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久しぶりだな

二人は車を返しに寮に帰ったが、俺は一人、ボートのエンジンをふかし、『大和』のところに向かった。

 久しぶりの二人きりの時間だ、大和にいろいろ言われることだろう、だがまあ、そんな時間を楽しみにしている自分が、心のどこかにいた。


「さて、久しぶりだな、大和」


 俺は『大和』の甲板に上り、主砲の前に立ち、そう言うと、艦橋の方から誰かが降りてきた。


 赤茶色の髪は、腰の上あたりまで伸び、目は燃えるような赤色で、日の丸を連想させる。

 巫女と袴を足して、二で割ったような服を着て、耳元には桜のイヤリングが光っていた、そう、大和だ。


「勇儀、私は怒っています」


 大和がかなり真剣な目でこちらを見つめる、いつもの明るい雰囲気はどこにもない。


「どうした……大和?」


 俺は恐る恐る聞くと、大和はすっと主砲の方へ歩いて行く。


「外は冷えるから中で話しましょう」


 なんで敬語なんだよ……。


「で、大和、話ってなんだ?俺はWSのカウンセリングをしてたから、お前にもやりにきたんだが……」


 そういえば、大和は初めて会った時に過去を見てるんだよなぁ。


「私がなぜ怒っているのかわかりますか」


 だからなんでそんな丁寧に話すの……。


「いや、わかりません」


 それに合わせて俺も言葉が変わる。


「私はね、皆を中国に送った後、パプアから補給を受けて、すぐに香港に向かった、

有馬たちがピンチだって聞いたから」


 実際、あの艦砲射撃はめちゃくちゃ助かった、本当に捕まるかと思った。


「あれは助かりました」

「そして、私はパプアで補給を受ける前に、この子を回収しました」


 そう言って、大和の裏から小さい影が出てくる。


「桜花!お前こんなところにいたのか⁉」


 俺は桜花の体を持ち上げ、くるくる回す。


「こんなところにって、勇儀知らなかったの」


 大和の顔が少し和らぐ。


「ああ、日本に帰ってから、整備課の奴等に聞いて回ったが、そんな航空機は届いてないって言われて……吹雪も心配しててな……本当に、どこにいたのか分からなかったんだ……」

「あの、下ろしてほしいのですが」


 桜花が空中でじたばたしながら言う。


「おお、悪い悪い」


 そういって俺は桜花を下ろす、大和は大きく息を吐きだして、いつもの目に戻る。


「で、大和はなんで怒ってたんだ?」

「なんでもなにも、有馬が桜花ちゃんに会いに来ないからでしょ、あんなにボロボロになってまで、私たちの援護してくれたのに」


 大和は、桜花の頭を撫でる。


「そうか、『大和』に積んだままになっていたのか……通りでどこの倉庫を探しても見当たらないわけだ」


 俺がつぶやくと、大和は顔を赤らめて、顔を膨らませ半泣きで崩れる。


「ふええええよかったよおおお」

「えええぇ、どうした大和」


 俺が大和に近づくと、大和は俺に抱き着く。


「勇儀が私たちのこと嫌いになったのかと思ったぁ……」


 俺はとりあえず、大和を抱きしめながら桜花に聞く、今大和に聞いても、返事が返って来そうになかったから。


「えっと、大和が怒ってた理由聞かせてもらえる?」


 桜花はこくんとうなずき、話してくれた、しかしかなり長かったので要約すると。


「つまり、全然WSに会いに来てくれないから、嫌われたと思っていて、その嫌った理由が航大の件と……」


 桜花はまたこくんとうなずく。

 航大の件というのは、俺が、航大の死亡によっての精神ダメージで、WSとの接触が不可能になったのではないかと言う噂が立った件だ。


「あ、そうそう桜花」


 俺はふと思い出し、聞いてみる。


「お前、どうやって大和に帰ったんだ?あれだけかっ飛ばして飛んでいたら燃料切れないか?」


 桜花は、吹雪に改良して特殊ロケット戦闘機となったが、燃料タンクが少ないため、一時間ちょっとが限界だと吹雪も言っていた。


「簡単な話です、残ったエンジンでできるだけ大和さんたちの方へ飛び、燃料が切れたら残っている推進力で空を滑空しながら距離を稼ぎ、大和さんの近くで着水、拾ってもらったんです」


 凄い技術力、大戦中ほとんど飛んだことないはずなのに……記録に残っていないだけで、本当はもっと飛んでいたのか?


