砲声、轟く
21日、午前4時45分
日の出とともに、残存する空母から戦闘機を中心にした航空編隊が出撃し、黒鉄の城が一斉に黒煙を噴き上げる。
『誇リ高キ各国ノ黒鉄ノ城、鋼鉄ノ鳥達二告グ。我ラノ反撃ヲ開始ス。只攻撃セヨ。只攻撃ヲ続行セヨ。太平ノ海ヲ取リ戻シ、平和ノ世ヲ取リ戻セ』
その電文が各部隊に到達するとともに、相模灘決戦の二日目が始まった。
「前方に艦隊確認、戦艦『パールハーバー』を先頭にする敵第二前衛艦隊と思われます」
俺たち第一決戦砲戦部隊は、戦闘機隊の護衛の下、遂に敵の主力砲戦部隊と接敵した。
「全艦取り舵90、右舷砲戦用意!」
「艦隊、砲戦用意!」
俺の声を復唱する長門。艦隊の進路をずらし、第二船速へと落とす。
「観測機発艦!」
『長門』『アイオワ』から観測機が飛び立ち、敵艦隊の上空へと向かう。
「各艦自由射撃、撃ち方はじめ!」
「撃て!」
長門の掛け声とともに、41センチ砲が咆哮を上げる。
続けて『アイオワ』の40センチ砲、『オクチャブリスカヤ・レボリューシア』の30センチ砲、『ゆきぐも』の20センチ砲が咆哮する。
「『ゆきぐも』の対艦ミサイルは惜しみなく放て、支援艦隊が補給してくれる」
一声それだけ伝え、俺は艦橋の窓から敵艦隊を睨む。
「『ヘビー級』戦艦の改良型である『パールハーバー型』戦艦。今回の作戦に合わせて突貫工事で造船されたと聞いたが……にしちゃあ強そうだな」
「41センチ連装砲四基を備えた、言ってみれば私の量産艦バージョンだからな……」
交互討ち方第二射を放つ長門も、厳しい顔をしながら敵艦を睨む。
「それに、名前も悪趣味ね『パールハーバー』に『ノルマンディ―』……あの時の激戦区の名前だわ」
無線機の先から、アイオワの声が聞こえる。
「きっと、揺さぶりに来てるんだろうな。そこから連想される戦いで、WSの暴走を期待してるんだろ」
だが、その手は効かないぞ。そういったことを防ぐために、わざわざしっかり会話して、トラウマの克服に乗り出したんだからな。
「第二艦隊より電報! 『キングジョージV世』を先頭にする艦隊と接敵!」
「……狙ったな?」
俺は、僅かに顔を歪めて呟いた。
「陛下……」
「クイーン、行けるか? 無理なら下がっていろ」
艦橋で呆然としてしまった私を正すように、ビスマルクの声が聞こえる。
「舐めないで、私たちロイヤルネイビーの問題なんですもの。しっかり私がけりをつけるわ」
「そうか。なら、せいぜい頑張るといい。私たちは『アシカ』とかいう忌まわしい名前の艦をまず叩く」
私の前をゆくビスマルクが少し船速を落とし、私とベルファストを前へ押し出す。
「ドイツにとっては、瓦解の一歩でしたものね、アシカ作戦は」
「ベルファスト、君はどうしてそうも我々を煽るのが上手なんだ?」
「あら、プリンツオイゲン様。ぜひその怒りは、敵艦へと向けて差し上げてください」
巡洋艦の二人も、そう言いつ戦列を交代し、先頭から私、ベルファスト、ビスマルク、オイゲンの順番となっている。
「行くぞ、英国艦、標的『キングジョージⅤ世』、独国艦、標的『アシカ』、日本艦、標的『ガダルカナル』、砲撃始め!」
ビスマルクの声に合わせて、私は38センチ砲を陛下へと向けた。
「貴方と共に戦列を築くことができなかったことが、ただ、残念です」
だけど貴方はきっと、こんな戦い望まない。ロイヤルネイビーのフラグシップとして、誇り高い貴方は、こんな操られての戦いなど望んでいない。そうですよね? ウォースパイト。
「お眠りください、陛下。もう二度と、このような不名誉な戦いを強いられないために」
姿を甲板へと移し、右手を上げる。各主砲照準は整った。
「shoot!」
腕を振り下ろし、全主砲一斉射。全霊をもって、キングへと挑む。
私の砲が着弾するより早く、キングの砲にも砲炎が煌めく。
「お嬢様、ご注意を」
「分かっているわ」
ベルファストの忠告の後、私の周囲に陛下の砲弾が着弾する。
「この程度!」
艦首で立ち上る水柱を切り裂いて進み、二回目の砲撃を敢行する。
後続するビスマルクたちも果敢に砲撃を敢行し、戦闘を続けている。日本のイージス戦艦『やまと』は、大型ミサイルを温存して、46センチ単装砲で戦闘を行っている。
「お嬢様、魚雷を流します。次の砲撃を受け次第、左へ転舵してください。敵艦隊は真っすぐこちらを見ています。転舵すれば、同行戦へ持ち込もうとしてくるはずです」
「分かったわ、でもベル、貴女の魚雷は、こんな距離で狙えるものだったかしら?」
「日本に寄港した際、発射管はそのままですが、魚雷自体は日本製のものに交換していただきました」
確かに、それならこの距離でも十分有効射程だろう。
