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第二次硫黄島沖海戦

 同日 21時57分 硫黄島より南西方向


「電探にて敵艦隊を補足、電探射撃可能まで後10分だ」


 『やまと』のCICに、長門からの報告が届く。


「各艦、夜間砲撃戦闘用意! 第一種戦闘配置!」


 明野さんの指示に合わせて、CICは動き始める。


「夜間砲撃戦用意、CIC照明落とします!」


 艦内が一気に暗くなり、赤い夜間照明に切り替わる。


「有馬さん、陣形はどうしますか?」

「『やまと』を先頭に、単縦陣で行きましょう。敵艦隊も単縦陣で突っ込んできます、すれ違う前に一斉回頭、同航戦へ持ち込みます」

「徹底的叩く、ですね」


 二人で頷くと、明野さんは艦隊陣形の指示を出し、俺はモニターに映る敵艦隊の概要を見つめる。


前衛

重巡『アグナムート』 量産重巡二 量産軽巡二 駆逐艦『ランス』 駆逐艦五

主力

戦艦『ラハティ』 量産戦艦四 量産重巡二


 敵の艦の名前も把握され、敵艦の情報がモニターに映されている。いくらかは輸送艦の撤退を護衛して、離脱して行った。


 この中でも厄介なのが、『アグナムート』と『ラハティ』だ。

 夜間戦闘のため、出会った時のような超長距離射撃は来ないが、純粋な砲火力は『長門』の装甲を余裕で砕く『ラハティ』。正面火力に全振りした別名突撃巡洋艦とも言われる『ユグドラシル級』重巡三番艦『アグナムート』、艦首方向に全砲門が指向可能であり、正面から撃ちあった場合、敵は被弾面積を狭めつつ、20センチ砲10門、12センチ砲四門、おまけに魚雷発射管四門を向けて来る。こちらの前衛艦隊には大きな脅威だ。


「『くまの』に伝えてくれ『最優先目標は『アグナムート』、敵前衛が主力に接近できないようにしてくれればそれでいい』と」

「了解、『くまの』に打電します」


 正直、主力艦隊の数を減らすのは痛いが、それで前衛を突破され、肉薄雷撃をされたらたまらない。


前衛

小型護衛艦『くまの』 駆逐艦『A型』二 『B型』一 『C型』三

主力

イージス戦艦『やまと』 戦艦『長門』『陸奥』『アリゾナ』

防空駆逐艦『てるづき』


 どうしたってこちらは数で劣る。この数的不利を覆すのは、WS三隻の技量と『やまと』の性能だ。


「こちら最後尾の『アリゾナ』、電探射撃可能な距離へと入った」


 『アリゾナ』艦長のコルト長官から声が入る。


「やりましょう、明野さん」

「分かりました。各艦目標選択自由、砲撃開始!」


 力強い号令と共に、後ろの様子を映したモニターに、後続する三隻の発砲炎が映る。


「レーダー派正常、敵一番艦照準中」

「自動追尾システム良好、装弾機構異常なし、これより自動射撃を開始します」


 『やまと』は最終確認を終え、三隻より少し遅れて第一射を発射した。

 迫力のある爆音と振動は、艦内部にあるCICにまで届く。この艦で何度か戦闘を経験している乗員たちは慣れていると言った顔だが、明野さんは少し驚き、艦長席のひじ掛けをしっかりと握っていた。


