英霊を抱えて
「『二式水上戦闘機』発艦します!」
零がそう叫ぶと、機体の下で小規模な爆発が起こり、勢いよく『二式水戦』を射出する。
その力で一気に上昇し、飛行姿勢をとる。
「有馬さん、どこに降りるんですか?」
零の声が聞こえる。
「俺たちの確認する場所はWSの研究所だ、あそこはどんな兵器でも実験できるように、岩場から水流装置まで周りに在る、水上機が離着水できるぐらいの池はあるはずだ」
俺は爆撃で穴が開き、建物が崩れた基地を眺めながら研究所を探す、これを修復するのに、時間と金は一体いくらかかるのか……。
「と言うか、ここの防空設備ってこんなに弱かったかな?」
日本には自衛隊の二重レーダー警戒網と哨戒機が存在し、早期警戒機が回っている。
それらで不審機を発見した後、迎撃用に防空用の地対空ミサイルからスクランブル用のジェット機だって完備している、これを簡単に突破できるとは思えないのだがなぁ。
「そこで『鋼ノ翼』が護衛についたのでしょう」
俺の頭には「?」がたくさん浮かぶ。
「そういえば言ってませんでしたね」
零は着陸フラップを展開し着水の姿勢をとる。
「『鋼ノ翼』は周りに航空機がいると、フレーム反射で航空機を隠すこともできるんですよ」
その一声で足が水に着くと、柔らかい反動が返り水を切りながら陸に近づく。
陸ぎりぎりまで近づき機体が止まると、俺はコックピットの風防を開ける。
「その話、あとで詳しく教えてくれ」
俺と零は研究所に走る。
特に理由はないがどうも落ち着かない、急がないといけないような感覚があったのだ。
「ん? あれなんだ? 見慣れない航空機が……ってあれは⁉」
零もその姿を見て言う。
「なんでここに『鋼ノ翼』が……」
近づこうとすると、その機体から二人の人が降りる。
とっさに俺たちは伏せて二人の様子を窺う、一人は研究所の中へ入り、一人は機体に残って飛び立って行った。
「追いかけるぞ」
零は頷き研究所に入る。
扉を開けると、崩れた研究所の内部が広がった。
「派手にやられたな」
俺と零は、互いに別れて探索することにした。
「零、これを」
俺は腰に入っている『9㎜拳銃』を渡す。
「なにかあったらそれで撃て、音が聞こえたらそっちに向かう」
零は渡された『9㎜拳銃』をデッコクする。
「有馬さんの方こそ大丈夫なんですか? 私は別に、この体にダメージが入っても死にませんけど、あなたは……」
零は心配そうに聞く。
「大丈夫だ、それは武器としてより、俺を呼ぶ信号弾だと思ってくれ」
零は少し考えたが頷き、走り出した。
「さて、俺も探索を始めよう」
研究所に入っていった人影と何が残っているのかを探すため、俺は探索を始めた。
「どこもかしこも滅茶苦茶だな」
爆撃で崩れたのであろう、瓦礫で研究所の内部は見る影もなくなっていた。
「お、拾っておくか」
俺は落ちていた誰かの『9㎜拳銃』を拾う。
「まだ使えるな」
マガジンを確認し、動作を確認する。
「問題無しと」
俺は銃をポーチにしまい、探索を続けること数分、一際大きい部屋に入った。
「ここは……」
その部屋は横に広く、大きな画面が正面についている、その画面には……。
「やられたか……」
そこには、赤文字で破損や破壊、黄色で消失と書かれた文字の羅列。
『金剛』破壊 『伊勢』破壊 『瑞鳳』破壊 『古鷹』破損 『最上』破壊…… 『時雨』健在 …………『九七式中戦車』健在 ……『五式中戦車』破損 ……
『長十二糎自走砲』破壊 ……『鍾馗』破壊 ……『烈風』健在 ………………
『疾風』破損 ……『彗星』破損 ……『紀伊』消失 『***』消失
最後の一隻は、名前がバグってしまい、読めなくなっている。
「ここまでやられたか……」
完成する前のWSがほとんど壊されてしまった、これで桜日国軍の戦力が大きく減ったことになる、それはもちろん痛手だが……。
「畜生……申し訳ない、本当に申し訳ない」
せっかく過去の大戦から目覚めたのに、復帰する前に壊されてしまった英霊たちに、俺は心から謝った。
俺は、他に何か残っていないか確認するため、一つだけ稼働していたpcを開こうとすると。
「だ~れだ」
俺の両目を黒い手袋が隠した。
「おっと、動いちゃダ~メ」
俺は反射的にポーチの銃を抜こうとすると、そっと金属の腕が俺の右手首を握り、動きを固定する。
……え? 金属の腕?
