外章 貴方が欲しい
「……誰だ」
俺は用をたし、会議場へ帰る途中、後ろの気配を感じ振り返る、そこには。
「……お久しぶりね若い司令官さん」
俺は目を見開く、そこにはWASの幹部、名前は忘れていない。
「ヴェレッタ・アリア」
真っ黒い指揮官服だが、ズボンではなくスカートの、軍服ワンピース。
士官帽に、今は髪が入っていないから、前ほど膨らんでいない、背中まで垂れた金髪は、照明に照らされて、きらきらと光る。
そして胸元には、ボルトとネジをクロスさせた紋章、まごうことなきWASの最高幹部の印。
「一体こんなところまできて何の用だ」
俺は腰にいつもさしている拳銃を探すが、今は無い。
「大丈夫よ、別に危害を加えに来たわけでも攻撃しに来たわけでもないわ~」
のんびりとした口調、挑発するかのような動き。
しかし俺は見逃さなかった、あいつの腰に入っている拳銃、SAAの『ピースメーカ』、正直物好きしか持たない骨董銃だが、WASは使えるものは何でも使える部隊だ、別に持っていても不思議ではない。
「要件を言え」
そう言いながら俺は意識を集中する、いつ襲ってきてもいいようにだ。
ここで警備員を呼ぶにも、周りには誰もいない、監視カメラは……こいつのことだ、どうせ対策してるのだろう。
「欧州に出兵される前に、あなたをもう一度勧誘しようと思って」
勧誘だと?そういえば初めて会った時も、こちら側に来ないかと聞かれたな。
「断る、俺は仲間を裏切る気はない」
ヴェレッタはニタニタと笑いながら、顔を赤らめる、正直気味が悪い。
「いいわぁ、その強固たる目、余計に欲しくなっちゃう」
俺は背筋が凍り付く感覚を覚え、一歩下がろうとすると。
「逃げちゃダ~メ」
そう言って俺の後ろに回り込む、こいつの動きはもはや人間じゃない。
「っツ!」
俺は右手で手刀を作り、首にめがけて振り下ろすが、
「あら、女の子に手を上げちゃ駄目じゃない」
そう言って俺の手を軽々しく受け止める。
「くそ!お前は一体何なんだ!」
俺は、ストレスと恐怖からそう叫ぶ。
「私はヴェレッタ・アリア、人間に大切なパートナーを壊された研究員よ」
そう耳元で囁き、俺から離れる、不敵な笑みを浮かべながら。
「バイバイ、次会ったときは容赦なく攫うから覚悟しててね……そしたら……」
また俺の耳元で囁く。
「私の可愛いペットにしてあげる」
そう言って、闇に紛れ消えていった。
「有馬さん、こんなところで何してるんですか?会議再開まであと十分ですよ」
明野さんが俺の肩を叩く。
「ああ……すいません、今戻ります」
明野さんは首をひねる。
「顔色が優れないですね、どこか具合が?」
「いえ、大丈夫です、戻りましょう」
明野さんはなお不思議そうな顔をしていたが、会議場の中に入ると、真剣なモードに切り替わり、凛々しい顔に戻ったのだった。




