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切妻屋根の館  作者: 真山砂糖
5/14

5 聞き取り

聞き取り開始ですか。

 応接室では、森脇社長らが無言のままソファーに座っていた。

「あの、刑事さん、何かわかりましたか?」

「いえ、まだ特に何も」

 係長は森脇さんに返答しながら、森脇さんの正面のソファーに座った。

「聡くんのことについて、お訊きします。聡くん、最近変わったことはありませんでしたか」

「いえ、普段どおりだったと思います」

「人をからかったり、驚かせたりとかするようなお子さんですか?」

「いえ、全くそのような子ではありません。どちらかというと、内に引き籠もるような子です」

「聡くんはパソコンを使ってるそうですが、主にどのようなことをしてましたか?」

「パソコンで日記を付けてるとか。……その程度しかわかりません」

「そうですか」

 係長は目の前にある聡くんの写真や田中さんのプロフィールを見ながら言った。

「部屋で休ませてもらいます。何だか、座ってるだけでも疲れてきて……すみませんね、刑事さん」

 森脇さんは杉田さんに支えられながら別室へ行った。私と京子も係長の隣に座った。係長は真剣な表情でテーブルの上の一点を見つめていた。

「おう、田中巴さん、美人だよなぁ」

 京子がすぐに細目で係長を横睨みした。

「係長ー、真剣に捜査して下さいよー」

「でも夏子ちゃんのほうが美人だけどな」

「京子、セクハラ相談窓口の番号教えてくれない?」

 私は咄嗟に京子に質問していた。

「おう、香崎、お前もか……」

 係長は信頼していた人に裏切られたような表情で悲しんだ。夏子がクスっと笑ったが、その場にいた山根さんや他の社員たちは微塵も笑うことはなかった。少し浮いてしまった係長は大きく咳払いした。


「外に出たとは言い切れないしな、こりゃ、緊急配備は発令できないな」

「ですねー」

 私たちはどのように捜査を進めればいいのかわからなかった。しかし夏子はなぜか、ワクワクしているようだった。

「お姉ちゃん、こういう時って、関係者から話を聞き取って、事件を組み立てていくんでしょ」

「あ、まあ、そうなんだけど」

「そうだよ、さすが、夏子ちゃん」

「ですよね、村田さん。じゃあ、一緒にやりましょうか」

「おう、そうだな、一緒に――」

「はーい、ダメでーす」

 京子が係長と夏子の間に割って入った。

「係長ー、ドサクサに紛れてナンパしてはいけませーん」

 そう言われて係長はしょんぼりした。

「じゃあ、お姉ちゃん、聞き込みしよ」

「そうね」

 私と夏子はコンビを組んで聞き取りを始めることにした。


 まずは目の前に座る社長室長の山根さんからだ。

「山根さん、森脇社長が他人から恨みを買ったとか、森脇コーポレーションが、誰かとトラブルになったこととか、そういったことに心当たりはないでしょうか」

「……いえ、ないと思います。社長は徳が高いというか、人格者でして、目下の方相手でも低姿勢で接する方です。とても誰かから恨まれるとは思えません。会社の経営のほうも、下請けに相場以上の額で取引しておりますので、会社が恨まれるようなことも考えられません」

「そうですか。わかります。森脇さん、誠実そうな方で、会社の社長さんが務まるのかなと思ってしまいました。あ、いえ、決して悪口ではなくて、頼まれごととか断れないようなやさしさがあるっていうのか……」

「ええ、だからみんなから慕われてます。取引業者もぜひうちと仕事がしたいと言ってくれて、当社は業界内での評判は一番だと思っています」

「あ、ところで、森脇コーポレーションは、何の会社でしょうか?」

「うちは、不動産業が主な事業です。他には住宅建築や、飲食店まで幅広く手掛けています」

 夏子は山根さんの話したことを逐一メモしていた。

「なるほど、すごいですね。山根さんは聡くんとは面識がおありということですね」

「はい、一応、何度か顔を合わせたことがある程度です。あまり話をしたことはありません」

「では、お手伝いの木下さんとも?」

「はい、木下さんのことは存じ上げておりましたが、ほとんど話をしたことはありませんでした。こちらの社長宅にはめったに来ませんので」

「なるほど。そのわりには、番犬の扱いに長けてらっしゃいますね」

「ああ、それは、社長がたまに犬を会社に連れてくるので、その時に私がしつけをしているからです」

「なるほど。田中巴さんについては、何か気になったことはありませんか?」

「……別に……ないと思います」

「どんな小さなことでも構いませんので」

「……何だか、違和感があったというか……いや、気のせいでしょうか……」

 山根さんは何かを思い出そうとしているのか、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。

「……気のせいだと思います」

「そうですか」

 しばらく雑談を交えて話した後、山根さんは少し頭を下げてソファーから立ち上がり、テーブル上のピッチャーのお茶を飲んだ。


夏子が聞き取りのお手伝いですね。

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