貴方が殺した
「会議を再開します、次は国民代表の意見発表、代表者、前に出てきてください」
そう言われ、後ろに座っていた十人がマイクの前の席に座った。
お年寄り、40代ぐらいの男性、少し若い女性、そして、小学生ぐらいの子供が三人。
国民代表の意見発表のみ、中継が許されているため、会議室の上部席には様々なテレビ局のカメラが並んでいる。
おそらく今は、どこのチャンネルをつけても、この会議を放送しているだろう。
違いと言えば、その会議を黙って聞いているか、専門家や芸能人があれこれ言いながら聞いているかの違いだろう。
「それでは始めてください」
最初に壇上に上がったのは、お年寄りだった。
お年寄りが言ったのは、予想通り、戦争をやめろというものだった。
正直、もう聞きなれた、日本は昔戦争で悪いことをして~から、だから日本は、軍備を縮小し、各地の脅威になってはいけない、たとえ相手がテロリストであっても、警察が対応すべきで、自衛隊や軍は必要ない、と言うもの。
もう耳が腐るほど聞いた意見だった。
「さすがご老体、よく存じてらっしゃる!」
と、発表が終わった後平和の党の誰かが叫んだが、軍と自衛隊の人間は、大きくため息をつくだけに終わった。
次に壇上に登ったのは、男性、この人の意見も、お年寄りが話したことに毛が生えた程度で、何も変わり映えしなかった。
女性に関しては、知識が疎すぎて、話にならなかった。
何故この場に来れたのか、甚だ疑問に思うほど、発表の内容はあやふやで、説得力のかける反戦論だった、之には、平和の党の人間すら苦笑いだった。
最後に発表するのは、小学生だった、身長的に六年生だろうか?
「こんばんは、橋本雄介です」
「天貝康太です」
「坪井優芽菜です」
三人目の女の子が名前を言った瞬間、俺の背中は凍り付いた。
今、坪井って言ったのか?
最初に男の子二人が話し終え、坪井と苗字を名乗った女の子が、話始めた。
「私には、車が好きな兄がいました」
ああ、そうか、お前、妹がいたんだな……。
「その兄は、兵隊の募集に参加し、戦車で戦う兵士として、戦場に行きました」
少女は、淡々と自身の兄について、戦争についてを語り出した。
「私も家族も反対しました、いつ死ぬかも分からないところに、大好きな兄を送りたくは在りませんでした」
航大、お前はうそつきだな。
「家に何度か帰ってきた時、兄の日記を偶々見ました、そこには、訓練を重ねる度に、死ぬことを怖がることばかり書いて……でも、ある日を境に、全くそんなことを書かなくなったんです」
少女は、少しだけ目元を拭って、言葉を続けた。
「気になって、私は、日記を読んだことを怒られるのを覚悟して、兄に聞きました……そしたら、こう返したんです来たんです」
少女は顔を上げて、大きな声で言った。
「信頼できる指揮官が、俺の隊のリーダーになったんだ、これで俺は死ぬことはない、そう言いました」
俺は、もうその少女の顔を見ることができなかった。
「でも、兄は死にました、その指揮官の作戦で」
そう言って、淡々と俺の、航大の死亡に関する責任を追及してくる、大人の事情の無い、純粋で、だがとても鋭い言葉、的確に俺の傷口を刺し広げていく。
「その指揮官は、そこに座ってる人です」
もう言葉の一つ一つは耳に入ってこない、ただ、最後の一言だけは、はっきりと俺の耳に、いや、心に突き刺さった。
「……私の兄は、貴方が殺した」
俺は何も言えず、ただ俯くことしかできなかった、そっと、隣の明野さんが俺の肩を叩いてくれた。
少しだけ時間を置き、午後十一時半、会議はいよいよ最終局面を迎えていた。
「軍、自衛隊より政府に質問を行います」
次の議題が始まると、いち早く手を挙げたのは艦長だった。
「軍所属の彭城だ、今日進水した艦、攻撃用イージス戦艦『やまと』についてだが」
艦長が資料を掲示して話す。
「自衛隊は守りで、軍に攻撃は一任するのではなかったのか?しかし、これはどう見ても攻撃艦、それも、通常のイージス戦艦よりも一回りほど大きく見えるが」
俺は、あの時見た艦を思い出す。
