私を捨てないで
甲板から降りてまず、勇儀たちが暮らす寮に向かった。
私は、軍の施設内なら、どこまででも移動できるように改良されている。
姿を消すことはできないが、勇儀以外は、私のことを、機械をつけないと見えることはない、だから関係ない。
「どこにいるの勇儀……」
私は、寮の中を走り回って、勇儀の部屋を探すが、見つからず困っていると、話しながら歩く、吹雪と空の姿を見つけた。
二人は、同じ部屋に入っていった。
「二人なら何か知ってるかも!」
私は、部屋の扉をすり抜けて、二人の部屋に入る、どうにかして気付いてもらうために、机を叩く。
「え、何?怪奇現象?」
空がギョッとこちらを見る。
「……もしかして」
吹雪が感づいてくれたのか、ps2を取り出し、耳につけ、私と目が合う。
「あ、大和」
「こんにちは」
空もそれに続いてps2をかけ、こちらに目を合わせる。
「お、大和」
「うん、私」
私は事情を二人に伝えて、勇儀の居場所を聞こうとするが、二人の顔がどんどん険しくなっていく。
私は、不安になりながらどんどん声が小さくなって、話し終えた。
「「……」」
短い沈黙の後、二人は口を開く。
「大和、有馬の機嫌を治すのは大変だよ?」
空が言う、吹雪もうなずき、続ける。
「うん、その有馬、完全に本気で怒った時の有馬だね」
この二人は昔、勇儀を怒らせたことがあるのだろうか?その話を聞きたいのもあるが、まずは勇儀の居場所を聞かなきゃ。
「それで、勇儀に謝りたいんだけど、どこにいるか分かる?」
「有馬なら、長官たちが仕事してる、桜日軍本部の建物に向かったよ、すんごく怒りながら」
空が頭を掻きながら言う。
「やめといた方がいいよ、怒ってる時の有馬は、どんな戦場の兵士よりも怖いから」
私は、ゴクリと唾をのみこみ、覚悟を固める。
「忠告ありがとう……でも、私の相棒だから……私が悪いことしたから、ちゃんと謝らなくちゃ」
そう言って私は部屋を後にした、本部を目指して。
「大和、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないでしょ」
「だよね、あの鬼怖い教官が、半泣きで有馬に怒鳴られてたもんね」
「よし、泣いて帰ったときに、大和を慰める言葉でも考えておこう!」
「さんせ~い」
しかしその後、大和は、私たちの元を尋ねることはなかった。
私は、二人に言われた通り、本部に向かって走り出した。
私達は、頑張れば壁などの無機物や有機物を貫通することもできるけど、疲れるから基本やらない。
だが、今は急いでいるため、五階の壁をすり抜けて、一気に地面へと飛び降りる、着地に失敗しそうになるが、艦体譲りのバランス力で立ち直す。
「さて、行かなきゃ……」
私は走る、船速27ノットと低速ながらも全速で走る、愛する人のもとへ。
「はあ、はぁ、着いた……」
私は、本部の二階にある、長官室手前で息を整える。
本部に入ったとき、二階に上がる勇儀を見かけて、それを追いかけていたら、この部屋に入っていた。
「ちゃんと謝って、これを渡すんだ、ごめんなさい、私を降りないでくださいって」
そう口に出して、ドアノブに手をかける。
そうすると、中から有馬の声が聞こえてきた。
「自分を、大和から降ろしてください、それと、WS管理者の役職も、破棄させてください」
私は、ノブを開ける手を止めた。
「そんな、長官に言うまでなんて……」
私は、心に穴が開いたように感じ、悪いと思いながらも壁をすり抜け、凌空長官と勇儀から死角になるところで、話に聞き耳を立てた。
「すまん、話が見えてこない、できれば分かりやすく、簡潔に何があったのかを教えてくれ」
凌空長官は前かがみになって、有馬の話を真面目に聞く体制に入る。
「……見えないし、聞こえないんです」
え?
私は、その一言に絶句する。
「詳しく聞こう……」
そこで有馬は、私と話していた時のことを長官に伝え、さっきの一言を肯定する出来事を、長官に話した。
「大和と別れた後、零に話かけられたんです」
「…………」
俺は、大和のドッグを出て、本部に行く前に、倉庫の前を通った。
その時、目の前に紙が落ちてきて、拾ってみるとps2を着けろと書いてあった。
そこで、俺はポッケに入っていたps2を耳につけ、正面を見ると。
「え、零」
そこには、不思議そうな顔で立つ零がいたのだ。
「まさか有馬さん、見えないのですか?」
零は俺に聞く、俺はそっとps2を外して同じところを見るが、そこには……。
「見えない……聞こえない……」
誰もいなかった、俺は、ps2を付け直した。
「何があったんですか有馬さん、私たちの姿が……見えないのですか?」
俺は絶句した、俺の最大の武器が、壊れたのだ。
俺はps2を外し、本部にダッシュで向かった。
俺の最大の武器は、いつでも兵器たちと会話でき、触れ合えることだった、その力で、兵器たちが思う存分力を発揮できるようにする、それが、俺の役割だった。
だが、今の俺は、それが果たせなくなった。
私は、凌空長官がps2を着けていないことを確認して、二人の前に出た。
「おーい勇儀、私だよ?大和だよ、聞こえないの?見えないの?ねえ、いつもみたいに怒ってよ……笑ってよ……からかってよ……」
勇儀が、すっと机の上に手を伸ばす、私はその手に触れようとして手を伸ばすが。
「触れない……」
自分の手を見つめてくずれ込む、勇儀の膝にしがみつくがすり抜け、手がソファーに触れる。
「ねえ、私だよ勇儀?いつもみたいに頭撫でてよ、私が泣いてた時、すぐに私を抱きしめて撫でてくれたよね?」
ブーゲンビルで、勇儀は私の事を抱きしめて、安心させてくれたよね?撫でてくれたよね?
「ねえ、私をみてよぉ、私の声を聴いてよ、ゆうぎぃ!大和だよ、勇儀のことが大好きな、あなたの相棒だよ?……私を、私を捨てないでよ……」
そうだ、勇儀にps2を着けてもらえれば、私の声も姿も見えるから、それで謝ろう……今は、それしかできない……。
そう思って、私は勇儀のポッケからps2を取り出し、机の上に置く。
「ん?なんでこんなところにこれが……」
勇儀が付ける、それに合わせて、凌空長官も、自分のものを着けると、こちらを見て言う。
「確かに、今の君にはWSが肉眼では見えなくなっているみたいだね、ここに大和がいるのに、それに一切気付かないとは」
それに合わせて、勇儀もこちらを向くが。
「え、何を言ってるんですか、長官?大和なんて、どこにもいないじゃないですか?」
勇儀はそう言って、辺りを見渡す。
「……本当に見えていないのか」
「は、はい……道中で零は見えましたが、今ここで、大和は見えませんし、声も聞こえません」
私は、その瞬間目の前が真っ暗になった。
「とりあえず、研究所に行こう有馬君、そこには明石もいる、何か分かるかもしれない」
そう言って、長官は有馬を連れだした。
私も、ふらふらする足取り、かすむ目線で、二人の後ろを付いていった。
「いやだよ、勇儀、私を、私を捨てないで…」
私は、縋るようにそう勇儀に投げかける。
だが、返ってくるのは、長官からの同情の視線だけで、愛する人の声は――――
―――――返ってこなかった……。
―――第三幕、完
戦争は、静かに進む。




