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鮮血の箱

 ブラッドボックス鮮血の箱……戦争の黒い所だけを集めた記憶の箱……。


「危険度って言うのは何を指しているんだ?」


 俺は明石に聞く、異様に『武蔵』また、ほかの戦艦の危険度が高いのが気になる。


「暴走した時の危険度だにゃ、例えば『武蔵』は89だから、暴走した場合日本の総戦力で沈めなくちゃいけない数値だにゃ」


 若林は、概要の隣に数値の早見表を見せる。


 0~20 暴走の危険がほぼ無い、起こっても簡単に鎮圧可能。

21~40 暴走した場合、ほか兵器を持って、鎮圧、もしくは捕縛。

41~70 暴走した場合、ほか兵器をもって、撃沈、もしくは撃破する。

71~89 日本の総戦力をもって、撃滅する。


「……90を超えるとどうなるの?」


 空が聞く、明石はしばらく黙りパソコンをいじる。

 画面に、大きなロックが表示されると、明石が手をかざし、数字を打ち込むとロックが外れ、三つのブラッドボックスが表示された。


「『大和』『紀伊』『零式艦上戦闘機』」


 そこには、盗まれた戦艦一つと、見慣れた二つの名前が並んでいた……。

 やはり、大和の力は強大なのか? 若林は、『零戦』をタップし、概要を示す。


「ここに表示されるのが、90を超える、WSのブラッドボックスです」


 吹雪は、零の概要を食い入るように見る。


「危険度93、米英航空機、軍艦すべて、暴走時、WSのデータを消去し、全国のイージスシステムをもって、全機の迎撃に当てる……」


 どうやら、90以上は個人の対処法があるようだ、それにしてもなんで零が。


「どうして零が、90以上なの……」


 吹雪の声は震えている、自分の相棒の素顔を知って、動揺しているようにも見えるし、零に恐怖心を抱いたようにも見えた。


「零は、特攻隊の念と、『零戦』本人の念が混じっているのにゃ」


 明石の声に続けて、若林が補足する。


「特攻隊は言わずもがな、『零戦』は自身の機体に誇りを持っていた、しかし、時代が流れても進化せず、時代に取り残されたまま、敵機に落とされていく屈辱」


 さらにその言葉に明石は付け加える、同じ兵器としての考えを。


「自分だけが進化できない、しかもそれは周りの人間のせいでなんて、人間が理解できるような感情じゃないにゃ」


 明石は目を伏せながら、嘆くように言う。

 

 周りだけが成長し、自分は取り残されていく、圧倒的な機動力で、敵を蹴散らしてきたはずなのに、いつの間にか追い抜かれ、突き放されていく屈辱は、確かに人間が理解できるものではない。


「でもなんで、零が危険度90以上なんだ? 念が強いのは分かったが、『零戦』は所詮レシプロ戦闘機だぞ?」


 『零戦』一機に、戦艦一隻の力があるとは思えない。


「甘く見られたものですね」


 俺が振り返ると、そこには零が壁に寄りかかっていた、マフラーを上げ、口元を隠し、髪の隙間からこちらを見る目は、いつもの数倍鋭く光っていた。


「零……」


 数秒の沈黙の後、俺は零に聞く。


「零、お前は、自分が暴走した場合が予想できるのか?」


 俺が恐る恐る零に聞くと、鋭い眼光を俺の目に向け、答える。


「日本には量産した何千機もの『二一型』『五二型』『零式水偵』『零式水観』『二式水戦』がいます、私が暴走すれば、そのすべてが私に共鳴し、全機の操縦権を、私が担うことになります」


 零が暴走した時の一つ目に数の暴力か、全ての『零戦』が、零なみの技術で、ユニオン連合のWSたちに攻撃を開始するのだろうか。


「そして何より、私の攻撃対象は英米だけではありません」


 ……どうゆうことだ?


