お堀埋め
現在、9月7日、18時03分、時速45キロ相当で進行中。
天眼山に向かって進行中の『ウェイザー』を中心に、戦車が二分割し左右を守る、さっきみたいな強襲が来てもすぐに対応できるようにだ。
「なあkar、なんでロイヤルが攻撃してきたと思う?」
俺は空の愛銃に聞いてみた。
karはインドに向かう前に鉄血に連絡を入れていた、なにか知っているのか感づいているのだろうと思い聞いてみた。
「ああ、たぶんだが」
karは俺に一枚の電文を渡す。
「これは、クロイツの暗号電文か?」
そう聞くと、karは頷く。
「その内容はこうだ『ロイヤルが内部から分裂、北部がWASに寝返りWSを独占している状態にある、南部はかろうじて耐えているが落ちるのも時間の問題、それと戦車大隊がそっちに向う』と、そう書いてある」
中国に続けてイギリスも落ちたと。
「なぜイギリスまで……」
karはふんと鼻を鳴らす。
「あんな紅茶勢のことなんかわからねえよ」
karの時代、ドイツとイギリスは犬猿の仲だったからな、無理もないか。
「とにかく私から言えるのは、イギリスの戦車に気をつけろってことだ、もうあいつらは味方じゃない、敵だ」
そう言って姿を消し、そこには木製で時代を感じる銃身だけが残る。
「ロイヤルの戦車か」
あんまりイギリス陸軍の兵装知らないんだよな……。
WSで『スタッグハウンド』『バレンタイン』『マルチダ』『チャーチル』等がいるのは知っているが、現在の兵装はあまり……詳しくない。
「ただドイツが言った、戦車大隊というのはおそらく、WSの大隊だろうな」
ロイヤルからわざわざそんな大出費してまで最新の戦車を持ってくるとは思いにくい、おそらくWAS側が鹵獲したロイヤルの戦車が大陸に派遣され、こちらに向ってきているのだと思う。
それなら、今居るWSの戦車たちでも対抗可能だと思うが……問題が一つ。
日本から持ってきた簡易生産用の『74式』二輌『Ⅳ号』一輌、クロイツの『プーマ』四輌『ティーガー』一輌、北欧の『BT』四輌『T―34』一輌で合計十三輌。
しかも装甲列車に随伴できるように『プーマ』は装輪戦闘車、『BT』は高速戦車のため砲火力は小さく、装甲は厚くない。
そんな部隊で敵戦車と正面から撃ち合うのはよろしくない、何か考えておかないといけないか……。
「karとの話は終わった?」
空が自身の愛銃を回収しに来た。
空から少し借りて話していたのだ。
「ああ終わった、ありがとな」
そう言って、俺はkarの銃身を空に渡す。
「うん、karはいろんなことを教えてくれるから、私はずっとkarと一緒にいるの、有馬も話をいっぱい聞くと良いよ、きっと何かに役に立つから」
そんな風に空は言う。
「じゃあ、karあるとこに空ありってか?」
「そうだね、私がいるところには絶対karがいるし、karがいるところには大体私がいる」
そこから俺は、空のじゃれ合いに付き合い時間を潰していた。
現在、18時34分。
車内は、ピリピリとした空気に包まれている。
「あと三分か」
第一目標がもう見えている、各員配置につき機銃と小銃を手にしている、設置されている砲塔と機銃も左右に旋回し、体制を整える。
今から行うのは敵の防衛線の突破だ、インド軍を包囲しているところに突っ込んで打撃を与えて包囲網を崩壊させ、撤退のための道を確保する。
「目標まであと三十秒」
俺がそう伝えると、空は車内放送で全員に指示を出す。
「窓開けろ! 射撃準備!」
俺達は一番車輌に着く側面機銃を持つ。
「三、二、一、撃ち方はじめ!」
その一声と同時に車輌から大量の火筒が吹き出し、防衛線を築いていた敵歩兵、敵人形兵を薙ぎ払っていく。
数秒間隔で撃ちだされる砲弾は地面をえぐり、火柱を上げる。
ただ引き金を引くだけでいい、ただそれだけで敵は倒れてくれる、時速40キロ近くで走行する列車の穴という穴から掃射が行われる。
撃ち始めて数秒後に、列車は急ブレーキをかけ、敵の陣地のど真ん中で停車する、この間に、線路のあたり一帯に敷かれた陣地を破壊する。
のぞき窓が小さいから外の様子はあまり分からないが、金属が砕ける音や人の悲鳴が聞こえるところから、しっかり被害は受けているようだ。
「まさに弾幕の嵐だな」
俺はそうぼそりとつぶやいた。
撃っている間、車輛は火に包まれているかのように明るかった。
「撃ち方やめ」
空がそう言うまで、車内には機銃の発射音と空薬莢が転がる音が続いていた。
時折、敵側の銃弾が装甲を叩く音がしたが砲声は確認できず、急な襲撃に上手く反撃できなかったのだろう。
「突破は成功かな」
そう空がこぼす。
まあ、ぱっと見ただけだと機銃をひたすら撃ち続けただけだが、十分な打撃は入っただろう。
その証拠に、いまだに列車は鎮座しているが、敵からの攻撃は飛んでこない。
「本題はここからなんだよな」
このあと、集合地点にインド軍が何人残っているか……天眼山にはなんども榴弾砲での制圧射撃が行われていたらしいが……。
そんなことを考えていると、列車は汽笛を上げ再び走り出した。
突破から数十分後、集合地点に着いたはいいがインド兵の姿が見当たらない、予定時刻より少し早いからか?
