尾翼の二航戦『蒼龍』『飛龍』
あれからずっと、『せんだい』に乗った人に、舐めまわされるように『大和』『やまと』は、ともに見続けられた。
海自、海軍それぞれの最重要主力艦だ、見られるのも無理はないが。
「まさか、乗ってる人の顔が見える距離まで近づかれるとは」
弦がすれそうなほど近くにいる『せんだい』から、こちらをまじまじと見つめる一般人が、モニター越しに見える、そしてそのなかに親父の姿が見えたのは内緒だ。
「さて、航海は終わり、現在15時20分、予定外のことが起こったため少し押したが、特に問題はないようだな」
最後は締めとして、自由公開としている。
見るだけならと、戦艦組も並べられているが、俺は『飛龍』『蒼龍』『瑞鶴』『大和』だけは残してもらった、カウンセリングが終わっていないからだ。
「と、言うわけだ」
俺は、現在『飛龍』の甲板にいて、正面には飛龍と蒼龍がいる、俺が呼んだのだ。
「久しぶりに顔を合わせてこれですか? 司令」
夏に着るとちょうどよさそうな、薄い甚平を上下で纏下駄をはいている、パサパサとした髪も黒い、飛龍が言う。
赤城達が、20歳前後だとしたら、二航戦の二人はまだ、少年に見える。
「そうそう、いくら大和さんたちとイチャイチャするのはいいけどさ、僕たちのことを放置していたのは許せないな~」
蒼龍が言う。
飛龍と似た羽織だが、濃めの青が基調となっている、そして、同じように下駄を履いていて、髪の毛は飛龍よりもやや長く、しっとりとしているが、色は変わらない。
「すまんて、しばらく陸で戦ってたんだからしょうがないだろ」
二人は「はぁ」とため息をつき、座り込む。
「カウンセリングとやらを始めてよ」
蒼龍があくびをしながら言う。
「そうだな、じゃあ始めるとするか……」
「蒼龍、飛龍、二航戦の君たちに聞きたいことがある」
二人の、真っ黒な瞳が赤く変わり、文字が浮かぶ。
(運マ命モノレ五ナ分カ間ッタ)
ッ! また、赤城達の時と同じ! 頭の中に直接……しかし今回は単語じゃない、会話だけが流れてくる……。
誰の声だ?
「江草爆撃隊の装備改装、艦用爆弾から陸用爆弾だ、敵空母が見つからなかったらしいからな、急ぎ過ぎなくても……」
「友永隊は今回、第二次攻撃以降で参加することになった、よって雷装から爆装に変換するのはあとでだ」
「では今回空母はいなかったのですか?」
「らしいな、よって基地航空だけを叩くことになる……」
ここで会話は途切れた、そしてもう一度音が聞こえたときには、目も見えるようになっていた、目線は、蒼龍の艦橋だった。
「守れなった……あの二人を、僕の慢心のせいで……蒼龍隊の慢心のせいで、日本の誇りが……」
艦橋に伝令が走るが、係員は絶句する。
「『赤城』『加賀』戦闘不能……! 艦長!」
係員は、そこに倒れこむ人の中で、下半身が吹き飛んだ死体を持ち上げる。
「敵機直上急降下!」
そう声が聞こえるが、『蒼龍』の舵は動かなかった。
一瞬の間に、飛龍の視線に切り替わる。
「『飛龍』を除く三艦は被害を受け、とくに『蒼龍』は激しく炎上中である、帝国の栄光を守るための戦いを続けられるのは、『飛龍』のみである」
艦橋に居る、山口多聞長官が静かに言う。
「『大和』に乗艦する山本長官に打電、『赤城』『加賀』『蒼龍』戦闘不能、『飛龍』ハ健在ナリ、今ヨリ反撃二移行スル」
そう言うと、甲板に伝令が走る。
「風に立て!」
「まだ僕は戦える、蒼龍の、一航戦二隻の仇をとらないで死ねるものか!」
その声に応えるように、旗が振り降ろされる。
「全艦載機発艦!」
その言葉を最後に、俺の視線は現代に戻る。
この後、雷撃神と呼ばれた、最強の艦攻乗り、友永さんの命と引き替えに、空母『ヨークタウン』を大破させ、のちに『伊168』が撃沈することができた。
しかし、姉妹艦である『エンタープライズ』に爆撃され、飛龍も自沈した。
この時、日本の運命の歯車は、崩壊を始めた。
「どうだい、僕たちのトラウマは」
「昔を思い出すのは苦手なんですが」
二人がそう言葉を零す。
俺はしばし、言葉に詰まる、やはりミッドウェー海戦に参加した四隻は、掛ける言葉に困る……それに、その四人は、自分の思いをあまり口に出さないから、余計に分かりにくい。
「司令、僕たちは必要かい?」
蒼龍が徐に聞く、なぜそんな質問をする?
