星と日ノ丸
私は、『大和』の後方を追いかけながら空を見上げていた、すぐ隣には、宿敵の『エンタープライズ』、左斜め前には、『武蔵』が、20ノットで進む。
後ろには、攻撃隊の準備をする先輩方が、ゆっくり追いかける。
「整備長、『紫電改』は大丈夫?弾薬の交換終わった?」
戦闘機隊は、演習用の弾しか積んでいなかったが、出港する前に敵襲の報告を受けたので、どうにか実戦用を積んで出港した。
それで、弾の交換は格納庫と甲板で行われているのだ、艦攻、艦爆の、魚雷、爆弾も同じだ。
「ああ今終わった、『紫電改』、全機、燃料弾薬満タンで、いつでも発艦できるぞ……うちの機体はな……」
整備長が、最後だけ視線を逸らしたが、私は気に留めず、甲板へと移った。
甲板の上の整備班たちの動きは落ち着き、先頭の戦闘機たちは、暖機運転を始めている。
「うん、ありがとう、暖機運転が終わったら、中に避難しててね」
私はそう言って、姿を甲板の上に実体化する、人としての姿ができると、甲板に吹き荒れる海風が、私の髪を揺らす。
「……嫌な予感がする……そろそろかも」
私がそう呟くのと、大和からの連絡が来るのは、ほぼ同時だった。
「瑞鶴、エンタープライズ、前方8000m、高度800の低空に敵機!エンジン音から、おそらく戦闘機、爆撃機、攻撃機、全部いるよ!」
……私の感、嫌な時はよく当るんだよなぁ。
「感が当たるのは良いことだ、それがたとえ悪い事でもな」
整備長がそう言って、私の格納庫に入っていく、その後、姿を見つめながら私は頭をかく。
「うーん、そんなこと言われてもなぁ」
嫌な予感しか当たらないのも、悲しいものだ。
「まあいいや、兎にも角にも『紫電改』制空戦隊発艦!好きなだけ暴れておいで!」
私はそう言って、『紫電改』たちを見送った。
「さて、私は潜り抜けてきた機体たちの、対空警戒でもしときますか」
そう言って、私は自身の艦橋に戻り、耳を澄ませ、目を凝らす、レーダーの質を最大限まで上昇させ、敵機に備えた。
「あいつはどうしてんだろう……」
「さて、君たちはいつ発艦できるんだい?」
私は、甲板で暖機運転を行っている、ヘルたちに向かって投げかける。
やっとさっき、数機の暖気運転が終わった所だ。
「そんなこと言ったって……」
整備員の数名が愚痴を零す。
まあ、言いたいことはわかる、日本の整備員の器用さ、そして何より、
「ヘル、整備員が重いってさ、ダイエットした方がいいんじゃない?」
笑い半分で、私はそうヘルに投げかける。
「じゃあ本部に言って、ベア貰ってきなって」
ヘルが言うベアとは、『F8Fベアキャット』のことだ、ヘルキャットより速度が速く尚且つ軽い、実在した中では、まず間違いなく世界最強の艦上戦闘機であろう。
来年の春あたりには、ヘルから機体がチェンジされるはずだ、そしたら、整備員の負担も減り、もっと早く発着艦が可能になる……はずだ。
「OK!全機出れる!」
整備員の声が聞こえ、私はヘルに、指で発艦を合図する、そうすると、先頭の機体にヘルが姿を現し、グットサインを返す。
「全機発艦!」
私がそう叫ぶと、ヘルはエンジンを咆哮させながら、上空へと上がり、先に戦場へ向かった『紫電改』、私達がジョージと呼ぶ機体の後を追う。
「まさか、日本の戦艦を護衛することになろうとは……あの頃の私では、到底考えもしなかっただろうな」
私は呟く。
あの頃、私達米軍はきっと狂っていたのだ、今考えれば、なぜ日本と戦争していたのか理解できない。
別に、満州の問題について私たちアメリカは理解していた、あの頃の世界は世界恐慌で、経済の立て直しに力を注ぐが、日本はどうやら、世界恐慌の前に関東大震災での震災恐慌が起こり、国内はガタガタだった。
しかし日本は、アメリカのような広大な土地がないから仕事を作れず、イギリスのように植民地などもほとんどないから、貿易による立て直しもできない。
だから満州へ進軍し、強引な軍国主義へと突き進んだ、日中戦争はあくまでも、日本と中国での問題であり、何も手を出す必要は無かったのだ。
