそうじゃない?」
どこが!?本当にファンタジー物の小説読んでないんだよね?なんか怪しいな〜
「あと、カリンと色違いでお揃いのガントレットが欲しい!」
「なんで打撃系ばっかりなんだよ、お前は片手剣技レベル7持ってただろうが」
「だって〜、気持ちよさそうなんだもん」
「分かったよ、お前にも筋力、俊敏あたりを中心に貸与するから、2人と一緒にお得意のダンジョンで鍛えておけ」
「うん!ありがと〜♪」
―――
しばらく歩き、組合に到着した4人、目の前には…試練の門がある。
「さて、お前達にあの扉を開ける事が出来るかな?」
「え?この前は正面から入ったじゃん、あの扉は少し気になってはいたけど、変な所に扉あるな〜って」
「セイト、あれを開けられて初めて男の中の男だ」
「そうなの?僕だって成長してるんだ!やってやるー!」
まずは軽く押してみるセイト…しかし次第に顔が赤くなり始める。
「ぬぬぬぬぬうぅっ!!」
ギ…ギギ……
「ほらっ、頑張れセイト!あと少しだ!」
「ふんぬらぁっ!!全然あと少しじゃないよー!ほんの少ししか動かないじゃないかぁ!」
「あたしも無理そうだな」
「私はどうだろう、いけるかな?」
ドサッ
あ、セイトが落ちたな。
お尻を突き出した状態で地面にうつ伏せに倒れる残念忍者であった。
「回復、セイトお疲れ」
「う、う〜、無理だよこれ〜」
「じゃあ私ね〜、よいしょ〜!!」
次にレイカが挑戦する。
ギ…ギ…ギ、ギギ…
「おお!流石は高レベル、筋力1万をどれだけ越えているかが鍵っぽいな」
あれ?確かレイカはレベルの割には基礎能力低め、称号込みの1万越えだったはずだ…南国を出ても称号の補正は継続するんじゃないか、レイめ、適当な事言いやがって。
「おりゃ〜!!」
ギ〜…
「開いたー!!」
「おめでとうレイカちゃん!」
「すごいぞ、同じ女として負けてられんなこれは」
こらこら、女として張り合う場面じゃないだろ。
『おい!あれ見ろ!なんか可愛い女の子が門を開いたぞ!』
『うわ!ホントだ凄い!』
『俺の男としての矜持が…』
ざわざわ…
次第に組合内がさわがしくなり。
ダッダッダッ!
「おい!なんの騒ぎ…だ?はぁ〜」
サリーが勢いよく2階から降りてきて怒鳴りかけるが、レン達の姿を見て呆れる、そして…
「おいレン!」
結局怒鳴った。
「またお前か、何度開けたら気が済むんだよ、1回開ければいいだろうが」
「ようサリー、手紙ありがとな、おかげでこいつに会うことができたぞ、あと、今開けたのこいつな」
レイカの肩に手を置きながら紹介する。
「また変なのを連れてきやがったのかよ、今度はなんなん…だ?ん?んんっ!?ちょ、おま、レン!ちょっとこっち来い!」
「ん?なんだ?」
言われた通りサリーの前へ行く。
ガバッと首に手を回され、無理矢理に後ろを向かされた…
「うおっ!なんだよ急に!」
『おい!なんで氷王がここにいる!』
『いや、一緒に来たいっていうから…』
『だからって王様を連れてくるやつがいるかよ!』
『いいじゃないか、別に悪い事じゃないだろ』
『う〜ん、まぁそうなんだが…氷王は、その、大丈夫なのか?』
『ああ大丈夫だ、洗脳も自力で解いていた、今は同志だよ』
『いや、そう言う意味では…いや、それもなんだが、ああ!もういい!分かった、詳しい話は私の部屋でだ!』
レンを解放し、再び向き直る2人。
流石の筋力だった、いきなりだったから抵抗できなかったぞ…
「んんっ、とりあえずこんな所で立ち話もなんだからな、私の執務室へ来い!」
「おう、じゃあみんな行こうか」
「「「了解」」」
―――
「それで?何があった?」
「いや?別に何もないが?」
「はぁ?おま、なんだよ〜、王様連れてくるから南国に何かあったと思うだろ〜」
「すまんな驚かせて、武器の素材をラルファに渡すのと、あと、とある物をサリーにプレゼントしたくてな」
