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何気ない朝

「おーい、いるかー?」


 現在、9月16日、08時03分。


 数十分前に、凌空長官から伝えられたことを吹雪と空に伝えるため、二人が過ごしている部屋の扉をノックする。


「おーい……開けるぞ?」


 全く反応が無く、ドアノブを回してみると、鍵が開いていたので、遠慮気味に扉を開けた。

 そうすると、髪をぼさぼさにした状態の空と、まだ眠っている吹雪の姿があった。


「……この馬鹿どもは……」


 俺は吹雪をたたき起こし、空を洗面所に連れていく。

 

 空が顔を洗っている間に、吹雪が再び寝ようとするので、空と同じく洗面所に連れていき、水をぶっかける。


「起きたか?」

「「ふわぃ」」


 やる気のない返事が返る。


「お前らなあ、いくら休暇中だからと言って気を抜きすぎだぞ……」


 ため息をつき、俺は伝令を二人に伝える。


「本日一時に研究所へ集合、新型の補聴器と、WSの説明を行うとのこと」


 二人はきょとんと首をかしげる。


「WSの説明なんて必要?」


 俺も、肩をすくめ答える。


「さあな、もしかしたら、俺らの認識が間違っているかもしれないってことらしい、あと、なんだか俺に用があるらしい」


 研究所から、俺宛てに電信があったらしい、ただ、送ったのは研究員ではなく、ネコという人物かららしいが……誰だ?


「まあいっか、ご飯行こうよ」


 吹雪は、寝巻のまま部屋を出ようとするので、捕まえる。


「着替えろ」


 俺は部屋を出て、二人が出てくるのを待った。


 ちなみに俺は、ジーパンに紺のTシャツ、上に薄いジャンバーを羽織る。

 ここは軍の寮と言っても、ホテル代わりのようなものなので、私服OKなのだ、隣の寮の、常時警戒組は、そうはいかないが。


「お待たせ―」


 空が先に出てきた、薄ピンクの長袖に、紺のパンツ、いつも伸ばしっぱなしの髪は、お団子で後ろに結んでいる。


「ハイハイお持たせ」


 吹雪も少し遅れて出てくる、白いワイシャツに紺色のロングスカート、肩から革のショルダーバックを掛け、空とは逆に、いつも短く結んでいる髪は伸ばしている。


「なんか……お前ら女の子なんだ――グェ!」


 空と吹雪のダブルラリアットを食らって、俺は後方に吹き飛んだ。


「失礼しちゃうね」


 空はにこにこしながらこっちを見る。


 その笑みが怖いです……。


「どうだった? 美少女二人のラリアットは」


 俺は手をぴらぴらしながら降参を示し、立ち上がる。


「飯、行くぞ」


 俺は気を取り直して階段を下る。


 今居る階は四階、食堂は一階にある、この寮は六階建てで、二階から五階が宿泊場、一階が売店と食堂、六階が風呂と遊技場になっている。


「お、圭じゃないか」


 食堂に行くと、久しい顔があった。


「あ、有馬さんたちじゃないですか」


 圭は衛生兵で、兵の健康管理も行っていたりするので、別に食堂を手伝っていてもそこまで不思議ではないな……。

 

「『明石』はいつ降りたんだ?」

「ほんの数日前ですね、明石が、「陸の上の研究所に用があるから、暫く『明石』は動かさないにゃ、圭は適当な所で暇をつぶしておくといいにゃ」って、言われて、しょうがないので各部署の手伝いをすることになり、今日は偶々ここになったんです」


 明石も自由な奴だなぁ。

 圭が昨日まで食堂で見れなかった理由はそうゆう事か。


「久しぶりだね圭」

「久しぶり圭」


 空と吹雪も挨拶して食券を買う、俺も食券を購入し圭に渡す。


「いただきました、できたらお呼びしますね」


 時間的に、食堂には誰もいない、俺達はカウンターに近い位置に座った。


「ねえ、研究所ってどこにあるの?」


 空は俺に聞く、俺はスマホで地図を見せる。


「ここどこ?」


 俺はガクッと体を崩し話す。


「栃木県宇都宮、俺の地元だ」


 吹雪は微笑して言う。


「栃木ねえ」

「なんか文句あんのか」

 

 宇都宮には、航空隊の大規模な練習設備がある北宇都宮駐屯所があり、その隣には、富士重工工場がある。


「北宇都宮駐屯所の隣にある、富士重工工場の中に研究所があるみたいでな、そこに行けとのご命令だ」


 フーンと二人は適当にうなずき、カウンターに目をやる。


「そろそろ取り行かないと」


 カウンターには二つお盆が並んでいた。

 俺は朝定食を頼んだ、今日のメニューは生姜焼きみたいだな。


「空と吹雪はなにを頼んだんだ?」

「私はうどん」


 空は、俺のお盆の隣にあるお盆を指さす、小ぶりな器の中に麺が入っている、サイズ的に小か並みたいだ。


「まあ空は小食だからな」


 吹雪の皿はまだできていないのか、お盆がない、少し待ってみると。


「吹雪さんお待たせしました」


 圭が両手に皿を抱えて奥から出てくる。


「げ!」


 吹雪が頼んだものは。


「牛丼と海鮮丼って……金もカロリーも惜しみないな」


 朝から豪贅な食事、というか丼もの二つってどうなのよ?


