後輩に託す
俺は、演習終了を告げるブザーが聞こえ、大きく息を吐いた。
「……綺麗だった」
それしか言葉が出ない。
俺は、彼女たちが戦う姿見て、久しぶりに高揚感を感じた、初めて、空母たちが戦う姿を見た時に似た高揚感。
航空機が織り成す空中戦、その先に待ち構える熾烈な対空砲火。
それをものともせずに突っ込む爆撃機と攻撃機……。
そんなことを考えていると、自然と、涙が流れてきた。
「ありがとう、赤城、皆……俺はまた、空母を好きになれた気がするよ」
俺は心の底からそう思った。
まだ見ていたい、艦載機たちの空戦を、母艦を守ろうと必死に打ち出す機銃の嵐を……。
空母四隻が、大島に戻ってくる。
錨を下ろすと、四人は実体化し、島の港で待っていた、彭城艦長の前に並び、敬礼する、私と加藤は、その後ろに並んで立っている。
「うむ、ご苦労様、結果を一様言っておこう」
そう言って、紙を取り出し、今回の演習結果を読み上げる。
「『加賀』甲板に五発爆弾命中、中破、発着艦不能なれど、機関に損傷無し」
結局、『加賀』は戦闘不能にはなったけど、撃沈判定は出なかったようだ。
「『飛龍』対空砲火群に、二発爆弾命中、損害きわめて軽微」
ほぼ無傷に近い。
これは、加賀が戦闘機隊に、飛龍を優先して守るよう、指示したからだと思う。
「『赤城』両側面に合わせて、五本魚雷命中、機関部に被害を受け、大規模な浸水、撃沈」
五本か、実戦だったら轟沈を免れないね。
「『蒼龍』左側面に四本魚雷命中、撃沈、機関部に損傷無しなれど、致命的な浸水」
蒼龍は、どうやら大きめな破孔を撃たれたらしく、浸水によっての撃沈判定、こちらも、戦場だったら、雷撃処分になるレベルだ。
「結果としては、加賀、飛龍組の勝利だな」
そう言って、彭城艦長は紙をポッケに入れ、その場を去った、次の演習があるからだろう。
「負けてしまいました……」
赤城がそうこぼす、加賀に負けたことを気にしているのだろうか?
「まったく、飛龍の友永隊には完敗だよ、僕の対空機銃、全然当たらないんだもん」
蒼龍もそう愚痴を零す、その言葉に、飛龍と加賀は苦笑する。
「蒼龍、それは貴方が言えたことではないわ、あなたの江草隊、戦闘機を完全に振り切って、私に降下してきたのよ?」
江草隊が降下位置に着く前に、私達直掩隊は、艦爆を落とそうと近づいたら、集中的な後部機銃で追い返され。
少し離れて狙おうとしても、巧妙な軌道で、戦闘機に的を絞らせなかった、あれを墜とすのには、骨が折れる。
「なんにせよ、良い戦いだったね」
私はそう言って、その会話に区切りをつける。
「ああ、海の上での空中戦も、なかなかに楽しかったぞ」
加藤が、いつもの調子で言う、その一言で、皆の顔に笑みがこぼれる。
「それじゃあ、後輩の戦いでも見に行こうか?」
蒼龍がそう言って、一隻の空母を指さす。
「そうですね、五航戦がどこまで戦えるか見もので―――!」
「どうしました加賀さん?」
加賀が言葉を止めて後ろを振り返ると、動きを止めた。
それを不審に思い、赤城達も同じく振り返ると、並ぶ四隻の空母を見上げる、一人の青年がいた。
「司令官……」
赤城がぽつりと言葉を零す、有馬さんは、耳にps2を着けていない、よって、今赤城の声は聞こえていないはずなのだが……。
「そこにいるのか?赤城」
そう有馬さんは言った、その一言に、四人は大きく目を見開き、一機はヒュウと口笛を吹く。
「赤城達の熱い気持ちが届いたか?」
「司令官!私たちの声が聞こえるのですか⁉」
加賀がそう投げかけるが、返答はない。
しばらくの沈黙が、私たちの間に気まずい雰囲気を作るが、有馬さんの一言で、その空気は払われた。
「凄かったよ、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、君たちの戦いを見ていて、俺は感動した」
その言葉に、四人の目は潤む。
「でもあなたはまだ……」
赤城が言いかける、その言葉を遮るように、有馬さんは言葉を続けた。
「でも、まだ君たちの姿も声も聞こえない……だが、あと少しだと思うんだ……」
そう言って有馬さんは、私たちの方へ歩みを進める、しかし、私たちに触れることなくすれ違い、後ろの一隻の空母に向かう。
「後は、君たちの後輩に任せてみよう、もし次の戦いで、君たちが見えるようになったときは、きちんと目を見て、礼を言わせてくれ」
そう言って、有馬さんは去って行った。
「後輩に責任を押し付けるのは、気が引けるね」
そう飛龍が苦笑する、その言葉に加賀が返す。
「もしダメだったら、瑞鶴に七面鳥をプレゼントしましょう」
瑞鶴にとって、最大のトラウマを渡そうと加賀は言う。
さすがにそれは可哀そうだと赤城がなだめるが、どうやら加賀は本気の用だ。
「それだけ皆あいつのことが好きなんだろ、お前は違うのか?零」
加藤が憎たらしい笑みでこちらを見る。
「私だって好きですよ……あれだけ一緒にいて、好きにならないわけないじゃないですか……」
私は、大和に続いて、有馬さんと一緒にいることが多い。
大和には、よく有馬の秘書みたいって言われるほどにね。
「さて、今度こそ後輩の活躍っぷりを、見に行くとしましょうか!」
そう赤城が言うと、全員で顔を見合わせ、大きくうなずく。
その後、私たちは、『赤城』の甲板に乗って、後輩の戦場に向かった、ここからそんなに離れていないので、加賀たちも姿を保っていられるみたいだ。
空母勢は瑞鶴を観戦し、私達航空機は、上空から、艦載機と、敵の様子を見ることになった。
「さて、『エンタープライズ』と『瑞鶴』、因縁の戦いが、百年の時を得て再戦だね」
マリアナとレイテの時、この二隻は戦っている、どちらも『瑞鶴』が負け、日本側の敗北だったが、今なら……。
「今なら、きっと互角に戦えるはずだよ、瑞鶴」
――――私は、そう小さく呟いた。




