唸れ、『震電』!
俺がそう吹雪に伝えると、吹雪は機体を大きくバンクさせ、18気筒のエンジン音を響かせる。
「私が対応する! 有馬は輸送機を安全に着陸させて!」
隼では、スピードが足らな過ぎて援護に行けない、今はそれしかないようだ。
「油断するなよ!」
俺はそう残し、流れ弾が当たらないうちに降下、『Ⅽ1』に着陸態勢を取らせる。
無事車輪を下ろし着陸できたのを確認して、俺は今一度高度を上げる。
そこでは吹雪の乗る『震電』と、おそらくあの金髪の幹部、ヴェレッタ・マリアが乗るであろう『鋼ノ翼』が空戦を繰り広げていた。
「なんなのこの機体!」
私は、零とは少し違う操縦桿を振り回しながら敵弾を避けていた。
「『震電』の高速変態機動についてこれるなんて……」
下手に速度を落とすと一気に距離を詰めらる。
だからと言って暖降下しながら直線で飛んだとしても、一向に距離を離すことができない、これでは墜ちるのも時間の問題……。
そんなことを考えていると、急に無線機に声が入った。
「有馬?」
私は有馬が何か言おうとしたのかと思い無線に答える、しかしそこから聞こえたのは有馬の声ではなかった。
「はあ~い、はじめまして、吹雪ちゃん」
私はその声に寒気がし、後ろを振り返ると、『鋼ノ翼』のコックピットに乗る女の姿が一瞬だけ見えた。
「なんの用?」
私がそう言うと、無線の奥でくすくすと笑う声が聞える。
「そんなに怒らないで、私的にあなたに興味があるからこうやってお話しにきたの」
何がお話だ。
「じゃあお話してあげるから、機銃撃つのやめてくれない?」
「それは無理よ」
会話を続けながらも、後ろからは赤い火筒が飛翔する。
「貴方の空戦技術なら、私に勝つことも容易だと思うけど」
「お褒めに預かり光栄ね」
私は、適当にそうあしらいながら会話を続けているが、女は上機嫌に話し続ける。
正直めんどくさい。
「ねえ、いい加減貴方の目的を教えてくれない? その感じだと、そっちの燃料尽きかけでしょ」
私が戦いながら敵の姿を見る限り、『鋼の翼』はジェット機黎明期のようなエンジンを積んだ機体だ。
羽の薄さからおそらく翼内には燃料タンクを積んでいない。
いくら大きい機体とは言え、機首に大口径機銃二丁、翼に中口径機銃四丁の機銃を装備している。
それなりに撃たれ続けているが一向に敵の弾が尽きる気配がないことから、おそらく胴体内に多く弾を積載していると考えられる。
以上のことから、敵の機体は燃料積載量が少ないと見積もったのだ。
「ふふふ……流石、ね……やっぱり、貴方は早く墜とさなくちゃみたいね」
その言葉と共に、背後から異様なほどの殺気を感じた。
「さあ、踊りましょう」
そうして無線機が切れると、今までよりも太く見える火筒がコックピットの横をすり抜けた。
おそらく、機首に着く30ミリ機銃だ。
「やってやろうじゃないの!」
そう言って、私はエンジンスロットをフルに稼働させ急上昇する。
『震電』の機動力では、ドッグファイトで勝つことはできない。
なら『震電』の高高度性能、上昇力を信じ、急上昇で勝負を決める
「あがれええええ!」
私は、自身にかかるGに耐えながら急上昇を始める。
後ろからは『鋼ノ翼』もその急上昇に追従を始める、時折機銃弾が機体を掠めるが、ビビらずに上昇を続ける。
高度計を見る暇もなくエンジンが悲鳴を上げ始めた。
「頑張れ! それでも18気筒過給機付きエンジンか!」
私がそう怒鳴りながら、過給機を二速に切り換える。
後ろを振り返ると、『鋼ノ翼』は推力に限界が来たのか反転を試みていた。
「うおりゃあああああああああああ!」
私は『震電』最大の強みである、縦方向の急反転を行う。
耐Gスーツを着ていても体が潰されるような感覚、それでも私は歯を食いしばってGに耐えながら急反転を行い、照準を『鋼ノ翼』に合わせる。
この空戦で起こる一瞬のチャンス、無駄にはしない!
