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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
亜細亜電撃作戦編
43/340

電力重戦車『ティノザウリア』


「一段落ってことだな」


 ルカがハンドルから手を放し、背筋を伸ばす。


「有馬、部下はどうだ?」


 俺は双眼鏡で『チャーチル』の方を確認する。


 車体全体にいくつものへこみと焦げた跡が残り、動きを止める『チャーチル』と、それを取り囲む『BT』の姿があった。

 三輌だったはずだが、少し離れたところに一両が横転して火を上げている、やられたみたいだな。


「『BT』戦車二輌が健在で一輌は……火を上げている、『チャーチル』は沈黙したみたいだな」

「……死んだか」


 あの炎じゃ脱出は無理だ、焼かれる前に、爆発で死んだことを祈ろう。


「さて、『チャーチル』と『スコルピオン』は撃破、『ハウンド』に関しては見るまでもないな」


 こちらからでもわかるほど轟々と炎を上げる『ハウンド』、その中心で『ティーガー』は静かに立ち止まっている。

 炎に囲まれ静かに敵の動きを待つその姿は、ベルリン陥落時、最前線で街を守り続けた姿、資料によく記された『虎』の姿によく似ていた。


「で、『バレンタイン』だけど」


 俺は双眼鏡を向け直す。


「まあ、上々か」


 流石に『74式』一輌で四輌を守るのは無理があったらしく、『プーマ』二輌が動きを止めている。

 しかし『バレンタイン』五輌はきちんと火が上がり、撃破していることを示していた。


「吹雪、通信機の様子はどうだ?」


 俺が中に戻り聞いてみるが、吹雪は首を振る。


「だめ、うんともすんとも言わない、『ティノザウリア』はまだ健在みたい」


 航大が心配だな……。


「空、殻薬莢を捨てるぞ、ルカ、それが終わったらⅣ号の援護に向かう」

「「了解」」


 そう言って、俺と空は作業を始める。


「吹雪は引き続き通信機の様子を見といてくれ、なんかあったらすぐに教えろ」

「はいはい、わかってますよー」




 向こうで戦車たちの砲声が聞こえる中、『Ⅳ号』戦車は、何発も砲弾をかすりながら、かろうじてエネルギー弾だけは避けていた。


「くっそ! あいつ装填早すぎないか!」


 俺は装填を行いスコープを覗く、そうするとまたもや砲弾が飛んでくる。

 今回の弾は、確実に『Ⅳ号』をとらえた。


「ック!」


 Ⅳ号から声が漏れる。


「どこに当たった⁉」

「砲塔左側面だ、垂直にこの弾をくらったら抜かれるな」


 俺はその言葉を聞いて寒気が走る。


 まだ、死にたくはないなぁ。


「航大良く聞け! チャンスは一回、敵がエネルギー弾を撃ったら全速力で敵に向かう、お前は敵が次弾を撃つ前に、エネルギー弾の砲身を叩き折れ!」

「分かった、丸焦げごめんだからな!」


 俺は装填を終えスコープを覗く、その瞬間敵の下の砲塔が青白く光る。


「来るぞ!」


 そう叫ぶ。

 すると車体が大きく揺れ、それと同時に、右やや後方にエネルギー弾が着弾し、スパークが起こる。


「構えろ!」


 Ⅳ号はそう叫ぶと同時に、ギアをフルスロットルまで上げ、『ティノザウリア』に接近する。

 俺は照準の真ん中に、独特な見た目の砲身をとらえて引き金を引いた。


「命中!」


 ほぼ零距離から飛翔した弾は、きれいに砲身を吹き飛ばした。


「もういっちょ!」


 そう叫びながら俺はもう一発、零距離から砲塔側面から叩き込む。

 鈍い音が響いて数秒後に砲塔が爆発、上部構造が空中に舞い上がり、大きな炎を上げた。


「……終わったな」


 俺は詰まっていた息を吐きだし、脱力する。


「ああ、なかなかに強敵だったな……これが大戦中に出ていたら、大層な被害を受けたことだろう……」


 俺とⅣ号はもう一度、大きく息を吐きだす。


「って、こんなことをしている場合ではない、早く大隊と合流するぞ」


 Ⅳ号がそう言ってアクセルを踏む。


「そうだな、さっさと勇儀たちと合流して香港に向かおう」


 強敵倒したんだし、懸賞金でもくれないかなぁ……。

 『ティノザウリア』の残骸の横を通り過ぎると、それが牽引していた発電機を見つけたが、気にするわけでもなくただぼーっとしながら戦車を走らせていた。




 しばらく戦車を走らせていると。


「お? どうした勇儀、今終わったから合流しようとし……」

「逃げろ!」

「え?」


 俺はその言葉の意味を理解する前に意識が途切れる。

 

