【第2話】
「ふわぁ、」
可愛らしいあくびをしながら、体を伸ばす。窓から差し込む陽の光が、彼女から眠気を引き離していく。少し寝ぐせの付いた髪に光が当たる。白に近いブロンドの髪色は、彼女の明るい性格を表しているようで、光に当たると白く輝いて見える。
―いい匂いがする。
お母さんが朝食を作っているのだろう。
―パンの匂いと、野菜と、あとは何だろう。
そんなふうに考えていると、だんだんお腹が空いてくる。朝食の匂いが、何としてもベッドから引きずり出そうと、彼女の嗅神経に訴えかけているようだ。
お母さんの作る料理は、優しい味がする。多分、それを幸せの味って言うんだと思う。だからなのかな。いつもお母さんの料理を食べている時に、幸せな気持ちでいっぱいになるのは。それこそ、お父さんがいないことが、気にならなくなるくらいに...
お母さんはパン屋さんをしている。私のおばあちゃんが創めたお店らしい。生まれた時からいつも、パンの匂いに囲まれていた。でも、物心ついた時にはおばあちゃんもおじいちゃんも、お父さんさえいなかった。それを不思議に思ったことはあったけど、お母さんに聞いても少し悲しそうな顔をして、『みんな遠くへ行っちゃったのよ、』って言うだけで。
でも私にはお母さんがいる。お母さんが作った、優しい味のパンもある。近所の人もよく美味しいって言ってる。変わらない味に、変わらない匂い。私にとって、それが世界の全てで、どんな物よりお母さんを近くに感じさせてくれる。
近所の子にお父さんがいないことを、馬鹿にされることもあるけど、私は大丈夫。だって、私には大好きな母さんがいるから。