「これだけ食べないと動けないの」


 吹雪は凄い勢いで牛丼をほおばる、そんな様子を、空は凝視していた。


「空?」


 俺が尋ねて、吹雪と空を交互に見る。


「あれだけ食べれば私も……いや薬の力が……」


 空は、身長的には吹雪より十センチほど小さい、胸部は……見た感じ、圧倒的に吹雪のが大きい、それには、あえて触れないでおくとしよう、ネタにしたら殺されそうだし。




「ごちそうさまでした」


 俺たちは、それぞれ食べ終わってお盆を片付ける。

 圭とは、配置が根本的に違うので、あまり会う機会はないが、大和348部隊メンバーとして、会いに行くのも良いだろう。


 ……348部隊は、もう全員揃うことはないのだが。


「さて、行こうか」


 俺達は寮を出て駐車場に向かう、無料で貸し出されている車に乗り込み、エンジンをかける。


 車の免許やバイクの免許は、軍に入る時、必ず取らされる、俺は15で訓練兵になったから、その年に、免許を取る訓練を行った。

 戦場で乗り物を使う機会が多いからだと思うが、さすがに、15歳の子に車の運転させるのはどうかと思うぞ?


「じゃあ行くぞ」


 俺は久しぶりの車に緊張しつつ、アクセルを踏み込み、宇都宮に向かった。




「ねえ有馬」


 高速道路を走行中、八王子に入るあたりで、空が俺に聞いてきた。


「なんだ」

「なんで有馬って軍に入ったの?」


 空は、窓の外を眺めながら聞いてくる、吹雪はスマホをいじっているようだ。


「俺の親父が自衛隊だったからだぞ」


 俺が答えると、空は即座に否定する。


「それだけじゃないよね」


 俺はミラーで空の顔を確認する、真剣な表情だ、吹雪も興味を持ったのか、話を聞く態勢になる。


「嘘はつけないか……」


 空は間髪入れずに答える。


「有馬の軍艦に対する知識、作戦の組み方、そしてなにより、なんであんなに、大和とすぐに仲良くなれたの?」

「確かに、普通、あんな異常な存在とすぐに打ち解けられるのはおかしいよね」


 吹雪も聞きだした。

 異常とは人聞きの悪い、不思議な存在と言ってほしいものだ。


「俺の祖先は軍人だった」


 俺は、ここで隠すのも意味がないと思い、全てを話すことを決めた。


「帝国海軍所属、有馬宋一郎大尉、戦艦『大和』の乗員で、最後まで『大和』の水上特攻をやめるよう、長官たちのところに言っていたらしい」


 空と吹雪は、何も言わずに耳を傾ける。


「その人は、本部に知り合いが多く、作戦の組み方や、作戦の報告書を、内緒で読ませてもらっていたらしくてな、その時の記録が残っているから、俺は作戦を練る時、スムーズに立てられるんだ、様々な情況でのお手本があるからな」

「なるほどね、今までの作戦はその作戦の応用だったわけだ」


 吹雪はそう言った、まあそれで間違いではない。

 俺の作戦は、よく見ると、全て過去の戦いから得た教訓や、うまくいったものを、少し、今風に改変しただけだ。

 それに、祖先が残した記録には、実際には行われなかった、会議で案に上がった作戦の記録もあった、それらの問題点を、今の技術で解消し、使うこともできる訳だ。


「幻滅したか?」

「まさか、その作戦に救われてきたのは事実だし、完全にまねできるものじゃないと思うよ」


 吹雪は、そう言って話を続けるよう促す。


「その人の記録に書いてあったんだ……『大和』に乗れと」


 私が生きている間に『大和』と名のつく艦が活躍することはない、だが絶対に、日本は『大和』という艦が必要になる時がくる。

 その時の『大和』は、戦艦ではないかもしれない、だが『大和』は、今一度海に浮かび日本を背負う日が来る、その時は、我が家系の者が、その艦を動かす存在である事を願う。


 記録書の一番後ろには、そう書き記されていた。


「なるほど、それでWSのことをきっかけに、軍に入ったんだね」


 空は一人、納得したようにうなずく。


「ああそうだ、俺は、この人の期待に応えるために、軍に入って、『大和』の乗員になれるよう努力した」


 まさかそんな中、砲撃長になるとは思わなかったが……。 


 そんなことを言っている間に、目的地に着いた。


「大和を抵抗なく受け入れられた理由は、自分でもよく分からないが、きっと、何か血筋が覚えていたんだろうな」


 最後にそう付け足し、俺達は車を降りた。


 現在、12時40分、WS先行研究所。

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