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戦艦『赤城』『加賀』

 少しづつ距離が縮まる。そのたびに、途方もない質量を誇る砲弾が私の艦体を揺らす。至近弾を数発しか受けていないのに、すでに私の艦体には損害が出ている。

 しかし、私たちを狙ってくれたのは好都合だった。きっと、普通空母が肉薄してくることなどないから、無駄に警戒したのだろう。


「はは、このままでは射程に入る前に沈みそうだな」


 悠長に艦長席で笑う長官。


「止めてください、縁起でもない」

「次の攻撃まで後72秒、次を躱せれば、射程には入れそうだな」


 おそらく今頃、隙を見て無理やり発艦した攻撃隊が、『大江戸』を攻撃している頃だろう。大したダメージは入らないだろうが、やらないよりはましだ。


「装填する弾種はどうする気だ?」

「榴弾にします。どうせこの位置じゃ、ロクにピンポイントを狙うのは難しいでしょうから、上部甲板にばら撒いて火災を起こすことを目指します」

「良い策だ」


 そんな話をしていたら、遂に水平線の向こうに、その大きな艦影がくっきりと見えだした。


「……あれが、『大江戸』」


 全長は800メートルを越える、戦艦を駆逐するための移動要塞。


「赤城さん、上空に『二式鑑偵』が」

「ええ、きっと瑞鶴が、情報収集のために放った機体でしょう……行きますよ、加賀さん」

「はい……一航戦『加賀』!」

「一航戦『赤城』!」

「「参ります!」」


 大きく舵を切り、右舷の20センチ砲を大江戸へと向ける。


「撃ち方はじめ!」


 一斉射、方弦三門の20センチ砲がうねりを上げて、大江戸へと飛翔する。


 同じころ、加賀さんも、方弦五門の20センチ砲を放つ。着弾を見る余裕はない。思い切って私は反対方向に舵を切る。


「装填中に転舵、休まず撃ち続ける気か」

「その通りです!」


 喫水線下に蓄積している痛みに耐えながら強引に艦を回し、左舷側を『大江戸』へ向ける。照準が合い次第発砲。


 撃ち終わるや否や、取り舵をとり、曲がり始めていた艦体を、強引に再び曲げる。もし甲板に航空機を乗せて居たら、きっと振り落とされるんじゃないか。そんな勢いで艦を曲げる。


「赤城、撃ち次第そのまま取り舵。砲撃が来る」

「了解」


 指示通り、発砲後そのまま取り舵を維持。直後、『大江戸』にも発砲炎が光った。


「大丈夫、あの砲身の角度なら、当たらん」


 双眼鏡で確認しながら長官は告げる。その言葉通り、砲弾は、私から離れた位置に着弾する。


「砲身の角度で、それが判断できるんですか? 双眼鏡で見ただけで?」

「まあ、な。長年砲撃を見ていれば、砲身の向きで着弾位置がはっきりわかる。なんというか、相対位置? 自身のいる場所と、砲弾の飛翔経路、そこに砲がどの方向を向いているかで、着弾位置がある程度見える」


