百年ぶりの再会
戦艦『大和』、防空指揮所にて。
「なあ大和、お前のお父さんって誰のことなんだ?」
「……有馬も知ってる、あの人だよ……その人とね、私が艦の頃に、約束したんだ」
「どんな内容なんだ?」
「戦艦と戦う事、呉に帰ること、皆に、代わりに謝ること……そして、生き残ること……」
「そうか……その約束を果たしたいんだな」
「うん、でね、その人はいつも、私にこう言ってたの」
「ん?」
「世界は広く小さい、だからな……ここと、ここと、ここで、世界を見つめろ」
大和は、目、耳、胸を指さしながら言う。
俺には、その姿がある人に重なって見えた気がした。
あの海戦から五日後、現地ミッドウェー島、日本海軍にとって、最大の分岐点となった因縁の地で、俺たちは、ある艦たちを待っていた。
「やっと、桜日も戦力が整ってきたね」
座った岩の上で、足をプラプラさせながら、大和は言う。
「そうだな、なんといっても、機動部隊の主力艦だからな」
今待っているのは、前の海戦中に、日本で完成した四隻の空母のWS。
「一航戦『赤城』『加賀』、それに二航戦の『蒼龍』『飛龍』、まさか、同時にできるなんてな」
この四隻は、『大和』の少し後から再建を始めたが、桜日海軍の主力を担う重要な艦だ、まだほかにも、建造途中なのが多いが、これからもっと、艦は増える。
「入港!」
整備兵の声が聞こえ、俺と大和は湾に走る、そこには、戦艦とは大きく見た目が異なる四隻が、錨を下ろそうとしていた。
あれ?見覚えのない戦艦が、三隻こっちに向かってきている……。
「……まさか!」
大和は、大きく目を見開き、自艦の方に目線を送る、グイッと、何かを下に引く動作をすると、艦から鈍く、低い汽笛の音が、あたりを包んだ。
「大和?」
「良いから耳を澄ませて」
大和は、静かに目を伏せる。
俺も同じように耳を澄ませると、三隻の戦艦のうち、一際大きい一隻が、『大和』に似た汽笛を響き渡らせた。
左右の艦たちは、『大和』よりもほんの少し、音の高い汽笛を鳴らす。
「『武蔵』! 『長門』! 『陸奥』!」
大和が叫ぶ。
どうやら戦艦三隻は、日本でまだ訓練中のはずだった、三隻のようだ。
「あの三隻は、あと二日待たないと、就役しなかったはずなんだが?」
俺は少し考えるが、大和は「細かいことは気にしない、気にしない」と港に向かった。
「お久しぶりです大和さん」
落ち着いた声、その声が、俺たちを港に入って、すぐ出迎えた。
黒っぽい、焦げ茶色の髪を腰まで伸ばし、袴の色が赤く染まり、右太ももあたりに、菊の刺繍がなされている弓道着を着こみ、瞳は深い黒。
「赤城か……」
俺は深く考えずとも、WSの魂を見て、誰なのか分かるようになってきた。
「赤城ちゃん、久しぶりだね……お父さんから、伝言預かってるよ」
大和は、そう赤城に言うと、しんみりとした雰囲気を感じたので、邪魔にならないように俺は、一歩半下がった。
「それなら、私にも聞かせてほしいのだけど」
振り返るとそこには、赤城と似た弓道着を纏うが袴は青で、今度は左太もものあたりに菊、髪は赤城とは反対に短く、右側に、短めなサイドテールを作っている。
赤城に似た服と、纏うオーラから、加賀だろうか。
「加賀、で合ってるか?」
俺が聞くと、こちらに頭をぺこりと下げる、どうやら間違いないようだ。
「加賀ね……うん、二人まとめて聞いて、お父さんからの伝言を」
大和は、ぽつぽつと口を開き話始めた。
大和たちが、お父さんと言う人物からの、謝罪とお願いを。
「まず、先に謝らせてくれ赤城、加賀、私の不甲斐ない作戦のせいで、君たちを、いとも簡単に手放してしまったことを――」
二人は黙って聞いている。
