敵艦隊尚も進行中
同日、午前9時11分、横須賀総合本部。
「第一決戦砲戦部隊、及び第二決戦砲戦部隊、敵艦隊を殲滅」
「防衛砲戦部隊、敵艦隊と接敵!」
「敵小型艦艇郡、尚も接近中!」
弾痕だらけの司令部では、様々な場所から通信が入る。
「敵第三前衛艦隊には、『A10』と『B52L』の対艦殲滅部隊を向かわせろ。防衛砲戦艦隊に迎撃命令を」
総司令用の机に足を乗せ、腕を組みながら指示を出す。
「防衛航空艦隊に、敵航空部隊が接近! 増援要請です!」
「千葉の『M0』を送れ」
航空部隊もくどい物だ。母艦が死にかけていると言うのに、全滅を承知でこちらの防衛戦力を削ぎに来ている。
「九州防空隊のもとに敵編隊! 中華連邦機が迎撃中!」
「台湾か……」
同日、同時刻、東シナ海上空。
「レッドリーダーより各機、敵は『V22インドラ』を主軸とする爆撃編隊だ。護衛機には『S5クイーン』の姿も存在する。レールガンに警戒しろ!」
「「「「了解!」」」」」
「いいお返事だ。各機、日帝が日帝らしく、俺たちと張り合える世界を取り戻そうぜ!」
12機の『殲28』が散開し、向かってくる敵機へとレーダーをロックする。
「交戦開始!」
リーダーの掛け声で、一斉にミサイルが放たれ、固まって日本へと向かってきていた『Ⅴ22』へと殺到する。
リーダーはそのまま一度爆撃機たちとすれ違い、後方より狙いを定めていた『S5クイーン』に機銃を放つ。
「『S5クイーン』、一機羽に穴開けたぞ! 墜とせ!」
リーダー機に続いた二機が、リーダーの号令に合わせて、空対空ミサイルを発射する。
「レッド4、ミサイル命中確認」
「レッド5、ミサイル命中確認! 撃墜したぞ!」
三機合同で一機。確実に、丁寧に戦力を削ぐ。
「俺たちがするべきなのは生き残り、敵機を墜とすことだ! 命大事に! 後続する機体を信じろ!」
レッド対はあくまで先鋒であり、航続には他の中華連邦や欧州の航空機たちが待っている。その航空機たちが戦えるよう戦場を整える。
「おらおら! 邪魔すんな!」
『S5』のAIは、爆撃機を無視して自分たちを攻撃する戦闘機に理解が及ばず、混乱しながら戦闘を行うのだった。
同日、同時刻、相模灘上空。
「サンダー、ランチャーオープン!」
低空飛行を続ける『B52L』、そのリーダー機のレーダーに敵艦隊が映る。後衛艦隊目掛けて進むWAS護衛艦隊だ。号令によって、機体上部が盛り上がる。
「サイクロンリーダーより各機、サンダー隊の攻撃に合わせて突入! 敵艦隊を蹴散らせ!」
そんな異様な『B52L』たちの後ろからは、爆弾とミサイルをたんまり羽にぶら下げた『A10』が飛翔する。
「この艦隊を逃せば、防衛艦隊の横っ腹を突かれるんだ、俺たちで止めるぞ!」
レーダー上で敵艦隊をロック。発射スイッチに手をかける。
「レディ! ファイア!」
8機の『B52L』から、無数のミサイルが打ちあがる。今回アメリカから飛んできた『B52L』は、対艦用に試験的な武装を施した機体になっている。『V33シヴァ』の対艦攻撃をモチーフにし、ミサイルの飽和射撃を可能にしている。
ミサイルの雨を放った『B52L』は進路を変え、『A10』が前にでる。
「各機、エレメントを維持、二機で一艦だ! 必ず沈めろ!」
「「「「了解」」」」
海上迷彩を施された『A10』の二機が、30ミリ機銃をぶっ放しながら、陣形の外にいた巡洋艦へと接近する。巡洋艦は、対空ミサイルやCLWSで対抗するが、『A10』はその程度の攻撃を物ともせず、肉薄する。