「あなた、その年で長官やってるのよね? なかなか筋がいいわぁ、是非とも私たちのほうで司令官をやってくれないかしら?」
俺は何とか振りほどこうともがくが、なかなかに強い力で振りほどけない。
「嫌かしら? こっちなら仕事さえしてくれればなんでも言うことを聞いてあげるわよ~? な、ん、で、も、ね?」
そう言って片方の手を目から、俺の体に滑らせる。
それと同時に、零が部屋に入って、俺の名を叫びながら銃を構える。
「有馬さんから離れなさい!」
それに反応して、俺を拘束した人物の力が抜ける、俺はその一瞬で拘束を解き銃を構える。
「あら怖い」
真っ黒い士官服で一部一部に銀色の装飾がされている、足はズボンではなくスカートの軍服ワンピーススタイルだ。
手には真っ黒い手袋、足には膝を超えるあたりまで伸ばした黒いタイツ、頭にはベレー帽に似た帽子で少し膨らんでいる、これもまた黒だ。
そして、胸元に着くのは、ボルトにネジが二本クロスした紋章、間違いなくWAS上級士官の証拠だ。
「お前、幹部か」
俺が聞くと、その士官は帽子を外す。
そうすると、帽子に隠れていた美しい金髪が露わになる。
癖がない金髪は腰まで延び、目の色はスカイブルー。
日本人ではないようだ。
「そうね、あなたの考えた通り私はWASの幹部よ、そして私はここのWSを奪いに来た」
そう言って、背中に着いた二本の義手を展開する。
片方には握られた小さな立方体、キューブが二つ点滅していた。
「それを返せ」
俺はそう言いながら引き金に手をかけ、じりじりと警戒しながら近づく、そうするとにやりとその女は笑い。
「欲しければ力ずくで、ね?」
そう言った。
俺はその言葉通り銃の引き金を引いたのだが。
「あははははは!」
機械の腕と自身の体を存分に使い、弾を笑いながら避け続ける。
こいつ、本当に人間か?
