空の海戦
9月20日、09時00分、演習初日、大島。
「準備はできているか?」
彭城元帥殿が、私達の前に立ち、そう聞く。
私達は、横須賀港を出て、大島の港に仮停泊中、まあ、私が停泊しているわけではないけれど。
「ここに、有馬中佐がいないのは残念だが、諸君らは、これから激化する海戦に向けて、実戦の感覚を養ってほしい」
彭城長官はそう言って、一瞬空を見る、そこには『UH60Jブラックホーク』が飛んでいた、そして、そこに誰が乗っているのかを、皆は感じ取れている。
「赤城さん、いくら演習とは言え、手は抜きませんよ」
加賀が、赤城にこっそりと言う。
「ええもちろんです、私だって負けません!」
その隣で、蒼龍と飛龍が話している。
「ねえ、蒼龍」
「ん?」
「そっちの艦載機、隼さんだけど大丈夫?」
今回、艦戦は、赤城蒼龍側は『隼』を、加賀飛龍側は私を使う。
「大丈夫じゃないかな、別に僕が操縦するわけじゃないし、加藤さんだって、零に負けず劣らずのパイロットだもん」
蒼龍がそう自信満々に言う。
「そ、なら容赦なく友永隊を送るから、頑張ってね」
「それはたとえ零でもきついでしょ……」
飛龍が高らかに笑い、蒼龍がため息をつく。
その傍ら、加藤が私に向って言ってきた。
「空母からの発着艦は慣れていないが、この先必要になるなら、やって見せよう」
正直、『隼』が、空母から発着艦することなんてありえないと思うが、できるに越したことはない。
「期待しないで待ってます、海の空は、私のフィールドです」
そう私は返した。
今回の演習のルールとしては、全て演習弾を使用する、爆弾、魚雷、高角機銃の弾、全てが模擬弾であり、ほとんど殺傷性がない。
艦載機は、模擬弾や撃ちだされた機銃で、撃墜判定が出たら、横須賀の航空基地か、大島の仮設基地に着陸する。
三時間の戦闘で、二隻が戦闘不能になったら、そちらを負けとする、旋回機銃の射撃は良しとする、無論、特攻は認めない。
「各員配置につけ!」
彭城長官がそう言うと、全員の姿は消え、自身の艦に戻る。
私も、私の体である『零戦』に戻ると、そこは『加賀』の甲板の上だった。
「出るわよ、準備はいい?」
加賀が私に言う。
私は「うん」と二つ返事を返す、そうすると、『加賀』の煙突から、モクモクと黒い煙を吐き出し始める。
すでに『赤城』は出港し、配置についている。
『加賀』が動き出すと、後ろの『飛龍』も、動き始めた。
この演習は、互いに、偵察し合うところから始まる。
「零、直掩と攻撃機の護衛よろしくね」
加賀はそう言って、追加で『零戦』を甲板に上げる。
甲板上には、『零戦』が五機と『九七艦攻』三機『九九艦爆』四機が乗っている、上空には、『飛龍』の『零戦』部隊十機が、護衛をしている。
加賀は、敵の攻撃に備え、攻、爆機ではなく、戦闘機を多く甲板に出していた。
そして、索敵を怠ってはいけないと言うことで、二式艦偵を予備の一機以外、四機全機を出し、その護衛に『零戦』を二機つけた。
『飛龍』は、艦偵を積まない代わりに、戦闘機を多く積んでいるので、直掩機を出してもらっている。
「なんで、偵察機に『零戦』をつけたの?」
私は加賀に聞いてみた。
「念のため、あと、敵の偵察機と会った際、撃墜できるようによ」
そう加賀の声が返る。
私は、一度意識を、偵察機を守る『零戦』に置く。
艦偵が二方向に分離していくので、私もそれついていく、そして、しばらくたつと艦偵の下に、艦影らしきものを捉えた。
「見つけた」
私がそう呟くと、目の前の二式艦偵を、赤い火筒が襲う。
それを受け、艦偵の背中に白旗が立つ、撃墜判定をもらったようだ。
同時に、護衛していた『零戦』が翻し、上空から降りてきた『隼』と向き合う。
私はそれを確認し、意識を、甲板の上にある自身の機体へと戻した。
私達航空機のWSは、キューブが入っていない機体でも、ある程度の距離にいるなら、機体を操ることができる。
多少動かしにくい感覚は在るが、おおむね普通に操縦できる。
「見つけたみたいね」
加賀はそう言って、艦体を風上に向ける。
「第一次攻撃隊、発艦!」
そう言うと、先頭の『零戦』が空へと上がる、それに続いて『九九艦爆』『九七艦攻』が空へ上がる。
そして、最後に私、『零戦』のオリジナルが空へ上がる、しかしその瞬間、上空を守る直掩の『零戦』隊も、さらに上へ向かった。
「加賀さん敵機!」
そう飛龍から無線が入る。
私が空を見上げると、直掩の戦闘機十機が、敵機と戦闘を始めていた、しかし戦闘機の網を抜け、数機の『九九艦爆』がこちらめがけて急降下してくる。
「チッ、見つかっていたようね……対空射撃始め!」
そう言うと、私の甲板周りを囲むように設置されている、対空装備が火を噴きはじめた、勿論だが、すべて無人で動いている。
「飛龍、出せる戦闘機の準備をしておいて、攻撃の切れ目に、直掩機を増やすわよ」
「了解」
私は飛龍に伝えた後、上空を睨む。
すでに急降下してくる爆撃機はもういない、だが数機の直掩機は、白旗を上げながら離脱し、敵の攻撃機は、こちらへの攻撃チャンスを窺っているように見える。
「『零戦』が、思ったより押され気味ね」
敵の戦闘機の数が想像以上に多いうえ、『零戦』も、格闘性能で同等の『隼』相手では、戦いにくいのかもしれない。
「加賀さん後ろ!」
飛龍から声が聞こえる。
私は言われた通り後ろを振り返ると、低空で雷撃機が侵入してきていた、戦闘機群は、爆撃機を狙っているため、低空に戻るのに時間がかかる。
「機銃、頑張りなさい!」
私は、かつて誰かが操っていた機銃に喝を入れ、後方に可能なだけ機銃を向ける、そのおかげで、三機の雷撃機は白旗を上げ、魚雷を落とす前に離脱した。
「危なかった……」
私は再び空を見上げ状況を確認する、一通り片が付いたかしら……いや、蒼龍の艦爆が控えているかもしれないから、油断大敵ね。
「加賀、『赤城』と『蒼龍』を見つけた、これより攻撃に入るよ」
そう零から通信が入る。
「分かったわ、お願いね」
――――空の海戦は、まだ始まったばかりだ。




