本当の姿
現在、9月7日、22時57分。
「どうする、このまま逃げ続けてもいずれ追い付かれる、そもそも香港についても艦隊が来るまでかなり時間がかかる……」
その間に襲われたら逃げることもできない、逃げ回り続けてもいずれ燃料が底を尽きる。
「どうすれば………」
俺は地図を凝視しながら考える。
現在、こちらの戦力は『T―34』一輌、『74式』一輌、『BT』二輌、『プーマ』二輌、そして『ティーガー』一輌。
この『ティーガー』がWSの記憶を持ち、自分で動くことができたならまだ希望はあるかもしれないが……。
「……ねえ、有馬」
空が顔を上げる、さっきから何かを考えていたようだが……。
「なんだ、なにか思いついたのか?」
「ほんとに『ティーガー』と『ビスマルク』のキューブって壊れたのかな?」
何を急に。
「そう電報で言ってたじゃないか、空襲で研究所が燃やされたって」
「でも、Ⅳ号は気にしなくていいって言ってたじゃん? それで私、気になってkarに聞いてみたんだ……kar?」
そう空が呼びかけて、後ろに置いてあるライフルを持ち出す。
そうすると、淡い光とともにkarの姿が現れる。
「ああ、鉄血はWSのキューブを保管所ではなく、兵器に入れて保管しているんだ」
兵器に入れて保管?
「WSのキューブは基本的に、その兵器でなくとも似たものなら接続することが可能だ、それは知っているな?」
ああ、まあそれは説明で聞いた、だから零は『零戦』だけじゃなく、『零観』や『二式水戦』にも乗り込めるのだ。
「鉄血はそれを使い、重要な兵器は本体ではなくほかの兵器にキューブを入れて保管していた、私もそのうちの一つだ……そこで、だ」
karは、俺のポッケの中に入っていたキューブを取り出す。
「このキューブ、本当は『ティーガー』のものなんじゃないかってことだ」
俺は赤く点滅するキューブを見つめる、今は声すらも聞こえない。
「『Ⅳ号戦車』、それは『ティーガー』である『Ⅵ号戦車』より先に生まれ、活躍したドイツ戦車達の基礎を築き上げた車輌、関連性は強いはずだ」
karの話を一通り聞き終え、考察する。
壊された『ビスマルク』と『ティーガー』のキューブ、保管用の体……保管場所は兵器……。
「その話が正しいとして、『ビスマルク』のキューブはどこにしまったんだろ?」
吹雪が頭をひねる。
「それなら姉妹艦の『ティルピッツ』だろ、あれならノルウェーの警戒に当たらせているらしいから空襲を受けないだろうし……」
空襲を受けない?
俺は、自身の言葉にどこか引っかかりを覚える。
「戦車は北に持っていくことや輸送船に入れておくのはもったいない、でも基地の近くに配備させれば空襲を受ける可能性がある……じゃあドイツの外に出しておけばいい、でも無駄にほかの国に渡して、そこが空襲を受けたら元も子もない……」
じゃあどうする? 空襲を受けない、または受けても被害を受けにくい場所……。
「アメリカ……そうか、そう言う事か!」
俺はすべて納得した。
なぜドイツはアメリカに『Ⅳ号戦車』を渡したのか、なぜこのスピード重視の電撃作戦に、重戦車である『ティーガー』を出したのか。
「それは全て今この時、『ティーガー』を復活させるためだったのか……全く、いつの時代でもドイツは頭がきれるみたいだな」
俺がそう一人で納得すると、全員が首をかしげる。
karもだ。
いやお前は分かれよ……。
「おそらく鉄血は、戦車のWSを作っていた時から、モスクワ大空襲のような空襲を受けることを警戒していた、だからいつでも動かし、空襲を避けれるようキューブを一定の場所に置かず、他の兵器の中に保管したんだ」
そのなかでも有力な『ビスマルク』『ティーガー』はより厳重に。
