プライズの先制
私の索敵攻撃は、功を奏したようで、攻撃開始の通信を、ティアから貰った。
ティアは、『TBFアベンジャー』の愛称だ、ヘルやレスには、愛称があるのに、TBFにないのは不便だと言って、指揮官が決めてくれた。
「瑞鶴、お前は決して弱くない、あんな状況でも、私達アメリカ艦隊を苦しめたのだから」
あの時の日本連合艦隊は、壊滅寸前だった、それでも、懸命に足掻き、あれだけの被害を私達に与えたのだ、完全な状態で戦うことができる、今の日本艦隊は、おそらく世界最強と言っていいと、私は思っている。
「だが、私だって米軍艦隊古参の意地がある、簡単に負けるつもりはないからな!」
そう空に向けて、私は叫ぶ。
「瑞鶴が先に、攻撃されてしまいましたか……」
私は、艦橋の上に立ち、敵機の攻撃にさらされる後輩の姿を見る。
「赤城さん、敵艦載機の種類分かりますか?」
加賀さんが、甲板の上から私に聞いてくる。
「米軍機の『SBDドーントレス』は見慣れていますが、攻撃機と戦闘機が不明です、攻撃機の方は、『TBDデバステータ』より大型ですし、戦闘機は、『F4Fワイルドキャット』に似てはいますが……」
『SBD』は、初期から米軍の艦載機として、私たちに襲い掛かった急降下爆撃機、『TBD』『F4F』も、私たちに襲い掛かった機体ではあるが……。
「攻撃機は、グラマン『TBFアベンジャー』雷撃機、『TBD』の後継機で、『TBD』の数倍の硬さと、高火力の防護機銃を備えている、厄介な敵だよ」
零が静かに、通信機越しで答える、その声には、忌々しさが感じ取れた。
零が言い終わると、今度は加藤さんが通信を繋げた。
「戦闘機の方は、『F6Fヘルキャット』だ、一、二航戦が沈んだ後の米軍戦闘機、翼内に12、7ミリ機銃が六丁の高火力で、20ミリでも容易に火を噴かない硬さだ、あいつに、何機の『隼』と『零戦』が落とされたことか……」
私達が沈んだ後の機体ですか……。
米軍機は、どんどん新しくなっていくのに、『零戦』と『隼』は変わらなかったのですね……。
「ねえ加藤さん、瑞鶴の機体も分かる? 見たことない三機なんだけど」
甲板の上から、今度は蒼龍が聞く。
私達一、二航戦は、1942年までの機体しか知らないから、新型機のほとんどを知らないことになる。
『隼』の魂である加藤さんも、1942年には死亡しているが、『隼』自体は、終戦まで戦っていたから、『隼』の記憶として、他の機体の詳細が、加藤さんの脳内に存在するのだろう。
「交戦しているのが『紫電改』、もともと『強風』と言う水上戦闘機で、そこから局地戦闘機、そして、それを艦上戦闘機に改装したのがあれだ」
加藤さんが、簡単に戦闘機の情報を話す。
詳しい性能は、局地戦の時のしか知らないらしく、そこは司令官に聞けと言われた。
「そんでもって、甲板上に待機している水冷式エンジンの機体が、艦上爆撃機『彗星』、もともと、『二式艦上偵察機』だった機体だ」
言われてみれば、私の格納庫にもいる、『二式艦偵』によく似ている。
「んで、大型で、羽がやや跳ね曲がっている機体が、艦上攻撃機『流星』、急降下爆撃も可能で、防護機銃の火力も、13ミリと強力だ、まあ、実際運用には漕ぎ着けなかったみたいだがな」
「急降下爆撃ができる攻撃機⁉ 随分有能だね」
蒼龍が感心の声を漏らす、『流星』に関しては、作られたが実際には使われなかったので、一様幻兵器という扱いになるようだ。
「私たちも、新たな艦載機たちを使ってみたいものです」
加賀さんが、そうぽつりと呟き、全員の視線は『瑞鶴』に戻る。
多数の航空機に襲われる『瑞鶴』は、必死に体を振り、対空砲を撃ちだす、今のところ被弾はしていないが、甲板への機銃掃射ができるなら、おそらくもっとひどいことになっていたはずだ。
