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最期の希望『瑞鶴』


現在、17時03分。



 夜の総合会議は20時30分から、まだしばらく時間があるので、今のうちにと、俺は二航戦の二人と話したのち、『瑞鶴』に近づいた。


 そうすると、すでにそこには、縄梯子と鎖が垂れ下がっていた、瑞鶴は、俺が来るのが分かっていたのだろうか?


「まあ、上がれば分かるか」


 俺は、鎖でボートを固定し、縄梯子で甲板の一つ下、格納庫に上った。




「嫌な気配だな」


 俺は、『瑞鶴』の格納庫に入って、そう言葉を零してしまった。

 そこにはまだ、『零戦五二型』と『彗星』しか並んでいなかったが、その一つ一つから、うめき声や、激怒する声が聞こえてきた。


 艦載機の中を覗くと、座席に赤黒い血がべったりとついている幻覚に襲われた。


 真珠湾から参加し、ミッドウェー海戦で一、二航戦がいなくなり、主力空母として『翔鶴』と参加した、海戦の数々。

 一、二航戦が慢心してしまう原因になった、世界初の空母vs空母の海戦、珊瑚海海戦。

 多大な犠牲を払いながらも勝利した、南太平洋海戦。

 最愛であり、最高のパートナーである『翔鶴』を失い、大敗北を喫した、マリアナ沖海戦。

 連合艦隊最後の正規空母として戦い、そして散った、レイテ沖突入戦。


 俺はそんなことを考えながら、対空座席に上がる、そこでも、叫び声や泣き声の幻聴が聞こえ、あたりに飛び散る鮮血の幻覚がまた見える。


「ひどいな、ここまでのは、『大和』型以来だ」


 五航戦、『翔鶴』型航空母艦『瑞鶴』、連合艦隊最後の空母。


 乗組員は若いものから年老いたものまで、日本海軍では珍しく、かなり艦内の治安がいい艦、みな仲が良く、大きな家族のようだった。

 しかし、レイテ沖でほぼ全員が海に沈んだ。


 『瑞鶴』の上で死に、『瑞鶴』と一緒に沈んだ者。

 直衛機として空で散った者。

 『瑞鳳』『初月』に救助されたが、アメリカの追撃で沈んだ者。


「最後まで戦った、悲劇の空母か……」


 俺は甲板に上がり、ぐるりと見渡す、そこには大きく帽子を振り、航空機の搭乗員に激励を送る整備士たちが見えた。


 そして、風に顔が煽られると、『零戦』が飛び立っていく、しかしそれも幻覚、さっきから俺は、幻覚と幻聴を繰り返す。


 瑞鶴と接触していないし、話してすらいないのに、話を聞かされているようだ。


「魂、記憶、科学で再現しても、分からない事があるんだな」


 そう言って、俺は艦首から艦尾に歩いていくと、また幻覚幻聴が始まる。


 あたり一面が夕暮れに染まり、甲板は穴だらけ、機銃員の悲鳴と叫び声、上空には無数の航空機、あたりには 墜ちていく日本の戦闘機。

 上空に日の丸を掲げた戦闘機はもういない、ただひたすらに、急降下と低空飛行で『瑞鶴』を襲い、戦闘機が機銃掃射で人を薙ぎ払う。


 もうほとんど、『瑞鶴』は戦闘能力を失っているのにもかかわらず、『瑞鶴』は進んでいる。

 瀕死の兵士や、意識が朦朧とする兵士は、息絶えるその瞬間まで、空に拳銃を撃ちだす。

  衛生兵を叫ぶ声は聞こえない、助からないと分かっているのだ。


 日本に残っている、艦載機全てをつぎ込む勢いで、格納庫に航空機を積んだが、満載までは至らず、中型空母そこらの搭載数しか搭載できなかった『瑞鶴』。

 だが『瑞鶴』は、米日両国の想定よりも、数倍の時間耐え続けた。


 『瑞鶴』は『武蔵』同様、レイテ沖では囮として突入し、沈んだのだ。


「なぜ、君は戦えた? 何が君をそんなに突き動かした? ……なぜ、君は沈んでしまった……」


 俺は、艦首から艦尾に移動し、座りこむ。

 肌で甲板の匂いと感触を確かめながら、目を閉じる。


「勝手に上がり込んでおいて、なにやってんのよ、司令官さん」


 聞いたことない声、だが目を開けずとも、すぐにわかる。


「瑞鶴か」

「そう、『翔鶴』型航空母艦二番艦、瑞鶴だよ、司令官さん、司令官さんの名前は?」

「俺は有馬勇儀、中佐だ」


 俺は目を開け、立ち上がる。


 最初に目に入ったのが、特徴的な目、左側には眼帯をつけ、右目は優しい瞳だが、鋭く黄色に光る、俺は、頭から足先まで瑞鶴の姿を見てみる。


 深緑の長い髪は腰まで延び、てっぺんにはアホ毛が生える。

 白と黒を基調とした袴、左手のみ籠手を着け、まるで戦国武将の用だ。

 背が大きく、俺と殆ど変わらない。


「なに? 司令官さん、そんなに私の体見渡して、もしかして変態?」


 自分の体を腕で抱きながら防御姿勢をとる、見た目に反して案外子供っぽい。


「変態じゃない、案外かっこいい見た目なのに可愛い顔してるなぁって」


 そう俺が、茶化すように言うと、瑞鶴は顔を真っ赤に染め、伏せる。


「ふぇ! ……ありがとう……」


 こいつ乙女だな~。


 そう思いながら、俺は聞く。


「そういえば瑞鶴、さっきまでの幻覚はお前のせいか?」


 瑞鶴はうなずく。


「私が目を覚ますと、『瑞鶴』としての念が強すぎて、抑えきれなかった」


 瑞鶴は空を見上げる。


「研究員の人たちが乗り込んで、私に会いに来たけど、ほとんどの人が私に会う前に、念の声に参っちゃたり、怖くなって逃げだす人ばかりだった」


 確かに、一般の研究員にあの光景と声はきついかもしれないな……。

 

 瑞鶴は、くるりと振り返り、俺の方を向く。


「でも司令官は違った」


 瑞鶴は目を細め、無邪気な笑顔を浮かべる。


「私の過去を受け止めて、私に会いに来てくれた」


 その笑顔に、俺は一瞬見とれるが、すぐに正気に戻す。


 危なかった、また大和が不機嫌になってしまう……。


「ああ、まあ君たちの司令官だし、それに、大和の過去を見たおかげで、少し耐性が付いていたからな」


 そう話すと、瑞鶴は一段と不機嫌そうな顔をする、なんかタブーに触れたか?


「えっと、瑞鶴?」

「なに」


 明らかに不機嫌になっている……もしかして、大和のことが苦手なのか?


「瑞鶴、連合艦隊最後の主力空母である君に聞きたい事がある」


 瑞鶴の黄色い目が赤く光り、文字が浮かぶ。


(大和型)


 おふ、マジか……これまた一波乱ありそうだな。


「瑞鶴、大和型戦艦について教えてくれないか?」


 聞くと、瑞鶴は間髪入れずに答える。


「日本一いらない艦、金と鉄と人と時間の無駄遣い、時代に取り残された戦艦」


 瑞鶴の目は本気で、声には――――

                   ―――――憎悪に近いものを感じた。

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