対空戦闘
しばらく全速で走り続けると、一機の『紫電改』が、海中へと落ちて行くのが見えた。
「見えた!」
武蔵のその声と同時に、私は五航戦の空母に連絡を入れる。
「戦闘機を退けて!」
「「了解!」」
二人の声が返ると、上空の戦闘機たちは機体を翻し、私たちの対空砲火の射程外に出る、それと同時に、私と武蔵の前部主砲が空を睨みつける。
「主砲三式弾、砲撃始め!」
その掛け声で、私と武蔵の前門主砲、計四基十二門の46センチ砲弾が空に向かって放たれる。
戦闘機が離れ、編隊を組み直そうとする、爆撃機たちの元へたどり着く瞬間、十二発の三式弾は、花火のように赤い火花を散らして爆発した。
それと同時に、敵編隊はこちらに進路を整え、雷撃機は降下、爆撃機は上昇を始める。
「機種は……全部Nっぽいかな……」
WASの機体は、見た目だと判断しにくい、一様SやGがいるかもだけどⅩやA、Zはいないようだ。
A、Zは、武装に違和感があるのですぐ気づける。
だが、どっちにしろ、瑞鶴の戦闘機たちが母艦に戻って、情報を瑞鶴が受け取れば連絡が来る、行動を変えるのは、それからでも遅くないだろう。
私はそう思っていた、その頃、少し離れた海面が、やや波打ったような気がしたが、私は気に留めもしなかった。
「高角砲、目標敵艦爆、砲撃始め!」
私の三式弾が破裂してから数秒後には、すでに敵艦爆がこちらの上空めがけて進行してきた。
ドイツの『スツーカ』に形状が似ているが、足は出ておらず、米軍の艦爆、『SBⅭ2』や『BTD』などよりも、軽そうなイメージを覚える。
しかし、見た目に反してWASの大半の航空機は、かなり硬めに作られているため、掠ったくらいじゃ、びくともしない。
直撃させるか、爆炎の中に突っ込ませないと、動きは止まらない、きっちり撃ち落とさなければ、上空から1000㎏の爆弾が降り注ぐ。
「機銃、射撃用意……」
私は、敵の雷撃機がまだ遠いことから、機銃を上に向けさせ、急降下に備える。
艦爆の高度が、1500を切る直前に射撃をはじめ、最後の抵抗に出る、これを躱されたら、あとは当たらないことを祈るばかりだ。
「もうちょっと……」
私は、機銃の密度を高めつつ、しっかり爆撃機を狙う、その成果もあってか、私の周りに、爆弾による水飛沫は立たず、もちろん、直撃する爆弾もなかった。
「次は⁉」
私は、爆撃機が過ぎ去ったのを確認して、こちらに近づく新たな敵機を探した、しかしどうも、私の方に敵は来ない。
「武蔵!」
その代わり、妹の上空と右側面から、同時に敵機が襲い掛かる。
どうやら敵は、私より弾幕が薄い武蔵を、先に攻撃することにしたらしい。
「こっち、来るなァ!」
武蔵が荒々しい声で抵抗するが、機銃と高角砲は、二方向に分散するため、命中率が上がらない。
ただでさえ、武蔵は私以上に対空火器が少ないのだ、このままでは危ない。
「左弦高角砲、水平一杯!敵雷撃機を狙え!」
急いで、自身の高角砲に指示を送り、側面から武蔵を援護する、そして、その間の上空は、戦闘機たちが守ってくれる。
「間に合って……」
私は、祈るように高角砲を連射し、雷撃機を狙う、一機、また一機と海に没していくが、なんせ数が多い、落とし切れるかどうか……。
「武蔵!」
機首が尖り、縦に細長いWASの『N型』雷撃機が魚雷を投下する前に、武蔵の艦上で、火柱が上がった。
通信機から、苦痛の声が聞こえる。
「武蔵、大丈夫⁉」
私が聞くと、武蔵は声を明るくして答える。
