生きて帰る
現在、02時24分。
俺たちは軍港に着くなり、野砲、機銃をかき集めた。
それらを軍港入り口手前に、門のように存在していた二つの丘に設置し、防衛用の陣形を汲み待機していた。
この防衛砦での最大の利点は、『クロコダイル』の火炎放射器が使われないということだ。
『クロコダイル』の『チャーチル』と大きく違う点は、対人武装として火炎放射器が乗っているということで、火炎放射器は歩兵や戦車をクロコダイルに近づけなければ、その強みは発揮されない。
この陣地なら、直接戦車同士でタイマンを張らなくてもいいため、『クロコダイル』の強みを発揮させずに済む。
「がんばって三十分の間にこれだけ用意したけど、やっぱり問題なのは人手の少なさだよね」
空が、双眼鏡で辺りを見渡しながら言う。
「そうだな……硫黄島風に、この防御陣形を引いたけど、兵が付いていない配置があるからな」
俺たちは、片端から使えるものを探しかき集めた。
して集まった武装は、八センチ野砲が八つ、12、7ミリ固定機銃座が八つ、25ミリ単装対空機銃が三つ、対戦車地雷、ダイナマイトがいくつか。
そして『BT』二輌『プーマ』二輌『74式』『ティーガー』『T―34』の、戦車トーチカで防衛線を築いたが、機銃座はほとんど人がいない。
作戦としてはまず野砲をありったけ打ち込み車両を撃破、野砲が壊されるか歩兵部隊が進軍してくるようなら機銃座に乗り換え、制圧。
それでもダメな場合は戦車トーチカに入り、副武装である機銃と上部に着く機銃、さらには拳銃、予備のSMGで撃退する。
暫く双眼鏡で敵の姿を探していたが、大量に舞い上がり出した土煙を見て、来たことを認識する。
「お、あの土煙……お出でなすったか!」
俺と空は丘から飛び降り、『ティーガー』の中に居る吹雪に通達する。
「全軍に打電、作戦開始!」
そう言って、俺と空は携帯用の無線機を担ぎ、左右に分かれる。
俺は左翼、空は右翼の指揮を執る、機銃群が突破されたら合流し、『ティーガー』に向かう手筈だ。
それで吹雪だが、あいつはクラスE、つまり後方向けの兵になっているため『ティーガー』の中で、艦隊から無線が来ないか待ってもらっている。
「頼むぜ、みんな……」
そう俺は呟き、双眼鏡でもう一度敵の位置を確認する。
あと少しで地雷を埋めたあたりだ、そこを通過した証拠に爆発が起きたのなら、砲撃開始の合図を送る……。
「お、踏んだな……」
大きな土煙と爆発音が響きわたる、そしてその爆発を耐えるか、その後方から進軍してくる敵の車輌軍を確認すると。
「ファイア!」
そう、砲撃開始を合図する。
その瞬間野砲八門が火を噴き、通過した敵戦車組を襲う、敵が発砲する前にさらに一発。
砲弾の装填に手慣れているのか撃つ間隔が早い。
急いで砲塔を回し、撃ちだした敵車輌の砲弾は野砲陣地から逸れ土煙を上げるだけだが、野砲隊の砲弾は確実に戦車に打撃を与えている、すでに数輌敵の戦車、輸送車両が足を止めている。
だが、敵も素人ではない。
「そろそろ当たるな……」
敵の砲弾も、だんだん野砲周辺に落ちるようになってきていた。
現在、03時02分。
しばらく砲撃戦が続いていたが。
「食らったか!」
遂に野砲の一門に当たり、大爆発を起こす、俺はそれを見て「チェンジ!」と下令する。
最後に一発撃ち、弾薬を置いておいた場所にダイナマイトを仕掛けさせる。
それが終わった兵たちは、少し丘を登ったところにある機銃群にとりつく、ここで輸送車両と歩兵の動きを封じ込める。
敵輸送車両は野砲が襲ってこないことに気付いたのか、速度を上げて陣地に近づき、野砲陣地を超えようとした瞬間に。
「ファイヤ!」
二度目の攻撃開始を下令する。
その瞬間、仕掛けておいたダイナマイトが起爆され、砲弾の火薬の力も借りて敵軽車輌を吹き飛ばした。
やっぱ火力は正義だな。
「できればここで時間を稼ぎたいんだが……」
機銃群では主に敵歩兵と軽車輌を25ミリと固定機銃で抑え、後方の戦車トーチカで敵戦車組を抑える計算だ。
「やっぱり対空機銃は対人、対車輌に対しても万能だな」
25ミリの火筒が軽車輌を襲い、それが途切れると、今度は細いが大量の12,7ミリ弾が歩兵を襲う。
時折、戦車が砲撃を行いながら前へ出てくるが、そんなものには戦車トーチカたちの一斉射を浴びせる、これなら重戦車だろうと一瞬で鉄屑に変わる。
「これなら、一時間程度耐えられるかな……」
俺は、そんな希望を抱きながら戦況を見守る。
しかし数分経って、空から嫌な通信が入った。
「有馬! そっちにロケット武装の車輌がいる!」
そう言われ、双眼鏡を奥に向ける。
そうすると確かにそこには、兵員輸送用トラックの周りに発射筒をまとわりつけるロケット車輌が向ってきていた。
「まずいな……」
戦車の射線が通らない……全弾撃ち尽くされるまで、耐えきれるだろうか。
「……そんなの……無理だよな……」
俺は空中に舞い踊る、数十本のロケット弾を見て確信する。
次の瞬間、機銃群はあらかた薙ぎ倒された。
「ッ! 一撃で!」
さっきまで盛んだった火筒は、今や半分まで数を落とした。
これを好機と言わんばかりに敵は進軍を続ける。
俺はそれを見て、これ以上は死者が増えるだけと判断、後退命令を出した。
「チェンジ!」
俺は急いで下令する。
このままでは、ロケット弾と歩兵に蹂躙されるだけだ。
「有馬、私、先に下がるから、早く合流してね」
そう空から無線が入る。
「でもロケット車輌を放置したら……」
「有馬?」
「……空、すまん」
「え、ちょっと、有馬? 有馬⁉」
そう無線から声が聞こえるが、俺は無視し丘を駆け下りる。
『ティーガー』の中に備え付けられていた、予備の『MP40』といつも携帯している手榴弾二つを抱えて。
「たとえ死んでも守り通して見せる……すまないな、空、大和、生きて帰るってお前らと約束したのに、守れそうにない」
生きて帰るとは言ったけど、どうやら命を懸けて戦わなくてはいけないらしい。
「それでも、死にたくはないがな」
俺は敵車輌部隊の死角を進み、敵の後方に向かった。