大和は、お父さんのしゃべり方をまねているのだろうか。
「―――そしてもし、君たちが再び水の上を進むことになったら、日本の空を、日本の他の艦たちの空を、守ってやってほしい」
そう言って、大和は顔を上げる。
「私からも……お願い、私は……私は、航空機に弱いから、赤城達の掩護が無いと、上手く戦えないの……それに、私達の砲じゃあ、本土は守れない……だから……」
大和が言い切る前に、二人は大和の肩に手を乗せ、微笑んだ。
「仕方ありません、お父さんの頼みで、なおかつ連合艦隊旗艦の頼みなら、断るわけには、いきませんから」
と加賀、
「ええもちろん、任せてください」
と赤城。
俺は、そんな三人のやり取りを、微笑ましく見つめていた。
「で、そこの男は、一体誰なんでしょう?」
加賀が、俺の方を見て鋭い目を向ける。
「有馬勇儀さんですよね?」
赤城は、俺のことを知っているようだった。
情報伝達の速度早いなぁ。
「そうだ、俺は有馬勇儀、『大和』の戦線副長官で、君たちの管理者でもある、以後、よろしく頼む」
そう言って、俺は手を出すと、赤城が先に手を握る、その手は、生きているように温かい。
「私は、空母赤城、よろしくお願いしますね、司令官」
加賀は、まだこちらを見たまま、鋭い目線を向け続けるが、俺は臆さず、手を握ってくれるのを待った、正直、手が震えていないか心配だった。
「加賀さん、大丈夫ですよ、この人からはお父さんと同じ匂いがします」
匂いって何だよ……。
そっと、赤城が加賀に言うと、やっと鋭い目をほぐしてくれた。
「はぁ、わかりました、確かに瞳に嘘の色は見えないし、赤城さんがそういうのなら」
そう言って、俺の手を握る、その時加賀は初めて、俺に笑顔を見せた。
「司令、これからよろしくお願いします」
そう言えば、あと二人の空母はどうした? 蒼龍と飛龍も、魂がいるはずなんだが。
「ねえ? 僕たちの事忘れてない?」
赤城の後ろから、赤城達よりずっと若く見える少年二人が、歩いてきた。
「もしかして、蒼龍と飛龍か?」
そう言うと、青い浴衣、というか甚平を着ている方の子が、先に前に出る。
「僕が蒼龍で」
黒い甚平を着ている子も並んで、前に出る。
「僕が飛龍です」
二人は、瓜二つの顔つきと声だ、しかし蒼龍の方は、甚平が青で、髪は少しぱさぱさと軽く立っているのに対し、飛龍は浴衣が黒く、髪はしっとりと下に垂れている。
夏祭りに参加する兄弟の用だ、足は、やっぱり下駄をはいていた。
「二航戦の二人……久しぶり」
大和が屈み、二人より低いところに、目線を置く。
大和、赤城、加賀は、二十歳前後の見た目だが、この二人は、小学生高学年ぐらいの見た目で、大和達よりも、かなり身長差が小さい。
まあ、この三人がかなり大きいってのはあると思う。
俺は、身長が170後半で、大和は、俺より少し小さいだけだから、おそらく175はあるだろう、それよりも、また数センチ小さいぐらいの赤城達も、170はいっている、女性でこの身長は、それなりに大きいと思う。
「大和さん、お久しぶりです……お父さんは、僕たちにも、何か言ってましたか?」
飛龍が、大和の方に視線を送りながら聞く、それにうなずき、大和は、赤城達の時のように言葉を真似ながら、話し始める。
「蒼龍、飛龍、君たちには辛い思いをさせたね……特に飛龍、あの時は本当にすまなかった、すぐに、撤退命令を出せばよかったな――――」
二人は、下をうつむきながら話を聞く。
「――――だが、この言葉を大和から聞いているということは、再び君たちは、海の上に浮いているということだ、それならば、君たちの力を求める仲間を守ってやってくれ、君たちは、守るための空母なのだから」