「墜ちろおおおおおお!」
私は引き金を引く。
30ミリ機銃四丁の火力、とくと味わえ!
「やっ……てない⁉」
私は、降下しながら敵機の姿を見る。
30ミリ機銃を数十秒間撃ち込んだつもりだったが、途中で異音がしたかと思えば弾が発射され無くなり、若干の損害を与えただけにとどまった。
た、弾詰まり⁉
「もー! ここに! 来てまで! 弾詰まりとか! 信じらんない!」
私は、ゲシゲシとコックピットの壁を蹴る。
「んふふふふ、ここまでみたいね……それじゃあ、またの機会にお相手を頼むわ~それじゃあねぇ~」
その言葉通り、敵機はエンジンをさらに加速させ、一直線に戦場を離脱する。
「逃げた……てゆうかあの加速なによ……補助エンジンでもついてんの?」
私は、そうため息交じりに呟いて低空に戻っていった。
ん? そう言えば、さっきからエンジンの音が聞こえない。
「あれ、エンジンが止まってる……」
よく見ると、後方のエンジンが煙を吐いて、今にもプロペラが動きをとめそ……。
「あ、プロペラも止まった……」
あれ、これまずくない?
「ぎゃああああああ、墜ちるううううううう!」
『震電』のコックピットに、私の悲鳴が響き渡ったのだった、まあ、結局余力で飛んで、着陸できたんだけどね。
「まったく、お前ってやつは……」
俺たちは『Ⅳ号』戦車に乗り込んで、第三目標に向かっていた。
「いきなり最新機を壊すなんて、報告書になんて書けばいいんだよ」
俺は頭を抱える。
吹雪の乗った『震電』は、空中で数発敵弾を受けプロペラの欠損。
さらに、高高度での急反転でエンジンに多大な負荷がかかり、エンジンの停止。
安定しない状況での着陸による足周りへの負荷、そして弾詰まり、結果撃破判定、本土で早急に修復されるらしい。
全く、折角の最新機が……。
「そう言えば航大、報告聞いてなかったな」
運転席に座りハンドルを握る航大の方へ、視線を向ける。
「まあ概ね何もなかったよ、こいつと航空支援のおかげでな」
航大は、空を指さし言う。
まあた空がなんかしたのか……。
「こいつが一人で突っ込んで、敵歩兵殲滅してくれたからな、ほとんど戦車部隊は何もしてないんだよ」
通りでほとんど『Ⅳ号』の弾薬が減ってないわけだ。
「敵の数はそんなに多くなかったし、航空支援のおかげでだいぶ戦車も破壊されてたからね、楽勝だよ」
空はにししと笑った。
「空がドイツに居たら……」
『Ⅳ号』がぶつぶつとつぶやく。
「空は桜日の歩兵だからな、いくら同盟国でも渡せないぞ」
そう俺は、『Ⅳ号』に言う。
「分かっている、ただでさえ桜日は歩兵が足りてないのだ、引き抜くことはせん」
分かってらっしゃる。
「お、本国から衛星通信入ったよ」
吹雪が通信機のダイヤルを回し、周波数を合わせると通信機から声が聞こえる。
「桜日本部より電へ、応答せよ」
「こちら電隊長車輌、どうぞ」
電とは、インドへ派兵された俺たちの戦車小隊の名称だ。
「観測衛星からの情報を伝える、敵戦車部隊とみられる部隊が香港に向かう、戦車中隊、機動戦闘車輛五、中戦車五、重戦車三」
続々と敵の情報が読み上げられる。
観測衛星とはその名の通り、宇宙に設置された地上観測用の衛星で、逐次情報が本部へと送られている。
ちなみに衛星通信は、観測衛星とは別の衛星を経由して、地球上のどこでも通信が行えるようになっている。
「それぞれ、『スタッグハウンド』『バレンタインⅦ』『チャーチル』、以上ロイヤルの車輌、『スコルピオン』、以上WASの車輌」
どうやら、航空隊が確認した車輌たちの用だ。
「それと、正体不明の『チャーチル』に酷似した重戦車、砲塔が上下に二つと、背中に『クロコダイル』のガスボンベのようなものを抱えているものが存在、警戒を、以上、通信終わり」
ブツリと通信が切れる。
砲塔が上下に二本……そんな戦車いるのか?