「私は暴走した場合、日本の基地も攻撃対象になります……特に、司令部などは」


 俺たちは何も言わない、零の次の言葉を待つ、なぜ日本を攻撃するのか。


「愛する人を守るためとはいえ……死んで来いと言った司令部が、日本が……憎くない訳、ないじゃないですか」


 零はそう言い切った。

 

 恨み思いの強さ、そして数の暴力……日本が持つ最大の過ち、特攻隊の代名詞である『零戦』の暴走時の行動は、理にかなっている……。


「ま、私が暴走することなんてありませんけどね」


と零は笑みをこぼす、その笑顔に俺は少しだけ安堵し、空と吹雪に向き直る。


 そうすると、明石が2人に何かを渡していた。


「それは?」

「これは新作のpsにゃ」


 明石が差し出したpsを、二人が装備した瞬間、ピタリと動きが止まる。


「二人ともどうしたの?」


 零が首をひねりながら尋ねる。

 二人は、psをつけてからピクリとも動いていない。


「見える」


 吹雪が言葉を零す、何が見えるんだ?


「見えるんだよ、零が」


 空も言葉をこぼす。


 ……は?


「今なんて?」


 俺がもう一度聞くと、二人の言葉が重なる。


「「零の姿が見えるんだよ」」


 俺は、理解が追い付かないうちに、若林が説明を始める。


「psマーク2」


 そう言って資料を広げる。


「WSには、音以外にも特殊な光、と言うか分子を発していました、その分子を、有馬さんが見ることができる理屈は……今はいいでしょう、難しい説明をしては、お二人の頭がパンクするようですから」


 俺が振り返ると、二人は眉間に寄せ、零をちらちら見ている。


「その分子を見えるように光線を捻じ曲げ、誰の目でも見えるようにする、それがps2の能力と考えて頂いて結構です」


 吹雪は、首を捻りながら零の顔に手を伸ばし、プニっとほほを突く。


「うみゅ」


 零は、予想外の攻撃に不思議な声を上げ、吹雪の手を退けようとするが、そこに空と吹雪の手で追撃が入り、零は遮る手が間に合わず、さらにほっぺを突かれる。


「じゃあなんで触れるの? 話を聞くだけだと、あくまで光の粒子体で、実態は無いんでしょ?」


 吹雪は、零の頬をぺたぺた触りながら聞く。


「……ミーム汚染を知っていますか?」


 ミーム汚染? 俺達は首をひねる。


「簡単に言えば、思い込みの力です」


 思い込み……。


「例えば……「たま」って言葉を聞いたとき、あなた方は何を連想しますか? 日頃戦場にいるあなた方は、銃弾の弾を思い出しませんか?」

「……確かに」


 空が納得する。


「それこそが、ミームの正体です、人間の五感によって感じたり、思い込みで、存在をそこにいると勘違いします……実例で言うと、口裂け女とかの都市伝説の正体です」


若林は、自分の顔の鼻、目、口、耳、手を指さしながら説明を続ける。


「人間の五感は、視覚と聴覚が一番強いので、この二つで存在を確定すると、ほかの五感が誤作動を起こし、感触、味覚、嗅覚が聞いた通り、想像した通りに発生してしまいます」


 そこにいると思ったらいる、存在すると思ったら存在してしまう、それがミーム汚染か。


「その力によって、皆さんはWSを認識し、接触することが可能です、ちなみにですが、WSの姿は、有馬さんの意識から切り取ったものになっているので、皆さんが共通して、同じように見えるのです」


 その説明を最後に、難しい話は終わった。




「うーん終わった」


 空が、背伸びをして門から出る、時間はすでに三時二十分をまわっていた。


「有馬、これを持っていくにゃ」


 明石は、コインのようなものを差し出す。


「これは?」


 俺が聞くと、こっそり耳打ちし去っていく。


「俺に何をさせたいんだ……」


 俺はあきれながら頭をかき、そのコインをポッケに入れた。


 まさか、ネコが言っていた用事ってこのことか?


「回りくどいやり方を……」

 

 そうため息をついて、俺は踵を返した。

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