南インドシナへの進駐もそうだ、攻撃範囲に入るとは言え、日本からフィリピンを攻撃することは、あの時ではありえなかったのに、大げさに日本を責め立て、ハルノートと言う名の最後通牒を日本に渡した……。
日本の第一の目標は、日中戦争の終結で在り、あくまでも大東亜共栄圏は、大義名分に過ぎなかった、あれだけ戦争を嫌っている国が、武力行使でアジアを解放させようとは思わなかったはずだ。
それなのに、アメリカは、日本を悪だと決めつけた……ドイツと手を組み、アジアではなく、アメリカの植民地に侵攻したことを、悪だと決めつけた……。
「結局、アメリカだけでは、世界を維持はできないってことだったんだな……」
勿論、日本と手を組んだドイツが全面的に悪い訳ではない、ドイツだって日本同様、一次世界大戦後の立て直しで大打撃を食らい、追い詰められていた。
「……今考えても、仕方のないことか……今は、今だけは、別に国が敵ではない、機械たちのテロリストが相手だ、世界の平和を乱すものに、私達アメリカは、決して容赦しない!」
私はそう言って、自分を鼓舞した、日本と共闘できる喜びと、平和を乱す悪への敵意を、改めて確認していた。
自分の中に潜んだ、黒い血液のことなど、何も知らずに。
私の上空を、二機の戦闘機が通り過ぎた。
一機は、胴体は丸く見えるが、全体的にはほっそりとした印象を持ち、腹は白、胴体は緑の機体、両翼には赤い日の丸が描かれる。
そしてもう一機は、全体的にずんぐりと膨れるが、動きが軽快で海のように深い紺色の機体、両翼には白い星、その星は、かつて私を沈めた、憎むべき相手だった星。
「でも今は違う、国同士で争う時代は終わった、もう、国を挙げての総力戦をしなくても、隣の国が助けてくれる、あの時とは、違う」
私はそう呟いて、戦闘機たちを見送った。
「赤城、そっちの様子はどう?」
通信で、攻撃役を引き受ける赤城に連絡を入れた、予定通りなら、今ごろ航空機たちが暖機運転を始めているはずだ。
「ちょっと問題がありましたが、そろそろ全機暖機運転に入ります」
ちょっと問題?
「何かあったの?」
「いやーそれが……」
「はぁ⁉実弾が足りない⁉」
私の格納庫に、整備長の怒鳴り声が響く。
何事かと思い、姿を実体化、整備長に尋ねた。
「何かありましたか?」
そうすると、こちらに気付いた整備長が向き直り、苦い顔で話した。
「それがだな、演習用の魚雷と爆弾が多すぎて、実弾を積み込むスペースがなかったらしい……おかげで、今この艦に乗ってる爆弾と魚雷は……二五番が10個、六番が20個、魚雷が5本ってとこだ……」
私は、自身の頭を抱え、整備長に聞いてみる。
「なぜそのような結果に……」
「演習弾を出す前に、急いで実弾を運び込んだから、出港までに移動が間に合わなかったんだろう……すまない」
爆弾、魚雷、装備換装、間に合わない……。
うっ、頭痛が……。
「と、とりあえず、積める機体は積ませて、準備してください……」
「と、言うわけです」
私は通信機越しの、赤城のため息を聞いて苦笑いを返す。
「それは……大変だね……二航戦と加賀は大丈夫?」
心配なことを一つ聞いてみる、さすがに全艦こんな状態じゃ……
「こちら加賀、爆弾と魚雷が補充不足です」
「こちら二航戦、僕も飛龍も爆弾と魚雷が補充しきれなかった、ごめんね!」
ダメだった……。
「ええぇ……」
どうやら、空母の空襲は期待できないようらしい……急いでいても、有馬ならちゃんと、装備を確認してから出るのかなぁ。
「大丈夫、仕留めきれないのは、私たちが何とかするから、爆弾は、護衛艦艇を狙うようにしておいて」
そう空母組に返し、通信を切った。
「さて、どうしようか……」
予定では、私たちが全航空機を引き受け、赤城達が出した航空機で、敵艦体を撃滅するはずだったが……。
「武蔵、速度を速めるよ」
私が、無線で武蔵に呼びかけると、
「分かりました、お姉さま」
そう返事が返ってきた。




