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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
相模灘最終決戦編
330/340

守護神の鎮魂

「彼我の距離は!?」

「およそ30キロ!」

「対艦ミサイル、ありったけ放て!」


 まさか、こんなところに『フィラデルフィア』が入り込んでいるとは思わなかった。


「大堀さん、『フィラデルフィア』に対艦ミサイルは……」


 ヨミが無線で話しかけて来る。


「そんなことは分かってる。だが、少しでも気が引けるなら十分だ」

「レーダー上から『いしづち』ロスト! 残りは『三笠』だけです!」

「クソ! もう少し早く駆けつけていれば!」


 とは言え、どうやって『フィラデルフィア』を倒すのか、見当がつかない。『りゅうおう』の20センチ砲で、仕留めることは可能なのか? 魚雷を完璧に弾いてしまうような艦を相手に?


「現在解析を進めています。それまではなんとも」


 俺の思考を読んだのか、ヨミがそう告げる。


「分かった、今は敵の攪乱に専念しよう」

「ミサイル、目標へ到達せず!」

「間髪入れず撃ち続けろ! 各艦、砲戦用意!」


 戦艦こそいないが、俺の『月』艦隊には多数の現代艦艇がいる。それらの命中率と高速性を生かして敵を翻弄する。


「主砲、電探連動用意よし、自動装填システム良好、発射準備よろしい」

「撃ち方はじめ!」

「射撃開始」


 20センチ連装砲二基が、一定間隔で砲撃を始める。それに倣って、航続する艦艇たちも砲撃を始める。

 小口径ではあるが、多数の砲弾が『フィラデルフィア』へと降り注いだ。




同日、13時21分。


「支援艦隊が攻撃を受けている!?」


 追尾しいていた戦艦群に砲撃を加えながら、俺はその報告を聞いた。


「ああ、どうも『フィラデルフィア』という一切情報がなかった艦が監視網を潜り抜け肉薄、撤退中の支援艦隊を攻撃したようだ」


 長門が厳しい目つきで教えてくれる。


「すでに『いずも』『かが』『いしづち』、また駆けつけた第二防衛護衛艦隊、撤退中だった『ジョージ・ワシントン』が沈んだ」


 この短時間に、それほどの数が?


「どうやら、紀伊と同じようなバリアを張り、超電磁砲を主砲としているようだ。おかげで敵は90%以上の命中率を持ちながら、こちらの攻撃のほとんどをシャットアウト。おまけに素の装甲もかなり高いらしく、『三笠』の魚雷二本を食らったが無傷だったと」

「なんだそのデタラメ装甲。一体どんな設計したらあの雷撃を無傷で切り抜けられるんだよ……三笠が積んでるの、一応最新の魚雷だぞ?」


 心配したところで、最前線にいる自分たちではどうしようもない。とはいえ気になるものは気になってしまう。


「敵戦艦、行き足止まりました」


 しかし、こちらの仕事は済んだようだ。


「よし、これで第三前衛艦隊も壊滅だ」

「全艦残弾を確認後、一度後退。第二決戦砲戦部隊と合流後、最後の艦隊と『大江戸』の捜索に移るぞ」


 『フィラデルフィア』のことは気になるが、遊撃に向かった『月』艦隊にはヨミもいる。きっとなんとかしてくれるはずだ。これ以上どうしようもないことを悩んでいても仕方がない。


 切り替えて任務に集中した矢先のことだった。


 空気を切り裂く轟音、途方もない質量が遠方から迫る時に聞こえる迫真の飛翔音が、艦橋の窓を越えて俺の耳へと届いた。数秒遅れて、部隊全体を覆うように水柱が数本立ち上る。