 驚いた。そんな能力があったのか。


「長官、貴方、戦艦に載っているべきでは?」

「だからこうして『戦艦』に乗っているのだろ?」

「はあ……ほんと、よく分からない人ですね」


 取り舵をしたまま円を書き終えると、再び右舷の砲で発砲。


「着実に命中はしているのですが……」


 加賀さんの砲弾も、しっかり『大江戸』に届いている。しかし、一向に火災は起きず、何か変わる訳でもない。

 勿論、たかが20センチ砲で何が出来ると聞かれればそれまでなのだが……。それでも、『大江戸』も鉄の塊、硬い物をぶつければ、いつかは壊れるはずだ。


「このまま接近して、主砲の死角に潜り込みたいな。おそらく、現状『大江戸』の弱点は、そのぐらいだろう」


 『大江戸』の艦体は、80センチ砲を支えるために大きく、普通の艦より甲板が高い。つまり、他の戦艦より死角が大きい。


「そうですね……潜り込めればの話しですけど」


 射撃の為、面舵を切った直後、『大江戸』の艦上に主砲より小さな発砲炎が光る。


「副砲群が動き出したか!」


 46センチ砲だ。


「っく!」


 80センチ砲より威力は小さいとはいえ、『大和』と同等の主砲、そして精度はこちらのが良い。

 そして、空母にとっては致命打になりえる、12センチ程度の対空砲群の砲弾が、まるで機関砲のように降り注ぐ。


「きゃあぁ!」

「加賀さん!」


 その雨を一気に食らったのか、加賀さんの甲板に爆炎が踊る。


「私のことは気にしないでください!」


 接近し、砲撃を続ける。しかしそのたびに、小口径の砲と、1分前後の感覚で、80、46センチ砲弾が私を狙う。


「赤城、取り舵!」

「くっう!」


 しかし、浅間長官の指示のおかげで、なんとか致命傷は受けずに接近できていった。そのおかげで、対空砲、対空機銃たちも『大江戸』へと一打浴びせようと攻撃を始める。


「あ、っつ!」


 再び46センチ砲の至近弾。この感覚はまずい。


「穴が開きました……」


 一気に体が重くなる。おそらく、耐え切れなくなった艦底に穴が開いた。


「加賀さん、聞こえますか? 加賀さん?」


 返事がない。ちらりと艦橋の外を見ると、そこには、砲撃を続けはするが、傾きつつある『加賀』の姿があった。


「加賀さんも、そろそろダメみたいですね」

「……まあ、時間は稼げただろう。空母にしては、やりすぎたんじゃないか?」


 着弾の反動で転び、頭を打った浅間長官は、血で濡れた頭を触りながらそう呟く。


「ええ、最期に、戦艦らしく戦えたと思います」


 私の船速は少しづつ低下していく。


「太平洋戦争。悔いが残ったあの戦争とは違い、今度は気持ちよく、役目を終えられそうです」


 80センチ砲が私を睨む。もう目と鼻の先に、『大江戸』がいるように見える。


「次は、もう目が覚めることはないといいな」

「本当ですね」


 さて、私の艦暦も、ここでおしまい。


「後はお願いしますね、瑞鶴、大和……有馬勇儀司令官」


 ああ……お父さん。南雲さん、秋元さん、加賀さん、舞風さん、萩風さん、艦載機乗組員の皆……赤城も今、そちらへ帰ります。お土産話は、たくさん用意してありますからね。




「……司令官、『赤城』に、80センチ砲弾直撃。轟沈したよ」


 瑞鶴が、偵察機を介してみた情報を教えてくれる。


「そうか……ありがとう」


 ただその言葉だけを返し、俺は帽子を脱ぐ。

 赤城、加賀……日本の第一機動艦隊の誉よ……ありがとう、安らかに眠れ。もう二度と、目が覚めないよう。




作戦名「大和」


投入戦力

『長門』『陸奥』『扶桑』『ゆきぐも』『あらし』『夕張』『吹雪』『夕立』『綾波』『陽炎』『蒼龍』『やまと』『大和』『矢矧』『雪風』『伊403』『赤城』『加賀』『飛龍』『瑞鶴』『秋月』『古鷹』


損害

『やまと』『大和』大破

『ゆきぐも』『扶桑』中破

『長門』『陸奥』小破

『夕張』『夕立』『綾波』『あらし』『赤城』『加賀』撃沈


 『紀伊』の拿捕に成功。作戦目標は達成。なお、『大江戸』への対処は別途用意すると同時に、『大江戸』より艦砲射撃を受けた沖縄普天間基地は放棄、本土へと撤退。


 いまだ、太平洋に日は登らず。


                           ――――第九幕、完

             

          戦争を、終わらせろ

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