意志疎通の難しさ……という名の、ほとんどコメディーなお話
たまにはこんなのもよいかと思いまして。
小さな笑いを届けることができたなら、幸いです。
方言。
明治になってから、当時の政府はそれぞれの語る方言にみんな四苦八苦して、政府内でひとつ試してみたことがあるそうですね。
曰く、
「これが、現政府内における各地方出身者とその地方の方言をまとめたリストである。
これらの方言の中で、一番覚えやすかったものをこの国の標準語とする。
期限は一週間。しっかりと取り組むように」
そんな感じの方針が打ち出されたそうです。
私がこれを聞いたのは、いつのことでしたか……。
歴史の授業の時に、担任の先生が語った小話だったかもしれません。
まあ、結局は、一番覚えやすかった東京弁が標準語になるわけですが、昔の関西の人は外国の人に日本語を語る際に、「関西弁が標準語だ」と冗談半分に教えるなんてこともあるそうですね。
さて、本題。
そんな方言にまつわるエピソードを、ちょいと語っていこうかと思います。
※お一つ。
今から十年ほど前のお話しです。
昔気質の腕のいい職人さんは、個人で弟子を取って育てる方式を採用している場合もあり、なったばかりの弟子の仕事といったら、師匠親方の仕事の補助や雑用がメインです。
今どきからすると、
・仕事は見て覚えろ。
・技術は目で見て盗め。
・師匠より先に休憩するな。
などなど、なかなか(自主規制)なことがまかり通っていたようですけど……。
そんな、昔気質の師匠が、若くて元気で素直でやる気のある弟子を持ちました。
お仕事で、弟子を連れて現場に出たときのことです。
よその会社の人や師匠仲間の人たちとお仕事している最中、工具の入った工具袋を別の場所に置いてきたことに気づきます。
訛りのある師匠が、弟子にお願いします。
「おい、○○(人名)! △△(工具)持ってこい! フクロモズラ(方言)持ってこい!」
若くて素直な弟子は、すぐさま師匠の大事な工具袋を持ってきて元気に告げます。
「はい師匠! △△(工具)と工具袋持ってきました! 袋はわかったんですけど、モズラってなんですか!?」
その場にいた人たち、大爆笑。
困惑する若い弟子に、その場にいた人の一人が問いかけます。
「なあ、弟子くん、フクロモズラって、なんのことか分からないのかい?」
弟子、素直に教えを乞います。
「はい、分かりません。なんですか?」
「あのな、フクロ と モズラ に分けられるんだよ」
「ふむふむ」
弟子、真剣な表情。周囲はニヤニヤです。
「フクロ は袋よ。それ(工具袋)のこと。でな、モズラ ったらな、一緒にとか、まるごととかって意味でな、それで、フクロモズラ ったら、どんな意味になる?」
「フクロも一緒に……。工具を袋ごと持ってこいって意味ですか?」
弟子、合点がいったようで、明るい表情です。
で、周囲、また爆笑。
二度目の爆笑は、無知を笑う嫌らしいものではありません。
こういう業界ですと、若いものがイジられ笑いの種になることはよくあることです。
元気で素直で一生懸命な弟子の、飾らない姿が、図らずも笑いのスイッチを入れてしまった事例のようですね。
※お次
東北出身の女性(仮称 : Aさん)が、関東の方へ出稼ぎに行った時のことのようです。
正式な職場は忘れてしまいましたが、スーパーマーケットかなんかだったと思います。
そのAさん、三十代で年長ではありますが、そこの職場では新入社員の一年生です。
夕方までお仕事して、バックヤードに行った時、夜の時間に勤務する若い二十代女性(仮称 : Bさん)が出勤してきます。
Aさん、おっとりと、丁寧に腰を折って夜のあいさつをします。
「おばんでがんす~」
Bさん、速攻でキレます。
「失礼ね! 私はオバンじゃないわよ!」
その話を聞いた私、大爆笑です。
Aさんは、Bさんをディスったわけではありません。
ただ、Aさんの地元の方言で「こんばんは」と言っただけなのです。
「おばんでがんす」の「おばん」は、オバハンを略したオバンではなく、「お晩」なのです。
「こんばんは」を漢字で書くと、「今晩は」となるようなものですね。
郷に入っては郷に従え、とはいいますが、長年使ってきて身に染み着いてる言葉は、とっさに使い分けることは難しいようですね。
……誤解が解けたかどうかは不明です。
余談ですが、ちょっと思い出したことを。
日本では、首を縦に振ると 肯定 、横に振ると 否定 というジェスチャーになりますよね。
外国のどこか一部の地域では、それが逆転するそうです。
海外旅行に行った際、病気か怪我かなんかで病院に担ぎ込まれた日本人がいたそうです。
苦しいんだか痛いんだか、海外での入院となって、とても不安になったその人は、担当の医師に泣きついたそうです。
「(外国語) 先生、ぼく、大丈夫なんですよね? 元気になって退院できますよね?」
「(外国語) もちろんだよ。心配しないで」
不安でたまらないその人に、その医師、真剣な表情で、首を横に振ったそうです。
大丈夫かと聞いて、真剣な表情で首を横に振られたその人、パニックになって医師にすがり付いたそうです。
「(外国語) 先生! 先生! ぼくは、本当に大丈夫なんですよね!? 治るんですよね!?」
「(外国語) ああ、心配ないよ。きみはちゃんと良くなるよ」
その医師、患者を安心させようと、何度も首を横に振ります。
恐怖が、パニックが、加速します。
その後、唐突に、その地元の文化の違いで、首を横に振るは イエス だったよな? と我に返ったそうです。
文化の違いって、大変だけれど面白いですね。
今回は、この辺で。
クスリとでも笑いを届けることができたなら、幸いです。