99話 レイカのお出掛け
準備を済ませてレイカが戻って来た。
「おお、これは…」
「レイカちゃん可愛い!」
「これは驚いた、こんなに印象が変わるものなのか」
「恥ずかしいでござる〜」
白のミディ丈のワンピース、裾の部分にうすい水色のグラデーションが入っている、白に綺麗な黒髪が映えていて、なんとも清楚な雰囲気を醸し出している、眼鏡も外していて、まるで別人だった。
思ったよりスタイルいいな、胸もけっこう、またカリンが横にいると余計に…カリン、頑張れ。
レンの視線に気付いたカリンが、レンを一瞬だけキッと睨み、その後普通にレイカへ質問をする。
「お嬢様だな、視力は大丈夫なのか?」
「あのメガネは、物の魔力を見るための道具、みたいなものなのでござるよ」
「そうなのか、それにしても…その喋りはどうにもならないのか?」
「カリン殿…拙者もやめたいのでござるが、どうにも気恥ずかしくて…」
「分かった、まぁ別に困る訳じゃないからな、もう少し仲良くなってからだな、時の経過に期待しよう」
「すまぬ、今しばらく待っていて欲しい」
「まぁ焦るなよ、まずは外に出る事だ、1つ1つやっていこう、無理だと思ったらいつでも言え、遠慮はするなよ?心が壊れてからじゃ遅いからな」
「う、うん…ありがとで、ござる…」
俺が話しかけた瞬間これか、乙女かよ…
「「…」」
レイカは俯いて恥ずかしそうにしている、レンはカリンと目が合い、2人とも苦笑い。
「じゃあ行こうか」
「行こ〜!しゅっぱ〜つ!」
「あ、その前に…」
チリ〜ン
誰かを呼び出すのか?
しばらくして…
『氷王様、お呼びで』
扉の奥からザルドの声が聞こえてきた。
「ああ…ザルド!」
『はっ』
「拙者は、今からレン殿達と外に行く!」
『はっ、は?…い、今なんと!?』
「もう引きこもりはやめだ!外に出て民の顔を見に行くでござる!」
『ひょ、氷王、様…う、うぅ…やっとですか…』
泣いてるのか?
『レン様、そちらにいらっしゃいますか?』
「ああいるぞ、入ってきたらどうだ?」
『氷王様、よろしいですか?』
「うむ、許可するでござる」
ガラガラガラ…
「氷王…様?そのお姿は!?」
「ザルド、新生氷王の姿だ、良く見ておけ」
「レン様、貴方はとんでもないお方ですね、今まで20年、誰一人として氷王様を表に連れ出した人はいなかったと言うのに…」
「ふふっ、まぁ俺だからな」
「さすがでございます、どうか氷王様をよろしくお願いします」
「分かった、ザルド、お前も少しは変われよ?俺に手を出さなかったとはいえ、最初のは駄目だ、人は見た目だけじゃ、性格も実力も分からないから、もし俺が悪い奴だったら、お前は今頃生きていないと自覚しろ」
「はっ、ご忠告ありがたく!神明を賭して精進していきたいと存じます!」
「いや、そんな生き死にまで賭けなくてもいいから、ゆっくりな」
「はっ、では私はこれで…」
タッタッタッ…
相変わらずいい姿勢だ、それにしても硬い性格だな〜、デイルみたいだ。
「さて行くか」
「拙者が先に行くでござる」
「任せるよ」
ガラガラガラ…
「「「…」」」
扉を開けると、ヴァルフの後ろ姿が見えた。
また転移門もどきか…後でもっと話そう、転移を覚えるいい機会かもしれない。
「ヴァルフ、お仕事ご苦労でござる」
「ん?…え!?レ、レイス様!?あとレン様も…えぇなんで!?自分、何か粗相を!?やっぱり最初のアレが…死刑?死刑ですか!?あぁ…終わった、俺、終わった…ごめんよ母ちゃん…」
四つん這いになり、絶望に染まるヴァルフ、それを見たレンは少しだけからかいたくなった。
「ヴァルフ、いきなりで悪いな、じゃあ死んでもらおうか」
「どうかひと思いに〜!痛いのは嫌ですぅ…」
「…ぶっ、ふふふ」
「「「「ははははっ」」」」
「へっ?」
何処かで見た光景だな、カインド村でマリーとフキノにドッキリを仕掛けた時と同じ顔してるよ。
「嘘だよ、立てヴァルフ、殺すわけ無いだろ、少し氷王を借りてくぞ、王のいない間留守をしっかりな」
「え、えぇ…もう何がなんだか…」
「じゃあ行って来るでござる」
「は、はい!行ってらっしゃいませ!どうか、お気をつけて!」
―――
「レンさん、またお出掛けかい?」
「グレイスお疲れさん、ああ、ちょっと出掛けてくるよ」
「お?メンバーが増えてるな?またべっぴんさんじゃないか、羨ましいぜ〜」
「拙者はレイカと申す、門番のお仕事ご苦労様でござる」
「レイカさんね、分かった、気を付けてな、いい旅を!」
「じゃあ待たね〜!」
「行って来る」
10mほど進んだ所で、レンがニヤッと笑う。
「おいレン、本当にやるのか?」
「当たり前だ、生き甲斐みたいなもんだからな」
「まったく、とんだ生き甲斐だな」
「ははっ、この世界に来て俺が一番変わったかもな、まぁこれが本来の俺なんだが」
ぐるっと振り返り、グレイスのほうを見るレン。
「グレイス!」
「ん〜?なんだ〜っ?」
「こいつ、レイカなんだがな!氷王様だから!次来た時は言葉遣いに気を付けろよ!」
「あぁ、分かっ…はぁ!?えぇ!?」
そのまま向き直り、スタスタと歩いて行ってしまうレン達。
「お、おい!まっ、待ってくれ〜!」
ニヤニヤが止まらない4人、なんだかんだ言ってもカリンも楽しそうにしていた。
「ふふっ、ろくでもないが、確かに楽しいな、娯楽の少ない世界だから余計に」
「そうだろ?それに悪い事じゃ無いんだ、楽しく生きなきゃ損ってもんだ」
「拙者も、なんか楽しくなってきたでござる」
「レイカちゃんもノって来たね〜」
最後はあいつらだな、クフフ…
―――
「おぉ?氷王様じゃねぇですかい、珍しいなこんな所まで」
「うん…珍しい、どう、したの…?」
えぇ、どういう事?
