貴様らは戦争を理解していない
俺の顔を見てその議員、というか国会がざわつく。
「自主参加の、後方向けで学生を募集しているのは知っていますが長官って……しかも現場指揮官って……」
「彼は、18歳中佐で、『大和』率いる連合艦隊の総司令であり、最前線で戦況を確認し、作戦を立てる戦線長官の、有馬勇儀君です、元は栃木県の学生だったのですが、様々な理由で軍へと編入、数々の功績を収めて、現在の地位にいます」
俺は艦長の紹介を受けて、席を立ち一礼する。
え、なんで艦長俺に話振ってんの?え、俺きくだけじゃなかったの?……俺を殺す気ですか?
「……今はひとまずいいでしょう、では現場指揮官だったらしいあなたに聞きます、何故詳細な人員の被害が解らないのでしょう?あなたはどうやら少年のようなので、問い詰める気はあり、正直に答えてください」
張り付けたような笑顔で俺に聞く。
軍の責任を問いたいのだろう、これはおそらく、俺が長官であることを認めておらず、利用されているだけだと思っているのだと思う。
「被害を収集する間もなく、日本に撤退してきたので、被害が詳細には分からないのです、ですが、そこまで被害数は多くありませんでした、そもそもの参加数が少なかったので」
「事実を言えば問い詰めないと言っているのですよ?」
めんどくさいなこのババア。
「事実を述べましたが何か?ここで嘘をついて、自分に何かメリットはありますか?」
できるだけ自然な笑顔でそう返す、その一言を聞いて、ババアは笑顔を崩し言葉を荒げる。
「貴方が認めれば、軍の隠蔽工作が解り、軍を解体できます!国民を殺し、貴方を縛る軍から、解放させてあげると言っているのだから、事実を述べなさい!」
本性現したな。
「……議長、これ以上は時間の無駄です」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
俺がそう言うと、まだババアが突っかかるので、一言言ってから席に着くことにした。
「私は有馬勇儀中佐、桜日帝国軍の軍人です、私は軍、自衛隊を誇りに思いますし、国民を殺す存在などとは考えていません」
一息入れて、続ける。
「その上で申し上げます、あの時は記録を取れるような状況ではありませんでした、私自身の未熟さもあったかもしれませんが、北欧、鉄血、桜日、全ての死者を合わせても、あそこでの死者は100人未満でした、日本を通して、生き残った兵たちも本土へ帰ってしまったため、現在確認することはできません」
議長が木筒を叩く、同時にババアと俺は席に腰を下ろし、艦長は満足そうにうなずいた。
あのクソ上司、後で覚えとけよ……。
「ほかにないようなので次に移ります、内閣より軍への要求を伝えてください」
そう言うと、議長席の隣、向かって右側に座る総理が立ち上がる。
「われわれが望むものは三つです、一つ本土に被害をもたらさない事、一つ無駄に兵を死なせない事、一つ一早く平和をもたらす事」
そう言って総理は座る。
「では軍は、この要求を受け入れますか?」
「もちろん、もとより行動方針はその通りです」
凌空長官がそう答える、それにたいし平和の党の一人が手を上げる。
「平和の党の川井です、二つ目の要求に対して、軍はそれに反しているものと考えます」
続けて凌空長官返答に出る。
「それはなぜか」
「現に五千人という人が死んだ事実、兵を死なせない事に反していると言えますよね」
今度は総理が話す。
「兵の死亡数や被害の大きさに関しては、専門の軍に任せているため、私では判断できません」
それを聞き長官がまた口を開く。
「総理は無駄に死なせないように、と言っていた、五千人は無駄死にでは無かった、よって問題の範囲内だ」
そう長官が答えると、川井さんが続ける。
「貴方たち軍は問題ないとしても、国民たちは納得していないと思いますが?」
鋭い指摘だ、だがそれへの対処をすでに長官は持っているようで、余裕の顔で答える。
「国民アンケートで、その件は解決しているはずだ?」
「は、あんな軍が圧力をかけて調査した記録など、あてになるとでも?」
「圧力などかけてはいないのだが?」
「嘘をつけ、嘘を」
「アァ?」
二人の間で険悪な雰囲気が出てきた中、議長が木筒を叩く。
「そこまで、情に流された口論はやめていただきます」
そう言うと二人は頭を下げる。
「ひとまず、今のアンケートの件は解決したものなので、平和の党は、それ以外の理由で、議論してください」
議長が話終わると長官が言う。
「さっきも言ったが、戦争に死者は付き物だ、それとも、貴方が完璧に死者を出さない作戦を立ててくれるのか?」
「立てられますよ」
自信たっぷりにそう答える顔にイラついたのは、俺だけだは無いはずだ。
「簡単なことです、アメリカに任せればいいんですよ」
誰も聞いていないのに、堂々と話しだした。
「アメリカに全て任せ、兵士を現地に送るのではなく、ミサイルや核を叩き込めば良いんですよ、そして日本は九条で攻撃されない、ほら、これで誰も死なずにWASを叩けますよ」
