嫌な予感
「有馬行くよ」
吹雪は、研究所を一緒に出た、零を傍らに手招きする。
「今行く」
そう言って、二人のそばによる、どうやら、隣の駐屯所に向かうようだ。
「そういえば、零はなんでこっちに来たの?」
空は零に聞く、零の機体は駐屯所の滑走路に止まっていて、『二一型』だった。
だが、その隣には。
「「「⁉」」」
『零戦』よりも、やや膨れた緑色の胴体に、大きめの四枚プロペラ、『零戦』の面影を持ちながら、がっしりとした印象を与える戦闘機。
「『局地型戦闘機紫電二一型』」
誉二一型エンジン、翼内20ミリ機関砲四挺、最大速度644キロ、吹雪が乗りたいと言っていた、『紫電二一型』、通称『紫電改』が止まっていた。
「『紫電』を運ぶために飛んできました」
零は笑みを浮かべる。
零によれば、横須賀の航空基地に一機試作が回され、戦線配置の認証を得たので、『紫電』に乗りたがっていた吹雪のもとに持ってきたらしい、自動操縦をハッキングして操ったらしいが……なんでそんなことができるの?
「『紫電改』……これから、ようやく仕事ができるね……」
その言葉を、空は理解できなかったようだが、俺は小さく頷いた。
『紫電改』は、『烈風』と並ぶ『零戦』の後継機だった。
だが、生産ラインの限界、技術者の不足、様々な問題が重なり、量産は間に合わなかったった。
少数生産されたものは三四三空、剣部隊に配備され、『F6F』相手に互角以上の実力を見せた。
零は、吹雪の様子を見守って、満足したのか姿を消した。
「では私は帰ります、『紫電改』は吹雪が乗って横須賀まで帰るといいよ」
そう言って『零戦』は、滑走路に入り飛び立つ。
相変わらず、数秒で地面から足が離れる。
「じゃあそうゆうことで」
吹雪は、『紫電改』の回り始めたプロペラを見つめながら、俺たちに手を振る。
「これからは、『零戦』と『紫電改』の二機が、お前の機になるみたいだし、大切にしろよ」
そう俺が言うと、吹雪は敬礼を返し、滑走路に入った。
その後、身軽な動きで空へと舞い上がる、零戦の栄エンジンとは、また違ったエンジン音だ。
「誉エンジンってこんな音なんだね」
空は眺めながらつぶやく、俺たちは吹雪を見送った後、車で帰ることにした。
「吹雪いないし、好きな所よっていいよ」
空はにやにやしながら助手席に乗る。
「何を言ってんのか……明後日観艦式で、明日はその準備だ、さっさと帰るぞ」
「ほーい」
空は軽く返事をする。
シートベルトを着けるのを確認し、車を出す、行きが三時間だったので、帰りもそんなものかと思っていたが、道中空が何度もパーキングに寄ったせいで、少し時間がかかった。
空曰く、高速道路に乗ったことがほとんどないから、新鮮なんだと。
現在、7時40分、横須賀到着。
「うーん着いたー」
久しぶりの運転で疲れた俺は、さっさと自室へ帰った。
「さて、もう寝るか……」
10時を過ぎた、いつもは普通に起きているが、特にやることもないのでベッドに転がる。
そうすると……。
「なんだ?」
固定電話が鳴った、こんな時間に誰だ?
「はい、こちら海軍所属、有馬中佐です」
「やあ、凌空だ」
長官⁉
「は、はい凌空長官、ご用件は?」
「ああ、明後日の観艦式だが参加する艦の情報を渡しておこうと思ってな」
観艦式とは、海軍の艦を、一般人に公開し、軍に対するイメージを良くしよう的なやつだ。
「わかりました、メモしますね」
俺は、机の上の紙をちぎり、ペンを執る。
「まず、今回の観艦式の予定だが、午前中は艦を港に、並べたり音楽を披露したり、屋台を開いたりで、自由見学とする」
まあ普通だな、今まで通りだ。
「そして昼、海軍カレーを参加者に配布だ」
一体何食分作る気なんだ……
「さらに午後、沖を航海しながら空砲の発射等を行う、その時の隊列も伝えておく」
ずいぶん大盤振る舞いするんだな……。
「えーまず第一列、『しきしま』『はたじま』『はたかぜ』『はるさめ』『武蔵』『陸奥』『扶桑』『蒼龍』『飛龍』『陽炎』」
メモメモっと……。
「第二列、『あめ』『はれ』『ゆきぐも』『はたぐも』『赤城』『加賀』『瑞鶴』『阿武隈』『夕張』『雪風』『夕立』」
『あめ』が来るってことは、明野さんも来るのか?
「そして第三列、『いずも』『かが』『しろわし』『長門』『三笠』『矢矧』『北上』『吹雪』『綾波』『明石』」
ふむふむ、まあずいぶん燃料は食いそうだが、特に問題は無いように見える、わざわざこれだけを伝えに電話してきたわけではないよな?
「そして問題なのが、最後の二隻だ」
あと残ってる二隻といえば……。
「第四列右翼、戦艦『大和』、左翼、イージス戦艦『やまと』」
…………なるほど、あいつらが並んで進むと。
「はい、了解しました」
凌空長官は、『やまと』のことを知っているから、無理に話す必要はない。
「有馬、明後日の観艦式はそれだけでは終わらん、全てが終わったあと会議がある、もちろん君も参加でな」
俺は、衝撃の一言で受話器を落としそうになる。
てか何? 会議ってそんなの知らないんだけど……?
「それではな、明後日の観艦式で会おう」
そう言って電話は切れた。
「うがああああああああ、会議とかマジ無理、なぜ俺がそんな面倒なことを!」
俺は自分のベッドに転がるが、ふと航大の顔が頭をよぎり、口を閉じる。
なんとも言えない嫌な予感を抱えながら、俺は静かに、目を閉じた。