「ぬふふ、今度はレン殿達が驚かされましたな?」
「やられたよ、どういう事なんだ?」
「シロは22年前に、拙者が亜人の村から助け出した、白虎の獣人なのでござる」
「「「えぇー!?」」」
本当にこっちが驚かされたよ!これは悔しいな、でも今はそれどころじゃない!獣人だよ獣人!なるほどなぁ、この前の頭撫でた時の違和感はそれかぁ。
「レイカ、お姉さん…それ、は言わない、約束…じゃ?」
今にも泣きそうなシロ。
「大丈夫でござるよ、この人達は拙者と同じ渡り人でござるからな」
「え…」
「なんだって!?」
今度はシロとタイラーが驚いていた。
「拙者の一人勝ちでござる!」
「レイカ、お前もなかなかやるな」
「ぬふふでござる〜♪」
くそっ、可愛いなこいつ…いやそれよりも今は虎さんだぜ!
「シロ!」
「レン…黙ってて、ごめ、んなさい…」
「いいよ!そんな事より!耳!見せて!」
「え…でも、気持ち、悪くない?」
「そんな訳あるか!頼む見せてくれ、そして触らせて欲しい!」
ゴキッ
「うっ…」
カリンにげんこつを食らった。
「馬鹿者、はしゃぎ過ぎだ、シロが怖がってるだろ」
「えぇ〜、だって獣人様だよ?そりゃはしゃぐだろ、なぁセイト!」
「え?いや別に僕はそうでもないかな〜?」
「なんで!?」
くそ、そういう系統のゲームはやってなかったって事か…こうなったら今知ってもらうしかないな…
「ふ〜ん、そうかそうか、じゃあお前らは見るだけな」
「ふん、構わん、さっさとしろ」
「そうだよ〜、シロちゃんを困らせちゃ駄目だからね」
ふん、そう言ってられるのも今のうちだけだぜ、このアホどもが。
「シロ、お願いだ、変なことはしないから、俺達の世界には獣人がいなかったんだ、一度お会いしたかったんです!」
「う、うん…レン、だったらいい、よ」
「ありがとう!」
シロは少し恥ずかしそうに、ゆっくりとフードを下ろす。
「お、おぉ…ケモ耳、ケモ耳様のお出ましだ…」
サワサワサワサワ…
モフモフモフモフ…
レイカも一緒にモフり出す。
「ふふ、くすぐったいよ、レン、レイカ」
「よいではないか、よいではないか〜」
「ふぅ、シロありがとう、満足したよ、しかしシロは何歳なんだ?」
ナデナデナデナデ…
「私は、まだ…子供、25歳…」
「25…俺達と変わらないじゃないか」
サワサワサワサワ…
「レン殿、この世界の獣人はとても長命なのでござるよ」
「なるほどね、だからこんなに小さいのか」
モフモフモフモフ…
「レン殿、あまり触り過ぎるとシロの頭がハゲるでござる、満足したならやめるでござるよ」
「いや、お前もモフモフ止まってないぞ」
モフモフモフモフ…
「この誘惑には勝てないでござるな…」
「禿同…」
サワサワモフモフ…
「ねぇ!レンちゃんとレイカちゃんだけずるい!」
「そ、そうだぞ!あたし達も…」
「あれぇ?セイト、お前は別にそんなでも無かったのでは?カリンもさっさとしろとかなんとか言ってなかったか?」
結局頭を下げた2人、その後はモフりタイムに突入した、シロは頬を赤らめ、目を細めて終始嬉しそうにしていた。
―――
「いやぁ、すまなかったなシロ」
「あたしもだ、こんなに獣人が可愛らしいとは思わなかった」
「心が疲れた時は触りに来るよ〜」
皆もすっかりモフリストだな。
「ありがとう、人間、にはいつも、気持ち、悪い言われる、でも、みんなは、違う」
「当たり前だ、俺達は味方だからな、嫌なことがあったら直ぐに言うんだぞ、そんな奴はとっちめてやるから!」
「分かった…」
「レン、ありがとうな、これでシロも少しは自身が付いただろう、この街にはシロを馬鹿にする奴なんかいないと言ってるのに、まだ人間が怖いみたいでな」
「タイラー、お前は本当にいいやつだな、見た目と違って…」
「おい、一言余計だ」
「じゃあそろそろ送ってくれるか?」
「あいよ!シロ、仕事だ!」
「うん!」
亜人の村で何があったのかは分からない、後でシロとレイカから話を聞いてみよう、亜人達の村にも行ってみたいしな。
運んでくれたシロにお礼を言って聖堂へ入っていき、今日の目的である深層第2区の転移門を潜っていく4人、本格的に紫水姉弟のレベル上げが始まる、そして、元勇者であるレイカの実力はいかに。