「はい、私は大丈夫です!まだまだいけます」
そんな中、今度は私の高角砲から逃げ切った雷撃機が、魚雷を投下、全部で四本だ。
「武蔵!面舵一杯!」
「オモーカージイッパ―イ!」
武蔵は、私の声を復唱して、艦首を大きく右に振る、もちろん勢いよくは動かないが、着実にこちらに艦首を向け、魚雷を回避しようと動く。
「魚雷通過確認!武蔵、命中ゼロです!」
そう元気いっぱいに答える。
「武蔵、そのまま私に近づいて、互いに援護できる距離に居よう」
そう言うと「了解です」と返り、『武蔵』の艦体は、こちらに横付けするようによってくる。
「雷撃機はあと数機、これなら余裕で越えられそうだね」
私は、そうぼやいた後、再び機銃と高角砲を仰角に上げ、敵爆撃機を狙う。
「お姉さま、空母への攻撃はどうするのですか?味方空母の攻撃は、不十分になりそうですが」
隣の武蔵も、機銃と高角砲を撃ちながら聞いてくる。
「このまままっすぐ行って、空母を直接艦砲で叩くよ、その時は、先に水雷戦隊を叩くけど」
空母を狙って、護衛艦隊の雷撃を受けたら元も子もない、まずは、自身の安全を確保したうえで敵空母を撃退する。
「っと、危ない危ない、今はこっちを片付けないと」
私は、自身の艦首前にそそり立つ水柱に、艦首を突っ込み、思考を対空砲火に切り換える、しかし、そんな敵機の攻撃もすでに、散発的になってきた。
「もうすぐ終わりそうですね」
武蔵にも余裕が戻ってきた、声がいつものトーンに戻っている。
武蔵は、戦闘の時になると、性格が様変わりする、なんでなんだろう?
「これで……終わりだね」
私は、自身の右側面から向かってきた攻撃機を墜とし、つぶやいた。
もう上空を取り巻くのは、瑞鶴たちの戦闘機だけだ、そこまで数は減ってないように見えるが、やはり数個分隊分は落とされたようで、編隊を組まず、単機で飛行するものもいる。
米の機体は、ほとんど落ちてはいなかったが、煙をなびいたり、羽が欠けていたりする機体が多く、被弾はしたが落ちなかった機体が多いようだ。
「瑞鶴、エンタープライズ、直掩隊を収容して、思ったより損害はないけど、被弾機が多い」
この後は、砲戦に移行するため、航空機の直掩はいなくても、何とかなる。
「分かった、補給が終わったら、一様二分隊直掩に回すから」
瑞鶴が無線で返事をすると、上空で、『紫電』たちが機体を翻す。
「私も直掩を回してやりたいところだが……」
「弾薬無いんでしょ」
エンタープライズが言葉を詰まらせるところから、おそらく赤城達と同じ状況なのだろう。
まあ、母港とは勝手が違うのかもしれないから、しょうがないのかもしれない。
「面目ない……」
珍しく、エンタープライズがしゅんとしている。
「お姉さま、武蔵、対空弾倉から砲戦弾倉への変更、終わりました」
「了解、じゃあ行こうか」
私と武蔵は、互いの距離を開け、ぶつからない位置を確保すると、船速を再び全速へ上げる。
「そう言えばさあ武蔵」
私はふとあることを考え、武蔵に聞いてみた。
「今回自衛隊って、何を持ってくるの?『あめ』みたいなイージス戦艦は南西に帰ったし、防空用の『あきづき』型も日本海に居るんでしょ?」
私が今日の朝、横須賀の軍港を見た時には、対潜艦の『あさひ』と哨戒から帰ってきた潜水艦『もちしお』、『せとしお』だけだった。
「聞いた話によると、あの二隻が出るみたいですよ、最新ピカピカ、ちょうど三日前に全力試行を終え、戦線に加わったあの二隻が」




