前弩級戦艦『三笠』
現在、9月14日、08時00分、横須賀鎮守府はにぎわっていた。
「すげー……軍ってそれなりに人気だったのか……」
俺は現在、『三笠』の艦橋にいる、と言っても三笠記念公園の三笠ではなく、本物の三笠だ。
三笠記念公園は、現在も、横須賀鎮守府の隣に在るが、そこにはもう、シンボルたる記念艦、戦艦『三笠』は存在しない。
『三笠』をWSとして使うことが決定した際に、艦体を工廠に回し、詳細を確認したのち、使える鉄を溶かし、新たな『三笠』の材料とし、余った部品が僅かに公園においてある。
ちなみにだが、吹雪と空は、警備任務に回ってもらっている。
怪しい行動をしているやつや、反戦主義の人たちが暴動を起こさないように、だ。
あの二人は、傍から見ればただの一般人だが、戦闘力は高いから潜伏警備員としてうってつけなのだ……いや、空は傍から見ても一般人では無いな。
そしてなぜ、俺が『三笠』に乗り込んでいるのかと言うと……。
「指揮官、こんなところで何をしている?」
三笠が出てきた。
艦内開放は、海自の艦がほとんどで、海軍からは駆逐艦の四隻だけだ。
そしてほかの艦は沖で、『三笠』を筆頭に『扶桑』『武蔵』『長門』『陸奥』『赤城』『加賀』『飛龍』『蒼龍』『瑞鶴』『大和』の十隻、連合艦隊の主力が浮かんでいる。
そんな中俺は、その艦達から聞かなくてはならないことがある、それが……。
「三笠、元連合艦隊旗艦のお前に、聞きたいことがある」
そういうと、三笠の左目が黒から薄い赤に変わり文字が浮かび上がる。
(日本海海戦)
ある意味納得だな……。
今一通り行った行動は、この前、明石にもらったメモリアルサーチャー、通称コインの発動条件だ。
この機械は、その兵器の名前と肩書を言い、尋ねると、WSの本能と、兵器としての記憶が活性化され、瞳に、その兵器が一番聞かれたくない記憶が表示される。
その記憶を、克服させるというのが、俺に課せられた仕事だ。
「三笠、日本海海戦の時の君を教えてくれ」
その瞬間、三笠の凛々しい顔が崩れ、目の色が薄くなる。
「指揮官殿は私に何が聞きたいのだ」
三笠は、今にも崩れそうなほどに膝を震わせて俺に聞く。
俺は正面切って、もう一度聞く。
「三笠、君は日本海海戦……日露戦争で何を見て、何を思ったのか、教えてくれ」
その瞬間、三笠の目から光が消え泣き崩れた。
俺はとっさに三笠を支える、人を殺して回った兵器たちのトラウマを突くのだ、こうなることは覚悟していた、そして、それを明石やWSの研究者たちも危惧していた。
万が一、その兵器たちが破壊された戦いや、トラウマに思う場面にそっくりな情況になってしまった場合、その兵器が満足に動けなくなってしまう、暴走してしまうのではないかと。
前見せられた、ブラッドボックスも関わるらしいから、俺は断ることができず、結局明石の言いなりになって、こうしてしている。
合間を縫って、航空機のトラウマも解消してくれと言われたが、日本のWSはほとんどが艦の為、とりあえず今こうして、艦たちがまとまる場で聞くことにしたのだ。
「悪いな三笠、だが、これも指揮官としての仕事だ、君たちの心に抱えたものを知り、取っ払ってやるのも、俺の義務だ」
そう言って三笠をきちんと立たせ、涙をふく。
ここまで取り乱した姿を見ると、やってよかったと思う、戦場でこうなってしまっては、乗員も、艦自身も、命に関わる。
「大丈夫だ、ゆっくり深呼吸して立ち上がってくれ、話はそれからしよう」
三笠は何度か大きく深呼吸し、立ち直る。
「うむ、とりみだしたりして申し訳ない」
三笠は立ち直り、俺の視線に目を合わせる。
三笠の身長は、俺や大和、赤城達よりも小さい、艦本来の大きさが関係するのだろうか?
