それでもやっぱり好きだから
9月19日、05時00分、決まって俺は、この時間に起きる。
昨日はあのまま、部屋から出なかった。
今日も、本当は明日のための、演習の打ち合わせを行う予定だったが、長官たちが気を使ってくれたのか、俺を外してくれた、そのおかげで、今日は仕事がない。
「…………はぁ」
俺は無造作に、本棚にある、一冊の本を引っ張り出した。
『帝国海軍艦艇図鑑』
ぺらぺらとページをめくり、艦たちを眺める。
しかし、いつもみたいな高揚感は出てこない、艦を見ても、何も思わない。
そして、最後の艦が乗るページを開くと。
「っつ!」
俺を猛烈な頭痛が襲い、ページを閉める。
「大和のページが、見れない」
何度も何度も見返し、一語一句すべて暗記するほどまで読んだ、艦艇図鑑の最後のページを見ることができない。
「なんでだよ……」
その場の勢いで言っただけで、『大和』を降りたいだなんて、思うわけがない。
あの時俺は、怒るのではなく、慰めてやるべきだったんだ……そんなことはない、お前が世界最強の戦艦だって言ってやれば、ただそれだけで、大和は満足したかもしれない……。
それなのに、俺はそうしなかった、自分に自信を無くした大和を、俺はかっこ悪いと思ってしまった、情けないと思ってしまった、そんな弱った大和を――――
――――――俺は拒絶してしまった。
まったく子供の用だ、自身の理想と違うから拒絶してしまうなんて……。
「畜生!なんで俺は……最低だな、俺……」
そんなことを思っていると、ノックが聞こえた。
「誰だ」
「私」
空の声だった。
「今は、誰にも会いたくない」
「入るね」
空は俺の言葉を無視して、俺の部屋に入った。
「……なんの用だ」
空は、椅子に座って、俺と目を合わせる。
「質問しにきた」
質問?何を言ってるんだ。
「なんで有馬って、軍に入ったのか前聞いたよね?確か、宇都宮に向かう途中の車の中で」
たしかに聞かれた、そして俺は、それに正直に答えた。
「そこで、もう一つ聞こうと思ってたことがあってね、今ならちょうどいいかなって思ったから、今聞く」
妙に勿体ぶるな。
「なんで有馬って、兵器が好きなの?」
確かに、今ちょうどいいかもな、最悪の方向で。
「それは、今じゃなきゃダメか?」
「ダメ、今だから聞くの」
妙に覇気のある視線で、こちらを凝視する。
「……単純なことさ……かっこよかったからだよ」
そう、かっこよかったのだ、美しかったのだ。
「その国の技術を集結させて、その国が生き残るために生み出され、使われた武器、兵器が、言葉では言い表せないほどかっこよかった、その中で、俺は特に艦を好きになったんだ」
生まれが日本だったからってのもあるかもしれないが、俺は、どの兵器の中でも、一番かっこよく見えたのは艦、戦艦だった。
「そして、そんななかで……ッツ!」
頭痛で言葉が出ない。
「大和なんだね」
空が言った。
「ああそうだ……世界最強にして、最大の戦艦、しかし、本領を発揮することなく、海へと還った艦、そんな艦に、俺は恋をした」
空はふーんと相槌を打ち、口を開く。
「有馬はそんな初恋の相手を、自ら振ってしまったと……有馬は、どうしたいの?」
俺は、手に持っていた艦艇図鑑を本棚に戻す。
「俺は……『大和』の乗組員でありたい……」
はっと、俺は口をふさぐ、大和と言えた。
「ほら、まだ大和のこと、完全に嫌いになれてない、何かきっかけがあれば、また見えるようになるよ」
そう言って、空は出ていった。
「有馬が信じた部下であり、仲間であるWSを……兵器たちを信じてあげて、みんな有馬のこと、大好きなんだから、きっと力になってくれる」
空は扉を締め切る前に、もう一度顔だけ出した。
「有馬の大好きな兵器ではないけど、私も、有馬のこと大好きだからね」
俺は、いつもの調子の空をまえに、自然と笑みがこぼれた。
「お前には、助けられっぱなしだな、空」




