有馬のバカ
現在、04時22分、敵ロケット車輌を発見。
俺はそこに止まる車に走るが、上部機銃がこちらをむいたのを目に捉えた。
「ッツ! ばれたか!」
俺は発射される前に、左に転がり岩陰に隠れる。
『ⅯP40』のセーフティーを外し廃莢カバーを開ける、岩の陰から銃口を突き出し発射、様子を窺う。
上部機銃が二つ、正面機銃が一つ、上部の機銃は円盤式の弾倉を持つ機銃の用で、装弾数の多い、継戦能力の高い機銃みたいだ。
それを確認した俺は、まずは上部機銃の射撃手二人を狙って引き金を引く。
軽快な音を立てて9ミリ弾が連射され、ガギンガギンと金属音を立て射撃主の体を貫く。
二体とも機械歩兵だったため、悲鳴の代わりに金属が砕ける音があたりに響く。
二体の機械歩兵が動きを止めたのを確認し車輛に近づくが、エンジンが動き正面をこちらに向ける。
俺は滑り込んで正面機銃を避けながら、死角に入り込む。
「痛って……」
俺の肩に一発が直撃し、血が流れる。
だが気にしている暇はない、手榴弾のピンを抜き信管を起動させる。
それをロケット発射の筒に入れ、再びさっきの岩陰に走る、後ろから襲う機銃が当たらないことを願って。
「ガッ!」
しかし、そんな上手くはいかなかった。
岩陰に滑り込む寸前、右脇腹を数発の機銃弾を食らった。
「クッソ、痛えな……」
そんなことをぼやくのと、背後の爆発は同じタイミングで起こった。
「とりあえず、俺の勝ちかな?」
そう言って、俺は岩陰から立ち上がる。
車輛はロケット弾に引火し大爆発、真っ黒こげだ。
それを確認し、戦車トーチカのところに戻るため引き返した。
「早く……『ティーガー』に戻らなくては……」
しかしその道は行きとは違い果てしなく遠く感じる。
一歩一歩、重い足を引きずりながら前に進もうとするが力がうまく入らない。
「血が止まらない……せめて包帯、出来れば止血剤持ってくればよかったな」
意識がはっきりしない、脇腹に食らったのが響いているな……。
そんなことを考えて歩いていると、俺の背後に数量の車輌が並び、俺を照明灯で照らす。
ああ、俺もここまでか……。
「すまない」
俺は誰かにそう告げ、敵の数発の機銃弾を背中に受け止める。
その瞬間俺の意識は急激に暗転していった、だが目はつぶれない、何故か完全に意識が飛ばない。
随分しぶとい体だだと、そう思った。
「何がすまんよ! 有馬のバカ!」
私は通信機で吹雪に知らせてから、全速力で丘を駆け下りる。
どうしてそうやって一人でやろうとするの、どうして私を頼ってくれないの?
私が有馬のところに着いた時、有馬の後ろに数台の車輌が並んでいた。
「あり……ま……」
私は背中を貫かれ地面に倒れこむ有馬を見て、崩れ落ちる。
有馬は倒れてピクリとも動かない、倒れた周辺の砂は、有馬の血で赤く染まっている、それを無機質な鉄の塊に着く探照灯が照らす。
「……いや、いやだ……」
私が呼吸を荒げる中車輌から数名の兵士が降りてくる、機械じゃない、人だ。
「こいつ、あれじゃねえか?」
日本語……WASには日本人もいるのか。
「ああ、凛司令官とアリア司令官が言っていた、有馬勇儀っていうやつだな」
そう言って、その男は有馬の頭を掴み持ち上げる。
サワルナ。
「こいつ生きてねえか?」
ワタシノアリマニ。
「ほんとだ、こいつを司令官に渡したらいい報酬が期待できそうだな」
キタナイテデ……。
「ともかく、籠ってる戦車たちを倒したら渡しにい……」
「さわるなああああああああああ!」
私は腰に差しておいたナイフを抜いて、二人の男に跳びかかる。
「なんだ!」
男は私に『MP5』サブマシンガンを向けるが、発射する前に私はその男の手首を切りつける。
このナイフはウルツァイト窒化ホウ素と呼ばれる、世界最高硬度を誇る物質を使ったものであり、鉄製ナイフの数十倍の切れ味を誇り人の骨さえ簡単に切断する。
今戦う相手のほとんどが機械であることから、通常のナイフでは歯が立たないのでは? と考えられ、このナイフが兵には支給された。
そんなナイフで切りつけた兵の手首は、きれいに骨ごと切断される。
「うわああああ!」
もう片方の男が同じく『MP5』を乱射するが、私は手首を切った男の体を持ち上げそれを盾にする。
男が撃ちきったタイミングで落ちている『MP5』を拾いあげ、リロードしようとする敵めがけて撃ち込む。
その後、戦車が動く前に私はポーチにしまっておいた『Ⅽ4』の小型爆弾を取り出す。
「これ、あげる」
私は一両の戦車に『Ⅽ4』爆弾を放り投げ、有馬を担ぐ、そして。
「死ね」
『Ⅽ4』を起爆した。
その爆発に戦車たちが混乱している間に、私はその場を離れ、機銃陣地あたりまで後退する。