「それで日本海海戦についてだな……今から言うことは、日本軍人なら即刻軍法会議ものだ、それでも許してもらえるか?」
「当たり前だ、今の軍は……昔と、違う」
そう、昔とは違う……。
「私は、連合艦隊は、日本は無敵だと思って戦っていた、しかしそうではなかった」
三笠は、自分の腕に巻かれた日章旗を取って見つめる。
「日露戦争がはじまり、まず私たちは陸軍の兵を乗せ朝鮮へ向かった、そこで私が最初に見たのは、大量の陸砲台だった、その砲が私たちに一斉に火を噴いたのだ、それは体感したことのない凄まじさだった」
ッ⁉ 三笠の記憶が、頭に流れ込んで来る……三笠は、淡々と話を続けるが耳に入らない、だが頭の中に直接……。
「『浅間』被弾、炎上!」
俺は、三笠の上に立っていた。
「畜生! 砲台の数が多すぎる!」
三笠の30センチ主砲が火を噴く、撃ち出された砲弾は、敵砲台に見事命中し、撃破する。
「よくやった!」
そう長官が、顔を綻ばせたのもつかの間、
「敵弾襲来!」
その瞬間、大きく『三笠』が軋む音を立てる、しかしその音は、どこか喜んでいるような風にも聞こえた。
「やっと私の方にも狙いを済ませたか!」
三笠は、狙われたにもかかわらず、意気揚々とした声で叫んでいる。
「私が弾を受け、他の艦艇が助かるなら本望だ!」
しかし、その言葉を嘲笑うように、敵弾は、三笠の後ろにいた艦に命中した。
「な! どうしてだ!」
三笠は叫ぶ、そこでいったん目の前が真っ白になった。
日露戦争始め、日本海軍は、旅順港に身を潜めていた、ロシアの東洋艦体をどうにかしなければならなかった。
バルチック艦隊と合流され、連合艦隊に襲い掛かってこられたら、当事の日本では、まず勝つことは不可能だった。
しかし、旅順港に引きこもる東洋艦体を壊滅させるには、旅順港要塞と呼ばれる、沿岸砲台陣地を突破しなければならなかったが……。
そこで視線は切り替わる。
この感覚は、少し酔いそうになる……今度は夜か?
「『千代丸』『福井丸』の着底を確認しました……」
なるほど、閉鎖作戦か……。
「……くそ!」
長官が、机をたたく。
「なぜこんな危険な作戦を、味方を見殺しにするような作戦をしなければならんのだ!」
日本にいる『三笠』では、じかに見ることはできないが、数多の砲弾を受け、陸付近に鎮座する艦の姿が目に浮かぶ。
敵艦が、旅順港から出て来れないよう、退役した艦などを沈め、旅順港の出入口を塞ぐという作戦が、旅順港閉鎖作戦だ。
「私たちが未熟なばかりに、こんな作戦をさせてしまっている……なぜだ⁉連合艦隊は……連合艦隊は無敵なはずなのだ……清の艦体をたやすく屠った、最強の艦体であるはずなのに! けして、ロシアに劣る艦隊ではないはずなのに……」
三笠の嘆く声が聞こえる。
「今は耐えよう、きっと、必ず、チャンスは巡ってくる」
長官の呟きに、『三笠』艦内の会議室は、思い雰囲気が立ち込めたまま、兵の報告を聞いていた。
旅順の攻略に手間取った日本は、海陸共同で血みどろの戦いを繰り広げた、旅順だけで一体何人の犠牲、いくつの資源が失われたのか……。
また視線が切り替わる、この感覚にもそろそろ慣れてきたな……。
「右砲戦、目標、同行する一番艦『クニャージ・スヴォ―ロフ』!」
日本海海戦か……。
連合艦隊は、副砲の数で、バルチック艦隊に勝っていたため、副砲の射程に入ってから、砲撃を開始するよう、東郷さんは指示した結果、見事に、歴史的勝利を収めることに成功はしたが……。
「わが連合艦隊の力を見せてやる、撃て!」
三笠の一声で、主砲、副砲が一斉に火を噴く、しかし全門ではない、近づくまでに、多数の命中弾を受け、中破寸前だった三笠、いたるところに鮮血が飛び散り、負傷者が転がり、艦体には穴が開いている。
「私はどうでもいい! 何としてもバルチック艦隊を撃滅し、日本を守るのだ!」
それにこたえるように、副砲の一つが、『クニャージ・スヴォ―ロフ』の前部主砲に命中し、火柱が上がる。
「今じゃ! 照準そのまま、しっかり撃て!」
この時代はだいたい十キロ内で撃ちあっている、比較的当てやすいことは確かだ。
それに、この海戦に備えて東郷さんは、一か月分の弾薬を、一週間で消費する勢いで演習を行っていた。
しかし、敵だって当時最強と謡われた、ロシアのバルチック艦隊、いつまでも弾が外れているわけではない。
『三笠』の艦尾主砲付近に敵弾が命中し、貫通する。
「ぐぅ! 何のこれしき!」
勇ましく『三笠』は、主砲を撃ち返すが、再び敵弾が来襲し、『三笠』の中心部をえぐる。
「ガッㇵ! まだまだあアァァ!」
これまでにないほど悲痛な叫びが聞こえる。
『三笠』は、艦隊の一番艦として、敵弾の七割を受け止めた。
なぜ浮かび続け、日本に帰ってこれたのか、いまだにわからないほどひどい有様で、港に帰投したのだ。
「日本を、日本を守るために……戦わなくてはならんのだ……私は……」
そこで俺の視線は、現代に戻ってきた。