「な、なんだよ急に、気持ち悪いな」
「おい、フローラみたいなことを言うんじゃねぇ、なんでみんな俺の善意を素直に受け取らないんだよ」
「誰だよフローラって、それにお前が渡すものだ、まともじゃないに決まってるんだ、自覚ないのか?」
「フローラは、まぁサリーみたいなやつだな、少しサリーの方がマシだが、あと自覚は…ある、あえて楽しんでいる」
「おい、私みたいで私のほうがマシって、基準はどっちなんだよ、はぁ…まぁいい、それで?」
「ああ、これだ」
「なんだこれは?う〜ん、分からんな」
「流石にこの世界には腕時計はないからな、これは時計だ」
「腕、だと?この小さなベルトは…腕に巻くのか!?」
「そんなに驚く事か?」
「発想に驚くだろ!懐から時計を出すのが面倒だったが、これならおしゃれだし、いいな、こんないいものをもらってしまっていいのか?」
「ああいいぞ、そのために来たんだから、因みに作ったのはレイカな」
「誰だよそれ、また知らない名前が出てきたな」
「ここにいるじゃないか、レイカ、よろしく」
「うん♪久しぶりだねサーレック王、私は氷王レイス、は知ってるよね、本名はレイカなんだよ、前に私の所へ来てもらったときは、冷たくしちゃってごめんなさい」
「…」
言葉を失うサリー。
「お前、そんなに明るいやつだったのか、元気になって良かったよ、私の事はサリーと呼んでくれ…レ、レイカ…」
「ぶふっ、なんでちょっと恥ずかしそうなんだよ、人見知りかよ」
「レン!笑うな!久しぶりだからどうしたらいいか分からないんだよ!」
「よろしくねサリー、いきなりだけどこの建物に余ってる部屋はない?」
「あるぞ、4階にまだ2部屋余りがある、今は武器屋の親子が2部屋使っている」
「じゃあ1部屋ちょうだい♪」
「は?なんだか…凄いなお前、レン臭が漂うぞ」
「やめろ、レン臭ってなんだよ」
「常識大外れ野郎って意味だ」
「くそっ、なんか最近いじりキャラからいじられキャラになってきたぞ」
「だんだん素になってきたって事じゃない?昔のレンちゃんもそうだったし」
「それが本来のレンなんだろ、いい事だと思うぞ」
「セイト、カリン…お前ら、俺をいじって楽しんでいたのか?」
「い、いやいや!そんな事はない、であります!」
「いや、正直に言おう!あたしは楽しんでいた!」
「カリンお前…なんも言えねぇよ!正直過ぎる!」
「まぁまぁいいじゃない、私も常識大外れって事なんだし、仲間だね♪」
「ははははっ、仲良さそうで何よりだ、それで?1部屋もらってどうするんだ?住むのか?南国はどうするんだ?」
「いや、そこに扉を作って、私のお城と繋ぐんだよ〜、北国のお城にも部屋もらってきたから、これで3国同盟も同然だねっ♪仲良くしよ〜」
確かに!凄いなレイカは、本当に引きこもりだったのか?同盟を結んだにも等しいぞこれは、なんなら西以外は一つの国になったと言っても過言じゃない、流石にそこまでは考えてなかったよ、確かにみんな王様ばかりだった…うん、やりたい放題だな!
「へぇ!それは凄い、私も息抜きに、軽く南国や北国に行けるのか、でかしたぞレイカ、金はいらん、自由に使ってくれ」
「ありがと〜」
「私こそだ!」
「よし、そっちの話は終わったな、ラルファとララはいるか?2人にも時計を渡したいんだよ」
「おういるぞ、皆で4階に行こう!珍しくレンがまともなプレゼントかと思ったら、レイカが爆弾落としてくるとはな、ははは♪」
ふふ、まだ通話の事は知らないからそんな事が言えるんだよ、ラルファとララも一緒に驚かせてやるか…まぁその時計もレイカの仕業だけどな、うんうん、俺はまともだ♪
密かにララのツッコミが大好物なレン、ララ本人はそんなふうに思ってはいないが…今回もキレのあるツッコミが炸裂するのを願いつつ、皆で4階へ向かっていく。