「『ビスマルク』は『ティルピッツ』に入れ北に向かわせることで空襲を避けた、ドイツ本土には僅かしか海に面していない、だから空襲の飛び火を受けることはないだろう、しかし戦車は? ドイツの誇りである戦車を周辺の国に配備したとなれば皆疑問に思うだろう、だから、たとえ渡ったことが分かっても何の疑問も抱かない国に渡し、守ってもらおうと考えたんだ」
そこで空が手を叩く。
「なるほど、だからジェット機の代価としてアメリカに!」
俺は頷く。
「そうだ、相手が軍事力一位であるアメリカなら戦力増強のために買収しても不思議ではないし、万が一空襲を受けても守り切れると考えたんだろう」
それで、戦車のWSが『Ⅿ4A2』までしかできていなっかったアメリカは、『Ⅳ号戦車』を戦車部隊の主軸としてハワイ奪還に送った。
まあその後、『Ⅳ号』を桜日が引き受けたのは想定外だったと思うが……。
桜日には俺がWSに対して、特殊な能力を持っていることを知っていた上層部が黙認したのかもしれないな。
「そして、日本がインド兵の救助に戦車を使うと聞いて『Ⅳ号戦車』が出ると考えたドイツは、全てが終わった後に『Ⅳ号戦車』を回収し、『ティーガー』を復活させるつもりだったのかもしれない」
そう言うと、これまで黙って聞いていたルカがブレーキをかける。
「行って来い、勝てる可能性があるならそれを全て試すべきだ」
ルカが運転席から外に出る。
「『BT』の一輌を鉄血の戦車乗りに貸す、お前らはティーガーに乗ってこい」
そう言って、無線機を『BT』の一輌に繋いだ。
「ルカ……感謝する」
おれはそう言って『T―34』を降りた。
「なあに、いいってことよ」
ルカはそう言って、ニカッと笑う。
俺、空、吹雪はティーガーに向かった。
俺たちが『ティーガー』にたどり着くと、中から『BT』に移ろうとしていた乗組員が降りてきて、こちらを見る。
皆顔を見合わせ、「Überlasst euch den Tiger」そう言った。
俺は、その言葉の意味を理解することはできなかった、しかし乗組員たちの顔を見る限り、きっと分かってくれたのだと思う。
karが言っていたが、ドイツはWSの声について全兵士に話しているらしい、だからこの兵士たちも、『ティーガー』の魂のことは知っているはずだ。
ちなみに、他国でもWSの声のことは話す手順が進んでいる。
「ダンケ」
俺はそんな兵士たちにドイツ語で感謝を伝え『ティーガー』に乗り込む、そして砲塔付近にあると思われるキューブの接続口を探す。
「あった」
俺は突起を見つけ、小さな蓋を開ける。
そこにはちょうど、キューブが収まりそうな凹みが存在していた。
「入れるぞ……」
俺は二人と顔を見合わせ、ゆっくりとその凹みにキューブをはめ込んだ。
「起きてくれティーガー、お前の力が必要なんだ」
はめ込むと、キューブの赤い点滅が収まり、暖かなオレンジ色に変わる。
「やはり、こちらの方が馴染むな」
その声とともに姿を現したのは、Ⅳ号だった。
「Ⅳ号……今はティーガーか」
俺はその兵器の名前を呼ぶ。
世界最強にして戦車の王、88ミリ砲はどんな車両の装甲も突き抜け、全面100ミリの装甲は、どんな砲弾をも受け止める。
そんな戦車が、今俺たちの目の前で蘇った。
「……すまない」
ティーガーは、急に頭を下げる。
「ど、どうした?」
俺はティーガーが頭を下げたことに驚いた、あれだけプライドが高く威厳を保っていた存在が、急に頭を下げたのだ。
「私は、お前たちの親友を守ることができなかった」
俺たち三人は黙り込む。
そんなことを言われても……。
「こんなことを言っても何にもならないのは分かっている、しかし謝らないわけにはいかないのだ……」
俺たちの中にしばし沈黙が流れる、その沈黙をティーガーは再び破った。
「航大が死ぬ前に言っていた、もし生きていたら有馬たちに伝えてくれ、と」
ティーガーは顔を上げ、俺たちと目を合わせ、航大の最後の言葉を口にした。