そんな会話をしている内に、私を囲うように陛下の砲弾が着弾した。
「夾叉された……けれど、簡単にはくらいませんよ」
「取り舵を取ります!」
後続する艦にそう報告した後、私は舵を回し、取り舵90。反航しようとしていた形をから、T字をつくる。ベルは、私に追従しながら方弦に装備する三連装発射管から、静かに三本槍を放った。
転舵を終えるとほぼ同時に、報告が届く。その報告は、聞かずとも、海上に響き渡る爆音で内容を察することが出来た。
「『ガダルカナル』を撃沈、標的を『ヘビー級』戦艦に移します」
『やまと』の指揮を執る明野艦長の声だ。高精度の46センチ砲が、日本の因縁の名前を蹴散らしたようだ。
「私も負けていられませんね」
転舵後の一斉射目は空振りに終わったが、二斉射目はついに、陛下を捉えた。
陛下の艦上に、大きな爆炎が踊った。
「っつ」
その炎を見て、私は一瞬息をのむ。自分たちが敬い、同じ列を作るはずだった艦が、燃えている。その光景は、思ったより私の心を貫いている。
「お嬢様、ご無理はなさらないでください」
ベルの私を気遣ってくれる声が聞こえる。
「……いいえ大丈夫。それに、ここまで日本を助けに来たと言うのに、私情で戦線を離脱しては、日本に失礼よ」
そう、これはロイヤルネイビーが日本に押し付けてしまった問題。欧州での英国艦隊の失態のツケが、日本へと来てしまっている。いくら艦艇問題や人員問題で縮小、弱体化していた時期があったとはいえ、海軍大国であった私たちが、海で完敗を喫してしまった。
その結果、日本の艦隊がわざわざ北海まで出向くことになり、消耗させてしまった。
「陛下、私たちが導いた東国の海軍は、こんなにも立派になりましたよ」
その声と共に、第三斉射を放つ。それには、ベルファストの砲撃も続く。ついに軽巡クラスの主砲も射程圏に入ったのだ。
それを認識した直後、迫真の飛翔音が迫る。
「ああ!」
ここにきて、直撃弾が生まれた。
「お嬢様!」
「構いません! 撃ち続けなさい!」
35.6センチ砲弾が数発命中した程度で沈むほど、私は貧弱ではない。高速戦艦として、装甲はお世辞にも厚いとは言えない。だが、私は『戦艦』なのだ。
「戦艦が簡単に沈むもんですか!」
私の声に答えるように、陛下へと私の砲弾が殺到し、新たに爆炎を上げる。後部に一発、中央部に一発。的確にダメージは入っているはずだ。
「魚雷到達まで後15秒!」
これが決め手となる。そう確信して、私が再び砲撃を行おうとするが、突如別方向から飛来した砲弾に、後部主砲が叩かれる。
「『マリアナ』がそっちを向いたぞ!」
ビスマルクの声だ。どうやら、ビスマルクたちを狙っていた一隻が、戦況の不利を察してか、私に主砲を向けて来たらしい。
「私が相手をします。お嬢様は、そのまま陛下のお相手を」
「ベル!?」
「お嬢様をお守りするのが、メイドの務めでありますから」
隊列を離れ、単艦でベルは敵艦の方へと向かい、強引に狙いを私から引き離す。
「クイーンエリザベス、砲戦に集中しろ。ベルファストの援護は私が行う」
同じようにプリンツ・オイゲンも戦列を離れ、敵艦隊へと肉薄する。二隻の巡洋艦が、果敢に戦艦へと挑んでいく。
「沈んだら許しませんからね!」
それだけベルへと投げかけ、斉射を放った。
私の斉射弾がたどり着くより早く、陛下の左舷に、一本の大きな水柱が立ち上る。直後、大きく艦体がふらつき、一気に艦に傾斜がかかる。
「本当に、恐ろしい威力です」
ベルの放った酸素魚雷が命中したのだろう。これで、この砲戦は私の絶対優位が完成した。
「これで、終わりにしましょう」
早く切り上げ、ベルの援護をしなくてはなりませんし、なにより痛々しい陛下のお姿を、長い間見ているのは、とても辛い。
「撃て」
全砲門から放たれた砲弾は、弧を描き、吸い込まれるように陛下へと殺到する。
「『アシカ』『ヘビー級』の処理は終わった」
「ええ、こちらもこれで終わります」
複数の爆発が艦上で起きた後、陛下の第一主砲塔が天高く舞い上がる。火薬庫が誘爆したのだろう。あれではもう、耐えられまい。
「お嬢様、流石です」
ふとベルたちの方へ視線を向けると、二隻の巡洋艦は、数か所から黒煙を吐きつつも、『マリアナ』の大火災を静かに見守っていた。
「遁走した『コンパス』には対艦ミサイルを放っておきました。これで、敵艦隊は全滅かと」
『やまと』から追加電が入る。どうやら、全て片付いたようだ。
「各艦、被害を確認。速やかに後退し、支援艦隊からの補給を受けた後、第一艦隊と合流、または他艦隊の撃滅に向かう」
一切動じることのないビスマルクの指示が艦隊を巡り、艦隊はゆっくりと戦場を後にした。