「Ⅳ号、何か知っているか?」
そう聞くと、何やら渋い声で答えが得られた。
「『ティノザウリア』重戦車」
なんだ、それ……聞いたことないな。
「もともと我らドイツが研究していたエネルギー弾、それをイギリスが真似し、設計した砲を『チャーチル』に乗せた戦車だ、基本性能は変わらなかったはずだ」
俺たちは息を飲む。
エネルギー弾って……ドイツ、何作ろうとしてたんだよ……。
「で、その『ティノザウリア』は倒せるのか?」
俺は、一番大事な部分を聞いてみる。
これが分からないと戦い方が定まらない。
「勝てないわけじゃない……基本性能は『チャーチル』と変わらないからな、しかしエネルギー砲から撃ち出されるエネルギー弾は強力だ」
エネルギー弾、もはやSFの域に到達してるな。
「あれは砲弾を飛ばすのではなく、電気エネルギーを球状にして打ち出すため、装甲関係なくエンジンを爆発させ車輛を破壊する。他にも、周辺の磁場が狂うため通信機器に異常をきたす場合があるな」
話を聞いていると、通信機から砂嵐のような音が響く。
「そう、ちょうど近くに居るとこんな感じに通信機器が……近くに居るぞ!」
俺はその『Ⅳ号』の声を聴いて、天蓋を開け拡声器で怒鳴る。
「各車両! 厳重警戒! 敵、エネルギー弾を持つ『チャーチル』型戦車!」
現在の陣形は三列の複縦陣で、俺たちの位置は中前方。
T34 プーマ BT 74式
正面 Ⅳ号 プーマ BT プーマ
ティー プーマ BT 74式
残りの『BT』戦車一輌は先行してもらい、前方の警戒に当たってもらっている。
俺がさっき拡声器で言ったことが聞こえていたのか、他戦車からも一人ずつ頭を出し、拡声器で後ろに伝えていた。
現在、9月7日、14時03分。
俺達は、そいつの姿をとらえた。
「見つけた!」
俺は双眼鏡で、こちらに向かってくる『チャーチル』に似た異形の戦車を見つけた。
その後ろには、二輌の『バレンタイン』を連れている、三輌だけで先行してきたようだ。
「撃ってくるぞ!」
双眼鏡の先で一本の砲が、青白くスパークを起すのが見えた。
その直後、青白い球は砲弾よりやや遅い速度で飛翔し、一番後方にいた『74式』に命中した。
瞬間『74式』の動きが止まる。
しばらくは何も外傷がなかったが、数秒後、後方のエンジンが大爆発を起した。
「ツ! 全速前進! 全速で逃げるぞ!」
いくら旧式とは言え、1974年から現役だった陸自の戦車を吹き飛ばしたところを見て俺はそう航大に叫び、拡声器で後ろに響かせる。
「振り落とされるなよ!」
そう言って、航大はアクセルを最大まで踏み込み、『Ⅳ号』戦車は加速していく。
――――砲身から、白い煙を上げている、
『ティノザウリア』を背中においたまま。