「砲撃か! どこから!?」

「レーダーに艦影なし!」


 長門は見つけられていない。となると、『ゆきぐも』を頼るしかない。


「こちら『長門』、敵艦影は見えるか!?」

「『ゆきぐも』より全艦、ただ今の砲撃、ここより北東の方向、距離およそ50キロ!」

「『ラハティ』級か!」


 この距離、『大和』の主砲よりも遠方から砲撃できる艦など、超長距離狙撃用戦艦である『ラハティ級』を除いて他にいない。


「まんまと誘い込まれたみたいだな」


 俺はすぐに状況を察する。先ほどまで永遠と後退を続けていた敵第三前衛艦隊は、撤退していたのではない。別にいる『ラハティ』級の射程に誘導していたのだ。


「潜水艦部隊は『ゆきぐも』より座標を受け取り、敵艦隊へと肉薄せよ! 全艦回避運動をしながら後退!」


 他艦隊を気にしていられないほどのピンチが、いよいよ俺たちの元にもやって来た。




「『のしろ』に直撃弾! CIC、艦橋応答なし!」

「ここまで紙一重で交わしてきたが、ここまでか!」


 ヨミが解析を続ける間、なんとか連携してもろに砲撃を受けないよう躱し続けたが、それでも、限界がやってきた。たった今の砲撃で、『のしろ』の主砲塔、艦橋、艦中央部には破孔が打たれ、戦闘能力を失ったのは明らかだった。


 なんとか再度『三笠』が雷撃を敢行し、敵の両サイドの戦艦を撃沈することには成功した。しかし、やはり『フィラデルフィア』に傷はつかず、依然としてこちらを狙っている。

 一つ得したことと言えば、主砲の発射間隔が落ちたことだろう。おそらく、両サイドの戦艦の発電能力も利用して、あの超電磁砲を撃っていたものと見られる。


「ヨミ! まだか!?」


 生憎、潜水艦部隊は補給が間に合わず、『伊403』以外連れてきていない。そのため、水中からの攻撃は行えないのだ。


「ただ今! モニターに映します!」


 その声が聞こえると、『りゅうおう』のCICのモニターに、敵の情報が映し出される。


「敵艦、『フィラデルフィア』。12センチ超電磁砲を三門搭載し、主機関はおそらく核分裂炉です。それ以外にも発電機器と思われる機器が艦底に散見されます。また、艦首付近に二つの高電磁場を放つ箇所を発見しました。おそらく、ここが電磁バリアの発生源です」


 でかした、そこまで分かるとは。


「しかし、敵艦は艦内にも電磁バリアを張り、その上に装甲版を装備しています。おそらく、『三笠』さんの魚雷は、表面上の装甲だけを破り、その中にある電磁バリアに阻まれたものと推測できます」