「僕たちは所詮空母でしかない」
飛龍までもが言う。
「今の連合艦隊には、赤城さんに加賀さん、日本空母の完成形、『翔鶴』型の『瑞鶴』もいる」
「そんな中、中途半端な僕たちの居場所は、本当にあるのかなって……」
俺は大きくため息をつき、二人の頭に軽く拳骨を入れる。
「お前らアホか」
二人は、ポカンと口を開け俺を見上げる。
「お前たち空母の仕事はなんだ?」
蒼龍が口を開く。
「海上での航空機の発着艦」
「そうだ、じゃあ二航戦の仕事はなんだ?」
二人は押し黙る、答えが見つからないのだろうか、何も言おうとしない。
「お前たち二人の仕事は、対空母戦だ」
二人は、一気に顔を上げ、俺の顔を凝視する、信じられないのか。
「そんなの僕たちじゃなくてもできます」
「それに、瑞鶴なら僕たちより装甲も艦載機も多い、だったら僕たちより……」
俺は、飛龍が言い終わる前に遮る。
「『飛龍』友永隊、『蒼龍』江草爆撃隊を育てたのは、どこの空母だ」
二人は同時に口を開く。
「「僕たちです」」
「じゃあ、その航空隊が発艦するのはどこの空母だ?」
二人は少しだけ間を置き、言う。
「「僕たちです」」
俺は二人の肩を叩きうなずく。
「なら、お前たちが必要ないわけないだろ? そもそも日本に、優秀な正規空母を手放せるほど、戦力の余裕はないさ」
俺は、笑いながら、そう答える。
「戦場において、一航戦を一番よく知り、一航戦という主翼を支える尾翼は、お前たちにしかできないことだ」
そう続けた後、俺は縄梯子に足をかける。
俺は甲板から完全に足を放つ前に、再び口を開く。
「飛龍、蒼龍」
「「はい?」」
二人は同時に返事をする、この二人はほんと、声が揃う。
「君たちが必要ないなんてことは絶対にない、一航戦二航戦、四隻で南雲機動部隊だ、あの時の屈辱を晴らすためにも、君たちは今、連合艦隊にいるんだ、これからも頼むぞ」
そう言って、俺は海に降りた。
二航戦、それは、南雲機動部隊で、一航戦をサポートする立場にある、空母を守るための空母だ。
でも、その二隻は目立った役割ではないため、自身の立場に不安を感じていた。
だが、戦力といい航空機といい、彼らがいないと困ることは多々ある、ぜひとも自信を持って、機動部隊で実力を振るってほしい。
「……飛龍、僕頑張るわ」
「蒼龍気が合うね、僕も頑張るよ」
「なんか、みんながあの人に惚れる理由が分かったかもしれない」
「え、ほんと? 飛龍教えてよ」
「やだよ、自分で考えな」
「ええ、ひどいな飛龍、僕にも教えてくれよ」
「や~だね」
「む~でも確かに僕も女だったら、好きになってたかもしれないなぁ~」
「そうだね、それには同意するよ」
「珍しく飛龍が俺に同意した……」