二機で四本の小型対艦ミサイルを放ち、おまけに爆弾は二機で二発。それらの多段攻撃を受けた巡洋艦は、回避も抵抗も叶わず、爆沈した。
「一隻撃沈! 次に移る!」
「サイクロン3! ミサイル!」
警報が響くコックピット内で、サイクロン3は冷静にスイッチを押し、チャフフレアを展開、ミサイルを回避する。
「ミサイル回避! 続けるぞ!」
上昇した二機は、反転、急降下に移る。
「投下!」
二機で四発の爆弾を切り離し、追撃と言わんばかりにマルチロールミサイルを放つ。エアブレーキとフラップで機体を海面に対して平行に戻すと、二機の背後から盛大な爆発が起こる。
「駆逐艦一隻撃沈! 次だ次!」
同日、午前10時41分、相模灘。
「応急処置急ぐにゃ! いつ敵機が来てもおかしくないんにゃよ!」
明石が忙しなく指示を出しながら、『クイーンエリザベス』の修復を行っている。
支援艦隊『鳥』は、現在防衛航空部隊と、第二決戦砲戦部隊の両方に補給と修復を行っている。本来は砲戦部隊だけの予定だったが、敵航空部隊の攻撃にさらされた防衛航空部隊の損害が無視できず、本土から急行してきた追加の輸送艦とともに、処置を行っている。
「明石、ヴェスタルです。『ジョージ・ワシントン』『オリオン』は修復不可能と判断、『オリオン』は自力航行不能のため、自沈処分にいたしました」
遊撃艦隊『月』が敵空母を根こそぎ撃沈したため、敵機は母艦を消失した。そのため防衛航空部隊は、帰る母艦のない航空機の、特攻まがいの攻撃を受け続けた。結果的に部隊のほぼ全ての艦が損害を受け、その被害はそれを護衛する部隊にも及んでいる。
「圭! 負傷者は!?」
そんな忙しない明石の艦内で、僕は負傷者の収容、処置を行っている。
「ベッドが足りません! 負傷者が多すぎて、収容しきれません!」
しかし、三部隊分の負傷者を、『ヴェスタル』と『明石』だけではとても収容できず、艦内の病棟の廊下にも、負傷者が溢れている。
「……ダメだ、もう脈がない」
負傷者だけではなく、すでに力尽きた人たちも一緒だ。一人一人様態を見て処置を施しているが、衛生兵の数も足りない。
「砲戦部隊の修理は終わったにゃ! 退避艦艇を連れて、戦線を離脱するにゃよ!」
明石の声が艦内に響く。
「負傷者は適当に処置して、その場に置いておくにゃ。確実に助かる兵士だけ、しっかり処置するのにゃ」
その言葉は無慈悲に聞こえるが、こうしたひっ迫した状況ではそれが正しい判断だと、僕も知っている。
甲板に上がると、前線に戻って行く戦艦たちの後ろ姿が見えた。
「また、戦場に戻るんですね……」
傷だらけの乗員、艦ではあれど、まだ戦いは終わっていないのだ。
続けて、防衛航空部隊も、僕たちの艦隊から離れて行く。『ほうしょう』だけでなく、『しょうほう』を失い、『ワシントン』も撤退する今、戦力は半減したが、それでもまだ戦う。
「圭、ボーっとしてる暇はないにゃよ。手が空いたなら、負傷者と死体をちゃんと分けるにゃ。本土の軍病院も暇じゃないにゃよ」
「はい!」
僕も、僕の戦場に戻る。一人でも多くの負傷者を救うのだ。
甲板上で踵を返して病棟へ戻るとするが、水平線の向こうから、何かおぞましい気配を察して、肩がすくんだ。
「今、のは……?」
得体のしれない恐怖を覚えたが、すぐに気のせいだと振り払い、病棟へと戻った。