 二重装甲、いや、バリアも含めれば三重装甲か。


「しかし、結局バリアの発生源は同一の箇所の為、なんとか艦首にある個所を強打出来れば、バリアを消すことができると思われます」

「だが、そのなんとかする方法が見当たらないと?」

「はい、喫水線とほぼ同位置にあるため、艦砲で狙うのは至難の業です。ですが、対空機銃などではおそらく0距離から撃たない限り、威力不足です」


 参ったな……弱点は分かったはいいが、それをつける武器がない。


「どうすれば……」


 俺が艦長席で頭を抱えていると、無線機から『三笠』の声が聞こえる。


「大堀艦長、話は聞いた」


 その声には、どこか決意のような、覚悟のような雰囲気を感じる。


「要は、何かで艦首を強打すればいいんだな?」

「ああ、それは間違いないが……どうするつもりだ?」


 俺の問に、三笠は行動で答えた。


「『三笠』、面舵! 『フィラデルフィア』に真っすぐ向かっていきます!」

「知っているか、近代まで艦船の戦いは突貫が基本だったのだ。その名残は、日露戦争を戦った私にまで続いている!」


 間違いない、突っ込む気だ。艦首に備えた衝角で、自ら『フィラデルフィア』を無力化するつもりだ。


「止めてください! そんなことしたら、『三笠』さんの艦体が持ちません!」


 電磁バリアの中に突っ込めば、空気中を支配する電流が艦体を駆け巡り、消失するまで焼き続ける。


「この身一つで日本の窮地を救えるのなら大いに結構! ここが私の死に場所なのだ!」


 『フィラデルフィア』は、向かってくる『三笠』を危険と判断したのか、主砲の照準を移した。


「三笠!」


 直後、雷鳴。三発の砲弾が『三笠』へと向かった。


「ははは! 効かぬわ!」


 無線からは勇ましい声が聞こえる。

 しかし、第一主砲塔は吹き飛び、艦首から艦尾にかけて砲弾が貫通した後が残る。薄い装甲が、過貫通を引き起こし、被害を最小限に抑えたのだ。


 そうこうしている間に、薄緑の膜へと、『三笠』の艦体が突っ込んでいく。


「あああああああああああああ!」


 悲鳴。とてつもないスパークがカメラ越しに見える。そのスパークは、瞬く間に『三笠』の甲板に火をつけ、魚雷発射管、レーダー、無線機をダメにする。


「『三笠』さん!」


 悲痛な『ヨミ』の叫びも、ただ空しくスパークの雷にかき消される。

 されど、『三笠』は止まらない。主砲塔は吹き飛び、内部では大火災もいいところだろう。機関すら焼き付いていてもおかしくないはずなのに、『三笠』は進み続ける。


 その背後には、スパークが引き起こした錯覚か、無数の艦の姿が見える。どれもこれも、今の艦とは比べ物にもならない古い木造の艦や、前弩級戦艦たちだ。


 その時、俺は察した。この艦達は皆、『三笠』へと追従していった艦なのだ。日露戦争まで、本当の意味で光を浴びることのなかった、極東の海軍。その無名の時代を生き抜き、現代の栄光までの礎を築いた、全ての英霊たち。


「全艦、『フィラデルフィア』へ向けられる全火力の投射準備!」


 『三笠』と、全ての英霊の意思を、無駄にしてはけない。


「対艦ミサイル、10番から24番まで、全てのVLSオープン。CLWS、対空速射砲も『フィラデルフィア』へ向けます」


 悲鳴のような甲高い音が響くと同時に、『三笠』はバリアを突き抜け、『フィラデルフィア』へと到達した。ギャイィン!という不快な金属音とスパーク音が響くと、『フィラデルフィア』は大きく揺らぎ、全体を覆っていた薄緑の膜が揺らぎ、砕け散るように消えて行く。


「今だ! 全砲門開け!」


 超電磁砲を放たれる前に、仕留める。


 残存する艦艇からミサイル、砲弾、機銃、ありとあらゆる火薬が『フィラデルフィア』へと殺到した。





 もうほとんど意識はない。最後は気力だけで突っ込んでいった。だが、痺れが無くなったあたり、役割は果たせたようだ。


 空を見上げれば、『りゅうおう』たちが放ったであろうミサイル、砲弾が見える。


「東郷殿。もうここらでよろしいでしょうか? 守護者としての役割を終えても」


 最期に見える景色が、現代兵器というのも、また一興。


「後は、頼むぞ。大和――」


 着弾と共に、『フィラデルフィア』へと砲弾、ミサイルが着弾。その爆発に巻き込まれる形で、なんとか形を保っていた私の艦体は、バラバラに砕け散って行く。


 ようやく、眠れる。横須賀から日本を見守り続けて100年とちょっと、充実した100年だったよ。今度は、靖国で旧友たちと共に、酒でも飲もうか。


 ありがとう、連合艦隊よ。ありがとう、有馬指揮官。君たちのおかげで、私は、最期まで戦艦であれた。


 大日本、万歳!



同日、16時44分。

「『三笠』が……沈んだ?」


 『長門』の艦橋に持ち込まれた電報に、俺は衝撃を隠せなかった。


「『三笠』殿が逝った、のか……」


 長門は、窓から視線を動かさずに呟く。

 いまだに、『ラハティ級』の砲撃は続いており、楽観できる状態ではない。長門の行動は正しいのだろう。だが、それでも。長門の頬には、雫が煌めいていた。

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