鉄騎兵たちの舞
現在、9月7日、15時45分、作戦思考中。
「で、どうすればいい?」
「少し待て、今考えてるんだ……」
航大は無線機越しで俺に聞いてくる。
敵の数は十三、味方の数は十三だったがさっきの奇襲で『74式』が一輌撃破、先行させていた『BT』もいつの間にか撃破されていたため十一。
現在はこちらが数的不利だ。
「だがこちらには『ティーガー』がいるから……『ティーガー』を先行させて様子見、『ハウンド』が出てくるようならそのまま潰してもらって、重戦車が出てくるなら後退しながらダメージを与えてもらう……ともかく、いかに『ティーガー』を使うかが大切だ……」
そう呟きながら、指先で地図をなぞる。
この一帯は、市街地ではなく農村地帯のため畑や獣道が続くばかりで、壁にできるような建物は存在していない。
「そしてこっちは『プーマ』四輌と『74式』を向かわせるか……『74式』のAPFSDFなら、戦中戦車ぐらい軽く破れる」
『74式』は現主力ではないとは言え、『10式』が十分な数揃うまで主力だった戦車だ、WSに比べれば性能は勝る。
相手が中戦車となればなおさらだ。
「それで、残りの『T―34』と『BT』戦車、それと航大の乗る『Ⅳ号』戦車を出す、これで重戦車三輌を徹底的に叩く、この方針で行こう」
俺は通信機の向こうに居る航大に伝え、『T―34』の中に入る。
そこでは運転席にルカ、砲撃手席に空、通信手席に吹雪が座る、俺は車掌席だ。
この『T―34』はルカが自分で改良したらしく、一人でも操縦、射撃、装填ができるようになっているらしい。
現在のロシアMBTは、装填・射撃を全自動で行えるため、これくらいの改良は朝飯前だろう。
「さて、俺たちの目標は『スコルピオン』だ、気を引き締めて行こう、吹雪、全部隊に打電、全軍『ティーガー』に続け」
「了解、全軍『ティーガー』に続け、打電します」
それを受け戦車たちは陣形を組み始める、今回は『ティーガー』を信頼しているからこそできる作戦だ、陣形はこうなっている。
Ⅳ号 BT
T34 BT BT
正面 ティー
74式 38T 38T
38T 38T
正面の『ティーガー』が、突っ込んで来る『スタッグハウンド』を一身に引き受け、後ろから詰めてくると思われる、中、重戦車を二部隊で分かれ各個撃破を狙う。
「『ティーガー』より打電……何これ?」
吹雪が首をひねる、それを見て、ルカが答える。
「ああ、それはドイツの暗号文だな……敵車輌を見つけたみたいだぞ」
それを聞いて、吹雪が頷く。
「あれドイツの暗号文なのに、なんでルカさんは読めるの?」
吹雪が問い返す。
「ヨーロッパの国の連中と仕事をしたとき困るからって、本土の情報課に、無理矢理勉強させられたのさ」
ドイツの暗号電文、ロシアに筒抜けなのか? それとも共有しているのか?
まあ、そんなことを今考えている余裕はないのだが……。
「そんな悠長なこと言ってないで、早く散開の打電してくれ」
俺が呆れ半分に言うと、吹雪は「はーい」と返事をして通信機に向き直る。
「全部隊に打電、全軍突撃セヨ!」
吹雪は全軍突撃を意味する、ト連送を全車輛に打電する。
「さて、俺たちも分離だルカ、頼むぞ」
そう言うと、操縦席に座るルカはぐっと親指を突き立てる。
「空、敵の『スコルピオン』は固い、装甲が薄いエンジン付近と車体下部を狙い続けろ」
「あいよ、任せておいて」
で、俺は吹雪に無線機を借りて、航大に繋ぐ。
「おーい生きてるか~」
「うるせえ! 戦ってもいないのに死ぬか!」
相変わらず威勢のいいこった。
「はいはい、そっちの『ティノザウリア』は強敵だ、いくらⅣ号がいるからって油断すんなよ」
「分かってる、そっちこそ油断して頭ぶち抜かれましたじゃ困るかんな」
「へえへえ、分かってるよ」
俺はそう言って通信を切る。
その直後前方で、発砲音と甲高い金属音が響いた。
「お、『ティーガー』が始めたみたいだな」
軽快な発砲音は『ハウンド』の発砲音、甲高い金属音は、その弾を『ティーガー』の装甲が弾く音だ。
俺の予想通り『ハウンド』が先行してくれたおかげで、『ティーガー』をぶつけることができ、数的不利を覆すことができそうだ。
「そんなちんけな砲で、天下の『ティーガー』さまの装甲が抜けると思うな!」
ゆっくりと『ティーガー』は前に進む、余裕と貫禄を醸し出しながら。
「砲手、確実に仕留めろ」
『ティーガー』の目的は『ハウンド』の標的となること、それを果たすために、あえてゆっくりゆっくりと動いているのだ。
「復活してからの第一射目、じっくりと味わえ!」
そう砲手が言って引き金を引く。
撃ちだされたアハトアハトの砲弾は、高速で動き回る『ハウンド』に吸い込まれていく。
「命中! 撃破だ!」
命中した砲弾は『ハウンド』の装甲をぶち抜き、内部から根こそぎ爆発させた。
「このままいくぞ!」
「さすが『ティーガー』、『ハウンド』なんかじゃ相手にならんな」
Ⅳ号はそう呟く。
やはり同じドイツ戦車として、何か感じるものがあるのだろうか?
