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切妻屋根の館  作者: 真山砂糖
14/14

14 天井裏の遊歩者

秘密の部屋が見つかりましたね。

 係長はクローゼットの向こう側の空間に入っていった。私はその後に続いた。京子は怖がりだから来なかった。その代わりに、夏子がついて来た。三畳くらいのスペースがあり、すぐ左側に上に続く階段があった。係長が先頭で上がっていった。

 天井裏は、少しかがまなければならないほどの高さだった。柱がたくさん見えていて、ずっと奥まで広がっている空間だった。柱の後ろに人影が見えた。

「あーあ、巴お姉ちゃん、見つかっちゃった」

 男の子が柱の陰から顔をのぞかせて隣の女性に言った。

「聡くん?」

 私が呼びかけると男の子はうんと頭を下げた。

「田中巴さんですね。こちらへどうぞ」

 係長が言うと、スーツ姿の女性は無言のまま聡くんと一緒に私たちの方へ来た。それから寝室へと戻った。


「ふう、そういや京都で芸子遊びした時、こんな感じの古い階段があったな」

 係長がスーツの埃を手で払いながら言った。

「係長ー、空気読んで下さーい」

 私はKYな係長と京子のことがすごく恥ずかしかった。

「聡……」

「お姉ちゃんと一緒に、お父さんのことをちょっとだけからかってやろうとしたんだけど、悪いことをしてごめんなさい」

 聡くんは森脇さんに埃を払われながら謝った。

 田中巴さんは顔向けできなかったのか、みんなに背を向けていた。

「……巴なんだな……」

「……」

 田中さんは無言だったが、森脇さんに呼ばれて無反応ではないことが背中から伝わってきた。

 しばらく、数十秒だったか、数分だったか、みんな無言のままだった。


 私は森脇さんか田中さんかどちらかが話すのを待っていたが、二人とも黙っているしかないような雰囲気だった。私は、田中さんの横まで行った。

「田中巴さん、あなたには窃盗と未成年者略取の嫌疑がかかっています」

 私は刑事の職務を遂行しようとした。田中さんは横目で私のことを少し見てから、視線を落とした。

「あの、刑事さん……。これは、窃盗でも、誘拐でもありません」

 森脇さんが感極まった声を上げた。

「いえ、そういうわけには……」

「残念ですけどー」

 京子も辛そうな表情だった。夏子は重い空気に耐えられそうにない感じだった。私は自分の職責を放棄してすぐにでもこの家から去りたかった。またその場が静まり返った。


「おう、香崎、帰るぞ」

 係長がいつになくシブい表情で私に向かって言った。

「え、係長、しかし」

「おう、帰るぞ」

「係長ー、いいんですかー」

「香崎、お前が俺と磯田を呼んだだけだ。誰も110番通報してないだろ」

「でも、職務怠慢行為に……」

「おう、家族が家の中で書類を別の所に置いて、かくれんぼしてただけだ。窃盗でも誘拐でも何でもない。だから、帰るぞ」

 係長は森脇さんに少し頭を下げてから寝室から出ていった。森脇さんは何か言いたそうだったが、とてもそういう精神状態ではなかったようで、頭を下げるので精一杯だった。私たちも一礼してから係長の後に続いた。


 山根さんが番犬たちを静まらせて門までついてきてくれた。山根さんは深々とお辞儀をして私たちの乗った車を見送った。


「おう、香崎、夏子ちゃんも、どうする? 家まで送ればいいかな?」

「係長ー、今日だけはー、カッコ良かったって言ってあげますよー」

「おう、何だよ磯田、いつも言いたいくせによ」

 助手席の京子は窓の外を見ながら口を尖らせていた。

「夏子ちゃん、大活躍だったなあ」

「いえ、全然です。村田さん、最後カッコ良かったです」

「え、本当? そう言われたら、今度ディナーでもご馳走してあげないとな」

 係長はどさくさに紛れてナンパまがいのことをした。

「あれ、食事のお誘いですか。京子さん、こういう場合は、セクハラ相談窓口に通報でいいんでしたっけ?」

 夏子はノリノリで京子に尋ねた。

「え、夏子ちゃんまで……」

 係長はしょんぼりしながら車を走らせるアッシーくんみたいになった。反対に、私と夏子と京子は大笑いしていた。



 あの後、寝室でどのような会話があったのかはわからない。田中巴さんと聡くんの取った行動の動機も不明なままだった。

 数週間後、夏子は悩んだ末に、学内の友だちから連絡先を教えてもらい、田中さんにメールを送った。自分があの場にいたことを伝えたので、返信が来ないかもしれないと夏子は思っているようだった。でもすぐに返信が来た。

 田中さんは次学期から復学することになった。バイトを減らして、友だちと会う時間を増やしたり、弟自慢したりしているそうだ。夏子は、田中さんのSNSにアップされた、あの切妻屋根の家の庭で田中さんと聡くんと犬たちが一緒に写っている写真を私に見せた。そこに写る田中さんは満面の笑みだった。

 今回の事件は警察の記録には残らない事件だった。しかし、忘れることができない奇妙な事件だった。


めでたし、めでたし。


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