「くっそ」
俺は撃ちきった誰かの『9㎜拳銃』を捨て、腰に携帯しているナイフを抜く。
「あら、弾切れ?」
そいつは、俺の背後に一瞬にして回り込む、あまりにも滑らかな動きで、俺は反応できなかった。
「有馬さん!」
零が俺の背後めがけて拳銃を撃つ。
しかしそれを見事にかわし、女は零の背後に立つ。
「邪魔よ」
そう言って、零のことを機械の腕で薙ぎ払う。
「グハァ!」
零の呻き声が上がる。
「なぜ零に⁉」
WSである零は、普通の人には触れることも見ることもできないが、こいつは最初から零の声を聴き、見ることができていた。
それはpsのようなものをWASも作ったのかと思ったが、触れられるのは想定外だ。
「なぜって? う~ん……私もWSだからじゃないかしら?」
私もWS? 一体どういう事だ……。
そう考えていると、頭上から筒の形をしたグレネードが落ちて来る。
「時間切れね」
そう言って、その女は落ちたグレネードを蹴り飛ばす。
「待て!」
俺は、零が落とした『9㎜拳銃』を構えるが、視界を濃い煙が遮る。
「私の名前はヴェレッタ・アリア、またどこかで会いましょうね~若い司令官さん」
そう言って足音は遠ざかっていく。
俺は引き金を引けず、『9㎜拳銃』をポーチに戻す。
「零、大丈夫か?」
俺は倒れている零に駆け寄り、抱き起す。
「うう、大丈夫です、それより皆を……」
零は立ち上がり、スモークが晴れるとpcを開く。
「たしか、緊急用のファイルが……いくら急な空襲でも、いくつかは避難させられているはず」
そう言ってpc内部のWSのフォルダを漁る。
カチッとクリックする音とビーと言うエラー音が響き、その音を数回繰り返すと零は。
「……あった!」
歓喜に満ちた声で叫んだ。
零が画面に表示して、キューブをボックスから取り出す、画面に表示されている文は三行、戦艦『扶桑』空母『瑞鶴』……。
「戦艦『三笠』!」
前ド級戦艦『三笠』、かの日露戦争、日本海海戦で旗艦を務め、連合艦隊の栄光を築いた艦だ。
まさかこの艦のWSも作っていたなんて……だが、正直戦力になれるのか心配だ。
「いったん大和に帰りましょう」
零は俺の裾を引っ張り、言う。
「ああそうだな、状況の説明、これも渡さないと……」
俺と零は研究所を後にした、帰りはゆっくりと歩いて戻った。
「そう言えば零、『鋼ノ翼』のステルスについて教えてくれないか?」
『二式水戦』に乗り込んだ俺は、離水し上空へ上がった後、一定の高度まで上がり、操縦桿を水平に保ちながら零に聞く。
「『鋼ノ翼』には電波の周波を反射して、誤作動を起こさせる装甲金属を使っています、そこまではいいですね?」
俺は頷く。
それのおかげで『鋼ノ翼』はステルス性を持っていることは理解した。
「そして、味方に及ぼす影響なんですが、装甲の反射は表面を射光版のようにし、乱反射を引き起こします。それを利用してレーダーに移らないようにするんですけど、『鋼ノ翼』から反射された電波を周りの機体が受けると、通常の電波反射が行われず、周波数にズレが生じます、よって周囲の機体もレーダーの索敵から外れます。音響や目視索敵に引っかからなかったのは慢心のせいなのか、たまたま薄いところを抜いてきたのかわかりませんが……」
ため息をついて、零が言う。
「ちなみに敵でも有効です、こっちの機体が『鋼ノ翼』の近くを飛行すれば、レーダーには映らなくなります」
それを聞いて俺は目まいがする。
「何ちゅう機体を考えてくれてんだ中国は……いや、ソ連か?」
俺はそんなことをぼやきながら大和に向かう、三人の英雄の記憶を大切に抱えて。
「持ち帰ったキューブは今、会議室で保管中だ、きちんと警備に兵を二人と、一様零に見張ってもらうことにした」
艦橋に艦長の声が聞こえ、入り口に居る艦長に向かって全員が敬礼をする。
現在、8月27日、13時03分、大和率いる連合艦隊は速力20ノットで南西へと航路をとり、広島県にある呉海軍軍港に向かっている。
軍港はひどい有様で、人的被害はもちろん、研究所、滑走路、ドッグ、通信室など、ほとんどの設備が破壊され、到底艦隊を収容することなどできなくなっていた。