 途切れる寸前に俺は、装甲に開いた穴から見ることができた。

 ――――『チャーチル』型戦車が、こちらに砲身を向けていたのを。




その出来事は一瞬だった。


「ん? 『74式』から……」


 そう言って吹雪は、通信機に入った言葉をスピーカーで流す。


「こちら『74式』三号車、そちらに向かう戦車部隊を発見! 敵20輌以上、筆頭車輌……『チャーチルクロコダイル』!」


 その報告を聞き終え、俺が勢いよく天蓋を開け双眼鏡で辺りを見渡すと、

『Ⅳ号』がこちらに向かって来るが見え、その左側に奴の姿が見えた。


「『クロコダイル』!」


 その戦車の砲塔はゆっくりと旋回し、航大の乗る『Ⅳ号』をとらえる。


 俺は、吹雪から通信機を分捕り叫ぶ。


「逃げろ!」


 それと同時に、『クロコダイル』の砲塔から、75ミリの砲弾が発射された。


 俺は、体中の激痛を抑えながら目を開けた。

 左側の装甲が打ち抜かれていたが反対側は貫通していない、撃たれたのは対戦車榴弾っぽいな……。

 弾薬庫にも飛び火しているはず、もうすぐ爆発するかもしれない。


「あれだけでも……」


 俺は立ち上がろうと足に力を込める、しかし。


「あ……下半身飛んだか……通りで感覚ないわけだ……」


 俺は無い足に力を籠めるわけにもいかないので、手で何とか体をずらし、砲塔に手をかけケースを開ける。

 そこには、温かいオレンジ色の光を放つキューブが格納されていた。


「お前はまだ生きてるな……」


 俺はそのキューブを握りしめる、これだけでも外に出さないと。


「ダメだ……もう、どこにも力が入らん……」


 せめてキューブさえ無事なら……。


「はは……もう、何も見えないな……ちくしょう、もっと……生きてたかったなぁ……」


 俺は、最後の力を振り絞ってキューブに話しかける。


「なあⅣ号、もし勇儀たちに会えたら伝えてくれ……死ぬなよって―――」


 目を瞑る。

 目の前には何も見えないはずなのに、なぜか温かい光を感じる。

 とてもとても気持ちがいい、体がふわりと浮かぶような感覚があり、力を入れずとも体が持ち上がる。


 これが死ぬって感覚なんだな……。


 だが一つだけその光を遮る影があった、それは妹の―――





 砲弾は今、確実に『Ⅳ号』戦車を突き抜けた、つまり航大のことを……。


「ルカ、空、『クロコダイル』を引き離せ! 吹雪、ついてこい!」


 俺と吹雪は戦車から飛び出し『Ⅳ号』に向かって走る。

 途中『クロコダイル』の火炎放射器がこちらをむいたが、『T―34』が割込み砲撃、『クロコダイル』の気をそらした。

 

 その間に、俺たちは『Ⅳ号』戦車に上る。

 俺は黒く焦げ付いた天幕を、少し熱いのを我慢しながら開ける。


「こう……だい……」


 戦車の中には、腰から下が吹き飛んだ航大の姿があった。

 しかし血が流れていない、傷口をよく見たらすべて焼けてふさがっていた、飛び散った肉片と鮮血もだいたいが焦げ付き、強烈な臭いを放っていた。


「うっ、オェエェ!」


 吹雪はその様子を見て、すぐに戦車から降りた。

 俺は吹雪がうずくまっているのを横目に戦車の中に入る、当たり前だが、中は外から嗅ぐよりも、ひどい匂いだった。

 だが俺にはそんなこと気にならない、俺の目に入っているのは航大の死体だけ、感じているのは生々しい人間の「死」だけだ。


「航大……お前は……」


 俺は航大の首筋に手を当ててみる。

 知っているはずなのに、もう航大が生きていないことぐらい……。


「これは?」


 俺は、航大の手に握られているキューブに目が留まった。


「キューブが赤い……」


 キューブはいつも優しいオレンジ色だったはず……なぜこんなにも激しく、真っ赤に点滅しているんだ?

 俺は外に出る。

 吹雪はまだ吐き気を抑えきれずにいるのか、うずくまっている。


「有馬、吹雪! 早く乗って!」


 空が上から叫ぶ、俺は吹雪の手を引き戦車の中に戻る。


「ルカ、全速前進、香港方面に逃げるぞ」


 俺がそう言うと、ルカは何も言わずに戦車を進めた。

 誰も何も言わずにいる、吹雪は通信機の前でうずくまり、空とルカは冷たい目をしていた、まるで全てはいつも通りと言わんばかりだ。


「……有馬、戦争を続けるなら、大切な仲間が死ぬ瞬間を何度でも見ることになる、だからな……」

 

 ルカはこちらの目を、真っすぐに見据えて言う。


「今のうちは悔やんでおけ、いずれ涙さえ流れなくなるからな」


 二人はいったい、ロシアで何を見てきたのだろうか。

 この年でいったい何を見てきたというのか……俺が解るはずもなかった。


「ああ、すまないな……」


 俺はそう言って天蓋を開け外に出る。

 沈みかけた日と上り始めた月星達を見つめていると、自然と目じりは熱くなった。


「ああ、あぁ」


その熱さが限界に達した時、俺は心から叫んだ。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は叫ぶ、もう会えない親友のことを思って。

 戦争で人が死ぬのは当たり前で、348部隊を組んだ時から覚悟はしていた、この中で誰かが死ぬことを。


 それでも、数分前まで話していた、大切な仲間が死ぬところを見るのは耐えられないよう。


    

      ――――こんなにも、こんなにも胸が苦しく―――――のだから。


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