決着
私はプライズに言われた通り、敵の通った道を辿りながら、敵空母に向かった。
「レーダーに感あり、敵空母発見」
私はそう呟いて、自身より少し高い位置にいるレスに、声をかける。
「レス、敵の対空砲火を引き付けておいて」
「良いわよー、その代わり魚雷はきっちり当ててね?」
そうレスは返す、私はその声を聞いた後、機体を空母側面の海面めがけて、暖降下を始めた。
「さてさて、頼まれたからにはしっかり仕事をしないとね」
私は小隊を牽いて、『瑞鶴』の上に向かっていく、逆にティア率いる雷撃隊は一度離れ、雷撃の機会を窺う。
「あらあら、戦闘機が上がってこないわねぇ」
先ほどから集中的に高角砲で撃たれるようになってきたが、射程外で一度も戦闘機の迎撃を受けなかった、しかし、甲板に敵機の姿はない、日本人の腕なら短時間で戦闘機を発艦、攻撃機を収容することができるはずよねぇ……。
「ティア、戦闘機に注意して、こっちに一機も向かってこなかった」
「分かった」
短い返事が聞こえ、私は爆撃に集中する。
「……そろそろね……全機……急降下!」
私は、操作稈を左に倒し、反転急降下に転じる。
降下途中でダイブブレーキを展開、機体を安定させながら、甲高い音を響き渡らせる、艦の姿が大きくなっていくにつれて、敵の対空砲火は増し、そこに機銃掃射が加わっていく。
さらには、ゆっくりと左に回頭し、私の爆弾から逃れようとする。
「やっぱり、強い」
私は『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』そして『大和』『武蔵』などの日本軍艦たちを何十回、何百回と爆撃していったが、どれも楽な戦いではなかった、それは、米軍機の全員が知っている事実。
「だからって負ける気はさらさらないわよ?」
甲板に立ち、必死に私の攻撃をかわそうとする空母『瑞鶴』に向かって、そう投げかける。
それと同時に、私は抱えてきた爆弾を甲板に投げ込み、離脱しようと機体を翻した時、甲板に立つ、瑞鶴と視線が交わった。
視線が交わったその瞬間、私の甲板では、二つの爆発が起きる。
もちろん、模擬弾だから甲板が抉れることはない、だが現実なら、前部甲板は吹き飛んでいただろう。
「被害は⁉」
私は整備長に聞く、私からは、前部甲板にいくつか食らったように見えたが……。
「前部甲板に三発被弾、着艦は難しくなるが、発艦なら、まだ余裕で行えるぞ」
戦闘続行可能か……。
「分かった、ならすぐに攻撃隊を甲板に……」
私は、艦爆隊が帰っていくのを見て、攻撃隊を上げようと思ったが、予想外のものが、私の視界に映った。
「お、面舵一杯!」
右側面からこちらに向かってくる、雷撃機が目に入ったのだ、しかし、私はさっきまで取り舵一杯で左に回っていた、舵が利くまで、一分以上かかる。
「戦闘機隊を上に上げないでよかった」
艦爆隊を狙わせて、『紫電改』を上にあげていたら、間違いなく、戦闘機隊の迎撃は間に合わなかった。
この考え方は、司令官さんに教えてもらったものだ、敵雷撃機の姿が見えない場合、爆撃機に戦闘機を向かわせるのは危ないと言われたのだ。
「それはつまりこうゆうことだったんだね、司令官さん!」
聞かされた時は正直疑問だった、艦爆の攻撃を食らったら、甲板を傷つけられる、だから姿が見えないのなら、爆撃機に戦闘機を向かわせるのが普通だと思っていた。
「でも、高度を上げて艦爆を攻撃すると、低空で隠れていた雷撃機の迎撃が間に合わない」
爆撃、雷撃、空母にとってはどっちも脅威だが、やはり水線下を抉る魚雷の方が、脅威は大きい。
「『紫電』、御願い!」
私は低空にて旋回待機していてもらっていた戦闘機に攻撃を指示する。
それと同時に、急いで甲板に上げた第二次攻撃隊を発艦する、第一次攻撃隊の中で戦闘機を残し、敵戦闘機が着艦する寸前に攻撃を仕掛けさせるよう仕向けたから、護衛戦闘機が居なくても、大丈夫なはずだ。
「さて、私はこっちをどうにかしなくちゃね」
そう言って、右側面の機銃、高角砲を水平一杯に倒し、
「撃て!」
そう指示を出した。
「チッ!もう来たか!」
私は、レーダーに映った新たな敵機に悪態をつく、さっき残っていた戦闘機のせいで、直掩機のほとんどを撃墜された、今から、格納庫の奥の戦闘機を上げても間に合わない、もう対空戦闘オンリーで戦う以外、道がない。
「やってやろうじゃないか!」
私は歯を食いしばって、攻撃を指示する。
「『グレイス』を集中して狙え!」
日本の魚雷は強力すぎる、さすがに私でも、耐えきれる自信はない、だが『彗星』がもつ500㎏爆弾は、被害こそ出るものの、一撃で私を沈める力は無い。
今の私の格納庫には、航空機が少ない、万が一甲板を貫通して、格納庫で爆発した判定が出ても、そこまでの被害は出ないはずだ。
そんなことを考えながら、敵機を見守っていると、敵機を見つめていた整備員が、叫び声を上げた。
「全敵機急上昇!」
「全敵機⁉」
私は、こちらに向ってきていた全機が、機首を上げるのを確認した、その中には、確かに攻撃機であるはずの『流星』も急上昇している。
「なっ!魚雷を抱いていない!」
流星の腹には、いつも見ていた魚雷はなかった。
「『流星』が抱く爆弾の威力はわからない……」
万が一、1000㎏以上だったらまずい、格納庫どころか、重要区画に深刻な被害が出る。
「敵機急降下!」
「まずい!」
高度約2000から近づいてきて、数分で急降下爆撃の高度にたどりつけるのは、全く想定できなかった。
「この軌道はまずい!」
一直線に私のもとに『流星』と『彗星』は下ってくる、敗北を覚悟した瞬間、ティアから連絡が入る。
「プライズ!魚雷二本命中!敵の右舷スクリューを壊した!」
ああ、これで爆弾が当たらなければ、私の勝ちだったのに。
「無念」
その瞬間、私の甲板に、『流星』と『彗星』から切り離された、大小の爆弾が甲板に殺到する。
その瞬間、海域全体に、終了を告げるブザーが鳴り響いた。