「大和、そろそろ泣き止んでほしいんだが」


 そう言うと、大和は俺から離れ目をこする。


「なんか安心したら眠くなってきた……」


 単純な奴だな。


「さて、二人に会えて、大和の誤解も解けたところで、俺は帰る、桜花は明日、回収しにくるからな」


 そういって、俺は主砲からでようと扉に手をかけるが。


「あれ?開かない」


 振り返ると桜花はすでに消えており、そっぽ向いた大和だけがそこに立っていた。


「……」


 無言で大和は俺の裾をつかみ、下を向いている、あの時と同じ様に……俺は息を吐きだし、帽子の唾を引っ張る。


「分かったよ」


 俺は扉から手を放し、主砲内部の壁に背中を預け座る、その隣に大和が腰を下ろし、頭をちょこんと肩に乗せる。


「寂しかった」


 そう大和は一言こぼした。


「すまなかった」


 そう俺は返した、そのまま二人は目を閉じた。


 床が硬くて、少々寝にくかったが、隣の大和からすぐに寝息が聞こえたので、俺もそのうち、目を閉じたのだった。




「ん……」


 頭の中に、微かに響いた、誰かの声で目が覚めた。


「おはよう」


 目を開けると大和が隣に座って微笑んでいた、俺はふと腕時計を見ると。


「もう五時か……」


 俺は立ち上がり体を伸ばす。

 硬いところで寝たからか体が痛い、だが不快な気分ではない。


「もう行くの?」


 大和も立ち上がり、後ろをついてくる。


「ああ、みんな心配してるかもだし、桜花を航空メンテに出さなきゃだしな」


 そう言って、俺は甲板に出ると、大和が後ろから俺の背中を叩く。


「行ってらっしゃい、ただしこれから時間が空いたのなら、私にできるだけ会いに来ること、いい?」


 俺は大和の頭を撫でて、分かったと答える、その答えを聞いた時の大和の顔は、とても弾んだ顔をしていた。




 俺はボートで岸に上がり、歩いて寮に帰った、これからしばらく暇になる。




 現在、9月16日。




 何気ない日常を繰り返す日々の始まりだと思っていたが、あるイベントが俺の胃を苦しめることになることを思い出した。


「……そういえば、来週から大規模海戦演習じゃん……俺社畜だなぁ」


 会社ではないから軍畜か?


「やばい、下らん事考えてたら、頭痛くなって来た……予定表確認しとかなきゃ……」


 俺は自室で、手帳を開く。


9月27日 

アメリカ艦到着、『アイオワ』『エンタープライズ』『アリゾナ』『ヴェスタル』


9月30日

一戦目『赤城』『蒼龍』VS『加賀』『飛龍』

二戦目『瑞鶴』VS『エンタープライズ』


10月1日

一戦目『大和』『武蔵』VS空母組 

二戦目『陸奥』『扶桑』VS『長門』『アリゾナ』


10月2日

『大和』VS『アリゾナ』


10月3日

『大和』VS『アイオワ』


 ざっとこんな感じだ、ちなみに、日本に来た艦はそのまま連合艦隊で預かり、欧州出兵時に戦力になってもらう。

 で、そのあとにも用事があるんだよな~。


10月5日 北欧へ出張


「結局忙しいのは変わらずか……」


 階級が上がって、管理職に就けば、仕事も増えるのは覚悟していたが、絶対あいつら、俺に仕事押しつけている気がする。


「まあ、それを引き受ける俺が悪いか」


 もう一度手帳に目を通す。


「そのあと年末年始の休みで……」


 でも年越しは軍の寮だ、実家には帰らないつもりだったが……。

 年明け、一度実家に行くか、観艦式で親父の顔見ちまったからな、一人でさっと行って帰ってくるか。


「もう今日はゆっくりしよう」


 俺はベッドに腰掛ける。


 机といす、横には本棚と小さい冷蔵庫、ベッドの側に固定電話、反対側にはクローゼット、そして出入り口とトイレ、机の上にはパソコンと資料、それと士官帽が置いてある。


 本棚には、大戦の小説や艦艇図鑑、あとは普通にラノベや小説、最下層には資料をまとめたフォルダが詰まっている。


「面白味の無い部屋だ」


 俺は言葉をこぼすと、ガチャリと部屋の扉が開け放たれ、いつもの二人が笑顔で入ってきた。


「有馬!今日何する?」



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