間章 空の膝枕
「大和に会いに行くんでしょ」
吹雪が運転席から顔を出す、後部座席に空が乗り手招きする。
「疲れてるでしょ、あっちに着くまで寝ていなよ、ほらほら~膝枕してあげるから」
そういって、俺を後部座席に座らせ俺の頭を引き寄せる。
「ああ、すまん……少し寝る」
そう言って、空の少し柔らかく、少し硬い膝の感触を確かめながら、目を閉じた。
「有馬、だいぶ疲れてたみたいだね」
有馬は普段、こうゆうことは強引にしない限り認めない、でも有馬は、今私の膝の上で寝息を立てている、そこからでも、有馬が相当参っていることが分かる。
私は、そんな思い人の頭を撫でた、きちんと手入れされているのか、さらさらでずっと撫でていたくなる。
「まあ、あんな会議に出たらね、心も体も疲れるだろうねえ」
有馬は、吹雪に迎えを頼んだみたいだけど、私も暇だったので、ついていくことにした。
その車の中、私は国民発表の時だけライブで見れると聞いたので、吹雪に言ってナビからテレビに切り換えてもらった、だから、航大の妹が言った言葉に、心を抉られている姿も見た。
「ああいうのは心が持たないよ」
吹雪は何も言わない、私たちは長い付き合いだから、有馬のことは大体分かる。
あの、辛く苦しい長距離遠征訓練を一緒に乗り越えた仲だ、でも、そんな中で有馬を誰よりも理解し、一番の親友であった航大はもういない、あの中国の荒野から帰ってくることはない。
有馬は、今でもそのことで傷ついている。
その傷に、妹の鋭い一撃。
「んん、こ……航大、ごめん、ごめんな」
有馬がうなされながら、私の足にしがみつく、いつもの雰囲気とは全く違い、実に弱弱しい。
「大丈夫だよ有馬、大丈夫」
何が大丈夫なのか、自分でもわからないが、それしかかける言葉が見つからず、頭を撫で続ける。
いつも私たちにしてくれるみたいに、私たちが泣いていると、すぐに頭を撫でてくれる、その手は大きくて、あったかくて、底知れぬ安心感がある。
でも、その手を持った人の頭に手を乗せてくれる人はいない。
その頭に手を乗せたいと思う人は、何人かいるのかもしれない、私たちのほかにも、有馬の弱いところを知って、助けてあげたいと思っている子がいるかもしれない、だけど有馬は、それを受けようとしない。
「ダメだよ、ちゃんと甘えるときは甘えなきゃ、有馬まで死んじゃうよ」
有馬は絶対に、人に弱いところを見せようとしない、航大が死んだ時ですら、ルカに言われるまで涙をこらえていた、このままじゃいつか壊れてしまうのではないかと、心配になる。
「そんな有馬が頼って、甘えて、弱いところを見せてくれるぐらいの人に、私はなりたいなぁ」
そんなことをぼやきながら、有馬を撫で続けた。
しばらくすると、海沿いに着き、有馬が止めておいたボートまでたどり着いた。
「ほら、有馬、着いたよ」
そう言って有馬をゆする、ゆっくりと有馬は目を開け起き上がる。
「おはよう……すまなかったな、こんなこと頼んで」
俺は、寝起きの目をこすりながら、吹雪と空に感謝する。
「別に私が好きでやってることだから気にしないで」
と吹雪が笑顔で言う。
「私の膝が恋しくなったらいつでもいってね」
そう空が、いたずらっぽい笑みを浮かべ自分の膝を叩く。
「……考えとく」
正直、誰かの膝枕で寝ることは初めてだったので、不思議な感じだったが、安心感を覚え、癖になりそうだった。
「取りあえず、大和に会いに行かないとだな……」
俺は気を取り直し、星の光る夜空のもと、ボートに火を入れた。