「俺たちの目標は重戦車だが……まだ見えないな」
「当たり前だ、敵重戦車は本陣、そうほいほいと前線にはでてこないはずだ」
そんなことを話していると、『ティーガー』よりも遠い位置で、鋭い発射音が聞こえる。
「対中戦車組も始めたな」
この鋭い発射音は『74式』戦車のものだな。
今の陸自主力、『10式』戦車の旧式車輌だが、アナログから発揮される安定性は決して引けを取らず、絶対的な強さを発揮する。
「行くぞ! 戦車小隊、久しぶりの『74式』だ!」
いつもは『10式』に乗っている乗員たちだが、今回の作戦で用意されたものは『74式』だったため、乗員にとっては久しぶりの乗車だった。
「照準よーし!」
砲手がそう叫ぶ。
「よーし、お久しぶりの105ミリ砲弾、しかと味わえ!」
パシュンと鋭い音で発射された砲弾は、勢いよく『バレンタイン』に向かっていき側面装甲を貫徹、そのまま弾薬を誘爆させた。
「命中! 老兵舐めんなよ!」
その後ろからは『プーマ』の援護射撃が飛ぶ。
これによって、『74式』に照準を合わせていた『バレンタイン』が動き、照準を狂わせる。
「逃がさねえぞ」
砲塔を旋回させ、照準器の中心に『バレンタイン』を押さえる。
「もっぱつもってけ!」
再び105ミリの鋭い砲弾が、『バレンタイン』を襲った。
さて、向こうは大丈夫だな。
俺は双眼鏡で状況を確認して、そう確信する。
「で、こっちだが」
俺は通信機を取る、ザザーと砂嵐のような音が聞こえる。
「航大……だ……で……け」
勇儀からの通信は途切れ途切れになっている。
これは……。
「すぐ近くに奴がいるな」
Ⅳ号が言った直後、車体のすぐ脇にエネルギー弾が着弾した。
「あっぶね!」
俺は砲塔のスコープを覗き込み敵影を確認する。
その直後発射炎が上がった。
「Ⅳ号! 左に切れ!」
俺がそう叫ぶと車体が大きく左にそれ、その直後戦車のすぐ右脇に土煙が上がる。
「Ⅳ号、そのまま左に流れて勇儀たちから『ティノザウリア』を引き離す」
俺がそう言うと、Ⅳ号は左に車体をそらしながら。
「分かっている、こいつは俺達だけで片付けるぞ」
「航大は『ティノザウリア』のタゲを取ってくれているみたいだな」
俺は頭を出して、双眼鏡を覗きながら言う。
「『BT』も散開して『チャーチル』に向かった、私たちは『スコルピオン』に集中できるぞ」
ルカがそう言いながらハンドルを右に切る。
『BT』が全速で前に出て『チャーチル』に向かっていく、左方向には『Ⅳ号』を追いかける『ティノザウリア』。
『Ⅳ号』を『ティノザウリア』が追うのは予想済みだった。
『ティノザウリア』はおそらく敵部隊での最高火力、狙うならば一番新しい『74式』、もしくはWSの最強格である『ティーガー』。
そして、WSの魂が入った『Ⅳ号』、このどれか。
現在『ティノザウリア』の前に立っているのは『Ⅳ号』、なら素直に『Ⅳ号』を追うのが妥当だと敵も考えたのだろう。
「さて、そろそろ良いか」
ルカはギアを下げ、速度をやや落としながら反転すると、こちらを追いかけてきた『スコルピオン』の砲塔と向かい合う。
「勝負開始だな」
俺がそう呟くと、互いの砲塔からほぼ同サイズの砲弾が撃ちだされ、互いの左右に着弾する。
それを合図に互いの車輌は動き出す。
こちらは中戦車、スコルピオンは重戦車、のはずなんだが、敵も動きはそれなりに軽快だ。
「ルカ、そのまま左に回りながら、敵の背後をついてくれ」
俺は頭だけ車輌から出し、状況を把握する。
「空はそのまま砲撃続行」
空は何も言わない、集中しているのだろう。
そんな中、敵の砲弾が『T―34』の正面装甲を叩く。
「うお! あぶねえ、敵弾、砲塔左正面に命中、だが弾いた!」
俺がそう報告すると、空が血相変えて叫ぶ。
「有馬! 頭下げて! 死ぬよ⁉」
どうやら心配してくれてるようだ。
「大丈夫だ! お、敵の履帯付近に命中!」
俺がそう空に伝える。
そうするとわずかに砲塔が動き三発目、徹甲榴弾が敵のエンジンにめがけて飛んでいく。
「さすがに一発じゃあ止まらないか」
俺は煙を上げる『スコルピオン』を眺めながら呟く、その証拠にまだ、敵の砲塔は動いている。
「ルカ、側面に回り込め、多分あいつはもう動けない」
「了解」
ただそれだけルカは返し、アクセルを踏み込む。
砲塔がこちらを追従しようと回転するが、車輛の動きに完全にはついていけない。
「これでーおっしまい!」
そう空が叫び引き金を引く、撃ちだされた砲弾はすぐに敵車輌に着弾した。
「命中確認、敵撃破だな」
今度は砲塔側面を抜き、射撃系統をぶち壊したのか、完全に『スコルピオン』は動きを止めた。
その頃、同じく舞を終えた鋼鉄の騎兵たちは、静かに砲身を下に向け、後一輌の舞が終るのを静かに待っていた。