「死ぬなよ……そう航大は言っていた、またお前に会えたら言ってくれと、そう言って航大は目を閉じた」
俺はその言葉を聞いて、大きく息を吐き目を閉じる。
数秒間俺は何も言わず、黙ったまま思考を巡らせ覚悟を決める。
「……仇はとるからな」
そう言って、俺はティーガーに乗せられている通信機に手を伸ばす。
「何をするの?」
吹雪が俺の手をつかみ、それを制止する。
「『大和』に遠距離通信を入れる」
目的地である香港の海岸、および元港に着く推定時間が明日の午前二時、だが『大和』たちがそこに着くのは午前七時。
この五時間の間にこちらが全滅する可能性が極めて高い、だからできるだけ早く来てもらうように、遠距離通信を送るのだ。
「分かってるの? ここで遠距離通信を繋げば、敵に今居る位置が露呈するのよ?」
そうだろうな、無線のハッキングを簡単に行える奴等だ、簡単に発信源を突き止められるだろう。
でもそんなことをしなくても、いずれ見つかる。
ほんとは衛星通信でしっかり話をしたいが、それでは確実にバレるため、まだ逆探知されにくいが、会話ができない遠距離通信で『大和』に呼びかけるのだ。
「それでも俺は勝てる可能性がある方にかける、ここで静かに待っていてもいずれは見つかる、それなら少しでも生存率が上がる方を選択する」
俺はそう言って、吹雪の手を払った。
「まあそうだよね……私は、有馬の案に賛成だなぁ」
空がそう言って、砲手の席に着く。
「私は逃げて死ぬんじゃなくて、皆のために戦って死にたいよ」
その言葉にティーガーは。
「安心しろ、絶対に死なせはしない、先に逝った航大の為にもお前たちを死なせはしない」
戦車の王がこう言っているのを聞くと、とても心強い。
俺は『74式』の乗員とルカに通信を入れ、事情を話した。
「――――と、言う事なんだが、最後まで着いてきてもらえるだろうか?」
そう聞くと、二つの戦車から同じ言葉が帰ってきた。
「「もちろんだ」」
俺はその返答に感動し、涙を堪えた。
俺の指揮下に入ってくれた人たちは、なぜこんなにも良い人ばかりなのだろう。
その後、ロシア兵にはルカから、ドイツ兵にはティーガーから事情を話してもらい納得してくれた。
軽戦車たちの足なら逃げ切ることもできるかもしれないが、最後まで一緒に戦う選択をしてくれたことは、感謝に耐えない。
「それじゃあ……繋ぐぞ」
各戦車はすでにエンジンをかけており、すぐにでも動き出せる状態になっている、そんな中、俺が遠距離通信を繋ぐ。
通信が終わった瞬間一斉に動きだし、回り道なしに港に向かう、その港は軍港のため防御設備も整っているはずだ、そこで敵の襲撃に備える。
『74式』の乗組員によると敵は戦車だけでなく、輸送車両も率いていたらしいから、対歩兵用の兵器もある軍港で敵車輌を迎え撃つことにしたのだ。
しかしそれは、逃げ場を完全になくすこととイコールだった。
「こちら中国に展開中の電です、現在集合予定地に向かって進行中ですが、敵戦車率いる大隊に襲われ壊滅寸前です……できる限り、できる限り早く来てくれ……頼む……」
そう最後に付け加えて、無線を切った。
その直後『ティーガー』が走り出す。
少し吹雪に魔改造してもらって、燃料の消費を早くする代わり最高速度を上げてもらった。
「お前の改造の腕には感服だよ、本当に」
それを聞いて、吹雪は得意そうにレンチを回す。
「まあね、戦車の改造はしたことなかったけど、燃料消費を代償に速度を速めるやり方はどんな乗り物でも一緒だから、意外とできたよ」
「一緒だとしても、普通はできないものだ」
ティーガーの冷静な一言に、俺と空は軽く笑い、吹雪は首を捻った。
————これから地獄の防衛線が控えているというのに
みんなの会話の雰囲気は、いつも通りだった。