甲板に航空機がまだ並んでいる以上、あそこに爆弾、機銃弾が命中すると、誘爆、引火し、火災、爆発が起きる可能性がある。
空母にとっては、小規模な火災でも命取り、その火災が、空母を沈めることだってあるのだ……私のように……。
「ック!」
一瞬頭の中に記憶がよぎる、格納庫で爆発した爆弾、火災を食い止められず、引火に引火が続く、銅線と電話線にも引火、艦内すべてに火の手が回ったあの時、空母の無力さを知った。
時代の新たな主役として、お父さんに期待された私たちは、その期待に答えられずに沈んだ、でも、大和なら……。
「結局、海戦の真の王者はどちらなんでしょうね、司令官、私には判断しかねます」
あの人の元へ行ったとき、司令官が見ていた書類、あれの表紙には、
『現状況の空母および戦艦の運用について』
と書かれてあった、そして、司令官の見ていたページの上には。
『戦艦と空母、どちらを海戦の主軸とするか』
桜日は、旧日本海軍が強いということで、連合艦隊の主力と強いメモリーが残っている巡洋、駆逐艦をメインで蘇らせた。
正直言って、WSの日本の空母と戦艦は強い、どちらも、世界トップの艦たちが集まっている。
だからこそ、桜日は決めかねているのだ、空母を主力として戦争を進めるのか、それとも、戦艦を主力として進めるのか。
その書類の、意見の所には、空母を主力とすべきだという声も、戦艦を主力とすべきだという声も、両方混じっていた中、
『真に、海戦で勝てる方に任せるべきだ』
と書いてあった。
そして、その上をずっと、司令官は指で叩いていた。
「貴方は、どのような決断を下すのでしょう?」
正直、空母を選んでほしい気持ちはある。
しかし、たとえ戦艦を司令官が選んだとしても、私達は、司令官の指示に喜んで応じる、それだけ私たちはあの人を信用している。
初めて会った時の感覚と、一緒にいて感じた兵器への愛、それら全てが、私たち空母が、司令官に喜んで従う理由。
正直、変な人だとは思う。
でも、私たちにとっては、お父さんに並ぶ大切な人なのだ、私達兵器は、自分たちのことを誇りに思い、愛してくれる人には喜んで従う、そうゆうものなのだ。
「お、敵の攻撃隊が引いていった、どうやら、我らが後輩は耐えきったみたいだよ」
飛龍がそう言って、満足そうに笑う。
「……でも、凌いだだけでは勝てません」
加賀さんはやはり厳しい、しかしそれも全て、後輩を思ってのことだ、またいつ、私たちがいなくなってもいいようにと、加賀さんは、そう思っているのだ。
理由はともかくとして、正直な所、私たちはこの大戦を、切り抜けられる気がしない、きっと、どこかで沈んでしまう、そんな気がしているのだ。
だからこそ、今度は、全てをあの子に託してから、沈みたい、あの時とは違って、きちんと全てを、託してから。
「や、やっと凌ぎ切った……」
私は、何とか被弾を出さず、敵の攻撃を凌ぎ切り、立て直すことができた。
「瑞鶴! 全機異常なし、いつでもいけるぞ!」
「分かった、ありがとう!」
私は、整備員の皆に感謝し、舵を切る。
「艦首風上! 第一次攻撃隊、発艦!」
その一声とともに、甲板には、一際強い風が吹き荒れる、その風を受け、甲板の航空機たちは、エンジンの咆哮を上げ、空へと舞い上がった。
まず、戦闘機隊の『紫電改』が空へ上がり、旋回待機、その次に、攻撃のメインである、艦攻の『流星』が上がる。
艦攻艦戦が揃ったら、敵めがけて進み始め、『エンタープライズ』の元に向かう、それを追いかける形で、艦爆の『彗星』が飛び立つ。
『彗星』は比較的速度が速い機体なので、攻撃開始の少し手前で、艦戦攻たちに合流できるはずだ。
「皆、お願いね」
私は、空を駆ける鋼鉄の鳥たちに、言葉をかけた。