「ふふ『物足りない』って顔ですね」


 俺の方をちらりと見た明野さんは、微笑を浮かべながら言う。


「そう見えますか?」

「ええ、日ごろ46センチ砲が九門も発射される艦に乗っていたことがよく分かります」


 どうやら俺の心は見透かされていたようだ。

 確かに、日ごろこの艦の主砲が九門乗った艦に乗っている身としては、この振動も爆音も、どこか物足りなく感じてしまう。


「第一射着弾、今」


 その声に、俺たちは再び真剣な表情に戻り、モニターを見つめる。


「敵一番艦艦種付近に着弾、自動誤差修正機能良好」


 どうやら一発目は僅かに逸れたらしい。しかし『やまと』の主砲は、電探と連動することで、人が手を加えずとも自身で計算を直し、誤差修正を行う。なんともハイテクな艦だ。

 約37秒の装填時間を終えると、再び轟音がCICへと届いた。


「前衛艦隊より急報! 敵『ランス』含む複数艦が対艦ミサイルを発射! 迎撃しきれず、四本主力へ接近中」

「こちらの迎撃を無視して、主力に打撃を与えに来たな。敵も必死だ」


 俺が呟いている間に、明野さんは声を張り上げる。


「『てるづき』は!?」

「『てるづき』SM4発射、目標到達まで30秒!」


 こんな時に備えて、防空駆逐艦の『てるづき』を四番艦の位置に置いたのだ、しっかり仕事は果たしてもらう。


「SM4着弾……三本迎撃。一本、本艦に向かってきます!」

「近接防空システム稼働! 撃ち落とせ!」

「左舷対空砲群、迎撃開始」


 『やまと』には方弦三基の76ミリ速射砲、四基のCLWSが並んでいる。


「敵ミサイル撃墜!」


 一本ぐらい、落とすのは造作もない。


「第三射、敵量産戦艦へ命中、炎上中」


 ミサイル迎撃をしている間にも砲撃は続いている。敵に迫るにつれ、着実に命中弾が出て来る。しかし、それは敵も同じこと。


「『ラハティ』に発砲炎!」


 遂に、やつが発砲した。


「各艦衝撃に備え!」


 思わず俺はそう叫ぶ。


「着弾、今!」


 観測手の声と共に、爆音が聞こえた。


「誰だ!?」

「『陸奥』被弾!」


 クソ、相変わらず高精度高威力だ。


「『陸奥』より報告、第二砲塔損傷のため砲撃不能」

「夜間だから精度も下がると思ったが、全くそんなことは無いな」


 奴の装填時間は約44秒。次は誰を狙う?


「このまま同行戦になると、『ラハティ』に艦後部を狙われる、それはまずい」


 俺の呟きに頷いた明野さんは、新たな指示を出す。


「『やまと』、目標変更指示、敵最後尾にいる『ラハティ』!」

「了解、砲撃目標変更、目標『ラハティ』」


 何度かこの艦も量産戦艦の砲撃を受けたが、目立った損傷は受けぬまま、砲撃を続ける。


「『ラハティ』照準終了、自動発射始め」


 砲撃再開と入れ違いで、観測手から報告が上がる。


「『長門』ただ今の砲撃にて敵『量産重巡』撃沈」


 どうやら『長門』がまず一隻仕留めたらしい。流石連合艦隊旗艦だ、日本の双翼にふさわしい戦果だろう。


「ただ今の砲撃、『ラハティ』艦中央に着弾、誤差修正なし」


 『ラハティ』はその手法を支えるために、艦体が非常に大きい。この艦の性能をもってすれば、初弾命中も難しくない。


「『アリゾナ』被弾!」

「『陸奥』、敵戦艦に砲撃命中、火災発生!」

「本艦左舷に直撃、三番速射砲破損!」


 目まぐるしく報告が行きかうが、一向に『ラハティ』へ有効打が入った報告は聞こえない。


「『ラハティ』はどうした?」


 しびれを切らして問う。


「砲撃を継続中、未だ目立った損害なし」

「46センチ砲弾を4発も食らって損害なしとは……」


 帰って来た報告に、明野さんも悩ましい表情を浮かべる。


「一斉回頭まで時間がありません、どうしましょうか?」


 俺に指示を仰ぐ明野さん。少し考えた後、俺は当初の予定通り回頭し、同行戦に持ち込むことにした。

 一斉回頭する場合、最後尾はこの艦となり、おそらく真っ先に狙われるだろう。しかし、『やまと』は『長門』にも負けない装甲を持っており、かつ少人数で、艦後部の機関室には誰も人が乗っていない。多少の被弾なら、許容できる。


 この艦の機関は国家機密らしく、俺や明野さんもその情報を知らない。この艦の乗員も知らされていないらしく、見に行くこともできないよう、艦内からはロックが掛かっている。それこそ、まるで気密室の如く厳重にだ。


「各艦砲撃止め、一斉回頭! 面舵一杯」


 タイミングになったため、明野さんがそう指示を出す。


「『アリゾナ』、回頭開始。『陸奥』『長門』、回頭開始。『てるづき』回頭開始」


 各艦が回頭を始めたことを報告で知らされると、『やまと』も動き出す。


「面舵一杯、エンジン質力80%、船速維持」


 全長が200mある艦とは思えないほどの軽やかさで、『やまと』は回頭を終える。


「全艦回頭終了、砲撃を再開します」

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