こいつ、平和の党を名乗ってるくせに、思想が左とか右とかの問題じゃない、ただの馬鹿だ。
「その頼りにしていたアメリカだけでは、どうしようもないから桜日も参戦したんだが?」
「たとえそうなら、WASに日本が着いてしまえばいい、とにかく、日本は戦争に関わるのは憲法違反だ!」
持論をつぶされた川井さんは、分が悪そうにそう吐き捨てる。
「さっきから気になっているのだが、そもそも今この国は日本ではなく桜日で、第九条は存在していないが?」
「そう、それだ、そもそもなぜそうしたのかが私には理解できない、日本には戦争をしないで済む憲法があり、それを連合で言えば参戦しないで平和でいられたのに、なぜわざわざ死人を出すようなことをやっているのか?自ら死地に向かう奴等も頭がおかしいんじゃないか?」
あーだめだこりゃ、こいつ政治家のくせに、憲法九条の正確な内容も把握できていない。
そんな男に好き勝手言われたせいで、今、完全に俺の中の、何かが切れた。
「お前、黙って聞いてればぺらぺらと、ふざけているのか?」
俺が立ち上がってそう言うと、隣に座る明野さんが驚いて、俺を座らせようとするが、それを振り払い、川井の元へ向かう。
「なんだお前?子供は引っ込んでいろ」
「子供の前に、軍の代表のうちの一人だ」
そう言うと、川井さんは馬鹿々々しそうに言う。
「ごっこ遊びの軍人が何を言ってるんだ」
「俺をバカにするのは結構だが、現場で働く兵たちをバカにするのは許さない」
俺が最大限の敵意を込めて川井を睨みつけると、川井さんは一歩後ずさり、声を荒げる。
「そもそも、お前が悪いんだ!」
は?
「そんな年で、経験も浅いお前が指揮なんて執るから、数回の作戦で五千人も死ぬんだ!思い上がりのガキが!」
その声に反論したのは総理だった。
「貴様がそのようなことを言う権利はない、黙れ」
俺が振り返ると、総理がマイクを握る手に血管を浮かび上がらせ、顔に皺を寄せながら、こちらを見ていた。
「なんですか総理、貴方には関係ないでしょ」
「貴様がその子を侮辱するような権利はない」
総理は真剣な眼差しで川井を見つめる。
「戦争をするにあたって指揮官は、自身の部下に死地へ行くように命じなくちゃならない、その辛さが、お前に理解できるのか?」
バツが悪そうに川井さんは押し黙る。
「日本は、戦争に勝つことだけを考えているのではない、戦後のことも考えているのだ、安易に核だの口にするな」
総理のとどめの一撃で、川井さんはマイクをガンと机にたたきつけ、席に着く。
そこから、しばらく気まずい雰囲気が続いたが、議長の木筒の音でその空気が切れ、新たな議題に移る。
「それではほかに意見がないなら、次の議題に移りたいと思う」
少し咳払いをして議長が続ける。
「では次の議題、欧州出兵について軍から説明を」
艦長が立ってマイクの前に立つ。
「えー現状、ロイヤルが内部分離を起こし内戦状態に発展、北部がWAS、南部がWHSとして抵抗中ですが限界があるとのこと、WSに関しては北部に陸海空ほとんどとられ、我々にも攻撃を仕掛けてくる事態です」
実際、観艦式にもロイヤル所属の航空機が襲ってきたわけだし。
「よって、われわれ桜日とユニオンで合同軍を派遣し北部を制圧、WSを奪還し、決戦に備えるという内容です」
軍はこの戦いの早期決着を求めている、之が終ったらすぐにでも、敵本陣であるオーストラリア進軍に向けて準備を進めるつもりだ。
「これに対して異議は」
議長が聞くと、まず防衛大臣が手を上げる。
「政府所属の小堀だ」
防衛大臣はマイクを取る、さてこの人は何を聞くのかな。
「今回の出兵について、自衛隊は動かさなくていいのだな」
そう言う、まあ普通の質問か、また変な質問だったらどうしようかと思っていたが、どうやら大丈夫そうだ。
その質問には、凌空長官が答えた。
「特殊戦隊として、数隻連れて行くが、基本は大丈夫だ、自衛隊は我々がいない間、桜日の防衛を徹底してほしい」
実はこの二人、高校時代の同級生らしいが、仲はすこぶる悪いらしい、まあ詳しくは知らないが、艦長が話してくれた。
「ではもうひとつ、今回ユニオン、桜日、ロイヤル以外参加する国はあるのか」
続けて大臣が聞く。
「これは失礼、言い忘れていた、今回の作戦には鉄血、北欧の部隊も出てくる」
北欧からは歩兵と支援艦隊、鉄血からは主力艦隊と、戦車部隊が、全力で手を貸してくれる手筈だ。
実際、ドイツに上陸、そこを拠点として、戦線を築くつもりで、今回の欧州出兵は、ドイツとの共同作戦になる。
ちなみにだが、『ビスマルク』は、破壊されたと思われていたが、俺たちの推測通り『ティルピッツ』の中に、キューブを保管していたらしく、艦体の建造も終了したようだ。
「以上で欧州出兵について終了する、ここで一度休憩をはさむ、現在十時、休憩は半まで」
そう言って動き出す者、伸びて目を瞑る者。
俺は、一度トイレに行こうと、席を立った。




