無傷で帰ろう!
10月1日、8時30分、横須賀海軍基地。
俺は今日二度寝をした、特に理由はないが、今日の演習は午前十時からで、問題はないはずだった……。
「何事だ!」
俺は、基地全体に響き渡った空襲警戒警報で跳び起きた。
士官服に急いで着替え、寮の廊下を走り抜け、横須賀鎮守府の建物に入ると、兵たちが慌ただしく動きまわっていた。
「あ、司令官殿、おはようございます」
一人の兵が駆け寄ってくるので、俺はその兵から情報を聞くことにした。
「今どんな状況だ、警報を鳴らすってことは相当やばい状態なんだろう?」
基本的に日本は、零を含めた六段階に、警戒状況を作っている。
零段階目が空襲、敵襲の危険なし、戦時中だから零はありえないが、戦前なら、これが普通だろう。
一段階目が基本で、普通の警戒態勢、哨戒だけで済ますレベル。
二段階目が、状況警戒、領域付近に敵機、敵艦体の存在ありの時、哨戒を強め、行動を探る段階だ。
三段階目、敵が領域に侵入した時、哨戒機に戦闘機の護衛を着け、基地に迎撃機を準備する。
そして今が四段階目、敵が領域内で、攻撃的行動をとった場合、例えば、航空機の発艦やミサイルの射撃準備、この時には、基地に警報を鳴らし、全体で警戒態勢をとり、艦のエンジンを起動させる準備をする。
それを過ぎた五段階目は稀で、敵勢力が領土上空など、民間人にまで被害が及ぶ可能性がある場合の時、この時は、軍、自衛隊の全力をもって敵性存在を排除、そして、市街地にも警報が出される。
「はい、今日午前八時に、敵性存在が小笠原諸島周辺に接近、警戒レベルが三に引き上げられ、先ほど、哨戒機が敵を目視で発見、大規模な空母機動部隊二つが、航空機を甲板に上げているのを確認したため、警戒レベルを四に引き上げました」
空母機動部隊が二つか……本気で、日本本土を叩きに来たか?狙いはここか、太平洋側の基地か……。
「とりあえず、作戦室に行くか……」
俺は、士官帽をかぶり直し、鎮守府内の廊下を走る。
すれ違う兵たちは、皆忙しそうに通信室と作戦室を、行ったり来たりしている。
「失礼します」
俺は、作戦室の扉を開け、長官たちの方へ敬礼する、凌空長官が敬礼を返し、資料をこちらに渡す。
「すまないね、こんな時にまで仕事をしてもらっちゃって」
「いえ、自分も軍人ですから」
俺は、渡された資料を見つめる。
「空母機動部隊二部隊、目標A部隊正規空母二隻、量産型正規空母二隻と認、護衛艦艇、駆逐三、軽巡二の高速打撃部隊が先行」
まずは、正規空母二隻の急襲か……。
だが、どうやら名前の無い、量産型の空母のようで、艦載機量は約76機、機体も『N型』『S型』『G型』で、そこまでの脅威ではない。
名付きじゃないだけで、本当に助かる。
「第二部隊、目標B部隊、『サタン』級二隻、現代型量産空母二隻⁉現代駆逐艦三隻……」
まずいな、こっちはWSでは対処しきれない現代型の兵器だ、海自の機動部隊を呼んだ方がいい……。
それに、『サタン』級航空母艦もいる、あいつは名付き正規空母の中でも、かなり強力な部類の空母だ、下手にレシプロで近づくと、こっちが痛い目を見る。
「有馬中佐、之より防衛戦の作戦指揮を貴官に任せる、指示を」
俺はその言葉にうなずき、第一の指示を出す。
「海上勢力のエンジンを始動、ひとまず、目標Aは軍だけで片付けます」
そしたら、艦長が机から顔を上げ、
「その心配はない、すでにうちの最高戦力が迎撃に行った」
俺は首を捻るが、すぐに分かった。
「え、まさか空母六隻と戦艦二隻で向かったんですか?」
現在すぐに動かせる海上勢力、今現在横須賀のドッグではなく港に居る艦、それはつまり……。
「艦隊、旗艦『大和』、抜錨します!」
そう言って、私は港を出る。
「二番艦『武蔵』、抜錨です!」
私の後ろには、妹である武蔵が続く。