禍々しいほどに乗せられた、ファランクスと10センチ速射砲、そして、前部についている対艦砲、あれは少し変わっているとは言え、『大和』の46センチ砲の、単装砲バージョンだ。
そんな巨大な単装砲を積んだイージス艦は、後にも先にも、この一隻だけだろう。
「『やまと』は本来の護衛艦としての役割より、戦艦として考えてもらって構わない」
防衛大臣の、小堀さんが言う。
違う、そんなことを聞いているのではない。
「そんなことを聞いているのではない、なぜ今さらになって、自衛隊に攻撃を目的とした兵器を持たせたのかと聞いているんだ」
凌空長官が口を挟む、その声には皮肉が混じっていた。
実際空母作成の件で総理、防衛相を筆頭とする空母作成派と、平和の党と国民達の一部が、反対派としてやりあっていたが、あくまで空母は防衛用のものとして運用するので、『やまと』とは訳が違う。
「状況が変わったんだ、だから空母も作ったのだろう」
あくまで、政府はぼかして終わらせるつもりなのか、『しろわし』型空母の件も持ち出してきた、しかしそれは軍に通じないぞ。
「その言い訳が、戦争が専門の俺たちに通じると思ったか、小堀よ」
凌空長官が言う。
小さく小堀さんが舌打ちをしたのを、俺は見逃さなった。
「『やまと』の目的は戦争後の地位確保のためだ」
何?
「戦争が終われば、この国はまた日本に戻り、軍はなくなる、だがそれでは、また日本が何者かの敵対勢力に晒された場合、対応できない、もし、アメリカが日本から完全撤退してもらい、沖縄を完全に返してもらった時、絶対に日本に攻め入ってはいけないという、抑止力的な、絶対的な強さを持つ兵器、核の代わりとなる兵器が必要だったのだ」
それに、平和の党の一人がヤジを飛ばす。
てかまたお前らか、いい加減懲りろ。
「アメリカの援護がなくなることなんてありえないだろう!推定だけで話を進めるな」
即座に凌空長官が、厳しい目で睨みつける。
「戦場にありえないなど存在しない、素人は黙っていろ」
ヤジを飛ばした平和の党は押し黙る、今回こいつら弱いなぁ、いつも、あんなに堂々と文句飛ばしてくるのに。
「……『やまと』の件は了解した、しかし、戦後の『やまと』については、後々話すとしよう、質問は以上だ」
そう言って二人は座る。
「それでは、ほかに質問はないようなので、次に移ります」
最終局面、だが、ここまででボコボコに平和の党を萎えさせたから、問題は起こらないだろう、というか起こらないでくれ。
時間的に眠いし、大和に早く会いたい、現在十一時半、終わって港に戻って、『大和』の上に行ったら、明日になっちゃうな……まあいいか。
「一つ、戦争を継続する、一つ、軍は維持する」
決まっている、もう議論する余地はない。
「意義があるものは手を」
しかし、だれも手をあげない、議長が木筒を叩き宣言する。
「ここに、今回の会議を終了します、大変お疲れさまでした」
そう言って、各自散らばっていく、明野さんがこちらに向き直る。
「お疲れさまでした、有馬さん」
疲れを全く見せない、爽やかな笑顔で言う。
「明野さんこそ、お疲れさまでした」
俺も明野さんに合わせ、笑顔で言う。
「ふふ、にしても川井さんの件はビックリしましたよ、日頃温厚な有馬さんが、あんな事を言い出すとは」
そういいながら、くすくすと笑う。
「ははは、ちょっとカッとなってしまって」
明野さんはすっと立ち上がり、書類をまとめる。
「私はそういう情熱的なところも好きですよ」
うんうん、ありがたい限りだ……ん?
「え、今なんて?」
俺は明野さんに聞き返したが、薄く微笑んで、その場を去ってしまった、艦長と凌空長官は俺の肩を叩き、
「いや~若いっていいねぇ」
「いいなぁ、有馬長官殿は、WSの女の子に囲われ、軍では数少ない女性兵三人と知仲が良い、いやはやうらやましい限りだな」
そうニマニマと、老人特有の憎たらしい笑みを浮かべて言う。
このじじいども……。
「では私はこれで失礼します」
そう言って、俺は会議室を出る、さっさと大和のもとへ向かわなくては、そう思って俺は、駐車場に出ると車が待機していた。