そう大和が言い終わると、二人は頷き合い、一航戦の方を向き、頭を下げる。
「「今度こそ、お守りします!」」
それに、一航戦の二人は微笑み、同じように頭を下げる。
本来、二航戦の二人は、大型空母を守るための中型空母として運用を検討されていた、ミッドウェーの時も、本来は、赤城や加賀を、守る存在でなくてはならなかった、その思いが、心の中にあるのだろう。
「こちらこそ、お願いするわ」
「ええ、頼りにしていますよ」
『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』……南雲機動部隊の、メインの四隻は復活か……。
桜日軍も、これでひとまず、海上航空戦力を持つことができたな。
そんなことを考えていると、二航戦の二人は、俺の方へ駆け寄り、声を揃えて言った。
「「司令官、これからよろしくお願いします」」
わざわざ二人揃えて言うとは、よっぽど仲がいいのだろう。
「ああ、こちらこそ、貴重な航空戦力だ、たよりにしているぞ、蒼龍、飛龍」
俺は、二人と握手を交わす。
「そろそろ、あの三人も来ると思うんだけど」
大和がそう言って、海の方を見る、すでに巨大な戦艦三隻も、錨を下ろしていた。
「お姉さま!」
元気な声が聞こえた瞬間、大和と似た姿のWSが姿を現し、大和に飛びついた。
姿と服はそっくりだが、髪が短く、ショートボブになっている、耳のイヤリングには、梅の花が彫刻で施されている。
「武蔵?」
俺は、そう言葉をこぼすと、その子のことを抱き上げながら、大和が言う。
「そうだよ、この子は武蔵、大和型二番艦武蔵、私の妹だよ」
そう言って、大和は抱きかかえた武蔵を下ろし、俺の方を向かせる。
「この人が、有馬勇儀、戦線副長官、私たちの司令官だよ」
武蔵は、俺の目をまっすぐに見つめ、しばらくたつと、大和に似たまぶしい笑顔で言う。
「私は武蔵、大和お姉さまの妹です、どうぞよろしくお願いします、司令官」
そう、互いの自己紹介を終えると、後から、新たに二人の姿が見えた。
「何をしている武蔵、司令の前で、だらしないぞ」
張りのある声、その声の持ち主は、どことなく大和に似ているが、服装が巫女服と言うより袴に近い。
大和が、赤と白を基調にしているのに対し、こっちは、赤と黒で、イヤリングには菊の花が施されている、真っ黒いストレートの髪は、日本の女性の強さを表しているようだ。
「長門か」
俺が呼ぶと、長門はこちらを向き、見事な敬礼をする。
「ああそうだ、元連合艦隊旗艦、ビックセブンの一隻である、戦艦長門だ、これから頼むぞ、司令官」
長門は、そう言って俺に、手を差し出す。
生き生きと、はっきりした目、流石、日本の誇りと言われた一隻だ。
「俺は有馬勇儀、大和戦線副長官、こちらこそ、よろしく頼む」
硬い握手を交わすと、その上に、もう一つ手が乗せられる。
「あら、私を置いて、話を進めないでもらえるかしら?」
長門と同じ服、短めで栗色の髪は左右に膨れ、柔らかいイメージを与える、耳のイヤリングは、椿の花。
「陸奥も、これからよろしくな」
そう言って、俺はその手を握る。
「こちらこそ、今回は、しっかり戦わせてもらうからね」
これで、連合艦隊主力艦、トップ8が揃った、本格的に桜日海軍が完成しつつあるな。
「集まってもらって早々に悪いが、これから忙しくなるぞ」
そう俺が言うと、全員がニッと笑う。
「私たちは大丈夫、有馬は何も心配せず、勝利へ導いてね!」
大和が元気よく言う、それに合わせて全員がうなずく。
まだ会って間もないのに、ずいぶん厚い信頼を寄せられたようだ……全く、司令官とは重い役割だな。
「ああ……任せてくれ」
俺は、そう言って士官帽をかぶり直した。




