対面
「射撃システム良好、砲も凄いいい調子……流石完成型」
艦橋で仁王立ちしながら、射撃を続行する。
「大和お姉ちゃん、凄い。二回ともちゃんと命中してるよ!」
その隣には、紀伊が立っている。私の後方に紀伊が追従する形で、二艦は進んでいる。
紀伊の主砲は、私が装備してしまっているため、存在しない。かく言う私も、紀伊から移行できたのは比較的修理が容易かった二つの砲塔だけで、二基しか装備出来ていない。
「全部紀伊のおかげだよ、ありがとう」
紀伊との戦闘後、私が眠っている間に話は進んでいたようで、紀伊の移行不可能な主砲塔を鋼材に戻して修理へ回され、使えるものはそのまま私に装備された。
勇儀の伝言で、回復次第横須賀へ寄港、指示を待って欲しいと言われていたが、途中で『明石』率いる輸送船団が接触、第一艦隊を支援してほしいと作戦総合本部に頼まれた。だからこうして、『紀伊』を連れたまま、戦闘海域へと突入している。
「紀伊、この前衛艦隊を突破したら、そのまま『大江戸』まで肉薄する。そしたら、後は紀伊の出番だよ」
「分かってます。おじいちゃんを、説得して見せます」
紀伊の追従の目的、それは『大江戸』に載るWASのトップ、松永に攻撃をやめるよう説得するためだ。はっきり言って、『大江戸』への有効打を撃てる兵器が存在していない。だから勇儀は、恐らく松永がかなり大切にしているであろう紀伊を使った説得、というよりもはや人質作戦をとったのだ。
勇儀は、紀伊の言動、温存されて来た状況、紀伊を追いかけるようにしてやってきた『大江戸』を見て、紀伊が大切にされていると判断した。『紀伊』ではない、紀伊が、だ。
「こちら『長門』、大和、聞こえるか?」
「聞こえてるよ、勇儀」
「航空隊が今『大江戸』に到達、攻撃してくれている。敵航空機郡の攻撃も回避できた。これより敵の殲滅にかかる。砲撃を止めて、俺たちとの合流を優先してくれ、他砲戦部隊とお前が集合次第、『大江戸』に挑む。紀伊もいるんだろ?」
「うん、ちゃんと連れてきたよ」
「よし、なら説得の場に敵大将を引きずりだすぞ!」
『大和』の援護射撃と『アトランタ』の防空戦闘のおかげで、大した損害を受けることなくなんとかこの窮地を乗り切った。航空隊の決死の『大江戸』攻撃のおかげもあるだろう。
「第二決戦砲戦部隊、ただ今到着した」
無線と汽笛が同時に聞こえる。第二船速で『長門』を先頭に進んでいた第一決戦砲戦部隊の右隣に、『ビスマルク』率いる隊列が並走する。
「あら、少し遅れちゃったかしら」
「いや、時間通りだ」
「そう、それならよかったわ。防衛砲戦部隊、合流よ」
今度は左隣に、『陸奥』率いる防衛砲戦部隊が展開、三本の単縦陣が並走する。第二決戦砲戦部隊を護衛してきた第一決戦護衛部隊も、一つ後ろを追従する。
「さて、主役は最後の到着だな」
俺の一声に答えるように、重厚な汽笛が海上に響く。
後方より、『大和』『紀伊』が隊へと合流した。
「おまたせ、勇儀」
大和の一声を聞き、俺は全艦へと無線を繋げる。
「各艦聞け、これより俺たちは敵最重要艦『大江戸』、及びWAS指揮官松川へと接触を試みる。おそらく夜戦になるだろう。覚悟していけ! 輪形陣を組むぞ!」
最後に合流した戦艦『大和』『紀伊』二隻を中に置き、周囲を戦艦『長門』『陸奥』『アイオワ』『アリゾナ』『オクチャブリスカヤ・レボリューシア』『ビスマルク』『クイーンエリザベス』で囲う。
そしてさらにそれを囲うように、正方形の四つ角の位置にイージス戦艦『ゆきぐも』『やまと』『メリーランド』『ミズーリ』が展開し、一番外枠に巡洋艦『アトランタ』『プリンツ・オイゲン』『ベルファスト』駆逐艦『タシュケント』『雪風』『時雨』護衛艦『あきづき』『まや』『モスクワ』『ベルリン』が展開する。
総勢23隻の艦隊の展開が終わると、22ノットの船速で、航空部隊が発見した『大江戸』の座標へと向かう。
「大和、調子はどうだ?」
「紀伊の主砲のおかげで、すっごくいいよ」
その間、俺は腕時計を通じて大和との会話に興じた。
「そっか、さっきの援護射撃、凄い精度だったな。それも主砲のおかげか?」
「うん、完成形の51センチ砲は、熱くならないし、しっかり言うことを聞いてくれるから、素直に弾が飛んでくれるんだ」
元気そうな声色に、俺は安堵する。第二次坊ノ岬海戦、東シナ海紀伊決戦と、ボロボロになって帰って来た。普通なら、すでにスクラップにされていてもおかしくないような損害を受けていたが、なんとか修復を繰り返している。
「紀伊とはどうだ、喧嘩してないか?」
「まさか、とってもいい子だよ。勇儀をお兄ちゃんって呼んでることには驚いたけどね」
「はは、そうだな。俺も最初は驚いたよ」
何気ない会話、いつもの俺と大和の会話。戦闘前の俺たちだ。
「後数分で、交戦距離に入る。大和、紀伊によく言っておいてくれ」
「分かった。ちゃんと言っておくよ」
ここまで『紀伊』と合流してから82センチ砲による砲撃は受けなかった。おそらく、向こうは『紀伊』がいることを分かっている。それも、紀伊が大切にされている裏付けだろう。
「全艦、探照灯の用意を。『大江戸』を射程に捉えても、まだ砲を向けるな。発砲する場合は俺が指示を出す」
時刻は20時。すでに日は落ち、辺りは暗い。
「観測機発進、照明弾の用意を!」
夜戦の用意を進める。
「観測機より打電! 前方に艦影発見、5ノットで前進中!」
伝声管を通して観測機の情報が伝わる。いよいよだ。
「大和、紀伊に日本の無線チャンネルを教えてくれ」
「もう教えてあるよ」
ナイスだ大和。
「紀伊、聞こえるか?」
「うん、聞こえるよ」
「目の前まで接近したら、俺たちは『大江戸』を囲うように展開する。そしたら、『大和』を連れて、前に出てくれ。オープンチャンネルで話せば、向こうにもお前の声が聞こえるはずだ」
「分かった、頑張る」
「ああ、おじいちゃんが笑えるよう、頑張ってくれ」
いやな言い回しだ。幼い子の無垢な心を利用しようなんて……。だがそれでも、それを考えなくてはならないほど、強大すぎる敵なのだ。
「指揮官、見えるぞ」
長門の低い声、はっと艦橋の外に目を向けると、観測機から照明弾が投下され、巨大な艦影が闇夜に浮かび上がる。すると全ての艦が探照灯を照射。巨大な82センチ砲が姿を見せ、禍々しいほどに乗せられた46センチ単装砲の副砲群、高角砲と機銃の対空装備郡。
「各艦展開、けして砲は向けるな。まだ、まだ戦ってはだめだ」
その指示でゆっくりと輪形陣が解かれ、『大江戸』を包囲するように各艦艇が広がって行く。
そうして、解かれた陣形の中から二隻が真っすぐ前へと出る。
「ついに御対面だな。『大江戸』」