そして、そのさらに後ろには一、二航戦が続いてくる。
「「一航戦、出ます!」」
「「二航戦、抜錨!」」
空母組は二隻ずつ並び、複縦陣で陣形を組む。
「五航戦『瑞鶴』、抜錨します!」
「AircraftCarrier『エンタープライズ』、ウェイルアンカー!」
空母組も全員が出港し、私達二隻も二つに分かれ、複縦陣を組む。
「でも、良いんでしょうか?」
赤城が、通信を介して私に問う。
「何が?」
「全員で出てしまったことですよ」
ああそうゆう事、確かに私達が全員出ると、凄まじい量の燃料が消費される、でもそれは、演習も同じだ。
「これを演習の代わりにすればいいんだよ」
そう言って、私は通信室に連絡を入れる。
「これが演習の代わりでいいよね、有馬?」
私がそう投げかけるが、通信室からは声が返らない、私は不審に思って、何度か有馬の名前を呼ぶ。
しかし、ため息の後に続いた、エンタープライズの言葉で、私は息を飲む。
「大和、通信の相手は……指揮官ではないぞ」
「っ!……ごめんなさい、彭城艦長でしたね」
私が謝り、本当の通信相手の名前を呼ぶ。
「いや、大丈夫だ……有馬は私の隣で海自の指示を取っているぞ」
私は、有馬の声を聴かせてくれという言葉を飲み込んで「そうですか」と一言だけ返す、その通信は、皆にも聞こえているが、誰も何も言わない。
沈黙が流れた後、通信先から何か音が聞こえ、愛して止まない彼の声が聞こえた。
「大和、聞こえるか?」
その声に、通信でつながっているWS全員が息を飲み、二言目を待った。
「大和達が何を言っても、俺はまだ、通信越しでWSたちの声は聞こえない、それは、赤城達空母の皆と試したから、知っている」
昨日の空母組の演習で、有馬は空母たちと航空機のWSは見え、聞こえ、触れられるようにはなったらしいが、まだ完全とは言えないようだ。
「でもな大和、確かに俺は、WSがまた見えるようになった、それはつまり、また兵器を好きになれた、だから大和……お前のことも、絶対にまた……愛せる」
その一言で、私の目には熱い思いがこみ上げてくる、しかし、みんな聞こえているのだ、泣くわけにはいかない。
「大和、頑張れ、この演習全てが終わったら、もう一度お前のことを抱きしめる、そして謝らせてくれ……話は終わりだ、この空襲も、お前と皆の力があれば、何事もなく撃退できると思っている、ぜひとも、無傷で帰ってこい」
そう言うと、声が変わり、艦長が一言。
「これより、第一艦隊の指揮権を大和に移行する、好きに暴れてこい」
「……艦長、ありがとうございます」
そう言って通信を切る、私は意識だけではなく、艦橋に実態を作り、視線を移す。
「皆、聞こえたでしょ?私が今から指揮を執るからね?」
そう呼びかけると、みんなが一斉に「了解」と一言だけ返す、それに私は満足感を覚え、指示を伝える、きっと有馬なら、こうするであろう戦い方を……。
「まず、私達戦艦二隻と瑞鶴、エンタープライズ……めんどくさいから二人まとめて、五航戦って呼んでいい?」
一々二人の名を呼ぶのは大変なので、聞いてみるがやはり答えは、
「「嫌だ」」
なんといってもこの二人だから、そうなるのも無理はない、そこはあきらめて、続きを言うことにした。
「私達と瑞鶴、エンタープライズ四隻で先行、敵の攻撃隊を引き受けながらできるだけ近づく、航空機が帰っていくのを見計らって、一、二航戦は攻撃隊を発艦、それで、戦果を見て私たちは引き返すか、そのまま進むかを決める、これでいいよね?」
聞くと、皆は各々の言葉で了解と言って、私の作戦を肯定する。
私は、自分の顔を二度叩き、気合を入れ直した後、皆にも聞こえるよう大きな声で叫んだ。
「よし、有馬の言った通り、無傷で帰れるように頑張ろう!」
私が初めて指揮する海戦は、ここに幕を開けた。