その為横須賀の軍港に向かったが、『大和』や空母を格納できるほど大きなドッグがないとのことで、量産艦や輸送艦たちを預け、日本で一番大きな軍港がある呉に向かっている。
呉は、『大和』をはじめとした、多くの連合艦隊の艦が作られた場所であり、今もその時の設備や技術を生かし、大規模な海軍工廠と港がある。
だが、運用する際に瀬戸内海を抜けるのが面倒だということで、東京にも近い、横須賀に連合艦隊の本拠地を立てている最中だ。
そこが完成したら、呉にはあまり行かなくなるかもしれないと思っていたが、どうやらそうゆう事ではないらしい。
設備は整えるが、建造や改装を行うのはやはり呉の方が最適ということで、横須賀は司令本部と待機場、呉は建造と大規模ドッグの役割を果たすようになるらしい、詳しい話はまだ分からないが。
「ここからあと十時間ほどで呉だ、それまでは皆頑張ってくれ」
そう言って艦長は自分の席へと着く。
「そうだ有馬、お前さん防空指揮所で警戒しといてくれねぇか? 中国の戦闘機が飛んで来たらすぐわかるように見張っておいて欲しいんだ」
三浦長官がそう言うので、俺は艦橋内から通じる階段を上り、防空指揮所へと上がる。
そこにはいつも通り、大和が座っていた。
「お前いつもここに居るな」
そう言うと大和はこちらに気付き、微笑む。
「うん、だってここ見晴らしいいじゃん」
そりゃあ『大和』で一番高いところだからな。
「そう言えば大和、よかったな」
俺がそう言うと大和は首をかしげる。
「何が?」
「呉に行けることだよ、約束の中に入っていただろ?呉に帰るって」
大和は目を大きく見開き俺に飛びつく。
「うわ⁉ お、お前危ないだろ⁉」
俺は落ちないように体を支え、大和を体から下ろす。
「よく覚えてくれてたね!」
なんだ、そんなことに驚いていたのか。
「当たり前だろ、大切な相棒の約束事だ、忘れる訳ないじゃないか」
そう言うと大和は、にこにこと上機嫌な口調で言う。
「それでも嬉しいの、覚えていてくれてありがとう、有馬」
猫みたいに大和は頭をこちらに擦り付ける、俺はそんな大和の頭を優しく撫でていた、連絡管の栓が開いていることも気付かずに。
「いや~若いっていいねぇ」
私はそんなことをぼやく、さっきから連絡管を通して聞こえてくる、カルピスの原液に、ガムシロップぶち込んだぐらい甘い会話に耳を傾けながら。
「ははは、良いじゃないですか、子を見守る親の感覚で、艦長には息子さんいるでしょう?」
副艦長の浅間君が言う、私は確かに五十八で、息子は成人した立派な爺だが、青春の心はいつまでたっても色褪せないのだ。
「にしても、やはり姿が見えると言うのはどういうもんなんですかね?」
凌空君が細い目をさらに細めて首をひねる、確かに私も気になっている。
「有馬が言うには皆それぞれのWSの記憶やイメージを人間にした姿をしてるちゅう話やな」
航海長の三浦君までもが考えながら話す。
「私たちが考えても仕方ないことだろう、そこは本土の研究員に任せようではないか」
そう言うと全員が納得し、それぞれの場所に戻る、呉に入港したらしばらく休息が取れるはずだ、そこで休んだら、また仕事だな。
「大和は一体どんな姿をしているのか、かわいい子だと良いんだがなぁ」
「奥さんに電話しましょうか?」
「それだけはやめてくれ」
そのやり取りを副艦長とすると、艦橋にどっと笑いが起きたのだった。
千葉太平洋軍港空襲
被害状況 駐屯機
『零式艦上戦闘機二一、五二型』43機破損、12機健在
『一式陸上攻撃機一一型』14機破損、29機健在
『F―15Jイーグルジェット戦闘機』4機破損、2機健在
『F35Bステルス戦闘機』5機破損、9機健在
『Ⅽ―2輸送機』3機破損、0機健在 『Ⅽ―1輸送機』6機破損、2機健在
『E―767早期警戒機』0機破損、1機健在
『RQー4グローバルホーク』2機破損、0機健在
その他
航空滑走路1~4番中、1、2、3番破壊、離着陸不能、埋め立てによる修復可能。
警戒レーダー施設、1~10番中、2番以外全損、使用不能、復旧の見込み無し。
ドッグ、工廠、1~8番中、7、8番ドッグ破壊、復旧の見込み無し。




