外章 動きだすWAS
9月2日、11時01分。
「完成はいつごろになりそうか」
白髪で、顔には多くの皺がある顔を持つ老人が静かな声で聴いた。
「は、既に作業工程の半分ほどは終了していましたので、造船用のロボットたちをフルで活動させ、三か月といったところです」
「遅い」
「え?」
部下の声に対し、老人は不機嫌な声で言い放った。
「戦場の機械歩兵を減らしていい、それらも使って一か月で完成させろ」
「……わ、分かりました」
通常、艦の造船はかなりの時間を要する。
それが大型艦、ましてや戦艦になればなおさらだ。
「その建造が終ったら、もう一隻に集中しなくてはならないんだ、急いでくれ」
「はい、心得ております」
一礼して、部下は部屋から出て行く。
その様子を見て、老人は大きく息を吐きながら椅子へと腰を下ろす。
この部屋には通信機と机椅子、ベッド、机の後ろに窓が一枚、まるで牢獄かと言わんばかりの殺風景が広がっている。
唯一部屋を飾るものと言えば、机の上に飾られた写真だけだ。
「……こんなに老けてしまったよ」
老人は、写真を見つめながら自身の顎をさする。
しばし温かい目で写真を見つめていたが、扉を叩く音で、再び視線は厳しいものに変わる。
「総司令、入ります」
扉を開けたのは、千葉太平洋軍港で有馬勇儀らと接触したヴェレッタ・アリアだった。
「来たか……キューブの回収お疲れ様」
「は、身に余るお言葉です」
アリアは膝を付いて、頭を下げる。
「帰ってきてそうそうに悪いが、凛とともに、中国に行ってもらう」
「はい、お聞きしました、イギリスの時間稼ぎのために、ですね」
「そうだ、すぐにイギリスに行かれてしまっては困るからな」
老人は、目を閉じながら説明を続ける。
「日本は、おそらくこの冬の間に戦力の増強を行うだろう、その間にイギリスでの計画を進めるのだ」
その言葉を聞いてアリアは頷き、部屋を後にする。
部屋を出たのを確認すると、老人は通信機の受話器をとり、何処かへとつなぐ。
「凛か?」
「なんだ親父さん」
通信の相手は、現在中国大陸に上陸し、インド軍へ攻撃を仕掛けている、凛覇宇和だった。
「インド軍はどうだ」
「正直相手にならん、『H6』の爆撃も相まって、後は殲滅を残すのみだ」
二人は静かに淡々と会話を続ける。
しかしその空気は、非常に和やかだ。
「そうか……なにか問題は起きているか?」
「いや、陽動の役割は十分果たせそうだ、後は桜日の『90式』さえ来なければ、家の戦車隊でも十分戦える」
「そうか、分かった……何かあったらすぐに教えろ、空の援軍にはアリアを行かせる」
「助かる」
そこで通信は切れた。
数秒老人は目を瞑ったのち、机に置いてある、ハワイ強奪作戦失敗を告げる資料にめをやり、呟いた。
「日本さえ参戦しなければ、順調にいったものを……」
老人はため息をつく。
「いつでも日本は、面倒ごとに首を突っ込むのが好きだな……それで痛い目を見ることを、分かり切っているのに……」
皺の多い顔を両手で擦りながら、嘆くように呟く。
―――――その言葉に答える者はいまだ、誰もいない。