「ん? おい、誰かこっちに向かってくるぞ」
誰かの言葉にヒンディーさんは窓から外を見つめ、その人影を兵だと確認するといそいそと車輌から降り、向かってくる兵に歩み寄ってきた。
「――――――?」
そうヒンディーさんは声をかける、俺達四人も列車を降り近づく。
他の兵は窓から外の様子を眺めている。
おそらくヒンドゥー語と思われる言語で喋っているから、何を言っているのか全く分からないが、その兵の姿はボロボロで服に焦げ跡が残っている。
話が終わると、ヒンディーさんはその兵を列車に乗せ、俺たちの方へ向かう。
「報告をそのまま話します……我ら天眼山守備隊は撤退途中、ロイヤル所属と見れる戦車部隊と接触、味方かと思い近づいたら発砲、よく見るとロイヤルのマークであるライオンの顔ではなくWASのボルトのマークだったのを確認。応戦するも無念の撤退、しかし敵戦車部隊はそれを追跡、ここまで連れてくるわけにはいかないと、生き残っていた872人全員で総攻撃、結果……」
言いにくそうに手を握りしめながら、ヒンディーさんは言葉を続ける。
「結果861人死亡、残りの11人は、私を含めここに集合中……とのことです」
俺だけでなく、客車に乗る日本兵たちは息を飲んだ。
インドの兵たちだって素人ではない、歩兵のみでの対戦車戦闘も行えるだろう、だがそれを全滅させるだけの戦車隊とは……数か、それとも質か……。
「……終わってしまったことを悔やむ時間はありません、次の場所の兵たちはまだ生きていることを願って次に行きましょう」
そうヒンディーさんは言う。
この人は司令として正しい判断を下したのだと思う、しかし、顔は悔しさで歪んでいた。
「もっと早く、撤退命令を出せていたら……」
そう、ヒンディーさんは絞り出すような声で呟いた。
現在、9月7日、23時24分。
あの後、遅れて合流した10人を列車に乗せ、次の目標に向かって、再び列車を走らせていて、俺は一人、今日の作戦をまとめていた。
「畜生、もっと早くたどり着けていれば」
俺は、ヒンディーさんはと同じようなことをぼやく。
そんな俺の背中を勢いよく一人の手が叩いた。
「いったあ!」
振り返ると、航大が立っていた。
「そんなくよくよすんな、戦線長官さまよ」
「いったい何の用だ?」
俺は報告書を書く手を止めず聞く。
「いい知らせと悪い知らせを持ってきた、どっちから聞きたい?」
なんちゅうベタな質問の仕方だ、もっと工夫した聞き方はできないのか?
「じゃあ悪い方から」
俺は、報告書を書く手を止め航大に向き直る。
「悪い方だな、えっと……敵戦車部隊が香港方面に向かっているらしい、こちらに向かう輸送機の部隊が発見した」
そう言って、俺に一枚の紙を差し出した。
紙とセットになっていた写真には、敵戦車大隊の姿が映り、紙には詳細が書かれていた。
「敵戦車隊ヲ見ユ、重戦車四、中戦車五、機動戦闘車両三、他戦車ヲ発見スル事ハ出来ズ、警戒ヲ怠ルベカラズ……確かによくない情報だな」
俺はその紙を机に置き、もう一度航大の方へ向き直る。
「で、いい知らせは?」
航大が「おう」と言って、もう一枚の紙を差し出す。
それは大和から送られた電文だった。
「お前の大事な部下の一人は無事だってよ」
俺はその電文を読む。
「我ノ元、桜花帰還セリ」
たったそれだけの短い文だったが俺はガッツポーズをする。
「航大、このこと吹雪にも知らせたか?」
航大は頷く。
「逆にこの知らせをお前に伝えろと言ってきたのが吹雪だ」
なるほどな。
「さて、知らせを終えた俺は自分の席に戻って寝るが」
扉を開け後ろの客車に移動しようとする前に振り返る。
「無理だけはするなよ」
そう言って航大は出て行った。
「無理するな、か……」
また言われたな……俺はそんなに心配するほど働いていないと思うんだがなぁ。
「俺も寝るか……」
明日は本格的に作戦で動く、休養は十分とっておかないといけないな……。
俺のそんな意志とは反対に、『ウェイザー』の蒸気機関は煙を吐き出しながら、前へ前へと進んでいた。




