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8話 国を旅立ち、ひとまず元隔離先を目指すことにしました

「よし、じゃあそろそろ出発するか」

 あれから多少の騒ぎはあったものの、ロメイ先生の見立て通り、およそ二ヶ月で協会の再建は一通り形になった。


 元々、大臣の傘下で甘い汁を吸っていた連中が根こそぎ排除されたため、協会に残っていた協会員や魔術師は再建に向けて協力を惜しまなかったし、自分達を慕ってくれている後輩たちは、懸命に技術の習得に励んでくれた。結果として、協会の清浄化と技術の向上が最上の形で両方果たせた形となった。


「それじゃあ行ってきます。ロメイ先生、シェルキー先輩。アリスト、留守を頼むぞ」

 協会の前に立つ三人に挨拶をする。

「あぁ、何かあればすぐこちらに連絡をよこしてくれ。遮蔽魔術の類がなければ対応出来るだろう」

「君達が出発することは各地に伝令を走らせたからね。先々の村や街にもすぐに伝わるから協力を仰げるはずだ。気をつけてくれたまえよ」

 二人の横でアリストだけがただ一人、浮かない顔をしている。


「……連絡を待っていますからね。先輩」

「おう。もう追放の身じゃないからな。定期的に協会に連絡するから心配するな」

「はい……そしてお体もですが、貞操もお気をつけくださいね」

 別れ際に言う事か、とツッコミたくなるが、出発の日が日に日に近づくにつれ、アリストの目から光が失われていくのを見ているだけに、迂闊な事も言えない。


「まぁ……諸々気を付けるとするさ。じゃ、行ってくるわ」

 そう言って行こうとすると、アリストが自分の手を取り、何かを右手に着ける。

「ん?何だこれ?ブレスレットか?」

 自分の右手に、細身のブレスレットがアリストの手により巻かれる。


「はい。アルゴンキン家に代々伝わる家宝です。祖父から譲り受けたものですが、魔除けと魔力増加の加護の細工が施されています。お前が本当に着けたいと思う人が出来たら渡しなさいと言われ、ずっと持っていたものです。……前回の旅立ちの際には渡せなかったので」

「……おいおい、家宝って言っただろ?そんな大切なもの、受け取れないって」

 想いが重い。断ろうとするが、アリストも引こうとしない。

「……協会にいる私より、危険に晒される先輩に着けていて欲しいんです。絶対に、無事に戻ってきてくださいね」


 こうなったらアリストは引き下がらないだろう。観念して受け取ることにする。

「……分かった。じゃあ、ひとまず借りとくぞ」

 そう言うとアリストがようやく自分の手を離す。

「はい。先輩の旅の無事をお祈りしています」

「あぁ。……それじゃ、行ってくる」

 そうして、アリストたちにひとまず別れを告げ、旅立つこととなった。


「……すまないね。今回も君を残らせることになってしまって。本当ならジルフに付いていきたいだろうに」

「……いえ。協会の維持も大切な任務なので。それに、先輩のおかげでそう遠くないうちに後輩の育成が進むと思いますので。今はただ、その日が来るまで己を高めるのみです」

「あぁ。この二ヶ月で彼らも飛躍的に成長している。ジルフの技術や知識を目の当たりにして、より向上心を高めてくれているしね」

「はい。だから必ず……その時は先輩のおそばで力になりたいと思います」

 四人が旅立つ背中を、見えなくなるまでシェルキーとアリストは見つめていた。



「……で、予定通り、ひとまずはこのルートでジルフの元隔離先に向かうって感じでいいのか?」

 国を出て、しばらくしたところで地図を見ながらモルドが聞いてくる。

「あぁ。ロメイ先生とも相談していたんだが、そこから南寄りに向かって行くのがいいだろうって事になったからな。それに、フォルと国に戻る際にはこっちのルートで戻ってきたんだが、道中で盗賊の一味がいたのも気になっていてな。おそらく近くに根城があるだろうから、出来れば途中で潰しておきたい」


 地図を見せながら皆に説明し、戻って来た時と少し回り道したルートを辿り、元隔離先へと向かう。整備された道も徐々に荒くなり、合間に野営や休憩を挟みつつも、着々と目的地に近付いていた。


「……寝袋にも結界貼れるんだね…ジルフの半径1メートルにも近寄れなかったんだけど」

「ラキアの拳も通じなかったっていうのは聞いてはいたけどよ……アタシの剣も通さねぇってどんだけの結界だよ……」

「……物理も魔力も遮断するジルフさまの結界……正直、ここまでとは思いませんでした」


 野営の際、流石に女性陣と同じテントに寝る訳にはいかないと、魔王討伐の旅の頃から寝床は別にしていたが、今回も早々に寝込みを襲われそうになったため、結界が大いに役立った。というか、揃いも揃って何してんだこいつら。

「こんな事のために結界を張るこっちの身にもなってくれ。……さ、支度して向かうぞ」

 野営の片付けを終え、再び目的地へ歩き出して少しした頃だった。


「……ジルフ」

歩きながら、フォルがこちらに声をかけてくる。

「あぁ、付けてきているな。分かりやすく裏道を通ったり、火を起こしたりした甲斐があったってもんだ」

 気付かない振りをしてそのまま歩いていると、物陰から次々と男たちが出てきた。


「よお。お嬢さんがた。怪我したくなけりゃ、大人しく言うことを聞きな」

 ……ビンゴだ。

 一目でそれと分かる身なりで、盗賊たちが姿を現した。


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