周辺に敵兵がいないことを確認した後、有馬を地面に寝かせ、軽い防弾チョッキを外す。
数発は抑えられたみたいだけど、やっぱり戦車に着く7,92ミリを完全に受け止めることはできないみたいでいくつか穴が開いている。
あそこにいた戦車が、現代車輌じゃなくてよかった……。
「お願いだから死なないで……」
私はいつも持ち歩く水筒で血を洗い、手巾でふき取る。
出血が多い部位は右脇腹と右肩、左胸の下あたり。
「私にはこれくらいしかできないけど……」
私はポッケに入っている携帯の包帯を取りだす。
私はよく怪我をする、それに包帯はいろんなときに使えるからどの服を着ている時でも、大抵ポッケに入っている。
「死なないで……お願いだから……」
私はさっきからずっとこの言葉を繰り返す、私の生きる理由が私より早く死んでどうするのよ……。
「目を覚ましてよ……」
後ろではトーチカとしてこもりながら、戦車達が奮戦しているはず……今のうちに『ティーガー』に帰ろう、そうすればしばらくは耐えられるはずだから……。
有馬が死んだらすべて終わる。
ここで有馬が死んで日本に帰った所で、私が軍にいる理由もなくなるし、そもそも桜日軍のWSたちが動かなくなる可能性だってある……。
有馬は良くも悪くも、WSたちに好かれすぎた。
そんなことを考えて立ち上がると私を二つの光が照らした、一つは朝焼け、一つは車輌につく探照灯……。
「どんだけいるのよ」
敵戦車二輌、歩兵輸送用トラック五輌、装甲車八輌、有馬を担いで逃げるのは多分無理。
じゃあ、戦うしかないのかな……。
「……これ、使うしかないかな」
私は、ペンダントに入った赤い薬品を取り出す。
これを使えばおそらく有馬は助かる、でも、私が人としてこれからを生きて行けるかは分からない。
私が、その小瓶に手をかけたとき。
「こちら大和艦橋、これより艦砲射撃による攻撃を始める、至急撤退せよ!」
有馬の無線機から流れた声を聴いて、私は手を止めた。
有馬はここぞとばかりに体を起こし、攻撃目標を意味する信号弾を打ち上げ、どこからか取り出したスモークグレネードを投げる。
有馬が倒れそうになるのを支え、歩き出そうとすると、「乗れ!」と叫びながら、ティーガーが現れ、上から吹雪かひょっこりと顔を出した。
「まだ死なれると困るんだけど」
そう吹雪は言った、俺は朦朧とする意識の中戦車に乗り込んだ。
直後、空中を砲弾が駆けた。
しかしその砲弾は、46センチの砲弾だけではなかった。
「あれは……」
俺は何とか天蓋から顔を出し、双眼鏡で海を見る。
そこには『大和』を筆頭として、軽巡洋艦『阿武隈』『矢矧』、駆逐艦『雪風』『吹雪』と並び、あの時持ち帰ったキューブのWSである『扶桑』『三笠』までもが艦砲射撃を行い、『瑞鶴』の艦上機が上空から爆撃を行っていた。
「すごい……」
ただそれだけ、たったその一言だけ俺は言葉を零した。
艦とはこんなにも美しく、頼もしい存在だったか……。
久しぶりに見る艦たちは頼もしく、勇ましく、そして何より――――
―――――とても、美しかった。
9月8日、05時03分、連合艦隊砲戦部隊、香港港に到着、艦砲射撃を実施。
戦車は『ティーガー』と『T―34』だけ回収、それ以外は破棄、人員は輸送艇『まつ』にて本土へ、『まつ』が出港してから一日後に連合艦隊出港、日本に帰投する。
俺は『まつ』に揺らされる間、ずっと医務室にこもっていた。
医者曰く、「なんで貴方生きてるんですか?」とのこと。
9月11日、07時32分、俺達は日本、横須賀新連合艦隊本部に到着した、そのころには、俺の傷もほとんど治っていた。
まだ連合艦隊は日本についていない、きっと今頃、領海に入る手前で洋上補給でもしてもらっているのだろう。
そして現在、9月14日、09時13分。
俺たちは、宿舎にて指示を待っている、艦隊は今日中には合流するだろう。
中国奪還作戦報告書
詳細人員不明。※途中、鉄血と北欧の戦車部隊が合流したため。
使用兵器
『BT』戦車、四輌撃破。
『sdkfz234プーマ』、四輌撃破。
『Ⅳ号』戦車、撃破。
『74式』戦車、一輌撃破。
『T―34』中破。
『ティーガー』小破。
『ウェイザー』装甲戦闘列車。
結果的にインド軍は数千名の救助に成功、しかし中国領土の奪還は失敗、味方戦車部隊を壊滅近くまで追い込まれる。
敵幹部一人との交戦、名前はヴェレッタ・アリア、使用機は『Ⅰ―932鋼ノ翼』であった。
『Ⅳ号』戦車のWSから『ティーガー』に変化、『紫電』を頼んだはずが『震電』が届くという事故、各兵の兵器に対する知識量を上げるべきかもしれない。




